超加工食品時代の和食戦略
国民の食欲はコントロールできるか(5)
2026年6月29日
前稿(2026年6月15日付地域・分析レポート参照)のとおり、超加工食品との向き合い方については、英国を越えて国際的な政策議論に発展している。消費者の関心の高さや政策議論の動向を踏まえると、「超加工食品の先進国」ともいえる英国で、日本の食がこのブームを商機とできるかどうかは、大きな試金石といえる。本稿では、超加工食品の議論を契機として、和食や日本の食材が、英国の肥満問題に対する新たな健康食の選択肢となり得るのかを考察する。
超加工食品のトレンドを踏まえた和食や日本食材戦略
超加工食品に対する規制や課税が今後各国で導入されるかは、英国を含め、現時点では見通せない。一方で、米国カリフォルニア州では、学校給食における超加工食品の提供を段階的に排除する法律が成立し、同様の法案が審議されている州もある(2026年6月18日付地域・分析レポート参照)。日本企業も、各国政府や国際機関の動向を注視していく必要がある。
仮に規制や課税が導入されなかった場合も、超加工食品に対する消費者の関心は、今後世界的に高まっていくことが予想される。前稿でも触れたように、超加工食品に対する消費者の関心では、英国が他国を一歩リードしてきた。その英国の超加工食品を巡る最新のトレンドを踏まえ、日本の食を広める戦略としては、以下のようなものが考えられる。
(1) クリーンラベル
超加工食品への消費者の関心の高まりを背景に、英国では、「クリーンラベル」と呼ばれる、原材料を最小限にし、食品添加物や化学調味料を極力使わない製品が、従来にも増して広がりをみせている。現地系大手小売チェーンのマークス・アンド・スペンサーは、2025年から「Only … ingredients(たった~種類の原材料)」と銘打ったシリーズ(マークス・アンド・スペンサーウェブサイト参照
)で、牛肉、塩、こしょうの3種類のみで作った肉団子や、トウモロコシだけを原料としたコーンフレークなど、原材料のシンプルさを前面に出した商品の販売を開始した。
日本の加工食品は、見た目や食感、保存性を高める目的で、副材料や食品添加物を組み合わせるため、原材料表示が長くなる傾向にある。日本企業が、英国をはじめ、クリーンラベルを重視する消費者が多い市場への輸出を視野に入れる場合は、品質を維持しつつ、どこまで原材料を絞り込めるかという観点で、製品設計や配合の見直しが求められる。
(2) 食物繊維
2026年3月に開催された英国最大の食品見本市「International Food & Drink Event (IFE)」において、調査会社ミンテルの担当者が「2026年の食品・飲料業界のトレンド予測」と題したセミナーに登壇した(2026年4月14日付ビジネス短信参照)。同社は、英国では成人の96%が食物繊維摂取の推奨量(1日30グラム)に達していないことを指摘した。その上で、消化器系トラブルの増加や超加工食品への反発、高齢化の進展、さらに食物繊維と長寿が結び付けられるアジアの食文化への接触機会の増加などを背景に、食物繊維への関心が高まっていると説明した。
食物繊維は、健康的な食生活に欠かせない要素として、英国でも以前から推奨されてきた。しかし、近年は、とりわけ超加工食品と対照的な存在として、食物繊維を多く含む食品が推奨されるトレンドが形成されつつある。2025年夏には、米国を中心にTikTokでハッシュタグ「#fibermaxxing(食物繊維摂取量の最大化)」が爆発的に流行したが、英国ではそれよりも緩やかで持続的に、食物繊維への関心が広がっている。そのため、海藻や根菜、こんにゃくなど、食物繊維を豊富に含む日本の食材の魅力を伝える上で、今は好機といえる。また、食物繊維と長寿が結び付けられるアジアの食文化、とりわけ「和食」については、科学的根拠を示しながら丁寧に説明することで、理解をさらに深めてもらう余地がある。
(3) 発酵
英国のヘルステック企業ゾーイ(ZOE)の共同創業者ティム・スペクター氏は、著書『Ferment(発酵)』で「発酵食品をより多く食べるようになることは、結果として超加工食品を置き換えることにもつながる。超加工食品は腸内細菌や腸の粘膜に悪影響を及ぼし、過食を招きやすい」と指摘している。「Gut health(腸の健康)」を訴求したヨーグルトやコンブチャ(発酵飲料の一種)などの発酵食品は、これまでも英国で健康食品の地位を築いている。和食に目を向けると、みそ、しょうゆ、酢、みりん、酒、かつお節といった主要な食材・調味料の多くが発酵食品だ。和食の研究と普及に取り組む近茶流宗家の柳原尚之氏は、海外の料理の多くは油と香辛料で味を組み立てるが、和食は水と醸造調味料で味を組み立てると指摘する。どの醸造調味料にも共通するのはうま味であり、発酵によって生み出される奥深いうま味こそが、日本のだし文化ともつながり、現代の和食の味を形づくっていると説明している。和食の根幹となる発酵食品は、超加工食品と対照的な食品として、さらに広がっていく可能性がある。
また、和食は「引き算の料理」とも言われるように、皮をむき、あくを取るなど余分な要素を取り除き、醸造調味料によって本来の素材の味を引き立てる点にその特色がある。これは単に食材の数を減らすという発想ではなく、限られた食材で多様な味を構築する知恵だ。こうした和食の考え方を丁寧に伝えることができれば、英国をはじめ超加工食品に敏感な消費者層が広がる市場において、日本の食材や食文化を浸透させる新たな可能性が見いだせる。
食物繊維や発酵に根差した和食を新たな健康食の選択肢に
英国では、健康的でない食品に対する広告・販売促進規制や課税により、国民を不健康な食品から遠ざけようとしてきた(2025年4月28日付地域・分析レポート参照)。超加工食品の議論もその延長線上にある(2026年6月15日付地域・分析レポート参照)。また近年では、減量薬による食欲抑制が、個人の自己管理の問題にとどまらず、公的医療制度や社会的コストの議論へと広がりつつある(2025年6月25日付地域・分析レポート参照)。
これら英国の肥満対策は、「何を減らすか」に取り組む一方で、「なぜ人は食べるのか」「どうすれば満足しながら健康でいられるか」という視点が、制度設計に十分組み込まれていないように考えられる。「おいしく健康に食べる」という観点で、「和食」はスペインなどが提唱する「地中海食」とも共通項が多い。超加工食品を巡る議論を契機に、食物繊維や発酵に根差した和食を新たな健康食の選択肢として英国に発信し、日本の食材の可能性をさらに広げていくことができれば、英国の肥満対策に対し、日本の食文化が果たせる役割は少なくない。
国民の食欲はコントロールできるか
- 執筆者紹介
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ジェトロ・ロンドン事務所
林 伸光(はやし のぶみつ) - 2009年、農林水産省入省。2023年9月からジェトロ・ロンドン事務所に在籍。





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