EU首脳、ウクライナ向け財政支援策「賠償ローン」で決裂も、900億ユーロの融資は合意

(EU、ウクライナ、ロシア、メルコスール)

ブリュッセル発

2025年12月22日

欧州理事会(EU首脳会議)は12月18日、ブリュッセルで公式会合を開催した(プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。最大の焦点となったのは、前回の会合(2025年10月27日記事参照)から結論が持ち越されていた、ウクライナへの財政支援策「賠償ローン」の是非だ。賠償ローンは、欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長が提案したもので、域内で凍結中のロシア資産を活用し、ウクライナへの融資を実施するもの(2025年10月6日記事参照)。欧州委によると、欧州理事会は16時間にわたり協議を続けたものの、前回の会合同様に、凍結中のロシア資産の大部分を管理する国際証券決済機関ユーロクリアが所在するベルギーが最後まで首を縦に振らず、賠償ローンの実施に向けた合意には至らなかった。

欧州委は代替案として、EU予算を担保に市場から資金調達をし、ウクライナへの融資を実施することを提案した。欧州理事会は、2026~2027年にかけてウクライナに900億ユーロの融資を実施することで合意した。今回の融資は、賠償ローンと同様に、ウクライナがロシアからの賠償金を受け取るまで返済を求めず、ロシア資産も凍結したままにするというものだ。なお、ウクライナ支援に消極的なハンガリー、チェコ、スロバキアは、今回の融資に賛成しておらず、24加盟国での実施となる。

賠償ローンを推進する欧州委は、今回の会合で賠償ローンの実施で合意し、EU団結を狙ったが、賠償ローンだけでなく、融資においても全会一致とはならず、むしろ分断を露呈する結果となった。なお、欧州委は今後も、賠償ローンの実施に向けた働きかけを続けるとみられる。

EUメルコスールFTAの署名に向けた協議も合意に至らず

欧州理事会は、2024年12月に政治合意(2024年12月10日記事参照)したメルコスールとの自由貿易協定(FTA)を含むEUメルコスール・パートナーシップ協定(EMPA)の署名に向けた協議も行ったが、こちらもフランスやイタリアなど一部の加盟国が引き続き反対した結果、合意には至らなかった。欧州委のフォン・デア・ライエン委員長は12月20日にもブラジルで署名を行う日程を組んでいたが、協議の結果を受け、署名を延期することでメルコスール側と合意したと発表した。欧州委は今後、2026年1月中の署名を目指すとしているが、欧州議会がさらなる延期に向け動く可能性もあり、しばらくは予断を許さない状況が続きそうだ。

(吉沼啓介)

(EU、ウクライナ、ロシア、メルコスール)

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