特集:日本とロシアの中小企業協力の未来と課題日本企業の経営体質や情報提供に苦言も
ロシア中小企業のインタビューから(2)

2018年9月6日

企業インタビューに基づくロシアの中小企業事例と経営の傾向の後編では、財務などのリスク対策、日本企業との連携可能性について解説する。起業家間の交流や事業の多角化など経営リスクの低減に向けた対策は積極的に取られている。日本の技術や品質、勤勉性を評価し、取引を希望する企業が多い一方、保守的な経営体質や企業・製品情報の不足など、改善を求める声が聞かれた。

大企業との取引や公共調達は支払いリスクが高い

(財務管理)

経営のための財源は自己資金のみという企業がほとんどだ。銀行による中小企業向け融資は、金利が高いことに加え担保条件も厳しいため、資金繰りの厳しい中小企業にとってはハードルが高い。銀行融資を受けている企業もあるが、「種まきを行う第4四半期のみ、種苗や機材の調達のために融資を活用」(農業・食品加工会社ノボシビルスクフレブプロダクト(ノボシビルスク州))、「中古車解体のシーズンである3~5月には買い付けのために資金が必要」(中古車部品輸入販売会社オートタウン(オムスク州))など季節的かつ最低限の利用にとどめている。他方、経営者間のコミュニティーを形成し、資金援助などの協力を行う企業もある。家具製品向け金属加工を行うメタルラボ(モスクワ州)は、友人の経営者同士で経営情報の交換や資金援助を行っている。

(取引リスク管理)

ロシア企業(あるいは顧客)に対してであっても、初めて商品やサービスを提供する場合には前払い100%とし、信頼関係ができたら後払いを設定することが一般的だ。仕入先への支払いは前払いを50~100%としている企業が多い。取引前に信用調査をする企業もある。建材・建設機材を販売するストロイランド(ノボシビルスク州)は「信用情報データベースを購入し、罰金や裁判履歴がないか調べ、疑念があれば面談する。債権回収のために裁判を起こしても、実際に資金を回収することが難しい」と指摘とする。概して資金繰りに余裕がない中小企業にとって、代金回収は死活問題だ。

他方、大口取引となる公共調達や大企業からの調達では、買い手の立場の方が強く、売り手である中小企業は不利な条件を飲まざるを得ない。例えば、大手小売チェーンとの取引では、「支払いの遅延が多く、独占的な地位にある会社とは取引が難しい。商業取引法が改正されても変化はなく法律では解決できない」(食品製造販売会社シビルスキエ・プラドゥクティ(ノボシビルスク州))、「納品後2カ月後の支払いが普通で、賞味期限切れや売れ行きが悪い製品は返品される。製品を販売するための棚代が1店舗ずつ要求されるため、大手小売チェーンとの取引は割に合わない」(食品・家庭用品輸入販売会社ニッポン(モスクワ市))などの声が聞かれた。

公共調達に関しては「取引条件が悪く、支払いの遅延が多い。特に地方政府の対応が悪く、入札への参加には慎重だ」(家具製品向け金属加工会社メタルラボ(モスクワ州))、「全額後払いの案件が多い。ロシア鉄道から高額の受注を受けたが、生産にかかる資金が手元にないため、銀行融資を受けることになった。保証金や高い金利で利益はほとんど出なかった」(空調システム設計施工会社エンジニアリング・スフェラ(ノボシビルスク州))という例もある。中小企業にとって公共調達への参入は必ずしも魅力ばかりではないようだ。他方、「支払いの遅延も今はなくなり、法改正により公共調達における法定支払期限が30日から10日に短縮された。改善傾向にある」(監視システム設計施工会社ブレビス(トゥーラ州))として、入札への参加に前向きな企業もある。

(マクロ経済や市場のリスクに注意)

経済情勢や業界の動向の影響を低減するために、事業の多角化や特定国の顧客に依存しない販売体制を取る企業が出てきている。樹脂製品を製造するミールウパコフキ(レニングラード州)は当初は食品用包装材に特化していたが、今では自動車向け樹脂部品の製造も受託し、個人向けの包装材の販売も行っている。ITアプリ開発会社エバップス(トゥーラ州)は「さまざまな国と取引することでマクロ経済上のリスクヘッジを行っている」とする。シビルスキエ・プロドゥクティは「マクロ経済リスクは常に発生するため、自社への影響を予測しつつ、一定の準備金は常に確保している」とする。

需給が読みにくいために発生するリスクもある。鋼管継手製造を行うシブガスストロイデタリ(オムスク州)は「季節的に材料供給が遅れる時期があるが、顧客が指定した納期は動かせないため、時期的に生産がタイトになることがある。対応策として、ほとんどのワーカーが自分の持ち場以外でも働けるよう教育している」とする。

(知財リスク)

ロシアの中小企業でも模倣品や並行輸入品の被害に直面しており、特許の取得、商標や意匠登録を行っている。また、権利行使に向け関係当局との連携も図られており、「自社で独占販売権を持っている商品は税関に対し並行輸入品を止めてもらうよう要請している」(ニッポン)という。

情報提供や営業姿勢に改善の余地

(日本企業との連携可能性)

日本企業の考え方・ビジネスマナー、製品のコンセプトは高く評価しており、日本企業との取引に前向きな企業は多い。ストロイランドは「日本のビジネスパーソンは中国やインドに比べて時間を守るし、発注した製品が間違いなく届く。労働者に敬意ある態度を取ることも素晴らしい」とする。日本企業の経営手法を取り入れる企業もある。モスクワ市で化粧品企画・輸入販売を行うブラルスコスメティクスは「1年先の営業計画を立てるなどの経営戦略を採用した」という。

他方、商習慣の違いなどから日本企業とは付き合いにくいとの声も多い。「日本製品の品質は高いが価格も高いので販促活動が必要だが、販促費用を日本側が負担することに消極的」(エンジニアリング・スフェラ)、「日本の設備は品質が良いと知っているが、企業や製品の情報が少ない」(シブガスストロイデタリ)、「日本側からの提案がなく、ロシア側からオファーしても消極的。意思決定が遅く、成約に至るまでに時間がかかる」(ニッポン)、「日本企業は自社の製品やサービスを海外に展開した際にブランドイメージが損なわれないかをとても心配する。海外取引に対して保守的なため信用を得ることに苦労する」(ブラルスコスメティクス)といった指摘があった。日本企業の意思決定の遅さや外国企業からの引き合いに対する保守的な対応に不満を持つ企業が多いようだ。

ロシアでも商品を多く見かける中国企業との取り引きについては、「価格は安いが、納品などにおいて契約が守られるかどうか毎回心配だ」などの声がある一方、売り込みが積極的で非常に反応が早いため、肯定的に捉えている企業もある。

日本企業が価格面で中国企業と競争することは難しいが、情報提供や営業姿勢は改善の余地がある。また、ロシアでもジャパンブランドや日本企業の経営に対する信頼は厚いため、製品・サービスの品質や堅実な取引体制を武器に営業を行うことで、ロシアの中小企業とのビジネスに参入できるチャンスが出てくるだろう。 なお、インタビューをしたのは表の17社。

表:インタビュー先企業一覧
所在地域 企業名 主な事業、取扱製品・サービス 日本企業への提案や関心事項(注)
モスクワ市 ブラルスコスメティクス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます ヘアケア製品の企画・輸入販売 高品質な日本製シャンプー・コスメティクス・カラーリング剤の調達、自社企画製品の日本でのOEM生産とロシアや第三国への輸出
EMTG外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます フランチャイズマッチング仲介、イベント運営 自社主催フランチャイズ専門見本市への出展
ニッポン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 食品・家庭用品輸入販売(卸・小売り) 日本産食品の輸入
ノバレックスグループ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 眼科領域の医療機器の輸入・卸売り 日本製の眼科領域製品の輸入・卸売り
モスクワ州 メタルラボ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 家具製品向け金属加工 家具部品の輸出、日本製金属加工機械の調達
レニングラード州 ミールウパコフキ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 樹脂製品製造 樹脂製品の製造受託
トゥーラ州 ブレビス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます プラント向け監視システム設計・施工 ロシアにおけるスマートシティー開発に向けた協業
スマートテック外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます ITアウトソーシング受託 ITアプリ・ウェブサイト開発、アウトソーシング受託
ソユーズマイクロフォンズ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます プロ向け高精度マイク製造 自社製品の輸出
オムスク州 オートタウン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 自動車用中古部品の輸入・販売 中古車解体部品の調達
シブガスストロイデタリ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます パイプライン向け鋼管継手製造 日本製溶接機械の調達、日本企業との共同生産
ノボシビルスク州 ノボシビルスクフレブプロダクト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 農業・食品加工 日本製播種機の輸入、日本への穀物(大麦、小麦、ハトムギ、ラピス、麻など)の輸出
シビルスキエプロドゥクティ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 食品製造販売 日本製食品・飲料の輸入・販売、日本への食品輸出
スペクトル外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 石油精製販売、スポーツカー・エンジン設計・開発・製造、医薬品製造・販売、農業・食品加工 石油からの硫黄分抽出装置、セラミック製エンジン部品の共同開発、人工透析用純水製造フィルターの輸入
エンジニアリング・スフェラ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 空調システム設計・施工 日本製の建設関連機材の調達
ストロイランド外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 建材・建設機材の輸入・販売 日本製の建設資材・建設機材・道具などの輸入・販売
カリーニングラード州 ビットランド外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 不動産業、メディア事業(テレビ・ラジオなど) スポーツフィッシング分野の船舶に関する製造投資、日本食レストランの共同運営
注:
この情報はヒアリング時点(2017年12月~2018年2月)のため、関心事項が変更されている可能性あり。
出所:
各社インタビューから作成
執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸を経て、2014年6月より現職。ジェトロ・モスクワ事務所では調査業務、進出日系企業支援業務(知的財産保護、通関問題)などを担当。編著にて「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
戎 佑一郎(えびす ゆういちろう)
2012年、ジェトロ入構。関東事務所、京都事務所を経て、2017年より現職。