2028年に交渉完了? ウクライナのEU加盟交渉の現在地と課題

2026年9月9日

ウクライナのEU加盟に向けた具体的な交渉の開始が2026年6月12日、EU理事会(閣僚理事会)において承認された。これは、表1のとおり、ハンガリーの政権交代により(2026年5月26日付ビジネス短信参照)、ハンガリーが拒否権を撤回したことによるものだ。2022年2月の加盟申請から4年、ついに加盟交渉が本格化することになる。欧州委員会は、ウクライナの加盟を地域の安定と繁栄に資する地政学上の戦略的投資と位置付け、加盟に向けた取り組みを積極的に支援している。一方で、ウクライナも加盟を外交上の最優先課題とし、2028年末の交渉完了を目標に法改正や制度改革を進めている。もっとも、加盟交渉の進展に伴い、加盟国間では加盟国数の増大によるEUの機能不全やEU予算への影響を巡る懸念も強まっており、早期加盟の先行きは不透明なままだ。そこで本稿では、加盟プロセスの進捗と今後の流れを整理し、加盟交渉がこれからどのように進展するのか、その見通しと課題を考察する。

表1:ウクライナのEU加盟に関するこれまでの主な動き(ーは記載なし)
主体 主な動き 備考
2022年 2月 ウクライナ EU加盟を申請 ロシアのウクライナ侵攻を受けて申請。
6月 欧州委員会 加盟候補国認定を勧告 意見書には加盟交渉の開始条件も明記。
6月 欧州理事会 加盟候補国認定を決定
2023年 11月 欧州委員会 交渉開始を勧告 加盟交渉の開始条件の9割超を達成と評価。
12月 欧州理事会 加盟交渉の開始を決定
2024年 3月 欧州委員会 交渉枠組みを提案 交渉枠組みとは、加盟交渉の基礎を規定するもの。交渉の原則、内容、手順などを明記。
6月 EU理事会 交渉枠組みを承認
6月 ウクライナ・加盟国 第1回政府間会議を開催、加盟交渉を開始
7月 ウクライナ・欧州委員会 スクリーニングプロセスを開始 スクリーニングプロセスとは、ウクライナの国内法とEU法の整合性を確認し、加盟に向けて必要な法改正や制度改革を特定する作業。
2025年 1月 欧州委員会 第1クラスターに関するスクリーニングプロセスを完了
1月 欧州委員会 第1クラスターに関する交渉開始ベンチマークを策定 開始ベンチマークとは、スクリーニングプロセスを基に設定される各クラスターの交渉開始条件。ロードマップの策定などが含まれる。
1月 EU理事会 第1クラスターに関する交渉開始ベンチマークを承認 ロードマップは、ウクライナが実施する今後の法改正や改革の行程表で、第1クラスターの開始ベンチマークの一部を構成。
2月 ハンガリー ロードマップに関連し拒否権を発動 ウクライナ国内のハンガリー系住民の権利保障が不十分であることなどが理由。
5月 ウクライナ ロードマップを策定 法の支配、民主的機関の機能、行政改革に関するロードマップと、少数者の権利保護行動計画を策定。
6月 欧州委員会 第1クラスターの交渉開始可能と評価 ウクライナが第1クラスターの交渉開始ベンチマークを達成したと評価。
6月 ハンガリー 第1クラスターの交渉開始に拒否権を発動 住民投票の結果、ハンガリー国民はウクライナ加盟に反対であることが理由。
9月 ウクライナ・欧州委員会 残りのクラスターのスクリーニングプロセスを完了
2026年 6月 ハンガリー 拒否権を撤回 ウクライナ国内のハンガリー系住民の権利保障問題を巡る協議が進展したことが理由。
6月 EU理事会 第1クラスターの交渉開始を決定
6月 ウクライナ・加盟国 第2回政府間会議を開催、第1クラスターの交渉を開始

出所:欧州委員会プレスリリースなどを基にジェトロ作成

2028年末の交渉完了へ、交渉が本格化

まずは、加盟プロセスの現在地を整理する。加盟プロセスは主に、(1)加盟候補国の認定、(2)加盟交渉、(3)加盟条約の締結から成る(2022年5月19日付地域・分析レポート参照)。ウクライナは2022年2月、ロシアによる軍事侵攻を受けてEUへの加盟を申請し、同年6月には加盟候補国に認定された(2022年6月28日付ビジネス短信参照)。わずか4カ月足らずでの認定は、西バルカン地域の加盟候補国と比べ異例の速さであった。

今後の焦点となるのは(2)加盟交渉である。この段階においては、交渉開始に向けた準備を含め、加盟候補国が乗り越えるべきハードルは非常に多い。ウクライナは、EU法を適用するための国内法の改正と加盟基準を満たすための制度改革に引き続き取り組む必要がある。欧州委は、これを支援・監督し、各種条件の達成を評価する役割を担う。EU理事会は、各段階において欧州委の評価を基に、条件が達成されたことを承認する。実質的な加盟交渉は、表2のとおり、6つのクラスターに大別される33の章(chapter)と呼ばれる政策分野ごとに行う必要があり、全章の交渉を完了するまでには膨大な時間を要する見通しである。

表2:加盟交渉における各クラスターの内訳 (ーは記載なし)

第1クラスター:
基本事項
内訳
第23章 司法制度・基本的権利
第24章 司法・自由・安全保障
第5章 公共調達
第18章 統計
第32章 財務統制
経済的基準
民主的制度の機能
行政改革
第2クラスター:
単一市場
内訳
第1章 モノの移動の自由
第2章 労働者の移動の自由
第3章 設立の自由・サービスの移動の自由
第4章 資本の移動の自由
第6章 会社法
第7章 知的財産法
第8章 競争政策
第9章 金融サービス
第28章 消費者・健康保護
第3クラスター:
競争力・包摂的成長
内訳
第10章 デジタル化・メディア
第16章 税制
第17章 経済・金融政策
第19章 社会政策・雇用
第20章 企業・産業政策
第25章 科学・研究開発
第26章 教育・文化
第29章 関税同盟
第4クラスター:
グリーン政策・持続可能な連結性
内訳
第14章 交通政策
第15章 エネルギー
第21章 汎(はん)欧州ネットワーク
第27章 環境・気候変動
第5クラスター:
資源・農業・結束政策
内訳
第11章 農業・農村開発
第12章 食の安全・動物衛生・植物検疫
第13章 漁業・養殖
第22章 地方政策・EU構造資金の運用調整
第33章 財政・予算規定
第6クラスター:
域外関係
内訳
第30章 域外関係
第31章 外交・安全保障・防衛政策

出所:欧州委員会の資料を基にジェトロ作成

EU理事会は2026年6月に、ウクライナが第1クラスター(基本事項)の開始ベンチマークを達成したとして、第1クラスターの交渉開始を決定した(2026年6月15日付ビジネス短信参照)。これにより、遂に実質的な交渉が開始された。ウクライナは今後、第1クラスターの各章に沿った法改正や制度改革を実行し、章ごとに完了ベンチマークを達成することが求められる。また、 EU理事会は同年7月、第6クラスター(域外関係)の交渉開始も決定した。残りのクラスターについても、欧州委は既に開始ベンチマークを達成していると評価しており、早期の交渉開始が見込まれている。

ウクライナが全ての完了ベンチマークを達成し、EU理事会が全ての章の交渉完了を承認した後、欧州委は加盟交渉が完了し加盟準備が整った旨の意見書を策定する。その後、最終段階である(3)加盟条約の締結に移る。欧州委は加盟国やウクライナとともに、移行措置などの加盟条件や加盟の効果に関する最終合意を盛り込んだ加盟条約を策定する。加盟条約について、欧州議会が同意し、EU理事会が承認した後、ウクライナと全ての加盟国が署名すると、ウクライナは加盟予定国となる。さらに、ウクライナと全ての加盟国が、議会での投票や国民投票など各国の憲法上の規定に基づき加盟条約を批准すれば、ウクライナは加盟国となる。なお、直近に加盟したクロアチアの場合、2011年6月の交渉完了から2013年7月の加盟まで2年を要した。

課題は山積み

では、ウクライナはこのまま順調にEUに加盟できるのだろうか。まず、ウクライナ国内における最重要課題は、第1クラスターの汚職対策を含めた法の支配の確立だ。欧州委は、ウクライナに対し、裁判所・検察・法執行機関の独立性や職務倫理の向上、汚職・組織犯罪対策などの取り組みを加速させるよう求めている。また、汚職対策については、関係するあらゆる章において取り組む必要があるとしている。また、ポーランドやハンガリーのように加盟後に法の支配が後退するリスクも懸念されており、加盟条約にセーフガード条項を盛り込むべきとの指摘も出ている(注1)

こうした評価を受け、ウクライナは2028年末までの交渉完了を目標に、法改正や制度改革を急ピッチで進めている。欧州委もこの目標自体には支持を表明している。ただし、欧州委の評価はあくまで実務面であり、実際の加盟実現にはウクライナ国内の取り組みだけでなく、加盟国の継続的な支持が不可欠となる。

この文脈において極めて重要となるのが、加盟プロセスにおける加盟国の全会一致の原則である。加盟候補国の認定、加盟交渉の開始や完了、加盟条約の署名といった節目だけでなく、各クラスターの開始ベンチマークや各章の完了ベンチマークの達成など、あらゆる段階において加盟国の全会一致による承認が求められる。欧州委の試算によれば、加盟プロセス全体で加盟国が承認を行う機会は150回以上にもなるという。これは、ウクライナがどれだけ国内改革を進めたとしても、加盟国のうちわずか1カ国でも拒否権を発動すれば加盟プロセスを停止させることができ、かつ実質的にはいつでも拒否権を行使できることを意味する。

実際に、ハンガリーは2025年2月、第1クラスターの開始ベンチマークを構成するロードマップの策定に関連し拒否権を発動した。ウクライナは欧州委の技術的な支援のもと、ロードマップの策定を続け、欧州委は同年6月に開始ベンチマークの達成を評価した。しかし、その後もハンガリーは拒否権を維持し、第1クラスターの交渉開始は凍結を余儀なくされた。結果として、ハンガリーの政権交代(2026年5月18日付ビジネス短信参照)により2026年6月に拒否権が撤回されるまで、加盟プロセスは1年以上停滞した。

さらに、ウクライナ加盟は、農業政策や移民政策など、加盟国の国民の反発を招きやすい問題も抱えている。例えばポーランドでは、EUがウクライナ産農産品への輸入関税を免除し(2025年6月12日付ビジネス短信参照)、安価なウクライナ産農産品が国内に大量に流入した結果、ポーランド産農産品の価格が大幅に下落したとして、2024年2月に農民を中心とした大規模な抗議デモが発生した。また、紛争の長期化に伴い、ポーランド国内のウクライナ難民が100万人規模に達する中、社会的摩擦も増加している。多くの加盟国でEU拡大に懐疑的な右派・極右勢力が台頭しており(2024年7月10日付地域・分析レポート参照)、今後の選挙結果次第では、ウクライナの加盟に反対する加盟国が現れる可能性もある。

また、ウクライナを迎え入れるEU側にも課題がある。第一に、意思決定方法の限界だ。EUでは既に多くの分野で特定多数決(注2)が導入されているが、外交、予算、税制といった最重要分野では依然として全会一致による承認が必要だ。これにより、対ロシア制裁やウクライナ支援をめぐり、1カ国の反対によって政策決定が停滞する事態がたびたび生じている(2025年12月22日付2026年3月26日付ビジネス短信参照)。さらに問題なのは、加盟交渉を進めているのがウクライナだけでないという点だ。モンテネグロ、アルバニア、モルドバといった加盟候補国も今後数年以内の交渉完了を目指している。こうした加盟候補国が全てEUに加盟した場合、加盟国は30カ国を超えることになる。そうした中で全会一致という意思決定方法を維持すれば、合意形成はこれまで以上に困難となり、EUが機能不全に陥るリスクが高まると懸念されている。

第二の課題は、EU予算、特に共通農業政策(CAP)と結束政策の予算配分である。CAP(約3,866億ユーロ)と結束政策(約3,920億ユーロ)は、2021~2027年の現行中期予算計画(MFF)のそれぞれ約3分の1を占めるEUの中心的な政策だ。CAPは、全加盟国が共通して実施する農家支援制度であり、予算の大部分は農地面積に応じて農家に直接支払われる。結束政策は、加盟国間の経済格差の是正に向け、1人当たりGDP〔購買力基準(PPS)〕がEU平均の75%未満の後進地域を中心に、人口規模などに応じて予算が配分される。

ウクライナは、欧州有数の農業大国であり、表3のとおり、その経済水準は現加盟国の中で1人当たりGDPが最も低いブルガリアと比べて大幅に低いだけでなく、加盟候補国の中でも最も低い水準にある。一方で、人口はEU第5位のポーランドに次ぐ規模だ。この「広大な農地」「極めて低い経済水準」「膨大な人口」により、ウクライナが現行のルールのままEUに加盟すると、CAPや結束政策の主要な受益国になることが見込まれる。これは、他の加盟候補国とは大きく異なる点だ。

表3:加盟候補国とEUの1人当たりGDPおよび人口の比較
国名 地位 交渉完了目標 1人当たりGDP
(購買力平価ベース)(単位:国際ドル)
EU
平均比
(単位:%)
1人当たりGDP
(名目ベース)(単位:米ドル)
EU
平均比(単位:%)
人口
(単位:100万人)
ウクライナ 加盟候補国 2028年末 20,999 32.53% 6,261 14.16% 32.862
モンテネグロ 加盟候補国 2026年末 33,620 52.09% 13,508 30.54% 0.634
アルバニア 加盟候補国 2027年末 23,405 36.26% 10,527 23.80% 2.695
モルドバ 加盟候補国 2028年末 19,678 30.49% 8,260 18.68% 2.356
ブルガリア(参考) 加盟国 41,901 64.92% 18,522 41.88% 6.317
EU 64,545 44,225 452.036

欧州有数の経済シンクタンク「ブリューゲル」(注3)の試算によると、現行MFFのルールを適用した場合、ウクライナに配分されるEU予算は、CAPから850億ユーロ、結束政策から320億ユーロ、その他のEUプログラムから70億ユーロにのぼる。欧州委は、既存加盟国への影響を抑えるため、ウクライナへの配分を一時的に制限し段階的に拡大する仕組みを想定している。しかし、EU予算の総額に限界がある以上、大幅な予算増額に全加盟国が同意しない限り、ウクライナの加盟は既存加盟国への配分が減少することを意味する。実際に2028年からの次期MFF(2025年7月22日付ビジネス短信参照)の協議においては、CAPと結束政策の予算は現状維持、あるいは削減の方向で議論されている。こうした中で、ウクライナの加盟は加盟国間の政治的摩擦を生む可能性が高い。

こうした深刻な課題があるにもかかわらず、EU側の改革に向けた議論は進んでいない。特に、意思決定方法の変更にはEU条約の改正が必要であり、ハードルは極めて高い。欧州委も加盟国も改革には慎重な姿勢を示しているのが実情だ。

一方で、なんとか早期加盟を実現させようとするアイデアも議論されている。従来の加盟プロセスを維持しつつ、交渉スピードを加速させる「ファストトラック」や、加盟を認めた上で、交渉が完了した分野からEUに統合する「逆加盟(reverse accession)」といった新たなアプローチだ。しかし、現時点ではいずれの案も加盟国からの幅広い支持を得られていない。

このような状況において、欧州委は、早期加盟に向けた現実的な支援策として「段階的統合」を推進している。段階的統合とは、加盟候補国の国内法の整備や改革の成果に応じて、加盟前に当該分野のEU単一市場やEUプログラムへのアクセスを認めるものだ。500億ユーロ規模の復興支援策「ウクライナ・ファシリティ」(2024年2月6日付ビジネス短信参照)も、こうした段階的統合を後押しする仕組みとして位置付けられている。2027年初めには、ウクライナのEU電力市場への統合も見込まれている(2025年4月17日付ビジネス短信参照)。

問われる加盟国の政治的意思

ウクライナの加盟に向けた取り組みが進展する中で、最終的にカギを握るのは加盟国それぞれの政治的意思だ。ロシアのウクライナ侵攻を経て、地政学的な観点からウクライナの加盟は必須であり、早期に実現すべきとの認識が広く共有されている。一方で、ウクライナの加盟が徐々に現実味を帯びるにつれ、加盟国間の温度差も目立ち始めている。ウクライナは2028年末の交渉完了を目標に改革を加速させているが、意思決定方法の見直しやEU予算の再設計といった受け入れ側であるEUの深刻な課題については、解決を先送りしている。こうした中、ウクライナの加盟を巡る政治的・制度的な不確実性は依然として大きく、早期加盟の実現はなおも不透明な状況にある。結局のところ、ウクライナの加盟に求められるのは、加盟国の合意形成である。ウクライナの加盟が早期に実現するかは、加盟国がウクライナの加盟に伴う「コスト」を、地政学的観点を踏まえた「投資」として引き受けられるかにかかっている。


注1:
ドイツ国際安全保障研究所(SWP)「EU Enlargement: Ukraine as a Special Case – the Western Balkans as the Norm」〔Barbara Lippert, Nicolai von Ondarza, Frauke M. Seebass、SWP Comment(2026年4月)〕。 本文に戻る
注2:
特定多数決は、少なくともEU域内の全人口の65%を代表する55%の加盟国(27加盟国中15カ国)の賛成を必要とする。 本文に戻る
注3:
ブリューゲル「Ukraine’s path to European Union membership and its long-term implications」〔Zsolt Darvas, Marek Dabrowski, Heather Grabbe, Luca Léry Moffat, André Sapir, Georg Zachmann、Bruegel Policy Brief (2024年3月)〕。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ・ブリュッセル事務所
吉沼 啓介(よしぬま けいすけ)
2020年、ジェトロ入構。