「加速」のカギは製造業とITの「両輪」にあり、エネルギー政策も議論(欧州)
中・東欧の注目トピック、機会と課題を解説

2022年7月21日

ジェトロは2022年5月25日、「中・東欧政治経済最新動向セミナー~2022年の注目トピックと機会と課題~」と題したウェビナーを開催した。ジェトロのワルシャワ事務所、プラハ事務所、ブダペスト事務所、ブカレスト事務所、ウィーン事務所の各所長が登壇し、中・東欧諸国の2022年の展望、市場の機会と課題をテーマに各国の最新情報を解説した。

ポーランドは堅調な経済成長も、EUとの関係に注視

ワルシャワ事務所の石賀康之所長は、ポーランドは現在、マテウシュ・モラビエツキ首相が所属する与党「法と正義(PiS)」が連立政権を率いており、2023年の議会総選挙に向けて、現政権は国民からの支持を得る政策実施が重要になる、と説明した。さらに、ウクライナ情勢を受け、ポーランドはウクライナ復興を牽引することが期待されている、と述べた。EUとの関係では、自国の「法の支配」を巡って、2021年から対立を強めていた(2022年2月18日付ビジネス短信参照)が、ウクライナ情勢を受け、EUとの連携を強化していると解説した。経済面では、ウクライナからの避難民への支援などが負担で、ポーランド中央銀行は2022年のGDP成長率見通しを4.9%から4.4%に下方修正したことを解説。しかし、良好な労働市場、所得増加による消費市場の拡張により、堅調に成長する見込み、と説明した。Eコマースの中・東欧地域のハブや自動車関連分野の製造拠点であることを背景とした、外国企業の進出だけでなく、道路・鉄道へのインフラ投資、所得増加に伴う旺盛な個人消費が今後の安定的な経済成長に影響を与えるだろうと解説した。
ポーランドへの直接投資も近年、加速しており、2021年のポーランド投資ゾーン(PIZ)への対内直接投資は、前年比で案件数は92%増加、投資額では2.5倍を記録し、過去最高となった(2022年1月19日付ビジネス短信参照)。日系進出企業は356社で(2020年10月時点)、近年では食品関連の企業がポーランドでの製造を行っている、と説明した。


ワルシャワ事務所、石賀康之所長(ジェトロ撮影)

チェコ経済は回復、生産性向上の取り組みに商機

プラハ事務所の志牟田剛所長は、チェコでは、2021年12月に発足したフィアラ政権が親EU・親NATO路線を掲げており、EUのグリーン・ディールを成長機会と捉え、EU基金を活用したグリーン化、デジタル化の推進を政権運営の柱の1つとしていることを説明した。チェコの主な経済指標はコロナ前の水準にほぼ回復したが、ウクライナ情勢によるサプライチェーンの混乱拡大やエネルギー価格の高騰が影響し、2022年の経済成長は鈍化する見通しだ。また、1人当たりGDP(2021年)が中・東欧地域で2万ドルを超えている数少ない国であることから、消費市場としても期待できる点が特徴だ。

産業面では、自動車産業を中心に製造業がGDPの24%を占めている点(2020年)を挙げ、EU平均(16%)、日本(20%)を上回る「ものづくりの国」であると述べた。乗用車の生産台数(111万台、2021年)はEU第3位の規模で、EU製の乗用車の約9台に1台はチェコで生産されている計算だ。2021年の国内生産の11%は電気自動車(EV)で、生産面でのEVシフトが徐々に進んでいる(2022年1月24日付ビジネス短信参照)。日系企業は、2022年5月時点で277社、うち製造業が108社と約40%を占めており、近年は高付加価値・高機能製品の生産や、顧客向けサービスの拡充を目的にした投資が続いている、と説明した。一方、人材の確保や労働コストの上昇が経営上の課題となっていると解説。ジェトロが毎年実施している「欧州進出日系企業実態調査(注1)」では、「人材の確保」「人件費の上昇」を挙げる声が多く、最近では「輸送コストの上昇」「エネルギーコストの上昇」も新たな懸念材料となっている。労働コストやエネルギーコストに関する課題に対しては、日本企業のロボット技術や自動化技術、また省エネ技術や水素エネルギー技術の活用が期待される、と指摘した。


プラハ事務所、志牟田剛所長(ジェトロ撮影)

ハンガリーは独自の外交路線で自国の最善を追求

ブダペスト事務所の末廣徹所長は、ハンガリーでは、2022年4月に議会総選挙が行われ、ハンガリー市民同盟(フィデス)を中心とした与党が重要法案も単独採決可能な3分の2の議席を獲得し、盤石な政治基盤を確保した、と説明した(2022年4月6日付ビジネス短信参照)。政策の特徴は、内政では国家保守主義、外交では親ロシアとされているものの本質は自国第一主義であると紹介。家計向けには、高騰するガソリン、小麦、砂糖、牛乳などの主要6品目の価格を2021年10月時点の価格に強制的に戻すプライス・キャップ制など、ポピュリズム的な政策をとっている(2022年1月18日付ビジネス短信参照)ことを紹介した。対EU政策では、離脱は選択肢にないものの、統合の深化に伴い自国の「主権」が弱まることや、EU全体での法制標準化に対しては反対している、と解説した。ウクライナ情勢に関しては、自国のエネルギー問題に直結する石油禁輸問題に対しては強く反対しているという(注2)。

コロナ後の経済動向については、主力の自動車産業を中心に外需が回復して高い成長率を達成し、大規模な財政出動で個人消費も下支えした。雇用創出の観点から外資の誘致にも積極的で、裾野が広く、地場産業の高度化に資する自動車産業の誘致、特にEV(電気自動車)分野での集積を推進していることを紹介した。日系企業は2020年10月時点で、174社進出しており、うち55社が製造業(2021年7月時点)。同所長は、日本からのコンテナ価格高騰や貨物の遅れの恒常化、今後進むであろう炭素国境調整措置に鑑みると、欧州市場でのビジネスにあたって、法人税率が低く、補助金も豊富かつ原子力が国内電源の半分を占める同国を現地生産の拠点にすることは、日本の製造業にとって魅力的な選択肢の1つと解説した。


ブダペスト事務所、末廣徹所長(ジェトロ撮影)

ルーマニアはウクライナ情勢の影響小、IT産業が成長のカギ

ブカレスト事務所の西澤成世所長は、ルーマニアでは、2021年12月に前内閣[国民自由党(PNL)]の不信任案可決により、同党のニコラエ・ヨネル・チウカ新内閣が発足(2021年12月7日付ビジネス短信参照)するも、親欧米路線は継続される見通し、と説明した。ルーマニア経済の概観については総じて好調とした。同国はエネルギーや穀物の主要生産国であること、インフラ整備向けに豊富なEU補助金(2021年6月17日付2021年12月16日付ビジネス短信参照)、新規投資や雇用に多額の国庫補助金(2021年10月28日付ビジネス短信参照)を投じていることを特徴として挙げた。長期的な視点では、グリーン化、DX、交通インフラ、科学技術への投資が基本路線であると述べた。さらに、ウクライナ情勢による欧州のエネルギー市場、穀物市場の高騰を受けて、黒海ガス田開発を通したエネルギー輸出拡大、穀物生産拡大を視野に入れている、と説明した。

2022年現在の対内直接投資の傾向として、IT分野や自動車産業が活発なことを強調。豊富なIT人材がいることを背景に、フェイスブックによる現地企業の買収などを含むIT企業の進出や、自動車産業においては米フォードや、ルノー傘下であるダチアなどが積極的に展開している、と述べた。2020年10月時点での日系企業の進出数は113社(2020年10月時点)で、製造業が中心と説明した。


ブカレスト事務所、西澤成世所長(ジェトロ撮影)

西バルカン諸国はEUとの関係性が重要

ウィーン事務所の神野達雄所長は、西バルカン諸国の概要について解説した。多様性に満ちた民族、言語、宗教の共存を特徴として挙げ、市場規模としては、全体でルーマニアとほぼ同等の約1,800万人弱の市場規模(2022年4月時点)であることを紹介した。続けて、失業率(2021年)が他の中・東欧地域と比較すると高い水準にあることを指摘した。EUとの関係では、西バルカン諸国の加盟に向けてEUが支援を行っていると紹介、経済的な結びつきも強いことを説明した。また日本政府としても、西バルカン協力イニシアティブや日・EU連結性パートナーシップを通じて同地域における協力を促進しているとした。西バルカン諸国への対内直接投資は、他の中・東欧諸国と比べると比較的ドイツの存在感は小さく、隣国を中心に多様な国から投資されていると話した。

同所長が注目国として挙げたセルビアは、西バルカン諸国の外国直接投資の60%(2021年)を占める。さらに、製造業を中心にITソフトウエア分野などの日系企業が進出している。政府が外資誘致に注力しており、インフラの整備などにも積極的である点を説明したほか、西バルカンのハブとしての役割を果たしているとした。今後のビジネスの機会として、人件費の安さ、人材確保の容易さ、語学・理数系に強い人材が豊富なことから、製造業、IT分野での企業の進出が増えていると話した。しかし、ロシアとの関係やコソボ問題など地政学的な問題を抱えていることがビジネスをする上での課題とした。


ウィーン事務所、神野達雄所長(ジェトロ撮影)

多くの国でエネルギーの自立と安定供給の両立がテーマに

セミナー後半では、ウクライナ侵攻を受けた各国のエネルギーの現状と未来について、ディスカッション形式で紹介した。ポーランドは、ロシアによるウクライナ侵攻を契機に、2040年までのエネルギー政策であるPEP2040の中で掲げた、公正な移行の実現やゼロエミッションのエネルギーへの移行など(2021年2月16日付ビジネス短信参照)に加えて、ロシアからのエネルギーの自立に向けた方針を打ち出している(2022年4月12日付ビジネス短信参照)と話した。また、ハンガリーも、オルバーン・ビクトル首相が2022年5月の所信表明の中でエネルギーの自立について言及、原子力発電所の拡大や太陽光発電の拡大を推進することを紹介した。国としては、天然ガスのうち95%、石油のうち45%がロシア産(2020年)であることから、ロシアとの関係を断ち切ることはないだろうと分析した。チェコは、2033年までの脱石炭を掲げているが、2020年時点では、電力供給の40%を、また熱供給の56%を石炭に依存している。天然ガスや原油は、ロシアからの輸入に対する依存度も高い。脱石炭に加え、エネルギー安全保障の観点からも、エネルギー政策の慎重なかじ取りが求められている。ルーマニアでは、総じてガスが中心であり、再生可能エネルギーの活用については遅れている。発電については、水力のほか、原子力についても相応の割合を占めているとした。石炭、ガスは減少傾向にあるものの、ウクライナ情勢を受けたガス開発の進展などがみられているとした。エネルギー輸入依存度については、EUの中でも非常に低いと説明した。西バルカン諸国のうち、セルビアについては、国内で石炭を産出していることから石炭火力発電が主流であり、日本企業が排煙脱硫装置の設置を進めている。


注1:
2021年度の調査結果については2022年1月18日付ビジネス短信参照。
注2:
EUは5月31日、ロシア産石油輸入の3分の2以上を禁止することで合意(2022年6月1日付2022年6月6日付ビジネス短信参照)。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
今井 丈生(いまい じょう)
2022年、ジェトロ・ロンドン事務所インターン。
執筆者紹介
ジェトロ・ロンドン事務所
宮口 祐貴(みやぐち ゆうき)
2012年東北電力入社。2019年7月からジェトロに出向し、海外調査部欧州ロシアCIS課勤務を経て2020年8月から現職。