韓国向け消費財輸出は回復へ
最近の日韓経済関係を振り返る(前編)

2023年5月30日

日韓関係は、旧朝鮮半島出身労働者の訴訟を巡り、2018年秋に韓国・大法院(日本の最高裁判所に相当)が日本企業に対して損害賠償を命じる判決を出したことをきっかけに冷え込んだ。当時の文在寅(ムン・ジェイン)政権は「司法判断を尊重する」とし、判決を静観する姿勢を取ったため、当該日本企業の韓国国内の資産の現金化手続きが進められる事態となった。他方、2019年7月に日本政府が発表した対韓輸出管理運用見直しに対して韓国政府が反発、翌8月に対日輸入依存度引き下げを目指した「対外依存型産業構造脱皮のための素材・部品・装備(注1)競争力強化対策-素材・部品・装備供給安定および自立化対策-」(以下、「素材・部品・装備競争力強化対策」)を発表した。また、韓国ではこのころから、国民を巻き込んだ「No Japan(日本製品を買わない、使わない、日本に行かない)」運動が展開された。

冷え込んだ日韓関係は、2022年5月に尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権が発足してから一転して、改善に向かっている。旧朝鮮半島出身労働者問題では、韓国政府は2023年3月、日本企業が命じられた賠償分を韓国の財団が肩代わりする「解決策」を提示、関係者の説得を進めている。「解決策」提示後の同じ3月に尹大統領が訪日、5月には岸田文雄首相が訪韓し、2011年を最後に途絶えていた「シャトル外交」が再開した。日韓関係の好転を受け、両国間でさまざまな協力事業を進めようとする機運が高まりつつある。

ところで、日韓関係が冷え込んだ2019年以降、日韓間の経済関係はどのように推移したのだろうか。特に「素材・部品・装備競争力強化対策」や「No Japan」運動は、日本の対韓輸出や日本企業の対韓直接投資に影響を及ぼしたのであろうか。

ここで特に留意すべきなのは、近年の日韓経済関係の変化の全てが日韓関係冷え込みに起因したものではないという点だ。特に、2020年以降の新型コロナウイルス感染症拡大もまた、日韓経済関係に影響を及ぼしている。

本稿では、韓国側の貿易統計・直接投資統計や日本企業のプレスリリースなどに基づいて、日本の対韓輸出(韓国の対日輸入)と日本企業の対韓直接投資に焦点を当て、2019年以降の日韓経済関係について前編と後編の2回に分けて概観する。前編は日本の対韓輸出について。後編は「対韓直接投資は半導体、IT分野に集中」参照。

韓国の対日輸入は2010年代以降、伸び悩み続く

韓国貿易協会のデータベース「K-stat」によると、韓国の対日輸入は2010年代初頭まで増加基調にあった。これは韓国の産業政策・産業構造に起因するところが大きかった。韓国政府は1970年ごろから輸出志向型の重化学工業政策を推進してきた。しかし、当時、産業基盤が脆弱(ぜいじゃく)だったため、日本を中心とした先進国から素材・部品を輸入し、それらを組み込んだ製品を輸出するかたちで、輸出を伸ばした。そのため、韓国の対世界輸出が増加すればするほど、対日輸入が増加し、対日貿易赤字が常態化した(図1参照)。

図1:韓国の対日輸出入・貿易収支の推移
韓国の対日輸入額は1990年186億ドル、2000年318億ドル、2011年683億ドルと増加してきた。しかし、2011年をピークに減少に転じ、2022年は539億ドルにとどまっている。韓国の対日輸出額は、1990年126億ドル、2000年205億ドル、2011年397億ドルと増加してきた。しかし、2011年をピークに減少に転じ、2022年は302億ドルにとどまっている。韓国の対日貿易収支は赤字が続いている。赤字額は1990年59億ドル、2000年114億ドル、2010年361億ドルを記録した。しかし、2011年以降、赤字額は減少し、2022年は237億ドルとなっている。

出所:韓国貿易協会「K-stat」から作成

しかし、韓国の対日輸入は2011年の683億ドルをピークに緩やかな減少に転じた。これは韓国の対世界輸出が減少したからではない。事実は逆で、韓国の対世界輸出は増加基調が続いている。つまり、2010年代以降、韓国の対世界輸出と対日輸入が相関しなくなったわけだ。その大きな理由として考えられるのが、素材・部品・製造装置の国産化の進展だろう。そこには、日本企業が韓国での生産を開始し、対日輸入が現地生産に代替された分も含まれている。そのほかに、対日輸入の第三国輸入への転換や、韓国の輸出品目構成の変化なども考えられるが、何と言っても大きいのは、国産化の進展だ。

消費財の対日輸入は不振に陥ったが、対日輸入全体への影響は限定的

このような中、2019年以降、韓国の対日輸入はどのように推移しただあろうか。対日輸入総額をみると、前掲の図1のように、ほぼ横ばいで推移しており、顕著な変化はみられない。つまり、対日輸入全体でみる限り、日韓関係の冷え込みやコロナ禍が韓国の対日輸入に大きな影響を与えたとみることはできない。

次いで、加工段階別に対日輸入増減額をみると、主に資本財と中間財の増減が対日輸入全体の増減を左右していることが分かる(図2参照)。2019年以降で対日輸入が減少した2019年と2020年についてみると、資本財は2019年、中間財は2019年、2020年に前年比減となり、韓国の対日輸入全体を押し下げた。この時期の資本財、中間財の落ち込みは、韓国の景気低迷という一時的な要因によるところが大きい。韓国の実質GDP成長率は2019年が2.2%の低成長、2020年はコロナ禍もあってマイナス0.7%と不振だった。韓国の全世界からの輸入も2019年、2020年とも前年比減で、対日輸入だけが不振だったわけではなかった。その後、実質GDP成長率が4.1%を記録した2021年には、資本財・中間財の対日輸入は2018年の水準に回復している。

他方、消費財の対日輸入は、2018年(35億4,990万ドル)をピークに減少し、直近の2022年は27億7,938万ドルにとどまった。消費財の対日輸入減少は「No Japan」運動やコロナ禍などが影響したものと考えられよう。ただし、対日輸入全体に占める消費財輸入の割合は6.5%(2018年)にすぎなかった。従って、消費財の対日輸入の減少が対日輸入全体に与えた影響は限定的だった。

図2:韓国の対日輸入増減額の推移(前年比、加工段階別)
1次産品は、2016年0億ドル、2017年6億ドル増、2018年3億ドル増、2019年2億ドル減、2020年5億ドル減、2021年9億ドル増、2022年0億ドル。消費財は、2016年4億ドル増、2017年4億ドル増、2018年2億ドル増、2019年3億ドル減、2020年5億ドル減、2021年5億ドル増、2022年5億ドル減。資本財は、2016年14億ドル増、2017年45億ドル増、2018年10億ドル減、2019年39億ドル減、2020年18億ドル増、2021年18億ドル増、2022年10億ドル減。中間財は、2016年1億ドル減、2017年21億ドル増、2018年1億ドル減、2019年26億ドル減、2020年23億ドル減、2021年54億ドル増、2022年15億ドル増。

出所:韓国貿易協会「K-stat」から作成

次に、品目別に細かくみてみよう。日韓関係が冷え込む前の2018年と、それ以降で対日輸入額が最も少なかった2020年について、HS4桁ベースで対日輸入が減少した上位10品目をみた(表1参照、注2)。

この期間、対日輸入減少額が突出して大きかったのがHS8486(半導体ウエハ-・半導体デバイス・フラットパネルディスプレイ製造用機器)だ。ただし、この品目は元来、需要の変動が大きいため、輸入額の変動幅も大きい。実際、2021年の対日輸入額は54億4,096万ドルに回復している。2番目に減少額が大きかったHS7204(鉄鋼の再溶解用インゴット、鉄くず)も、2021年には16億6,714万ドルと、2018年実績(16億2,387万ドル)を超過している。その他、対日輸入減少額が大きな品目は、8位のHS8703(乗用車)を除き、素材や製造装置によって占められている。これらはいずれも日韓関係やコロナ禍の影響で減少したというよりも、市況や景気サイクルの影響を受けて減少したものだ。

消費財に目を向けよう。「No Japan」運動をきっかけに対日輸入が減少した代表的な消費財として、乗用車とビールが取り上げられることが多い。このうち、HS8703(乗用車)は、前述のように減少額で8位だ。乗用車は、直近の2022年の対日輸入額は4億3,293万ドルと、2018年の3分の1強の水準にまで落ち込んでいる。それでも、乗用車の対日輸入不振が韓国の対日輸入全体に与える影響は決して大きくない。他方、HS2203(ビール)の対日輸入額は2018年7,830万ドルから2020年には567万ドルに激減し、その後の回復も緩やかだ。しかし、輸入額がもともと大きくなかったため、減少額の大きさでは29位にすぎなかった。

このように、消費財輸入は日韓関係冷え込みなどの影響を受けたものの、対日輸入全体に占める消費財の割合が小さいために、消費財の対日輸入の不振が対日輸入全体に与えた影響は限定的だったことが裏付けられる。

なお、同じ期間で対日輸入が増加した品目は、1位が2億4,361万ドル増のHS8541(半導体デバイス等)、2位が1億6,369万ドル増のHS8542(集積回路)と、半導体関連が上位2品目を占めた。

表1:2018年から2020年にかけて対日輸入が減少した品目(減少額上位10品目、HS4桁ベース) (単位:100万ドル)(△はマイナス値)
順位 HS
コード
品目名(例示) 2018年 2020年 増減額
1 8486 半導体ウエハ-・半導体デバイス・フラットパネルディスプレイ製造用機器 5,815 4,216 △ 1,599
2 7204 鉄鋼の再溶解用インゴット、鉄くず 1,624 911 △ 713
3 2707 高温コールタールの蒸留物 1,204 610 △ 594
4 7208 鉄・再溶解用インゴット、鉄くず非合金鉄のフラットロール製品 1,771 1,225 △ 546
5 2853 りん化物、その他の無機化合物 471 18 △ 452
6 2710 石油・歴青油(原油を除く)、これらの調製品 755 307 △ 448
7 2902 環式炭化水素 859 417 △ 443
8 8703 乗用車 1,191 845 △ 346
9 9001 光ファイバー・レンズ 724 424 △ 300
10 8479 機械類(固有の機能を有するものに限る) 666 444 △ 222
合計(その他を含む) 54,604 46,023 △ 8,581

出所:韓国貿易協会「K-stat」から作成

韓国政府の「脱日本化」政策の影響、一部品目にとどまる

前述のとおり、日本政府は2019年7月に対韓輸出管理運用見直しを発表した。その骨子は、(1)韓国に関する輸出管理上のカテゴリーの見直し、(2)フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素に関する包括輸出許可から個別輸出許可への切り替えだった。これに対し、韓国政府は同年8月、「素材・部品・装備競争力強化対策」を発表した。そのポイントは、フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素を含む100品目について、20品目を1年以内に、残りの80品目を5年以内にそれぞれ「供給安定化」することを目標にしたことだった。「供給安定化」は事実上、「脱日本化」を目指すものだ。韓国政府はその後、機会あるごとに、輸入先多角化、韓国企業の国内生産拡大、日本企業を含む海外企業の韓国進出・生産拡大により、対日輸入依存度引き下げで成果があったことを強調してきた。

そこで、前述の(2)で挙げられたフッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3品目の対日輸入額の推移をみてみよう(表2参照、注3、2019年7月4日付ビジネス短信参照)。

2019年以降、対日輸入が明らかに減少したのがフッ化水素だ。対日輸入額が減少したのみならず、輸入総額に占める対日輸入額のシェアも低下している。実際、輸入先の日本から第三国への転換や、高純度のフッ化水素を必要としない工程での国産品採用が進展したもようだ。ちなみに、韓国政府は、2021年1月に発表した「2021年素材・部品・装備産業競争力強化施行計画(案)」の中で、輸入先多角化について「中国、米国企業の生産品を導入」、国内生産について「ソルブレインが生産能力を倍増、SKマテリアルズが国内生産成功」とし、政府の政策の成果を強調している。ただし、フッ化水素の対日輸入額が対日輸入額全体に占める割合は0.1%(2018年)にすぎないため、フッ化水素の対日輸入不振が対日輸入全体に及ぼす影響は極めて限定的だった。

他方、フッ化ポリイミド、レジストについても、韓国政府は前述の発表の中で、輸入先多角化や、海外企業の誘致を含めた国内生産拡大といった観点で成果を強調している。しかし、貿易統計でみる限り、2019年以降、対日輸入が減少しているとみることはできないだろう。その理由として、個別輸出許可対象になったのが当該HSコード製品の一部にすぎなかったことや、そもそも、対日輸入を短期間で他に代替するのが困難だったことなどが考えられる。

このように、当該3品目の包括輸出許可から個別輸出許可への切り替えについて、フッ化水素は影響があったものの、残りの2品目は貿易統計では影響が確認できない、とまとめられよう。

表2:韓国のフッ化ポリイミド、フォトレジスト、フッ化水素の対世界・対日輸入の推移 (単位:1,000ドル、%)
フッ化ポリイミド
HS 3920999010
フォトレジスト
HS 3707901010
フッ化水素
HS 2811111000
対世界 対日本 日本
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対世界 対日本 日本
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対世界 対日本 日本
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2017 43,355 20,050 46.2 269,178 244,556 90.9 91,548 43,164 47.1
2018 23,336 19,726 84.5 320,692 298,891 93.2 159,512 66,857 41.9
2019 33,824 31,456 93.0 304,100 268,422 88.3 112,927 36,335 32.2
2020 37,710 35,368 93.8 379,398 328,295 86.5 72,895 9,376 12.9
2021 33,572 31,300 93.2 463,276 367,231 79.3 93,556 12,520 13.4
2022 18,173 16,337 89.9 423,942 327,983 77.4 108,042 8,302 7.7

出所:韓国貿易協会「K-stat」から作成

ビールや乗用車の対日輸入は減少するも、足元では回復へ

2019年夏以降の「No Japan」運動では、ビール、乗用車、化粧品、衣類、ゴルフ用品など、幅広い日本ブランド消費財が不買運動の対象になったが、その中で特に話題に上ったのがビールと乗用車だった。

ビールの対日輸入は従来、増加基調が続いていた。しかし、不買運動により日本製ビールがセール対象から除外されたり、店舗から撤去される事態が相次ぎ、対日輸入額が激減した(図3参照、注4)。

ビールの対日輸入は減少したものの、日本以外からのビール輸入も伸びていないことから、日本製ビール需要は国産ビールなどに転換したようだ。韓国では当時、若年層を中心にクラフトビールがブームとなり、多種多様な個性的なビールが市場に出回った。これらが日本製ビール需要の有力な受け皿になった。「韓国経済新聞」(2021年8月2日、電子版)は「日本産ビールの空白を埋めたのは国産クラフトビールだ。酒税法改定で小売りチャネルが拡大し、コンビニ業界で多様なブランドと手を結んだ『コラボ・クラフトビール』を前面に出し、需要が急増した」と報じた。

ところで、ビールの対日輸入は2020年に底を打ち、徐々に回復しつつある。足元の状況をみると、2019年1~4月合計の対日輸入額を100とすると、2022年1~4月合計は14.2、2023年1~4月合計は46.3となり、対日輸入は「No Japan」運動前の5割弱の水準に戻ってきた。ちなみに、「毎日経済新聞」(2023年5月7日、電子版)は「販促活動再開と新製品発売が続いているだけに、第2四半期(4~6月)も日本産ビールの輸入は増加するとみられる。『アサヒスーパードライ生ジョッキ缶』はコンビニエンスストアで品薄状態になっている」と報じている。

図3:韓国の対日ビール(HS2203)輸入の推移
韓国の対日ビール輸入は、2010年1,149万ドルから2018年7,830万ドルに増加したが、2019年は3,976万ドル、2020年567万ドルと激減した。その後、2021年は688万ドル、2022年は1,448万ドルと、緩やかには威服している。韓国のビール輸入総額に占める対日ビール輸入額の割合は、2012年に35.9%を記録した後、緩やかに減少し、2018年は25.3%となった。その後、2019年は14.2%、2020年は2.5%と激減した後、2021ねん3.1%、2022年7.4%と、緩やかに上昇している。

出所:韓国貿易協会「K-stat」から作成

次いで、乗用車に目を向けると、日本ブランド乗用車の販売台数も2019年、2020年と2年連続で急減した(図4参照)。この時期、輸入車市場全体は増加基調だったことから、とりわけ日本ブランド乗用車の不振が目立った。ピークの2008年に35.5%に達した輸入乗用車販売台数に占める日本ブランド乗用車販売台数の割合は、2020年以降、1桁に落ち込んでいる。日本ブランド乗用車の販売は2022年にさらに落ち込んだものの、2023年に入って徐々に回復に向かっているようだ。ちなみに、「韓国経済新聞」(2023年5月5日、電子版)は、韓国トヨタに関する記事の中で、2023年に入り新型モデルを相次いで投入していることや、レクサスの顧客サービス向上のためにサービス予約専用の24時間人工知能(AI)コールセンターの運営を開始したことなどに言及し、販売回復が続くとの見方を紹介している。

図4:韓国における日本ブランド乗用車の販売推移
韓国における日本ブランド乗用車の販売台数は、2010年代前半から半ばに増加し、2018年に4万5,000台を記録した。その後、2019年3万7,000台、2020年2万1,000台、2021年2万1,000台、2022年1万7,000台と推移している。 輸入乗用車販売台数に占める日本ブランド乗用車販売台数の割合は、2010年26.4%から2015年11.9%に低下した後、上昇に転じ、2017年18.7%を記録した。その後、2018年17.4%、2019年15.3%、2020年7.9%、2021年7.7%、2022年6.2%と、低下が続いている。

出所:韓国輸入自動車協会(KAIDA)から作成

ところで、「No Japan」運動にもかかわらず、対日輸入が順調に増加を続けた消費財もある。その代表格がウイスキーだ。ウイスキーの対日輸入は2010年代半ば以降、右肩上がりで増加しており、2022年は2018年の3.9倍に達した(図5参照)。

ウイスキーの対日輸入の増加は、韓国の輸入ウイスキー市場の拡大と、輸入ウイスキー市場における日本産ウイスキーのシェア上昇が合わさった結果だ。「毎日経済新聞」(2022年2月8日、電子版)は「コロナ禍後の『1人酒』文化とともに、プレミアム酒類の風が吹き、日本産ウイスキー需要も増えた。20代、30代の間でウイスキーと炭酸水を割った『ハイボール』が人気を得ると、品質はよいが、英国よりも相対的に安い日本産ウイスキーを求める消費者が増加した」と紹介している。また、「韓国経済新聞」(2023年2月17日、電子版)は「韓国国内ではウイスキー原液を確保するのは難しく、確保できたとしても価格が高い。現在、韓国でウイスキー原液を作っている蒸留所は2カ所にすぎない。日本では大小50カ所が稼働中だ。その中にはハイボール用に使われる低熟成・低価の原液を作る所もある」「日本の製造インフラは韓国よりはるかに先行している。韓国は、ハイボールが楽しまれ始めてから日が浅いため、製造に関する専門性が不足している」と述べている。

ただし、2022年のウイスキーの対日輸入額は415万ドルで、対日輸入全体のわずか0.008%を占めるにすぎない。また、同年の輸入ウイスキー市場における日本産のシェアは1.6%と、英国(85.8%)、米国(8.1%)に水をあけられている。ウイスキーは2019年以降も対日輸入が増加した消費財の代表格とはいえ、輸入規模はあくまでもはかなり限定的だ。

図5:韓国の対日ウイスキー(HS 220830)輸入の推移
韓国の対日ウイスキー輸入は、2010年10万ドルから2022年415万ドルに右肩上がりで増加している。韓国のウイスキー輸入額に占める対日ウイスキー輸入額の割合は、2010年0.04%から2021年1.8%に上昇した。2022年は若干低下し、1.6%となった。

出所:韓国貿易協会「K-stat」から作成

在韓日系消費財販売企業の業績は回復へ

日本ブランド消費財の販売不振は、これを取り扱う在韓日系消費財販売企業の業績に影響を及ぼした。ただし、影響の度合いはさまざまだった。ポイントは、当該の日本ブランド消費財の代替品の有無だった。代替品がある場合には需要が代替品に流れ、影響が大きくなったが、代替品がなければ影響を受けることはなかった。そのため、2019年以降の代表的な在韓日系消費財販売企業の業績は、まちまちだった(表3参照)。

代替品がなく「No Japan」運動の影響を受けなかったとされるのが韓国任天堂だ。コロナ禍も同社の事業拡大につながった。売上高は2019年度、2020年度と大幅に増えている。コロナ禍を受けて室内でゲームを楽しむ人が増えたことや、ゲーム「あつまれ どうぶつの森」が人気を集めたことが増収につながった。

しかし、多くの在韓日系消費財販売企業は2019年度、2020年度と減収減益に見舞われた。営業赤字に転落した企業も少なくなかった。そういった企業はコスト削減に努め、少ない売上高でも利益を計上できる体質への転換を図った。その結果、赤字に陥った企業の多くは直近では黒字転換している。また、コスト管理とともに、積極策も打ち出している。その結果、在韓日系消費財販売企業の売上高は、V字回復とはいえないものの、徐々に回復しつつある。

このような代表的な在韓日系消費財販売企業の1つが、韓国で「ユニクロ」を展開するFRLコリアだ。「ユニクロ」は「No Japan」運動の主要なターゲットの1つになった。また、コロナ禍による消費低迷や外国人観光客需要の消滅も、売上高減少につながった。そこで、同社では 高コスト店舗の閉鎖などでコスト削減を図った。その結果、同社は2019年度に赤字に陥ったが、2020年度は売上高がさらに減少する中でも、営業黒字を確保した。ちなみに、「毎日経済新聞」(2021年10月15日、電子版)は「韓国国内の店舗数は2021年10月14日現在で135店(ECモールを含む)と、2019年8月末の195店に比べ60店減少した」と紹介している。この時期、ユニクロに代わって成長したのが「トップ10」「スパオ」「8セカンド」といった韓国のSPA(製造小売り)ブランドだ(注5)。特に「トップ10」はコロナ禍の中でもオフライン販売を重視し、店舗数を大幅に増やしてきた。

FRLコリアでは、コスト削減策を講じる一方で、積極策も打ってきた。例えば、「聯合ニュース」(2021年10月15日)は、世界的なデザイナー・ブランドとコラボした新製品を発売し、一部店舗では消費者が長い行列を作り、品切れが相次いだことを紹介している。こうした積極策が奏功し、2020年度を底に売上高が回復している。


注1:
「装備」は、「製造装置」を意味する韓国語の漢字での表記。
注2:
ちなみに、2018年と直近の2022年を比較すると、対日輸入減少額が最も多かったのはHS8703(乗用車)だったが、2位~9位は素材・部品関連で占められた。HS2203(ビール)は35番目に減少額が大きかった。
注3:
安全保障貿易情報センター(CISTEC)事務局「日韓間の混乱を招いた安全保障輸出管理に関する誤解」『CISTECジャーナル 2019年9月号』によると、フッ化ポリイミド、レジスト、フッ化水素の3品目全体が輸出許可制の見直し対象になったというわけではない。対象になったのは、フッ化ポリイミドは次世代のフレキシブル・ディスプレイなどの新しい用途に使われるもの、レジストはEUV(極端紫外線)用などで、それぞれフッ化ポリイミド、レジストの一部にすぎなかった。他方、半導体向けの高純度のフッ化水素は、ほぼ全量が許可対象になった。
注4:
ビールの対日輸入減少の原因として、「No Japan」運動とともに、新型コロナ禍による飲食店の営業制限、「巣ごもり消費」による消費者の嗜好(しこう)の多様化などが挙げられる。
注5:
SPA(製造小売り)は、衣料品などで製品の企画・開発から生産、物流、在庫管理、販売までを一貫して手掛けるビジネスモデルをいう。

最近の日韓経済関係を振り返る

  1. 韓国向け消費財輸出は回復へ
  2. 対韓直接投資は半導体、IT分野に集中
執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課
百本 和弘(もももと かずひろ)
ジェトロ・ソウル事務所次長、海外調査部主査などを経て、2023年3月末に定年退職、4月から非常勤嘱託員として、韓国経済・通商政策・企業動向などをウォッチ。