EUのウクライナに対する自主貿易措置が失効、農産品の関税割当枠が復活
(ウクライナ、EU)
調査部欧州課
2025年06月12日
ウクライナの一部の農産品に対するEUの輸入関税と関税割当枠の撤廃を定めていた自主貿易措置(ATMs)が6月5日に失効した。ATMsは、ロシアによる侵攻によってウクライナが被っている貿易、経済への影響を軽減するため、2022年6月に導入された(注1)。この措置により、連合協定(注2)の別紙I-Aで、関税割当枠が定められた品目について、関税とその割当枠が撤廃されていた。
ATMs失効は、連合協定の一部である包括的自由貿易協定(DCFTA)の下で貿易体制への回帰を意味する。2025年は移行期間として、規定の関税割当枠の12分の7の量が適用される。
DCFTAでは、EU側で全体で98.1%の輸入関税が撤廃されている。農産品についても、ほとんどの品目の関税が撤廃されているが、一部の農産品は関税割当の対象になっており、EU・ウクライナ間の交渉の焦点となっていた。
欧州委員会とウクライナはDCFTAの改定や、より開かれた自由貿易協定(FTA)への移行について協議していたが、ATMs失効前の合意はかなわなかった。ウクライナ国立銀行(NBU、中央銀行)のセルヒー・ニコライチュク副総裁は、ウクライナの農産品に対するEUの関税枠復活により、2025年までに8億ドルの損失が見込まれると指摘した(「エコノミチナ・プラウダ」6月5日)。また、ユリア・スビリデンコ第1副首相兼経済相は6日、自身のSNSで、関税割当枠の数量はリセットされて新しく計算されるため、すぐに具体的変化がみられるわけではないが、関税枠の拡大または撤廃に関する交渉を数日間で妥結することが重要とコメントした。
一方で、欧州委員会は5日、ウクライナに対する鉄鋼の緊急輸入制限(セーフガード)措置の停止を延長する規則を採択した。6日から3年間適用する。この措置は、2018年の米国による鉄鋼に対する追加関税賦課に伴い、第三国からEU市場への過剰な鉄鋼の流入に対処するために導入されたもの(2018年7月19日記事参照)。ロシアによるウクライナ侵攻を背景に、ウクライナは支援措置として対象外とされていた。ただし、EU域内の産業に著しい損害をもたらす恐れがある場合は、欧州委員会が特定の製品を対象に、セーフガード措置を12カ月間導入できる権利も留保した。
(注1)ATMsは2022年6月に導入されて以降、2023年、2024年と2度にわたり、適用期間が延長されていた。2024年の延長時には、家禽(かきん)肉、卵、砂糖、オーツ麦、トウモロコシ、ひき割り穀物、蜂蜜の7品目がセーフガード措置の対象品目に盛り込まれた。
(注2)連合協定は、EUとウクライナが政治的連携と経済的統合を目的として、2014年に締結したもの(2014年6月30日記事参照)。
(柴田紗英)
(ウクライナ、EU)
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