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離脱移行期間終了後の英国とEUは
現地所長が解説

2021年3月4日

ジェトロは2020年12月15日、英国とEUのビジネス環境の変化や政策などについて、オンラインセミナーを開催した。英国のEU離脱(ブレグジット)移行期間が完了した2021年以降について探るもので、ロンドンとブリュッセルの両事務所長が現地から生の声を伝えた。

2020年1月31日のブレグジット後、EUと英国の間で続いていた将来関係協定に関する交渉は、2020年12月24日に大筋合意。2021年1月1日から暫定適用された(注1)。今回のセミナーでは、移行期間終了後の2021年1月1日以降のビジネス環境においてどのような変化が予測されるか、英国側とEU側双方の視点を踏まえて解説するのを狙いとした。また、後半のパネルディスカッションでは、英国とEUの環境やデジタル分野を中心とした今後の成長戦略や対外関係について議論した。本稿では、パネルディスカッションの内容を中心にまとめた。

英国は国家主権回復、EUは加盟国の結束維持

セミナーの前半は、「移行期間終了後の英国とEU」をテーマに、両事務所長の講演があった。

まず、ロンドン事務所の中石斉孝所長は、EUルールに従属するか否かという交渉難航の背景には大陸法か慣習法かという思想的な対立があり、英国はウィンブルドン型のオープンな市場の再構築を狙っている、と指摘。また、(1)ブレグジットは交易コストを引き上げて英国経済には大きなマイナスとなる、(2)同時に対英貿易黒字が大きいEUの自動車産業などにも影響を与えうる、と指摘した(注2)。さらに、(3)大きな混乱が懸念される英EU間の物流について、英国政府は交通管制などで有事並みの対策を準備している点を紹介した。

続いて、ブリュッセル事務所の山崎琢矢所長がEU側のブレグジットに関する状況と、将来関係に関する交渉の論点を解説した。EU側の雰囲気として当初、英国のEU離脱が決定した際、他の加盟国にも波及する懸念がEUにあったことを回顧する一方で、分断の危機を経て、ブレグジット交渉とともにEU27カ国として結束する方向が強まったといえる、と指摘した。

短期的な物流混乱から自動車産業、金融市場の変革へ

後半のパネルディスカッションでは、まず、「ブレグジット移行期間終了後のビジネスへの影響」をテーマに、主に在欧州日系企業のビジネスへの影響を中心に議論を交わした。海外調査部欧州ロシアCIS課の田中晋課長が、モデレーターとして議論を進行した。

中石ロンドン事務所長は、短期的な物流の大混乱は発生するが、やがて収束し、むしろ中長期的にはEU向けの生産拠点を見直すことになる、とした。もっとも、英国を単なる生産拠点とみるか、一定の市場規模や事業シーズを持つ国とみるか、さらにはアジア太平洋への関係を深める世界拠点とみるかによって、企業の戦略は変わるとも付言した。英国の自動車市場(2019年は約230万台)は9割が輸入、同時に国内生産(同約130万台)の8割を輸出するというユニークな構造を持つ。今後、輸出から国内供給への振り替え、EU域外への輸出を増やす動きも考えられ、ガソリン車の販売禁止、電気自動車への一斉切り替えが大きな転機となる、とした。

続いて、山崎ブリュッセル事務所長は、EU側の企業の間でも移行期間終了後にある程度の混乱が起きることは予測されていると指摘。例えば、英国・EU間の新たな自由貿易協定(FTA)が締結された場合でも、原産地規則を満たす必要性など、英国との取引において新たな対応が必要になるだろう、とした。

さらにブレグジットによる経済の影響について、中石ロンドン事務所長は「離脱協定の締結後、大半の在英金融機関がEU側に機能移転した。しかし、今のところ全面撤退はほとんどない。人員規模でも3~5%の流出にとどまっている」と説明した。ロンドン・シティは、クロスボーダー、オフショア取引で米国をしのぐ世界トップシェアを持ち、専門サービスと人材の厚みは抜きんでている。「EU関係の既存取引を移転させる一方で、英国ではグリーンファイナンスやフィンテックなどの新規分野への重点化が望める」「金融取引に占める欧州のシェアは1割強に低下した。代えてアジア太平洋が過半となる中、同地域との取引強化を狙う」「英国がEUの規制から外れることで、市場が好む洗練された規制が可能になることを期待する声もある」とした。


セミナー画面:中石ロンドン事務所長(左上)、山崎ブリュッセル所長(中央)、
田中欧州ロシアCIS課長(右上)(ジェトロ撮影)

野心的な「グリーン」政策でコロナ復興を

続いて、パネルディスカッションの2つ目のテーマとして、「新型コロナ危機からの復興における課題や重点政策」について、両所長が解説した。

まず、山崎ブリュッセル事務所長が、欧州委員会の新型コロナウイルス危機からの復興とEUの中長期戦略について説明した。欧州委は、2019年12月から新体制にある。ドイツ出身のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は、地政学的な欧州委員会」と呼び、まず、米国や中国との関係を意識した対応を重視する姿勢を示している。

また、前政権から「デジタル単一市場」を引き継ぎつつ、新たに「欧州グリーン・ディール」(注3)を機軸に掲げていることにも付言した。EUの新型コロナ危機からの復興のための政策としては、「次世代のEU」(復興基金)を中心に取り組むことを決定済みだ。復興基金は、2020年12月10~11日に開催された欧州理事会(EU首脳会議)で、2021~2027年度の中期予算計画(多年度財政枠組み、MFF)と合わせて、政治合意済み。臨時予算となる復興基金の総額は7,500億ユーロで、加盟国への返済不要の補助金3,900億ユーロと融資3,600億ユーロからなる。EU名義で発行する債券を財源として、欧州委員会が新たに資金調達を行う計画で、金融市場にも大きな影響を与えるといわれている(注4)。また、復興基金は中期予算計画とともに、グリーンとデジタル関連政策にも配分することが決定済みで、新型コロナ危機からの復興を踏まえた成長戦略も「グリーン・ディール」と「デジタル」を基軸にしている、とした。「欧州グリーン・ディール」では2030年までに1990年比で温室効果ガスを55%削減すること目標に掲げ、新たな環境政策を打ち出した。これを基に2021年6月末まで関連規制を見直し、改正する予定だ。

さらに、EUでは「レジリエンス」もキーワードで、域内での重要なサプライチェーンの構築など、新型コロナ危機の影響も受けて、域内の産業をより保護する色が出始めている点を指摘した。

中石ロンドン事務所長は、2021年夏にG7サミット、11月に第26回気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が英国で開催されることもあり、英国政府もグリーン分野で大胆な政策を打ち出しているとした。具体的には「グリーン産業革命」として、2050年のゼロエミッション達成のため、2030年までに1990年比で温室効果ガスを68%削減。2030年までにガソリン、ディーゼル車の新車販売終了(2035年にはハイブリッド車も新車販売終了)。2030年までに洋上風力発電量を40ギガワットに拡大して、再生可能エネルギー比率を70%にする。このように野心的な計画が掲げられていると説明した。

英国は越境データ流通量、論文被引用数がともに世界第3位。電子政府ランキングでもかつて1位になったことがある。英国のデジタル戦略は実効性が高いことに特色がある。例えば、政府の統合ウェブサイト「GOV.UK」は、23省庁と413関連機関の全ての情報をポータル化して、難解な役所言葉を排除して平易な言葉で見やすく整理。かつ、リアルタイムで情報が更新されている。

また新型コロナ給付金では、納税記録から受給要件を満たす者に政府から案内メールを送り、オンラインでの簡便な手続きを経て迅速な給付を行ったとも説明した。

対米関係を再構築し、気候変動問題などでの連携を模索

パネルディスカッションの最後のテーマでは、「EU・英国それぞれの対外関係」について議論を交わした。

山崎ブリュッセル事務所長は、EUの米国と中国との関係について解説した。

まず米国とは、2017年以降、EU・米国間はさまざまな課題に直面してきたことを指摘。バイデン政権への移行により、関係の変化が欧州側では期待されている、とした。通商分野では、米国との包括的貿易協定(TTIP)交渉が事実上凍結状態。さらに2018年以降、米国による鉄鋼・アルミニウム製品に対する追加関税措置やエアバスへの補助金に対する報復関税を課され、EU側も対抗措置を取るという通商紛争の状況にある。デジタル分野では、EUは米国の大手プラットフォーマーに対する規制強化の動きを示して対抗。環境分野でも、米国のパリ協定離脱を機に分断していた。一方で、総論では連携を期待しているものの、通商、デジタル、気候変動それぞれの各論では、今後大西洋間でつばぜり合いが続く可能性が高いと指摘した(注5)。

また中国とは長年、ドイツを中心に融和的な関係を築いてきたとされる。しかし、欧州委は2019年3月に対中関係に関する「10項目の行動計画」を示し、中国とやや距離を取る姿勢に変わってきている。その結果、対立点も以前より増えている。しかし、気候変動などでは協調を進めていくだろうとの見方も示した。

一方、中石ロンドン事務所長は、英国の中国との関係について、2020年に、香港の民主化運動を機に中国との関係は急速に悪化したと説明。香港市民への英国市民権・永住権申請許可、ファーウェイ完全排除、中国を念頭においた国家安全保障・投資法案などを相次いで打ち出した。英国は今後も、米国の対中政策と足並みをそろえていく方向だろう、とした。

また、米国との関係については、気候変動や安全保障分野など、バイデン政権と方向性が一致する分野での連携を期待している。さらに、英国の対米FTAについては、バイデン政権は国内対策を第1に掲げていることから、すぐには進まないとみている、とした。

最後に、日本との関係について、山崎ブリュッセル事務所長は、今後は「グリーン」がキーワードとなり、環境分野で日・EUの価値観が共有しながら、ビジネス面でも日欧双方が参加する環境関連のプロジェクトが進むことが期待される、とした。また、中石ロンドン事務所長は、経済統合が進む中でいかに国家主権を保つかという命題は、アジア大陸から一定の距離を保たざるをえない日本にとっても大きな関心事であり、また、金融、デジタル、科学技術など、同じ島国のフロントランナーとして学ぶ点は多々ある、とした。


注1:
英国とEUの通商・協力協定については2020年12月25日付ビジネス短信同日付ビジネス短信参照。
注2:
移行期間終了後の英国産業への影響、英国政府の産業政策については、2021年2月9日BREXITセミナー「BREXIT後の英国」PDFファイル(5.52MB)を参照。
注3:
「欧州グリーン・ディール」については、ジェトロ調査レポート「欧州グリーン・ディールの概要と循環型プラスチック戦略にかかわるEU および加盟国のルール形成と企業の取り組み動向」 PDFファイル(3.08MB)参照。
注4:
中期予算計画と復興基金については2020年12月21日付ビジネス短信参照
注5:
欧州委が示した米国との新たな関係構築については2020年12月4日付ビジネス短信参照
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課 リサーチ・マネージャー
土屋 朋美(つちや ともみ)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ・ブリュッセル事務所、ビジネス展開・人材支援部などを経て2020年7月から現職。

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