特集:日本とロシアの中小企業協力の未来と課題ロシア市場に挑む地方の中小企業
事例からみるビジネス成功のポイントと課題

2018年9月6日

日本とロシア両国政府が推し進める8 項目の「協力プラン」の1つに、「中小企業交流・協力の抜本的拡大」がある。ジェトロでは、ロシアへのビジネス展開(以下、ロシア・ビジネス)を検討する中堅・中小企業に向けて、ロシア・ビジネスの専門家を配置し、戦略策定から販路開拓、パートナー探し、商談同行、契約締結まで一貫して個別支援を行う体制を整えている。本稿では、ジェトロの支援を受けてロシア・ビジネスに取り組む中小企業の事例を紹介し、ロシア・ビジネスに取り組んだきっかけや直面したリスク・課題への対応、ビジネス成功のポイントを整理する。

ジェトロでは2018年4月~5月に、ロシア・ビジネスに挑む日本の中小企業4社に対してインタビューを実施した(表参照)。インタビュー先企業の所在地は、北は北海道、南は九州と必ずしも東京などの大都市近郊だけでなく、地方の企業がロシア・ビジネスに取り組んでいる。また、業種もミカンなどの生鮮品やインスタント飲料などの加工食品、乳児用おしり拭き、水産設備や建設機械部品といった工業製品など多岐にわたる。ビジネス形態は日本からの輸出で、仕向け地は全て極東地域だった。

表:インタビュー先企業一覧(五十音順)
企業名 所在地 ロシア・ビジネスの取り組み内容
東海運 徳島県 乳児用衛生用品など、インスタント飲料などの食品を極東地域へ輸出
JAおおいた 大分県 温州ミカンをサハリン州へ輸出
東日興産 東京都 建設機械部品をハバロフスクへ輸出
フラット合成 北海道 サケマスふ化機器を極東地域へ輸出
出所:
各社インタビューから作成

競合少なく、ポテンシャルのある極東市場

各社がロシア・ビジネスに取り組む動機には幾つか共通点がある。1つは、日本国内の競合相手が他国・地域に比べ少なく、先発優位な市場であることだ。中小企業が積極的に展開するアジア市場に比べ、ロシア・ビジネスに取り組む日本企業は少ない。次に、日本から地理的に近いこと。ロシアと聞くと、モスクワやサンクトペテルブルクなどの西側地域をイメージする人が多いかもしれないが、極東地域は飛行機で3時間ほどの距離に位置し、地理的近接性がある。北海道や富山県、鳥取県などの地方港からの定期航路も存在する。今回インタビューした企業のほとんどが、極東向けにビジネスを展開している。3つ目は、市場規模。極東連邦管区全体の人口は600万人強と、人口規模で考えれば大きい市場とは言えない。他方、主要都市のウラジオストクやハバロフスクは人口60万人程度と、中小企業の展開先としては一定の規模を有した市場だ。そのほか、ロシア・ビジネスに取り組んだきっかけとして、ロシア企業からの引き合いや、ロシア市場に精通した日本人とのコネクションがあったことなどが挙げられた。

温州ミカンをサハリン州へ輸出することに成功したJAおおいた(大分県)は、アジア市場では国内他県との競合が過熱していることから、他県からの参入が少なく地理的に近いロシア極東、その中でも中国や韓国との競合が懸念されるウラジオストクやハバロフスクを避け、サハリン州に目を付けた。建設機械部品の専門商社である東日興産(東京都)も、ロシアは建機市場が伸びている一方で、業界他社による参入の話を聞かないため、先行者利益が取れる市場だと感じたという。

言葉の壁や代金回収リスクを乗り越えて

今回のインタビューで意外だったことは、ロシア特有の困難や課題はあまりないとの意見が多かったことだ。「他国とのビジネスにおいても同様の苦労や課題はあるため、商習慣や交渉においてロシア特有の困難はない」(東日興産)、「ロシア特有の困難としてよく言われる賄賂や棚代の請求は受けたことがない」(東海運)、「交渉上、ロシア特有の問題はなかった。残留農薬規制は他国に比べ寛容だった」(JAおおいた)などの声が上がった。もちろん、取引する相手や商材によって状況は異なるが、必ずしもロシア特有の困難や課題ではなく、海外ビジネス共通のリスクや課題であることも多い。

とはいえ、ロシア特有として挙げられる困難や課題もある。1つがロシア語の壁だ。ロシア語しかできない企業との商談では、通訳手配が必要となり、コストがかさむ。また、商談後の継続的なやりとりは一層困難なものとなる。ただし、近年は英語でのやりとりが可能なロシア企業も増えてきており、今回のインタビュー先企業の多くが実際のロシア企業との商談は英語でできたとしている。しかし、基準認証の取得などはそうはいかない。ユーラシア経済連合(EEU)技術規則の適合証明取得や同規則に基づいた製品ラベルの作成などでは、ロシア語が必要になる。ロシア側パートナーの協力によってクリアできることもあるが、特に契約書や通関書類などの作成においては、通訳やロシア向け専門商社のようなロシア語にたけた人材を活用することが肝要だ。

コミュニケーション手段としても、ロシア語ができるかできないかで大きく差がつくことがある。極東地域に乳児用衛生用品やインスタント飲料の輸出に成功した東海運(徳島県)の中野浩二企画開発チームコーディネートリーダーは、商談相手とあいさつ程度の簡単な会話でもロシア語で話すことができれば、ロシア企業との心理的距離が縮まり、商談がはかどる場合もあると指摘する。中野氏はまた、「商談相手があいさつだけでも日本語で話したとき、われわれのロシア企業に対する心証が良くなった。以後、われわれもあいさつなどの簡単な会話は、ロシア語で話すように努めている。すると、ロシア企業の反応も良く、場の雰囲気が良くなる」と語る。同社はロシア人講師を招いて、定期的に社内でロシア語勉強会を行っている。

代金回収リスクや外国為替リスクも、懸念点として挙げられる。そのリスク回避のために有効な手段が「全額前払い条件」だ。今回インタビューを行った企業のほとんどが前払いを条件に取引を行っている。東日興産は、前払いの条件が飲めない場合は絶対に取引しない方針をとっている。サケマスふ化機器をサハリン州へ輸出するフラット合成(北海道)は、代金回収リスクや為替リスクを防ぐため、必ず国内商社を通じた間接取引とし、成約時に代金の半額を回収、残金は貨物の国内港着時に回収する方法をとっている。その他の課題としては、税関当局の属人的で不透明な対応や許認可手続きの煩雑さ、経済的かつ安定した物流ルートの構築なども挙げられた。

現地ニーズに即した高品質な日本の製品・技術が成功のカギ

それでは、各社がビジネスに成功したポイントは何か。1つは現地のニーズに合った商品・サービスの提案だ。JAおおいたの温州ミカンは、寒冷地でかんきつ類の供給が少ないサハリン州のニーズにうまく合致した。サハリン州は近隣の北海道からも農作物などを輸入しているが、かんきつ類は北海道でとれないため国内間の商流が競合しないことも成功の要因だ。フラット合成は、ロシアの漁業事業者が資源の枯渇や放流稚魚の回収率の悪さを懸念し、増殖設備の効率化や省力化に関心を示すようになり、ここ数年で引き合いが増えたという。

次に、「メード・イン・ジャパン」や「メード・バイ・ジャパン」の品質・技術力・安全性を売りにしたことだ。東日興産は「建設機械部品は耐久性が求められ、中国製などの廉価な製品だと頻繁に取り換える必要があり、コストがかさむ。日本の技術による高品質で耐久性のある製品の利点を丁寧に説明し、成約に結び付いた」と語る。「安心・安全・高品質という日本ブランドへの信頼が現地に根付いていた」(JAおおいた)との声も聞かれた。

経済的かつ安定した物流ルートの構築も成功のカギだ。東海運は、徳島港と松山港を利用し、釜山港経由でウラジオストクに輸出している。各港間で定期航路があることから、10日間ほどでの輸送が可能となっている。今後、発注量や発注頻度が変化してくれば、それに合わせた最善の物流ルートをあらためて検討する、という。

専任人材確保、新規商品提案でロシア・ビジネス拡大を目指す

今後の課題や展望としては、専任担当者の設置、多品目展開、ロシア西側地域への展開などが挙げられた。現状、各社担当者は国内営業などの業務と兼任しており、ロシア・ビジネスに割ける人的リソースが限定的だ。今後の取引量の拡大次第では、ロシアないし海外ビジネスの担当者を割り当てたいとしている。多品目展開については、現地のニーズに合わせて柔軟に商品を提案し、既存の商流を太くしていきたい意向だ。西側地域への展開については、大消費市場があることから魅力的ではあるものの、物流コストや輸送日数がかさむため、採算の見込める物量が確保できれば挑戦したい、という声があった。

極東を中心に、地方の中小企業がロシア・ビジネスに取り組みはじめたが、ビジネス上の課題は厳然と存在し、今後も新たな課題が浮かび上がってくることもあるだろう。しかし、インタビューの結果で分かったことは、ロシア市場に取り組んだ企業は、いずれも大きな可能性を感じているという点だ。課題に尻込みするのではなく、他の市場と横並びで比較し、ロシアを展開先の1つとして検討する時機が到来しているのだ。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
戎 佑一郎(えびす ゆういちろう)
2012年、ジェトロ入構。関東事務所、京都事務所を経て、2017年より現職。

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