英国は超加工食品の先進国
国民の食欲はコントロールできるか(4)
2026年6月1日
「超加工食品(Ultra-Processed Foods, UPFs)」という言葉を聞いたことがあるだろうか。日本ではまだなじみが薄いが、英国では、国民の関心の高さから政府や議会でも無視できない重要なテーマとなっており、食品業界もその動向を注視している。さらに、超加工食品との向き合い方については、英国を越えて国際的な政策議論に発展しており、「超加工食品の先進国」ともいえる英国で、このブームを商機として捉えられるかどうかは大きな試金石だ。まず、本稿では、超加工食品を巡る英国および国際的な政策議論の動向を整理する。その上で次稿では、「超加工食品の先進国」ともいえる英国において、和食や日本の食材が健康的な食の選択肢としてどのような役割を果たし得るのかを考察する。
超加工食品ブームの火付け役
英国において、超加工食品に対する国民の関心に火をつけたのは、医師でありテレビ司会者としても知られているクリス・バン・タレケン氏だ。自分の体を実験台にして約30日間にわたり超加工食品中心の食事を続け、約6キログラムの体重増加に至る過程をBBCのドキュメンタリー番組として制作した。タレケン氏の著書『Ultra-Processed People』(邦訳『不自然な食卓―超加工食品が人体を蝕む』早川書房)は、2023年4月に出版され、同年のベストセラーの1つになった。
図1は、Googleにおける「超加工食品」の検索人気度(相対値)の推移だ。言語の違いや表現のゆらぎを許容して集計されている。英国は、米国、ブラジル、日本と比べて相対的に超加工食品の検索人気度が高く、また、特異的なピークがみられる。(1)から(6)までのピークは、次に示すように、英国のテレビや新聞で超加工食品が取り上げられた時期に一致する。
(1)2021年5月27日、BBC「われわれは子供たちに何を食べさせているのか」放送。
(2)2023年6月5日、BBC「超加工食品:不健康のレシピ」放送。
(3)2023年8月25日~28日、欧州心臓病学会で、超加工食品が心筋梗塞などのリスクを高めるとの研究報告があり、ガーディアン紙などが報道。
(4)2024年2月28日、英国医師会雑誌(BMJ)で超加工食品が32の健康問題や疾患のリスクに関連しているとの論文が発表され、ガーディアン紙などが報道。
(5)2025年4月28日、米国予防医学雑誌(AJPM)で超加工食品が早期死亡に関連しているとの論文が発表され、ガーディアン紙などが報道。
(6)2025年11月18日、英国医学雑誌(The Lancet)で超加工食品に関する3部構成の論文が発表され、BBCなどが報道。
注:検索人気度は、期間内のピークを100とする相対値。言語の違いや表現のゆらぎを許容して集計する「トピック」での集計結果。
出所:Googleトレンドのデータを基にジェトロ作成
超加工食品への関心がいかに広がっているかは街中を見ても分かる。エディンバラの自然食品店リアル・フーズでは、店の前に「超加工食品にノー」と掲示し、タレケン氏の著書を店内に陳列していた。
エディンバラの自然食品店リアル・フーズ(ジェトロ撮影)
また、ロンドンの地下鉄駅では、同書が出版されてから3年近く経過した2026年にも駅構内広告が掲出されており、一過性のブームでないことをうかがわせる。

ブラジルの研究者が提唱した概念が世界へ
「超加工食品」という言葉の生みの親は、ブラジルのサンパウロ大学のカルロス・モンテイロ名誉教授だ。2009年に科学誌の論評で「食品が健康に及ぼす影響で重要なのは栄養素ではなく加工度だ」と新たな仮説を提唱し、その後、食品の加工度に基づく「NOVA分類」(NOVAはラテン語で「新しい」という意味)を定義した。
NOVA分類による超加工食品の判別方法は、同氏の言葉を借りれば「家庭の台所でめったに使われることがない原材料や添加物が入っている食品」だ。その曖昧さがしばしば批判の対象となるが、2019年には、モンテイロ氏らの執筆による国連食糧農業機関(FAO)の報告書が公表され、NOVA分類の体系的な定義が示された(表参照)。なお、当時のFAO事務局長は、ブラジル出身のジョゼ・グラツィアーノ・ダ・シルバ氏だった。同報告書はFAOの見解を必ずしも示すものではないとされているが、シルバ氏は公表に際し、「この報告書は、超加工食品の摂取が肥満や多くの非感染性慢性疾患を引き起こすという一貫した証拠を示している」と太鼓判を押している。
| NOVA分類 | 定義 | 例 |
|---|---|---|
|
グループ1 未加工食品または最小限に加工された食品 |
未加工食品:植物(果実、種実、葉、茎、根、いも類)や動物(筋肉、脂肪、内臓、卵、乳)から得られる可食部分またはきのこ類や海藻などを、自然から分離した状態のもの。水も含む。 最小限に加工された食品:未加工食品を工業的に処理し、食べやすくしたり保存性を高めたりしたもの。例:皮や不要部分の除去、乾燥、粉末化、圧搾、粉砕、製粉、分画、煮沸、焙煎(ばいせん)、低温殺菌、冷蔵、冷凍、充塡(じゅうてん)、非アルコール発酵など。塩、砂糖、油脂などは加えない。 |
果実、野菜、穀類(グリッツ、フレーク、穀粉を含む)、豆類、いも類、きのこ、肉、魚、卵、乳、ナッツ、油糧種子、ハーブ、香辛料、プレーンヨーグルト、茶、コーヒー、飲料水など |
|
グループ2 加工された調理原材料 |
グループ1の食品から直接得られる物質、または圧搾、遠心分離、精製、抽出、採掘などの工業的プロセスによって自然から得られる物質。 | 植物油、バター、ラード、砂糖、糖蜜、蜂蜜、メープルシロップ、でんぷん、塩など |
|
グループ3 加工食品 |
グループ1の食品に、塩、砂糖、油脂などグループ2の原材料を加え、缶詰や瓶詰などの保存法を用いて製造されたもの。パンやチーズなどの場合は非アルコール発酵によって製造されたもの。 |
塩漬け、砂糖漬け、乾燥、燻製(くんせい)などして缶詰や瓶詰された野菜、豆類、ナッツ、種実、肉、魚、 シロップ漬けの果実、包装されていないパンやチーズ |
|
グループ4 超加工食品 |
主に工業用途に限定された原材料の配合で、一連の工業プロセスによって製造され、その多くが高度な設備や技術を必要とするもの。超加工食品の製造に用いられるプロセスには、食品を物質に分解すること、その物質を化学的に改変すること、押し出し・成型・下揚げなどの工業技術を用いて未改変または改変された食品の物質を組成することが含まれる。製造のさまざまな段階で、最終製品の風味を良くするための添加物を使用する。また、通常、プラスチックその他の合成素材の高度な包装がされる。原材料には、塩、砂糖、油脂が一般的に組み合わせて含まれ、高果糖コーンシロップ、硬化油やエステル交換油、タンパク質分離物など、エネルギーや栄養の供給源ではあるが、調理用途としては使用されない、あるいは極めてまれにしか使われない物質が含まれる。 さらに、最終製品をより魅力的で食べやすくすることを目的とした香料、香味増強剤、着色料、乳化剤、甘味料、増粘剤といった添加物のほか、消泡剤、増量剤、炭酸化剤、発泡剤、ゲル化剤、光沢剤などの添加物も含まれる。 また、製品の保存期間を延ばし、元の性質を維持し、あるいは微生物の増殖を防ぐための添加物も使用される。 これらの製造工程および原材料は、低コスト原料、長い保存性、強力なブランド化によって高度に収益性の高い製品を生み出すよう設計されている。同時に、それらは調理不要で手軽に摂取できる利便性の高い、かつ強い嗜好(しこう)性を持つ製品であり、結果として他の全てのNOVA食品群に属する食品から作られた新鮮な手作りの料理や食事を置き換えてしまう可能性が高い。 |
炭酸飲料、甘味または塩味の包装スナック、チョコレートやキャンディー(菓子類)、アイスクリーム、大量生産された包装パンやロールパン、マーガリンやその他のスプレッド類、クッキー(ビスケット)、ペイストリー、ケーキ、ケーキミックス、朝食用シリアル、シリアルバーやエナジーバー、エナジードリンク、乳飲料、フルーツヨーグルトやフルーツ飲料、ココア飲料、インスタントソースなど、多くのそのまま摂取できる製品。 パイ、パスタ料理、ピザ料理などの事前調理されていて温めるだけでよい製品、鶏肉や魚のナゲットやスティック、ソーセージ、ハンバーガー、ホットドッグ、その他の成形肉製品、さらに粉末または包装されたインスタントスープ、麺類、デザートなど。 乳児用調製粉乳、フォローアップミルク、その他のベビー向け製品、ならびに食事代替用シェークや粉末などの健康製品やダイエット製品。 |
注:本翻訳は国際連合食糧農業機関(FAO)による公式翻訳ではありません。FAOは、本翻訳の内容および正確性について一切の責任を負いません。正式な版は英語原文となります。
出所:FAO「NOVA分類を用いた超加工食品、食事の質および健康」(2019年)
超加工食品をどう扱うべきか、英国政府・議会の模索
超加工食品に対する英国内の消費者の関心の高まりを背景として、英国政府に科学的な助言を行う「栄養に関する科学諮問委員会」(SACN)は、2022年に保健・ソーシャルケア省の諮問を受け、2023年7月に超加工食品と健康への影響について次の見解を公表した(英国政府ウェブサイト参照
)。
- 超加工食品の摂取量の増加が、肥満、2型糖尿病、高血圧、心血管疾患、うつ病などのリスクの増加に関連しているとの研究報告が複数確認されている。
- 超加工食品を多く含む食事は、エネルギー密度(重量当たりの熱量)が高く、飽和脂肪、塩分、遊離糖、加工肉が多く、果物、野菜、食物繊維が少ない傾向がある。しかし、こうした栄養因子が原因なのか、加工そのものが原因なのかは明らかではない。
超加工食品と肥満の因果関係については、「超加工食品の炭水化物と脂肪の配合比率が脳の報酬系を刺激し、依存性を生む」「超加工食品は、エネルギー密度が高く、咀嚼(そしゃく)回数も少なく済むため、満腹感を感じる前に多くのエネルギーを摂取してしまう」などの諸説が提唱されている。SACNは、いずれもエビデンスが不十分で、因果関係についてさらなる研究が必要であるとしており、英国政府は、超加工食品に関する研究の促進や消費者との対話を進めている。一方で、科学的知見の蓄積と並行して、英国では政策面での議論も進んでいる。2024年1月には英国上院は食品・食事・肥満特別委員会を設置し、栄養学の専門家や慈善団体、食品事業者などから意見を聴取した。その成果として、同年10月に報告書「健康のレシピ:壊れたフードシステムの修復計画
(2.9MB)」を公表した。英国の肥満問題に関する現状と政策を包括的に検証した報告書であり、1992年から2020年にかけて歴代の政権が約700もの肥満対策を講じたにもかかわらず、その効果はごくわずかにとどまったと断じている。これは、「国民の食欲をどこまで政策でコントロールできるのか」という英国社会の根源的な問いにもつながっている。報告書では、個人の選択に頼るのではなく、不健康な食品に対する強制的な規制が必要と総括している。
その1つとして、報告書では超加工食品にも一章を割いており、各国の摂取エネルギーに占める超加工食品の割合のデータが引用されている。英国は米国に次いで超加工食品の割合が多く、摂取エネルギーの約57%が超加工食品に由来するとされる(図2参照)。一方、日本については報告書に載っていないが、東京大学の研究グループが、家庭外で調理された料理(外食や総菜など)の扱いによって推計値が変わるとしつつ、少なく見積もると約28%、多く見積もると約42%と報告している〔東京大学プレスリリース資料参照
(391KB)〕。
英国で超加工食品への依存を見直す議論が進む中、健康的な代替食品の選択肢にも関心が集まっている。英国のヘルステック企業ゾーイ(ZOE)の共同創業者ティム・スペクター氏は、日本を訪問した実体験から、英国と日本の食環境の違いについて、コンビニエンスストアでもおにぎりやサラダなど新鮮な食品が販売され、健康的な選択肢が提供されていることのほか、腹八分目の文化、食育としての学校給食、そして腸内環境を整える多様な発酵食品や食材など、日本の優れた点を指摘している。
注:日本について、Shinozaki et al.(2023)は低位推定と高位推定をしているが、要旨に記載されているのは低位推定の27.9%である。
出所:Srour et al.(2022), Martini et al.(2021), Mertens et al.(2022), Touvier et al.(2023), Shinozaki et al.(2023)を基にジェトロ作成
食品・食事・肥満特別委員会においては、超加工食品の摂取抑制策として、ラベル表示や課税も議論の対象となった。『Ultra-Processed People』著者のタレケン氏も特別委員会に呼ばれ、ラベルによる警告表示の必要性を訴えた。また、現地系すしチェーンitsuの創業者兼CEO(最高経営責任者)であるジュリアン・メットカルフェ氏は、ラベルによる警告表示に加え、超加工食品にはより多くの税金が課されるべきと述べた。しかし、特別委員会の報告書では、NOVA分類は、個々の食品の評価や規制をするのに十分な精度を欠いているとして、政府に対しては、超加工食品の健康への影響に関する研究をさらに進めることを提言するにとどまった。
英国を超えて広がる国際的な政策議論
2025年11月に英国医学雑誌「The Lancet」で発表された超加工食品に関する三部構成の論文シリーズ
は、各国政府に対して、超加工食品に対する規制や課税などの政策手段を提示するとともに、世界的な取り組みを呼びかけている点でインパクトが大きい。こうした動きを受け、今後は英国以外の各国でも、超加工食品との向き合い方について議論が一段と活発になっていくと思われる。
世界保健機関(WHO)では、2025年に超加工食品のガイドライン策定に向けたワーキンググループが立ち上がり、2026年4月10日にウェビナーが開催された。また、同月15日には、スペイン下院の農業・漁業・食料委員会において、「The Lancet」の論文を引用しつつ、健康的な「地中海食」の推進と、超加工食品に関するEU共通の定義策定、それに基づく任意の表示制度の検討を提案する非拘束的決議が可決された。米国でも、ロバート・ケネディ・ジュニア保健福祉長官が「米国を再び健康に(Make America Healthy Again)」というスローガンのもと、2025年から超加工食品の定義策定に着手している。
健康な食の選択肢としての和食の可能性
こうした国際的な政策議論を受けて、英国において、超加工食品の抑制に向けた政策の検討が一層進むとともに、その依存度を下げようとする消費者意識の高まりも見込まれる。前述のとおり、スペイン議会はより健康的な食の選択肢として「地中海食」を提案しているが、同じくユネスコ無形文化遺産に登録されている「和食」は、英国において健康的な食事としてのイメージが既に一定程度定着している。地中海食と和食はいずれも、植物性食品が豊富で、食材の多様性と栄養バランスを重視し、加工度を抑えて素材本来の味わいを生かすという共通点を有する。さらに、和食は、うま味を生み出す発酵文化を基盤としており、発酵が食品業界の主要なトレンドとなっている英国においては、発酵と和食を結び付けた訴求が有効であると考えられる。次稿では、超加工食品の代替として、英国の消費者に対し和食や日本の食材をどのように訴求していくことができるかについて具体的に検討する。
国民の食欲はコントロールできるか
- 執筆者紹介
-
ジェトロ・ロンドン事務所
林 伸光(はやし のぶみつ) - 2009年、農林水産省入省。2023年9月からジェトロ・ロンドン事務所に在籍。





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