特集:激変する世界情勢と日本企業の海外ビジネス増える越境EC利用企業

2019年4月18日

2018年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(以下、本調査)では、日本企業による販売における電子商取引(以下、EC)利用実態について尋ねた。2016年度以来2度目となるEC調査では、(1)越境ECの利用が拡大、(2)現在、今後ともに中国が最大の販売先、(3) 海外向け販売でECを利用する企業の約6割がメリットを実感、などが明らかになった。

販売でのEC利用企業が3割に増加、越境EC利用が拡大

本調査(注1)の全回答企業(3,385社)のうち、販売でECを利用したことがある企業は30.3%で、前回調査(2016年度)の24.4%から5.9%ポイント増加した(図1参照)。EC利用企業では、「今後も現状を維持する」および「今後は利用を縮小する」の回答率が横ばいだった一方、「今後、さらなる利用拡大を図る」と回答した企業が、2016年度の15.3%から21.1%へ大きく増加した。今後、利用を拡大すると回答した大企業は4.3%ポイント増(2016年度17.5%→2018年度21.8%)、中小企業は6.2%ポイント増(2016年度14.7%→2018年度20.9%)で、企業規模によらず拡大傾向がみられた。

図1:販売におけるEC利用の有無(時系列、全体)
利用したことがあり、今後、更なる利用拡大を図る 2016年度15.3%、2018年度21.1% 利用したことがあり、今後も現状を維持する 2016年度7.9%、2018年度8.0% 利用したことがあり、今後は利用を縮小する 2016年度1.1%、2018年度1.2% 利用したことがないが、今後の利用を検討している 2016年度22.5%、2018年度14.8% 利用したことがなく、今後も利用する予定はない 2016年度49.2%、2018年度50.2% 無回答 2016年度3.9%、2018年度4.7%

注:母数は、本調査の回答企業総数。
出所:2018年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

業種別にEC利用率をみると、製造業は31.7%(前回調査から6.0%ポイント増)、非製造業は28.6%(6.6%ポイント増)となり、製造業の利用率が非製造業を上回った。業種別では医療品・化粧品(57.9%)、小売り(58.8%)で利用率が5割を超えた。前回調査と比較すると、飲食料品(41.7 %: 前回調査から12.4%ポイント増)、繊維・織物/アパレル(49.6%: 16.6%ポイント増)、医療品・化粧品(57.9%: 18.9%ポイント増)、窯業・土石(33.4%: 19.1%ポイント増)などで10%ポイント以上の増加が見られた。

ECの利用状況をみると、海外向け販売でECを利用したことがある企業は52.8%となり、前回調査(47.2%)を上回った(図2参照)。企業規模別でみても大企業が51.9%、中小企業が53.0%と同程度だったが、販売方法では違いが見られた。大企業では「海外拠点での販売」(38.5%)が「日本国内から海外への販売(越境EC)」(27.8%)を上回った一方、中小企業では越境ECの回答率(43.1%)が「海外拠点での販売」(19.3%)を大きく上回り、越境ECに対する中小企業の関心の高さが示された。

海外向け販売の方法を前回調査と比較すると、全体では越境ECの回答率が9.4%ポイント増となった。越境ECの増加傾向は大企業、中小企業ともにみられた。どちらも、「海外拠点での販売」は前回調査からほぼ横ばいである一方、越境ECの回答率は大企業で7.0%ポイント増、中小企業では9.0%ポイント増と、大きく上昇した。

越境ECの利用率は、今後も上昇が予想される。本調査において販売でECを「利用したことがないが、今後の利用を検討している」と回答した企業(502社)が検討する販売方法をみると、越境ECの回答率が半数を超えた(今後ECの利用を検討している企業の51.0%)。利用検討の中小企業452社のうち51.5%が、越境EC利用を検討していると回答した。

図2:ECの利用状況(時系列、企業規模別)

(全体)
日本国内への販売 2016年度81.1%、2018年度78.6% 海外向け販売 2016年度47.2%、2018年度52.8% 日本国内から海外への販売 2016年度30.9%、2018年度40.3% 海外拠点での販売 2016年度22.8%、2018年度22.8% 無回答 2016年度2.9%、2018年度2.7%
(大企業)
日本国内への販売 2016年度83.2%、2018年度75.4% 海外向け販売 2016年度49.1%、2018年度51.9% 日本国内から海外への販売 2016年度20.8%、2018年度27.8% 海外拠点での販売 2016年度37.6%、2018年度38.5% 無回答 2016年度4.0%、2018年度1.6%
(中小企業)
日本国内への販売 2016年度80.5%、2018年度79.4% 海外向け販売 2016年度46.6%、2018年度53.0% 日本国内から海外への販売 2016年度34.1%、2018年度43.1% 海外拠点での販売 2016年度18.3%、2018年度19.3% 無回答 2016年度2.5%、2018年度3.0%

注:母数は、販売でECを利用したことがあると回答した企業。
出所:2018年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

前回調査に引き続き、中国が最大の販売先

海外向け販売でECを利用したことのある企業に、現在の販売先を尋ねたところ、「中国」の回答率が最多となった(図3参照)。中国をはじめ上位7カ国・地域が前回調査と同一となり、引き続き北東アジアと米国が日本企業の主要なEC市場であることがわかった。本調査で8番目に回答が多かったベトナムは、前回調査の14位から大きく順位を上げた。ベトナムの回答率は全体で3.7%ポイント増で、特に中小企業の回答率が4.9%ポイント増(2016年度7.3%→2018年度12.2%)と大きく伸びた。他方、大企業の回答率が最も大きく上昇したのはインドネシア向け販売(2016年度10.6%→2018年度16.5%)だった。

今後の販売先でも、前回に引き続き「中国」を挙げる企業が最も多かった(海外向け販売でECを利用したことがある、あるいは検討している企業の50.8%)。中国インターネット情報センター(CNNIC)によると、2018年12月時点で国内のインターネット利用人口は8億人に達しており、ECなどの利用者は6億人を超える(注2)。既に世界最大のEC市場である一方、インターネット利用人口は総人口の6割弱にとどまっており、今後も市場の成長が見込まれる。

現在と今後の販売先の回答率を比較すると、今後の販売先として大企業ではインド、中小企業ではASEAN6(シンガポール、タイ、ベトナム、マレーシア、インドネシア、フィリピン)向け販売への関心が相対的に高いことがうかがえた。これらの国・地域は、中国に続く市場として世界的に注目が集まる一方、ECに関する国内制度は整っていない国が多いため、今後の動きを注視する必要がある。

図3:現在の海外販売先(時系列、全体)
中国 2016年度49.6%、2018年度49.5% 米国 2016年度36.2%、2018年度31.8% 台湾 2016年度26.4%、2018年度27.5% 香港 2016年度22.6%、2018年度25.1% 韓国 2016年度19.4%、2018年度18.1% シンガポール 2016年度18.8%、2018年度16.3% タイ 2016年度15.1%、2018年度15.3% ベトナム 2016年度8.7%、2018年度12.4% 英国 2016年度14.2%、2018年度11.5% カナダ 2016年度11.0%、2018年度10.7% マレーシア 2016年度9.6%、2018年度10.5% ドイツ 2016年度10.7%、2018年度10.2% フランス 2016年度10.4%、2018年度9.4% インドネシア 2016年度8.4%、2018年度9.4% オーストラリア 2016年度9.9%、2018年度8.5% フィリピン 2016年度7.5%、2018年度6.7% インド 2016年度6.7%、2018年度6.1% ロシア・CIS 2016年度6.7%、2018年度5.5% メキシコ 2016年度4.9%、2018年度3.9% ブラジル 2016年度6.1%、2018年度3.1% アルゼンチン 2016年度2.0%、2018年度1.7%

注:母数は、海外向け販売でECを利用したことがあると回答した企業。
出所:2018年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

約6割の企業が海外向けECのメリットを実感

海外向け販売でECを利用したことのある企業のうち、海外EC事業単体で現状、黒字の企業は全体の28.7%だった(図4参照)。黒字の企業は大企業が40.2%であった一方、中小企業は26.1%と企業規模で差が出た。黒字企業に「今後黒字に転換する見通し」(大企業13.4%、中小企業14.6%)、「赤字だが自社ビジネス全体にメリット」(大企業11.3%、中小企業17.8%)を加えた海外EC事業で何らかの利益・メリットがあると回答した企業は大企業が64.9%、中小企業が58.6%で、いずれも6割程度となった。中小企業では現状、黒字化している企業の割合は大企業に劣るものの、多くの企業が将来的な黒字化や、海外EC事業単体での利益以外の間接的なメリットを見いだしている。

EC販売による間接的なメリットは多岐にわたる。コンサルティング大手KPMGの調査によると、世代によっては8割弱の消費者が実店舗で買い物をしながら、オンラインで商品情報を検索する。同様の商品との価格比較のほか、商品情報や特性、あるいはオンラインでの商品の批評などが検索されており、ECサイトなどでの商品情報は実店舗販売にも影響を与える(注3)。また、オンライン上の商品情報は、市場開拓の際の商品・サービス開発にも有用である。ECを利用して試験的に販売ができれば、従来よりコストを抑えつつ、現地消費者の嗜好(しこう)を捉え、自社商品・サービスを現地仕様に改良するなど、より競争力の高い販売に結び付けることができる。

図4:海外EC事業の利益・メリット(企業規模別)
利益・メリットがある 全体59.7%、大企業64.9%、中小企業58.6% 現状、黒字である 全体28.7%、大企業40.2%、中小企業26.1% 今後黒字に転換する見通し 全体14.4%、大企業13.4%、中小企業14.6% 赤字だが自社ビジネス全体にメリット 全体16.6%、大企業11.3%、中小企業17.8% メリットはない 全体2.4%、大企業1.0%、中小企業2.7% わからない 全体25.1%、大企業19.6%、中小企業26.4% その他 全体4.4%、大企業3.1%、中小企業4.7% 無回答 全体8.3%、大企業11.3%、中小企業7.7%

注:母数は、海外向け販売でECを利用したことがあると回答した企業。
出所:2018年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

前述したように約6割の企業が海外販売でのEC利用に対して何らかの利益・メリットがあると回答した一方、「わからない」と回答した企業は25.1%に上った。海外EC事業への取り組み方針別にみると、利益・メリットが「わからない」の回答率が最も高かったのは、ECを「利用したことがあり、今後も現状を維持する」と回答した企業(37.4%)だった(表参照)。海外EC事業の利益・メリットを見極めることができないため、同事業について様子見をする企業が多いと推測される。他方、ECを「利用したことがあり、今後、さらなる利用拡大を図る」と回答した企業でも、22.2%が「わからない」と回答した。今後、ECの活用がさらに進むにつれて、ECが自社ビジネス全体にとってどのような利益・メリットをもたらすのかを精査することがより重要となる。

表:海外EC事業の利益・メリット(EC事業の取り組み方針別)(単位:%)
海外EC事業の 利益・メリット 拡大を図る (n=414) 現状維持 (n=107) 縮小する (n=20)
利益・メリットがある 65.2 45.8 20.0
階層レベル2の項目 現状、黒字である 31.6 20.6 10.0
階層レベル2の項目 今後黒字に転換する見通し 17.4 5.6 0.0
階層レベル2の項目 赤字だが自社ビジネス全体にメリット 16.2 19.6 10.0
メリットはない 0.7 1.9 40.0
わからない 22.2 37.4 20.0
その他 3.1 7.5 15.0
無回答 8.7 7.5 5.0

注:「拡大を図る」はECを「利用したことがあり、今後、さらなる利用拡大を図る」、「現状維持」はECを「利用したことがあり、今後も現状を維持する」、「縮小する」はECを「利用したことがあり、今後は利用を縮小する」と回答した企業。
出所:2018年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

途上国を中心にインターネット人口が急増する中、世界的にもECを通じた販売への期待は大きい。本調査では、世界的な傾向にもれず、日本企業による海外向け販売でのEC利用の増加がみられた。特に、企業規模にかかわらず、越境EC利用が増加傾向にあり、今後も拡大が予想される。他方で、半数以上の企業が海外EC事業にメリットを見いだす一方、一定数の企業が利益やメリットの見極めができていないことも明らかとなった。EC事業のメリットを正確に見極めることが、今後より激しさを増す世界のEC市場開拓、あるいは自社ビジネス全体の成功の鍵となるだろう。


注1:
本調査は、海外ビジネスに関心の高いジェトロのサービス利用日本企業10,004社を対象に、2018年11月から2019年1月にかけて実施。3,385社から回答を得た(有効回答率33.8%、回答企業の81.8%が中小企業)。プレスリリース・概要報告書も参考にされたい。なお、過去の調査の報告書もダウンロード可能である。
注2:
中国インターネット情報センター(CNNIC)、第43回中国インターネット発展状況統計報告、 2019年2月。
注3:
KPMG, “The truth about online consumers,” 2017 Global Online Consumer
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
長﨑 勇太(ながさき ゆうた)
2016年、ジェトロ入構。同年4月より現職。