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新型コロナ危機からの欧州経済復興の道のり
ジェトロ欧州所長セミナーを開催

2021年2月1日

ジェトロは2020年12月16日、「現地所長が語る-どう乗り越えるのか?欧州の経済復興」と題し、オンラインセミナーを開催した。ジェトロのパリ、ベルリン、マドリード、ワルシャワの各事務所長が登壇した。セミナー前半では、新型コロナウイルス禍での各国のビジネス環境の現状を解説。後半ではパネルディスカッション形式で、(1)ビジネス正常化と景気回復の見通し、(2)企業支援策、景気刺激策による2021年のビジネス・チャンス、(3)今後留意すべき規制や課税分野の3つをテーマに討論した。

今回のセミナーでは、特にEUの「復興基金」(2020年12月15日付ビジネス短信参照)に焦点を当てた。これは、欧州経済の立て直しを目的に設けられた総額7,500億ユーロ規模の基金だ。各国の復興基金の活用、そこから見えてくる新たなビジネスの可能性についても触れた。

フランス:総額1,000億ユーロの経済復興策を発表

パリ事務所の武田家明所長は、フランスが踏み切った2度目のロックダウン(2020年10月30日付ビジネス短信参照)について説明した。このロックダウンは新型コロナウイルス感染症の再拡大を受けて、2020年10月30日から実施されたものだ。春に実施された1度目のロックダウンとの違いは、経済活動との両立を重視したものだったと指摘した。例えば外出規制に幾つもの例外を認めたほか、テレワークを推奨しつつも必要な通勤も認めた。2度目のロックダウンを受けて、政府は企業支援措置を強化。連帯基金による支援金(日本の「持続化給付金」に相当)は12月から対象が全ての業種に拡大されている。また、消費面の変化として、Eコマース市場の拡大だけでなく、オンラインで事前に購入したものを店舗で受け取る「クリック・アンド・コレクト」の普及、コンタクトレス決済の普及などを取り上げた。働き方にも変化が見られる。1度目のロックダウン時に政府がテレワークを推奨したこともあって、対応可能な業種ではテレワークが既に定着済みだ。11月26日には、テレワークに関する労使合意が成立した(2020年12月1日付ビジネス短信参照)。また、政府が9月3日に発表した経済復興に向けた景気刺激策(2020年9月7日付ビジネス短信参照)を紹介し、総額1,000億ユーロ規模の復興計画で、持続可能な経済への移行を促す環境政策と、企業の競争力強化、世代間・地域間の連帯をベースにした社会的結束の3本柱で構成されていると説明した。

ドイツ:モビリティーや水素推進を支援する未来パッケージ発表

ベルリン事務所の高畠昌明所長は、ドイツでも新型コロナウイルス感染が再拡大し、2020年11月2日から部分的ロックダウン、12月16日から全面的ロックダウンを導入していると説明した〔その後、さらなる強化措置を発表(2021年1月12日付ビジネス短信1月25日付ビジネス短信参照)〕。政府による経済対策として、大企業向けの経済安定化基金や中小事業者向けの給付金、つなぎ資金、短時間労働給付金制度(注1)などを実施している。2020年6月3日には、景気を刺激し気候変動に対応するモビリティーとデジタル化を加速するための「未来パッケージ」を発表。電気自動車(EV)購入の補助やモビリティーインフラの拡充、水素戦略の推進など、この計画に基づく支援策を紹介した(2020年6月10日付ビジネス短信参照)。政府が経済対策を打ち出す一方、ドイツ商工会議所連合会(DIHK)の調査によると、11月のロックダウン再導入により、回答企業の62%が財務面で問題を抱えていると言う。ドイツでもeコマースでの購入を好む傾向が表れており、「巣ごもり」「健康志向」「住空間」といった消費行動の変化も見られていると説明した。

スペイン:早期のワクチン接種に期待、働き方全般の見直しも

マドリード事務所の加藤辰也所長は、スペインでの新型コロナウイルス感染拡大の第2波は2020年11月上旬にピークを迎えたと説明。ただしクリスマス・年末年始は制限が緩和され、最低限の規制措置にとどめられることから、感染拡大への警戒が引き続き必要と付言した。スペインで実施されている企業支援策には、(1)企業の資金繰り支援、(2)一時帰休(レイオフ、注2)の適用対象拡大と延長、(3)生活困窮に陥った個人事業者や失業世帯を対象とした最低所得保障(ミニマムインカム)制度の前倒し導入、などがある。ワクチン接種には、期待が高まっている。2021年夏季の観光シーズンまでに新型コロナ感染を収束させるため、政府は5~6月までに人口の約4割にワクチン接種を完了させる計画を立てている。テレワークの普及も新型コロナ禍で大きく前進した。2020年10月には在宅勤務に関する雇用者と従業員の義務と権利を定めたリモートワーク法が施行されたほか、政府は週4日労働の導入など働き方全般の見直しを検討している。また、新型コロナ禍による消費行動の変化が企業収益にも色濃く反映しているとした。製薬や食品、通信、清掃サービスなどが好調だった一方、旅行や宿泊、航空、飲食などが低調だったと解説した。

ポーランド:国際的な物流倉庫の拠点として高まる人気

ワルシャワ事務所の清水幹彦所長も、ポーランドでの新型コロナウイルス感染症の再拡大について説明した。再拡大を受けて2020年10月24日から全土で制限措置は強化され、飲食店閉鎖などの措置が取られた。複数の調査によると、新型コロナ禍の中でも業績が比較的好調だった業種は不動産ディベロッパーや建築業、電気通信、食品小売り、医薬品、IT製品ディストリビューターなどだ。とりわけデジタル娯楽が成長していると説明した。他国と同様、電子商取引(EC)市場は拡大を続けており、これに関連してポーランドの倉庫を利用する企業の7割は国外輸送を行っていることを取り上げ、ポーランドが越境ECの物流ハブになりつつあると述べた。代表的な企業支援策として、新型コロナ危機で打撃を受けた企業と労働者の保護や、事業を再び軌道に乗せるための支援策をまとめた「労働・開発プラン」を紹介した。これは、(1)補助金支給による企業支援、(2)経営危機に陥った企業を対象にした専門家による企業経営指導、(3)ビジネス環境の改善やスタートアップ支援、投資誘致計画などを含む景気刺激策の3本柱で構成されていると説明した。

欧州経済の回復は2022年以降

セミナー後半では、(1)ビジネス正常化と景気回復の見通し、(2)企業支援策と景気刺激策による2021年のビジネス・チャンス、(3)今後留意すべき規制や課税分野の3つのテーマについて、パネルディスカッション形式で各国の状況を解説した。


セミナー画面:講師4人と司会1人(ジェトロ撮影)

欧州の経済について各国で共通するのは、2020年第3四半期(7~9月)の段階で回復に向かっていた経済活動が同年秋の感染第2波到来とそれに伴う規制強化により減速する見方が強まっている点だ。このような状況下、経済が新型コロナウイルス危機以前の水準に戻るのは、ドイツとフランスが早くて2022年、スペインが2022年末~2023年、ポーランドが2022年初めと、それぞれ予測されている(講演時点)。特にスペインの場合、新型コロナ禍の打撃を強く受けた観光産業がGDPの約12%を占め、経済構造が対人サービスに依存する。そのため、新型コロナ禍によるGDPの振れ幅が他国よりも大きい。

今後の見通しは、国境を越える移動制限や飲食店・小売店の営業制限といった各種制限措置の解除時期にも左右される。また、今後の経済回復にはデジタル化の実現が重要だ。特にドイツでは、小売業界団体がデジタル化の推進を図るための支援を進めている。このほか、IT関連スタートアップ企業による非接触サービスの事例も紹介された。このように新しいビジネスが芽生える一方、資金難に直面している企業の中にはデジタル化への投資を見送るといった調査結果もある。今後はデジタル化の波に乗り遅れた企業が淘汰(とうた)され、これが景気回復の足かせになる可能性も懸念される。

早期の景気回復に向け、復興基金の早期実施を

早期の経済回復を図るためにも、EUの復興基金の活用や景気刺激策の実行が急がれる。復興基金とは、新型コロナ禍の打撃を受けたEU加盟国の経済復興対策に充てられる7,500億ユーロ規模の基金のことだ。「グリーン」と「デジタル化」への移行を支援することを通して、EUの経済再建を目指す。補助金と融資のかたちで各国に配分され、2021年以降に執行される見通しとされる。

スペインにはこのうち、1,400億ユーロが割り当てられている(イタリアに次いで2番目に多額)。政府は10月7日、経済復興計画を発表(2020年10月14日付ビジネス短信参照)。復興基金の補助金部分の約720億ユーロを原資とし、2021~2023年の3年間で、産業支援やエネルギー移行、介護・雇用など10の重点政策分野でのプロジェクトを展開する予定だ。これにより、新型コロナ危機からの経済の立て直しを図るだけでなく、次世代に向けた経済成長を加速させると説明した。また、2021年予算案には、270億ユーロの復興基金が前倒しで組み込まれ、これによって経済支出が7割増加。再生可能エネルギーや脱炭素化、分散発電、電動モビリティー、製造業のDX(自動化、インダストリー4.0)の加速が期待されている(2020年11月10日付ビジネス短信参照)。

ポーランドでも、国家復興計画の復興基金の用途として、中小企業のデジタル変革や教育システム支援のためのプラットフォーム設置、海事エネルギー基金の設立などのプログラムを予定している。ポーランドにはIT教育を受けられる大学が数多く存在する。そのため、デジタル分野のビジネス・チャンス拡大には期待が高まっている。そのためジェトロ・ワルシャワ事務所は、ポーランド発のIT企業と日本企業のマッチングを支援している。また、2020年10月の内閣改造でモラビエツキ首相がデジタル化相を兼務することになり、政府として迅速なデジタル化促進を推し進める姿勢を打ち出した。

フランスでは、前述の総額1,000億ユーロ規模の経済復興政策について、400億ユーロの復興基金を当て込む。注目すべき分野は水素エネルギーで、9月には「国家水素戦略」を策定した。この戦略には、水素製造設備の設置を進めるだけでなく、クリーン水素を燃料とする大型モビリティー(鉄道車両や船舶、航空機など)の開発・普及も掲げた。モビリティーの多様化はフランスが先行していることから、日本企業はフランスの開発動向や市場動向を注視する必要がある。そのほか、「戦略的部門」(注3)に基づく製造業の強化や、技術系スタートアップの支援についても、日本企業による機会参入の可能性が高いとみている。

ドイツでは、新型コロナ危機からの復興に向けた動きとして、インダストリー4.0の推進と環境政策(水素戦略、風力発電などの再生可能エネルギー、送電網の整備)の推進、EV普及加速が挙げられた。インダストリー4.0については、専門プラットフォームを構築し、中小企業のデジタル化促進や、デジタル活用によるドイツの国際競争力の強化を産学官連携で取り組む。環境施策としては、再生可能エネルギーを利用した液体燃料e-fuelの普及に期待が高まってきた。これは内燃機関の技術を活用できることから、日本企業とドイツ企業が共同で研究開発を行うなど、新たな商機を見出せる可能性がある。

EU域外企業に対する投資規制にも注目

今後留意すべき規制としては、EU域外企業に対する投資規制が挙げられた。EUの投資スクリーニングに関する規則(2020年10月13日付ビジネス短信参照)により、加盟各国は投資スクリーニング制度の導入や厳格化を進めている。

ドイツでは、2020年6月に新型コロナ禍で関心の高まっている医療分野で投資規制を強化、スペインも、EU域外からの直接投資に対する事前審査を強化した。フランスでは、EUの投資スクリーニング規制に先立ち、2019年末に外資の事前届け出を必要とする指定業種に人工知能(AI)やエネルギー貯蔵、量子技術を追加。2020年4月には新型コロナ感染拡大により戦略的産業分野が弱体化していることを受けて、規制対象にバイオテクノロジーを追加した。

ジェトロのオンラインセミナーでは、課税面の今後の展望についても議論した。復興基金は市場から資金調達され、将来的な返済義務が発生する。そのための財源としてデジタル課税や、リサイクル不可のプラスチック廃棄物に対する課税などの導入が議論されている。スペインは2021年から環境税やデジタルサービス税などの新たな税金の導入を盛り込んだ。一方、ポーランドでは、新型コロナ危機前に決定していた新税を除き、新たな税金導入は予定しないと言う。

今回のセミナーはオンデマンドで2021年2月20日まで配信している。視聴料は4,000円(消費税込み)で、ジェトロ・メンバーズは2人まで無料、3人目以降は3,200円(消費税込み)で視聴できる。オンデマンド配信の申込方法や手続きの詳細はウェブページを参照。


注1:
雇用者が従業員を解雇しない代わりに労働時間を短縮。その結果としての給与減少分の一部は、企業を通じて政府が労働者に支給する。
注2:
復職を条件に一定期間の従業員の休職させる一方、手当を給付する。
注3:
医療、食品、エレクトロニクス、素材、第5世代移動通信システム(5G)の製造業への応用。
注4:
欧州での新型コロナ禍については、ジェトロのウェブサイト「特集:新型コロナウイルス感染拡大の影響」に掲載。新型コロナウイルス関連ニュースや動画による解説、企業支援策などを紹介している。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
山根 夏実(やまね なつみ)
2016年、ジェトロ入構。ものづくり産業部、市場開拓・展示事業部などを経て2020年7月から現職

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