特集:日本とロシアの中小企業協力の未来と課題調達や物流、通関などに特有の課題
ロシア中小企業のインタビューから(1)

2018年9月6日

ジェトロでは2017年12月~2018年2月にかけて、日本とのビジネスに関心のあるロシアの中小企業17社にインタビューを実施し、経営・営業戦略、生産・品質管理、調達・物流、採用・人材育成、財務などのリスク対策、ロシア政府による中小企業政策への評価、日本企業との連携可能性などを聞いた。2回に分けて報告する。前編では、経営・営業戦略、生産・品質管理、調達・物流、採用・人材育成を中心に解説する。営業戦略や労働環境整備では他国同様の取り組みを行う企業が多いが、品質管理や調達・物流、人材育成などではロシア特有の傾向や課題がみられた。

顧客満足度向上が営業の要

インタビューをした17社は表のとおり。

表:インタビュー先企業一覧
所在地域 企業名 主な事業、取扱製品・サービス 日本企業への提案や関心事項(注)
モスクワ市 ブラルスコスメティクス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます ヘアケア製品の企画・輸入販売 高品質な日本製シャンプー・コスメティクス・カラーリング剤の調達、自社企画製品の日本でのOEM生産とロシアや第三国への輸出
EMTG外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます フランチャイズマッチング仲介、イベント運営 自社主催フランチャイズ専門見本市への出展
ニッポン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 食品・家庭用品輸入販売(卸・小売り) 日本産食品の輸入
ノバレックスグループ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 眼科領域の医療機器の輸入・卸売り 日本製の眼科領域製品の輸入・卸売り
モスクワ州 メタルラボ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 家具製品向け金属加工 家具部品の輸出、日本製金属加工機械の調達
レニングラード州 ミールウパコフキ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 樹脂製品製造 樹脂製品の製造受託
トゥーラ州 ブレビス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます プラント向け監視システム設計・施工 ロシアにおけるスマートシティー開発に向けた協業
スマートテック外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます ITアウトソーシング受託 ITアプリ・ウェブサイト開発、アウトソーシング受託
ソユーズマイクロフォンズ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます プロ向け高精度マイク製造 自社製品の輸出
オムスク州 オートタウン外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 自動車用中古部品の輸入・販売 中古車解体部品の調達
シブガスストロイデタリ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます パイプライン向け鋼管継手製造 日本製溶接機械の調達、日本企業との共同生産
ノボシビルスク州 ノボシビルスクフレブプロダクト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 農業・食品加工 日本製播種機の輸入、日本への穀物(大麦、小麦、ハトムギ、ラピス、麻など)の輸出
シビルスキエプロドゥクティ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 食品製造販売 日本製食品・飲料の輸入・販売、日本への食品輸出
スペクトル外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 石油精製販売、スポーツカー・エンジン設計・開発・製造、医薬品製造・販売、農業・食品加工 石油からの硫黄分抽出装置、セラミック製エンジン部品の共同開発、人工透析用純水製造フィルターの輸入
エンジニアリング・スフェラ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 空調システム設計・施工 日本製の建設関連機材の調達
ストロイランド外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 建材・建設機材の輸入・販売 日本製の建設資材・建設機材・道具などの輸入・販売
カリーニングラード州 ビットランド外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 不動産業、メディア事業(テレビ・ラジオなど) スポーツフィッシング分野の船舶に関する製造投資、日本食レストランの共同運営
注:
この情報はヒアリング時点(2017年12月~2018年2月)のため、関心事項が変更されている可能性あり。
出所:
各社インタビューから作成

経営全般の戦略としては、ITの活用、顧客満足度向上への注力、取り扱い製品や取引先の多角化などがロシアでも一般的に取り組まれている。ITの活用では、会計システムを用いた販売・仕入・在庫管理、生産・品質管理、顧客情報管理、作業効率化に向けたデジタル機器の導入などが挙げられた。顧客満足度向上の取り組みは、アフターメンテナンスなどの品質保証サービスの提供、電話やメールによる顧客相談窓口の設置などだ。また、他社との差別化や経済リスク回避のため、製品ラインナップの拡充や海外を含めた取引先の多角化を図る。

(営業戦略)

営業手法としては、伝統的なマス広告(新聞・雑誌、ラジオ)の活用や展示会出展、電話がロシアでも一般的だ。他方、検索エンジンへの広告掲載、自社ウェブサイトのデザイン・機能性の改良、SNSを通じた情報発信、有名ブロガーの活用など新しい手法に取り組む企業が数多くあった。効果的な手法として一番多く挙がったのは口コミで、多くの企業が顧客満足度向上のための取り組みに注力している。

仕入先にも品質管理の徹底を求める

(生産・品質管理)

ITシステムの導入、国際規格ISO9001の取得、品質チェックリストの作成、「カイゼン」システムの導入などが多くの企業で図られている。レニングラード州で樹脂製品を製造するミールウパコフキは、オンラインで24時間製造工程や在庫管理ができる体制を取っている。トゥーラ州でプロ向け高精度マイクを製造するソユーズマイクロホンは、従業員15人程度の小規模ながらも輸出に積極的で、「海外顧客からの信用獲得に向けてISO9001を取得した」という。また、顧客が大企業の場合、納入先の品質管理規則に自社規則を合わせる企業もある。

(調達管理)

ロシアで調達できるものはロシア産を使いつつ、機械類や高品質材料は輸入している企業が一般的だ。ソユーズマイクロホンは、コンデンサーなどの精密部品を除く90%の部材はロシア産を用いている。しかし、ロシア企業からの調達では、品質が安定しないという声が多く上がった。建材・建設機材の販売を行うストロイランド(ノボシビルスク州)は「経済危機を受け、建材市場では生き残りをかけたコスト削減により製品の品質が低下した。当社は仕入先に品質管理を徹底させたことで、契約内容どおりの品質のものが納品され、これが他社との差別化となり取引先からの評判は上がった」と述べ、サプライヤーに対して品質管理の徹底を求める重要性を指摘する。ロシアでは一般的に品質管理の概念が不十分な企業もみられるが、関連企業まで含め品質管理に留意する企業が出ていることは注目に値する。

(物流管理)

発注に応じた迅速な運送、運送中の破損防止や顧客からのクレーム対応のため、自社で物流機能を持つ会社が多い。一方、ロシアは国土が広大なため、配送先によっては物流会社を併用しているところもある。航空輸送は割高なため、トラック輸送が一般的だ。中古車部品の輸入販売を行うオートタウン(オムスク州)は「取引先が多いチュメニに週2回、モスクワに週3回、自社トラックの定期便を走らせている」という。他方、納入先が大企業の場合、顧客が引き取りに来る場合もある(ミールウパコフキ)。国有企業との取引には独特の商慣習に留意する必要もある。オムスク州で鋼管継手を製造するシブガスストロイデタリは「ガスプロムへの納品では、ガスプロム社員が立ち合わないと荷物の積み込み・積み降ろしができない」と話した。

(輸入通関)

通関申告はブローカー(通関業者)やフォワーダーを活用する企業がほとんどだ。その背景には、追加要求書類の準備などで取引先の協力が得られずに通関手続きが止まるなどの事例が多いことにある。モスクワ市で化粧品の企画・輸入販売を行うブラルスコスメティックスは「法律が頻繁に変わり、それに伴い通関手続きも変更される。税関は些末(さまつ)なことを指摘してくるが、取引先に書類の記載方法などについて細かく対応して貰えないことがある」という。そうしたトラブルに迅速に対処するため、税関との交渉に慣れたブローカーやフォワーダーの選定や信頼関係の構築が重要になる。

専門人材やマネジャー層の獲得・育成が課題

(人材採用)

求人サイトやヘッドハンティングなどの人材紹介会社を活用して人材を採用することは、ロシアでも都市部や地方に関係なく行われている。優秀な学生を獲得するために大学と連携する企業もある。家具製品向け金属加工を行うメタルラボ(モスクワ州)は、高等経済学院でデザインコンテストを実施し、優秀な成績を修めた学生を採用した。また、シブガスストロイデタリは「従業員が卒業した大学・学部と協力関係があり、採用活動につなげている」とする。

しかし、地方都市では人材の獲得が容易ではない。例えば、工業都市のオムスク市では、工業系の人材は容易に獲得できるが、営業管理やITに詳しい人材が少ない。このため「マネジャーにするために最低6カ月間、IT専門家では半年から1年かけて研修を行う」(オートタウン)と人材獲得や育成における苦労を挙げる。

都市部であっても、優秀なマネジャーを探すことは困難だ。中小企業ではマネジャーの能力が会社の経営を左右することもあり、「社長が自ら日々探している」(フランチャイズマッチング仲介会社EMTG(モスクワ))、「営業部長を採用したいが、ロシア国内には優秀な人材がいないため社長が兼任している」(ポコナール)といった声が聞かれた。

(人材育成)

体系的な人材育成に力を入れる企業は限定的だ。「専門知識を有する即戦力人材を採用している」「研修プログラムはなくOJTや教育係・メンター制度で対応している」「自己研鑚による資格や証明書取得への費用を補助する」など、属人的な対応を取る企業が多かった。

他方、顧客満足度の向上に向けて自社での研修に力を入れるところもある。ブラルスコスメティクスは、値段が高くても消費者に買ってもらえるようアフターサービスなどを含めた販売員教育に注力する。「2014年の経済危機の後、高価格なヘアケア製品は売れにくくなったが、高価格だが高品質であるという点を理解してもらえるよう、取引先サロンの美容師向けに研修を強化している」とする。

(待遇・福利厚生)

従業員の定着を図るため、待遇や福利厚生の充実に努める企業は多い。社員旅行や社内交流イベントを実施し、労使のコミュニケーションを円滑にすることはロシアでもよく行われている。ストロイランドは「ロシアでは給与の遅配が多いが、当社は支給日より2~3日早く支払うことを心掛けている。また、月間売り上げ目標を達成すれば管理や間接部門を含めボーナスを支給している。当社は同業者より福利厚生が良く給与も高いため、退職しても同業には転職しない」という。他社より高い給与設定と安定的な支給、インセンティブの提供、手厚い福利厚生の提供など、世界共通の対策が取られている。

営業戦略や品質管理など、日本企業の経営と大差ない点も多くあった一方、資材調達や物流、通関などにおいてはロシア特有の課題が浮き彫りとなった。ロシアに進出する際はこれらの課題に留意することが必要といえそうだ。

執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸を経て、2014年6月より現職。ジェトロ・モスクワ事務所では調査業務、進出日系企業支援業務(知的財産保護、通関問題)などを担当。編著にて「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
戎 佑一郎(えびす ゆういちろう)
2012年、ジェトロ入構。関東事務所、京都事務所を経て、2017年より現職。

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