特集:進む北米のEV化、各地域の市場と政策を探るEV市場に大きな成長余地、充電基盤整備が課題(カナダ)

2022年10月24日

カナダでは現状、中国や欧州などに比べて緩やかに電気自動車(EV)が普及しているのが実情だ。しかし、政府は、(1) 2050年までに、温室効果ガス(GHG)排出量ゼロ、(2) 2035年までに、乗用車・ピックアップトラックの新車販売について100%、無排出車(ZEV、注1)化、という目標を掲げる。そうしたカナダで、EV市場の成長余地は大きい。充電インフラの整備や販売価格の低下など、条件が整うと、急速に拡大する可能性を秘めている。

EVはどこまで普及したのか

カナダ統計局が2022年4月21日に発表したカナダ全国の2021年の新車登録台数(カナダ統計局ウェブサイト参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)は、164万6,609台。このうち、バッテリー式電気自動車(BEV)は5万8,726台、プラグインハイブリッド車(PHEV)は2万7,306台だった。いずれも、前年実績(BEV 3万9,036台、PHEV 1万5,317台)を大きく上回った(表1参照)。

表1:カナダにおける新車登録台数(単位:台、%)(△はマイナス値)
項目 2017年
台数
2018年
台数
2019年
台数
2020年
台数
2021年
台数 対前年比
ガソリン車 1,929,627 1,834,883 1,776,571 1,384,928 1,415,361 2.2
ハイブリッド車(HEV) 24,121 25,837 38,390 41,453 79,330 91.4
ディーゼル車 65,787 70,600 59,089 64,769 65,881 1.7
バッテリー式電気自動車(BEV) 9,079 22,570 35,523 39,036 58,726 50.4
プラグインハイブリッド車(PHEV) 10,617 21,713 20,642 15,317 27,306 78.3
その他燃料車(注) 5 257 230 58 5 △ 91.4
全車種合計 2,039,236 1,975,860 1,930,445 1,545,561 1,646,609 6.5
ZEV(BEV+PHEV) 19,696 44,283 56,165 54,353 86,032 58.3
ZEV(BEV+PHEV)シェア 1.0 2.2 2.9 3.5 5.2 48.6

注:液体プロパン、天然ガス、水素などを含む。
出所:カナダ統計局

カナダ統計局の統計上、ZEVと定義されるのはBEVだけには限らない。PHEVも含まれる。この定義による2021年のZEVの登録台数は、8万6,032台。2020年の5万4,353台から、58.3%増の大幅な伸びになった。ただし、2021年時点でも、ZEVの全登録台数に対する割合は5.2%。全体に占める割合は依然として小さいと言わざるを得ない。だとしても、2017年(1.0%)、2018年(2.2%)、2019年(2.9%)、2021年(3.5%)と比較すると、シェアを着実に伸ばしてきた。なお、2017年に登録台数全体の94.6%を占めていたガソリン車は、2021年時点で86.0%にまでシェアを落とした。その分をBEVとPHEV、PHEV以外のハイブリッド車(HEV)が埋めた格好だ(2017年2.1%、2021年10.0%)。

ZEVの新車登録台数を州別にみると、ケベック州(カナダ全体のZEV新車登録台数の42.8%)、ブリティッシュ・コロンビア州(BC州。27.7%)、オンタリオ州(22.9%)の3州で多い(表2参照)。特にケベック州外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますBC州外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、ZEV普及に向けた規制と促進策が州独自に進められている点、注目に値する。その結果、ケベック州で登録される新車の8.9%、BC州の11.6%がBEVまたはPHEVになっている。

表2:カナダでのBEV・PHEV登録台数と州別GDP(2021年)(—は値なし)
新車登録 BEVまたはPHEV
(台、%)
有排出車(注2)
(台、%)
全車種 GDP
(参考)
100万ドル、%
オンタリオ州 台数 19,726 607,408 627,134 州別額 746,495
全車種に占める州内構成比 3.1 96.85 100.0
全体に占める構成比 22.9 38.92 38.1 全体に占める構成比 38.0
ケベック州 台数 36,800 376,881 413,681 州別額 377,909
全車種に占める州内構成比 8.9 91.1 100.0
全体に占める構成比 42.8 24.2 25.1 全体に占める構成比 19.2
ブリティッシュ・コロンビア州(注1) 台数 23,850 181,049 204,899 州別額 272,785
全車種に占める州内構成比 11.6 88.4 100.0
全体に占める構成比 27.7 11.6 12.4 全体に占める構成比 13.9
その他州合計 台数 5,656 395,239 400,895 州別額 538,367
全車種に占める州内構成比 1.4 98.6 100
全体に占める構成比 6.6 25.3 24.34670283 全体に占める構成比 27.4
カナダ 台数 86,032 1,560,577 1,646,609 総額 1,966,050
全車種に占める構成比 5.2 94.8 100.0
全体に占める構成比 100.0 100.0 100.0 全体に占める構成比 100.0

注1:準州での登録台数も含む。
注2:カナダ統計局が示していた元の表現では「その他の車種」。
出所:カナダ統計局

2035年以降はZEV以外販売不可、政府は購入補助金を導入

カナダ連邦政府は、2050年までにGHG排出量をゼロにするという目標を打ち出している。これを実現する上でカギになるのが、EVの普及だ。そのため、規制と支援策の両面から、政策を次々と打ち出している。

政府は2021年6月、2035年までに、乗用車・ピックアップトラックの新車販売について、すべてZEVにすることを義務づけると発表した(2021年7月8日付ビジネス短信参照)。2022年3月には、「2030年までの排出削減計画外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を発表。この中には、(1) 4億カナダ・ドル(約436億円、Cドル、1Cドル=約109円)を投じてZEV用の充電器を5万基設置することや、(2) ZEV購入補助金事業(iZEV)の延長のため17億Cドルの予算を追加すること、なども盛り込んだ。さらに2022年4月、拡大したZEV購入インセンティブプログラム(iZEV)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますで、補助金対象になる車種を次記のように広げた。

(1)ベースモデルのメーカー希望小売価格が5万5,000Cドル未満の車種。これらに高価格モデルがある場合も、メーカー希望小売価格が最大6万5,000Cドルまでのものについては対象。

(2)スポーツ用多目的車(SUV)、ミニバン、ピックアップトラックなどは、ベースモデルのメーカー希望小売価格が6万Cドル未満の車種。また、これらに高価格モデルがある場合も、メーカー希望小売価格が最大7万Cドルまでのものついては対象。

また2022年7月には、中・大型ZEV向けにも購入補助金制度を発表した(2022年7月20日付ビジネス短信参照)。EVと従来型車の価格差の約50%に相当する補助金を支給する(1台当たりの上限は20万Cドル)。ZEVの商用・中型・大型バン、同小型バス、同トラックなどを購入またはリースする場合に、適用される。ただし、購入対象者は州・準州、地方自治体、団体、企業などに限る。

EV関連投資も誘致

政府は、EV関連投資の誘致も盛んに進めている。直接投資誘致を促進する連邦政府機関がカナダ投資庁だ。カナダ投資庁ウェブサイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますでは、「カナダは西半球で唯一、EV用バッテリーに必要な重要鉱物(クリティカルミネラル)の全てを保有している」と訴求。EVサプライチェーンの構築を目的として、鉱業や正極材・負極材、前駆体、バッテリー製造、EV組み立て・部品供給、バッテリーリサイクルなど、全ての分野で投資を呼びかけている。

実際に、2020年以降、オンタリオ州を中心に、EVやEV用バッテリー関連して、日本や米国など外資系企業による投資の発表が続いている。大型の投資案件には、連邦政府や州政府も協調して予算支出を発表するケースも多い(表3参照)。

表3:外資系企業によるEV・バッテリー関連投資の動き

(1)EV製造
企業名(本社所在国) 内容
フォード(米) オンタリオ州のEV生産設備に18億Cドルを投資すると発表。民間労働組合ユニフォーとの合意。
GM(米) 2022年第4四半期(10~12月)からのEV生産開始に向けて、オンタリオ州の2工場へ20億Cドル以上を投じて工場を再編する。インガソール工場はカナダ初の本格的商用EV生産拠点となる。オシャワ工場はピックアップ車を生産。
ステランティス(オランダ) EV生産に向け、オンタリオ州の2工場へ36億Cドルを投資し、自動車研究開発センターを拡張。連邦政府、州政府もそれぞれ最大5億Cドルを拠出する。
ホンダ(日) オンタリオ州のアリストン工場をハイブリッドEVの基幹工場として再編するため約14億Cドルの投資を発表。連邦政府と州政府もそれぞれ1億3,160万Cドルを供出する。
(2)EVバッテリー・バッテリー材料
企業名(本社所在国) 内容
ステランティス(オランダ)、
LGエナジーソリューション(韓)
オンタリオ州でのEV用バッテリー工場の開設に向けて提携。北米市場向けに年間数十万台のEV搭載用のバッテリーを生産する。2025年までにフル稼働の予定。
GM(米)、
ポスコケミカル(韓)
ケベック州ベカンクールにEVバッテリー用ハイニッケル系正極材生産工場を建設する。投資額は5億Cドル規模の見込み。
ユミコア(ベルギー) オンタリオ州にEV電池用の正極材と前駆体材料の生産拠点を建設予定。2023年の着工、2025年の稼働を目指す。

出所:各社発表資料からジェトロ作成

また、2022年7月に訪日したカナダのシャンパーニュ・イノベーション・科学・産業相は、自動車や電池・半導体などの業界の経営幹部らと面会。EV分野のカナダへの投資を呼びかけた(2022年7月12日付ビジネス短信参照)。カナダ政府の発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますによると、同大臣は、サプライチェーン確保とグリーン化を目指す企業にとって、カナダが信頼性と安定性の高い魅力的な投資先と発言。あわせて、「今回の訪日は、カナダが世界で最もビジネスや投資に適した地の1つであることを示す絶好の機会になった」とコメントしている。

充電ネットワーク整備などが課題

カナダ政府が推進するEV普及に向けて課題と思われるのが、充電に係る社会基盤の整備だ。カナダ自動車製造業者協会(Canadian Vehicle Manufacturers' Association:CVMA、注2)は2022年5月、連邦政府に対する政策提言PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(387KB)を発表。この中で、充電器のネットワークが十分でなければ、EVの普及は実現しないと訴えた。

カナダでZEV普及の妨げとなっている要因としては、依然として高額なEV価格に加えて、充電インフラに関する不安がある。特にカナダ特有の問題として、(1)寒冷地のため、冬季のバッテリーの航続性能に対する不安が大きい、(2)国土が広く、諸外国以上に充実した充電器のネットワークが必要(特に郊外や農村部の住民の場合、通勤や買い物などに係る移動距離が長いため深刻)、という。

なおカナダでは、一戸建て居住者の割合が比較的高い(全国の個人住宅のうち53.6%)。そうした住民は自宅やガレージで充電をしやすいため、恵まれていると言える。同時に集合住宅に居住している人も3分の1以上いることが分かり、集合住宅や商業ビルに充電器の設置を促進するインセンティブを導入することで、より充実した充電インフラが構築できるとも言及した。


注1:
ZEVとは、zero-emissions vehicleの略。
注2:
CVMAは、フォード、GM、ステランティスをはじめとする自動車製造企業で構成される業界団体。
執筆者紹介
ジェトロ・トロント事務所長
斎藤 健史(さいとう たけし)
1988年、ジェトロ入構。ジェトロ・デュッセルドルフ事務所、ジェトロ・アトランタ事務所、ジェトロ福岡などでの勤務を経て、2020年からジェトロ・トロント事務所長。