特集:進む北米のEV化、各地域の市場と政策を探るカリフォルニア州、トラックを中心とした商用車のZEV化を推進(米国)
商用EVトラックビジネスの現状と課題

2022年11月9日

米国のカリフォルニア州は厳しい環境規制を持つ州として知られるが、規制強化は電気自動車(EV)産業の活性化をもたらす側面も有している。例えば同州では、トラックなど商用車のゼロエミッション車(ZEV、注1)化が進められている。カリフォルニア州大気資源委員会(California Air Resources Board、以下CARB)によると、トラックは自動車による大気汚染の最大の原因であり、トラックの排出ガスは、スモッグを原因とした汚染の70%、発がん性のあるディーゼルばい煙の80%を占めている。こうした状況に対処するための同州の環境規制の策定により、自動車メーカーはトラックなど商用車のEV開発を急ぐ。本稿では、トラックや作業用車両をはじめとする商業用車両のZEVに関する施策と、施策により急速に変化する商業用EV市場を紹介する。

2024年以降に販売する商業用のトラックやバンをゼロエミッション化

CARBは2020年6月、トラックに関する排出規制(Advanced Clean Trucks、以下ACT)を策定した(2020年7月3日付ビジネス短信参照)。ACTは、メーカーに対して、2024年から2035年にかけて州内で販売される商業用トラックおよびバンのZEVの割合を引き上げることを義務付けている。また、50台以上のトラックを保有する一定規模の事業者(政府機関を含む)に対して、トラックの種類や数量、走行距離などの運用状況の報告も義務付けている。規制対象には、輸送に使用されるバンやピックアップトラックなどの小型車両から、中型・大型のトラックやタンカー、バス、さらには清掃車などの公共の作業車両などまで、商業用として用いられる多くの車両が含まれている。

表1:ACTによるZEV販売基準の詳細
該当車種 主な該当車両 車両総重量 販売基準値(注)
2024年 2035年
中型車
(Class 2~3)
小型、中型バン、ピックアップトラック 8,501ポンド
~1万4,000ポンド
5% 55%
大型車
(Class4~8)
配送バン、引っ越し用トラック、液体運送トラック、バス、 1万4,001ポンド以上 9% 75%
大型牽引車
(Class 7~8)
大型特殊自動車、市バス、清掃車、コンクリートミキサー、トレーラー 2万6,001ポンド以上 5% 40%

注:州内で販売される車両に占めるZEVの割合の各年における最低水準を指す。
出所:CARB資料を基にジェトロ作成

カリフォルニア州のZEV化への動きは、全米へと波及している。同州を含む15州(コネチカット、コロラド、ハワイ、メイン、メリーランド、マサチューセッツ、ニュージャージー、ニューヨーク、ノースカロライナ、オレゴン、ペンシルベニア、ロードアイランド、バーモント、ワシントン)と首都ワシントンは2020年7月、州内で販売する商業用の中型・大型トラック(ピックアップとバンを含む)に占めるZEVの割合を2030 年までに30%、2050 年までに100%へと引き上げる暫定目標を掲げた覚書を締結した。そのうち5州(オレゴン、ワシントン、ニュージャージー、ニューヨーク、マサチューセッツ)は、中型・大型のトラックやバスをはじめとする商業用車両の排出ガスゼロ規制を導入している。

またCARBは、2021年5月にアドバンスド・クリーン・フリート・ルール〔Advanced Clean Fleet (ACF) Rule〕を提案した。ACFは、2040年以降に同州で販売する全ての中型・大型車両をZEVにするという内容だ。商業用の多くをZEV化することが目標とされており、具体的には(1)ドレージ車両(Drayage)、(2)一定規模の優先度が高い車両および連邦政府車両(High Priority、federal fleets)、(3)州および郡、市の車両(State and local government fleets)について、段階的にZEVの導入を行う見通しだ。将来的にこれらが承認された場合、商業用車両でのZEV化がより加速する可能性が高い。

南カリフォルニアでは倉庫事業者にも規制

サウス・ コースト大気質管理地区(SCAQMD)は2021年5月、「倉庫における間接排出基準(Warehouse Indirect Source Rule)」を発表した。倉庫間を行き来するトラックによる排出ガスを規制するためだ。これにより2021年7月1日以降、SCAQMD管轄区域(ロサンゼルス郡、リバーサイド郡、サンバナディーノ郡の一部、およびオレンジ郡の全て)に所在する1棟あたり屋内延床面積が10万平方フィート(約9,290平方メートル)以上の倉庫の保有者や事業者は、排出ガス削減を義務付けられた。具体的にはWAIRE(Warehouse Actions and Investments to Reduce Emissions)プログラムにより、倉庫保有者は倉庫や事業者のトラック使用に関する情報の報告義務があり、事業者は車両の使用距離を報告し倉庫事業における排出ガス削減への貢献を示すWAIREポイントを稼ぐというシステムだ。WAIREポイントが年間の基準値に見合わない場合には、倉庫事業者は緩和料を支払うことでポイントを取得する仕組みとなっている。義務化は倉庫の規模により、3年間にわたって段階的に開始される。

表2:WAIREの段階的な義務付けの内容
倉庫の規模
(平方フィート)
事業者への通知(注1,2) 倉庫情報の報告 初年度の年次WAIRE報告の期限(注3) 初年度の年次WAIRE報告の対象期間
25万平方フィート以上 2021年9月1日 2022年7月1日 2023年1月31日 2022年1月1日
-12月31日
15万平方フィート以上
25平方フィート未満
2021年9月1日 2023年7月1日 2024年1月31日 2023年1月1日
-12月31日
10万平方フィート以上
15万平方フィート未満
2021年9月1日 2024年7月1日 2025年1月31日 2024年1月1日
-12月31日

注1:事業者への通知の義務は、倉庫保有者に課される。
注2:保有者が変更した場合はその後14日以内に、敷地が変更された場合にはその後30日以内に通知が義務付けられる。
注3:倉庫を利用する事業者が対象期間中に退去した場合、年次WAIRE報告の期限は退去日となる。

SCAQMDの役員は「スモッグの原因となる大気汚染の約半分は、輸送産業からとなっており、南カリフォルニアでは倉庫を行き来する大型トラックからの排気が最大の要因となっている」「倉庫ルールは大気汚染を削減し、この大気汚染から直接影響を受けている数百万人を保護する上で、重要な一歩である」と指摘する。南カリフォルニア政府協会 (SCAG) の報告によると、南カリフォルニアには約 3万4,000棟の倉庫が所在し、その広さは11 億 7,000 万平方フィートに相当する。

新興メーカーだけでなく大手自動車メーカーもEV生産に活路

新興EVメーカーのニコラモーターズは、2016年に初の大型EVトラック「ニコラ・ワン(Nikola One)」を発表した。その後、同社は2021年12月、試作EVトラック「ニコラ・トゥレ(Nikola Tre)」をカリフォルニア州の港湾運送会社のトータル・トランスポーテーション・サービス(Total Transportation Services、TTS)に納品した。同社は、バッテリーEV(BEV)2台に加えて、燃料電池自動車(FCEV)の2台で実証実験を行ったのち、TTSの政府助成金の取得を条件とし、2022年後半にはBEV30台、2023年には70台のFCEVの合計100台を納品することに同意している。

中国のバッテリーメーカーの比亜迪(BYD)は、2015年に長距離用の大型EVバス800台を受注して以降、EVバスメーカーとして米国内で認知度を高めている。また、2020年10月からドレージ車両向けEVトラックの実証実験プロジェクトを開始し、ロングビーチ港湾内のITSターミナルで1年間にわたってBEVの作業車両(荷役トラクター)7台を用いた実証実験をするなど、EVトラックの実用化に向けた取り組みも進めている。

スウェーデンの大手自動車メーカーであるボルボは、2019年から2022年にかけて、14 の官民パートナー(注2)と共にVolvo LIGHTS プロジェクト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますを進めている。2020年12月には、同社初の商用モデルのEVトラックの発表を目標に、クラス 8のEVトラックに関する実証実験を開始した。この実験では、EV車両のパフォーマンスだけでなく、公共および民間の58カ所のEV充電ステーションの設置と給電に関する実験が含まれており、トラック貨物の輸送に必要となるEVインフラの構築に必要な情報も集められている。また、大手トラックメーカーのダイムラー・トラックス・ノース・アメリカ(DTNA)は2022年5月、2026年までに食品流通業者のシスコ(Sysco)に約800 台の クラス8のEVトラックを納品する意向書に署名したと発表した。同社は、2022年内に1台目のEVトラックの納品を予定している。

ゼロミッションを推進する非営利団体、カルスタート(CALSTART)の報告によると、2021年12月時点で30以上のトラックメーカーが145車種を超えるZET(注3)車種を開発、展開している。その中でも、ACT規制の対象となる中型・大型のトラックのメーカー、特にクラス3~6のEVトラックの展開が多い。

表3:ZET車両の展開状況(2022年8月30日時点)
トラックの種類 メーカー数 メーカー詳細
作業荷役トラック(Yard Tractor) 6社 BYD、EASY MILE、Kalmar USA、LONESTAR SVなど
大型特殊車両
(HDトラック)
27社 BYD、Freightliner、Hyundai、Kenworth、メルセデスベンツ、二コラ、テスラ、トヨタ、ボルボ、XOSなど
中型車両
(MDトラック)
30社 BYD、トヨタ、三菱ふそう、Lionmotorsなど
バン 20社 BYD、Chanje、フォード、メルセデスベンツ、日産、フォルクスワーゲンなど

出所:Globaldrivetozeroからジェトロ作成

カリフォルニア州のZEV化は確実に前進しており、商業用のEV市場は、規制とともに確立してきている。商業用では輸送を行う小売り、倉庫、物流事業者がEV車両の開発に加わるケースも多い。こうした事業者との連携は、実用化に向けた走行距離や走行ルートといった車両用途に関する情報や資金など、開発に必要なリソースを集めることができることから、メーカーにとってもプラスとなっている。一方でメーカーの中には、数百台という契約を買い手と交わすものの、実際には数台しか納品できていないケースもある。これらの課題解決に向け、メーカーは商用EV車両の生産基盤の構築を急いでいる。フォードは、2022年6月に商用EVトラックの生産に向け、オハイオ組立工場に15 億ドル投資すると発表した。また、ゼネラル モーターズ (GM) は、EVトラックで使用されるドライブユニットの製造施設の準備として、2022年9月にオハイオ州での7 億 6,000 万ドルの投資を発表するなど、開発を進めている。

商業用のトラック・バンのZEV化の施策は、カリフォルニア州がリードしているが、長期的にはこれらの動きが全米へと広がる可能性が高く、商業用のZEV車両のビジネスの機会が膨らむ可能性が高いといえる。


注1:
ドライブトレイン(駆動系部品)からの排気ガスまたは温室効果ガスがゼロの車とされており、BEVやFCEV、水素自動車が含まれる。
注2:
SCAQMD、NFIインダストリーズ、ディペンダブル・ハイウェイ・エクスプレス(Dependable Highway Express)、TECエクイプメント、シェル・リチャージ・ソリューションズ(Shell Recharge Solutions)、ロングビーチ港湾局、ロサンゼルス港湾局、南カリフォルニア・エジソン (SCE)、CALSTART、カリフォルニア大学リバーサイド校 、CE-CERT、リーチ・アウト、リオ・ ホンド・カレッジ、サンバナディーノバレー・カレッジ。
注3:
ZEVのトラック車両を指す。

変更履歴
表2に誤りがありましたので、次のように訂正いたしました。(2023年5月29日)
  • 初年度の年次WAIRE報告の期限を訂正しました。
  • 表の見出しを訂正しました。

    (誤)年間WAIREの報告
    (正)初年度の年次WAIRE報告の期限

    (誤)義務化の期限
    (正)初年度の年次WAIRE報告の対象期間

  • 表の注を追記しました。
執筆者紹介
ジェトロ・ロサンゼルス事務所
サチエ・ヴァメーレン
2000年に渡米。福祉研究員や経済研究員を経て、ロサンゼルス調査員として2009年7月から現職。ロサンゼルスで物流や輸入規制に関する動向をウオッチ。