特集:激変する世界情勢と日本企業の海外ビジネス輸出・海外進出の実現・拡大の鍵は市場調査とビジネスパートナー
2019年4月18日
ジェトロが実施した2018年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(以下、本調査、注1)では、輸出、海外進出を実現、拡大するに当たり、どのような施策が特に有効だったかを尋ねた。その結果、輸出・海外進出ともに現地の市場調査とビジネスパートナーの確保が有効であるとの回答が多く、海外売上高比率が高い企業ほど両施策を有効とみなす割合が上昇した。さらに、輸出に比べ、海外進出の実現・拡大においては、現地の制度情報や商習慣の調査、人材の確保・育成が有効と回答した割合が高くなった。
輸出の実現・拡大には現地パートナー確保が有効との回答が最多
本調査で輸出を行っていると回答した企業(2,465社)に対し、輸出の実現・拡大に特に有効だった施策を尋ねたところ、「現地でのビジネスパートナー(現地販売先・提携先など)の確保」(以下、現地ビジネスパートナーの確保)が61.7%で最も多く、次いで「現地市場〔規模、消費者の需要や嗜好(しこう)、競合など〕の調査」(以下、現地市場調査)が57.9%、「展示会・商談会への参加」が55.2%となった(図1参照)。
企業規模別にみると、大企業(415社)では「現地市場調査」が67.7%で最も多く、次いで「現地ビジネスパートナーの確保」が64.6%、「現地の制度情報(関税率、規制や許認可など)や商習慣の調査」(以下、制度情報や商習慣の調査)が52.3%となった。中小企業(2,050社)では「現地ビジネスパートナーの確保」(61.2%)、「展示会・商談会への参加」(56.7%)、「現地市場調査」(56.0%)の順となった。マーケティングの専門部署を持たないことの多い中小企業にとって、展示会や商談会は、新規顧客獲得だけでなく、自社商品に興味を持つ顧客とのコミュニケ―ションによるニーズの把握、自社の認知度向上を図る貴重な機会となるため、同項目の回答率が高くなったと考えられる。その他の項目では「現地市場調査」と「現地ビジネスパートナーの確保」は、企業規模にかかわらず有効と認識されていることが読み取れた一方、「FTA(自由貿易協定)やその他の関税減免制度の活用」(以下、FTAなどの活用)においては、大企業と中小企業で回答率に差が見られた。中小企業は大企業に比べ、輸出先に子会社を持たないことが多く、親子会社間取引による関税削減効果を実感しにくいことが背景にあると考えられる(注2)。
次いで、海外売上高比率別に輸出に有効と考える施策を見ると、同比率が61%を超える企業(188社)においては、「現地ビジネスパートナーの確保」「現地市場調査」の回答比率はそれぞれ68.1%、66.5%と7割弱にまで高まる(図2参照)。また、その他の項目についても、「展示会・商談会への参加」を除き、海外売上高比率が高い企業ほど有効と回答する割合が高まる傾向がおおむね見られた。海外売上高比率が高い企業は、業績が海外市場や景気の影響を受けやすくなるため、これらの施策に取り組む割合も高くなると考えられる。
海外進出では現地市場調査が有効と回答した企業が最多
他方、海外進出の実現・拡大に有効だった施策についてはどうか。本調査で海外拠点があると回答した企業(1,528社)に、特に有効だった施策を尋ねたところ、「現地市場調査」が50.7%、「現地ビジネスパートナーの確保」が48.1%、「制度情報や商習慣の調査」が45.8%となった(図3参照)。
企業規模別にみると、大企業(511社)では「現地市場調査」が67.3%、「制度情報や商習慣の調査」が61.3%、「現地ビジネスパートナーの確保」が58.1%となった。中小企業(1,017社)では「現地ビジネスパートナーの確保」が43.1%、「現地市場調査」が42.4%、「制度情報や商習慣の調査」が38.1%となった(図3参照)。海外進出でも、輸出と同様、企業規模によらず、現地市場調査と現地ビジネスパートナーの確保が上位3項目に入った。
続いて、海外売上高比率別に海外進出の実現・拡大に有効と考える施策を見ると、海外売上高比率が高くなるほど、どの項目も回答率が高まる傾向がおおむね見られた(図4参照)。ただし、海外売上高比率が「1%未満」の企業(185社)では「現地ビジネスパートナーの確保」が有効であるとの回答が54.1%となり、「1%以上」の企業と比べて回答比率が高い結果となった。海外売上高比率が少ない企業にとって、海外進出の実現・拡大には、自社の商品・サービスを顧客に届ける現地パートナーの確保が特に有効であるようだ。
輸出と海外進出では有効な施策に差
これまで見てきた輸出と海外進出に有効な施策の回答結果を比較すると、輸出の実現・拡大においては「展示会・商談会への参加」が、海外進出の実現・拡大においては「制度情報や商習慣の調査」と「人材の確保・育成」が有効と回答した企業の割合が、相対的に高いことが明らかになった(図5参照)。
展示会や商談会は、海外向けに販売する商品やサービスの実物を展示し、限られた期間内で成約をまとめるため、輸出商談になじみやすい。そのため、輸出の実現・拡大において「展示会・商談会への参加」が有効であると回答した割合が高くなったとみられる。一方、海外進出では、外資に対する規制や税制、外国人就労規則や在留許可、商標登録など、さまざまな現地法制度に対応する必要がある。さらに、海外に新たな拠点を設置する際には、その拠点を経営する人材も必要となる。このため、海外進出においては「制度情報や商習慣の調査」と「人材の確保・育成」の回答率が輸出に比べ高くなったと考えられる。
- 注1:
- 本調査は、海外ビジネスに関心の高いジェトロのサービス利用日本企業10,004社を対象に、2018年11月から2019年1月にかけて実施。3,385社から回答を得た(有効回答率33.8%、回答企業の81.8%が中小企業)。プレスリリース・概要、報告書も参考にされたい。なお、過去の調査の報告書もダウンロード可能である。
- 注2:
- 大企業と中小企業のFTA利用については、特集「日本企業の海外事業展開を読む」より「日EU・EPA利用への期待高く」を参照。
- 執筆者紹介
-
ジェトロ海外調査部国際経済課
柏瀬 あすか(かしわせ あすか) - 2018年4月、ジェトロ入構。同月より現職。