特集:中堅・中小企業の米国ビジネス先行事例から学ぶ個別事例から学ぶ(1)食品輸入規制を乗り越え米国ビジネスチャンス拡大(五十嵐製麺)

2019年5月17日

五十嵐製麺(本社:福島県喜多方市)は、米国では西海岸を中心にロサンゼルス、シアトル、ホノルルにインスタントラーメン(袋麺)を輸出している。同社が輸出の取り組みを開始したのは今から10年以上前で、最初は中国および香港など麺食文化の東アジアが中心だった。着実に輸出を伸ばしていた矢先、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故が発生して輸出は中断。全てがゼロからのスタートになった。そんな中、2017年にロサンゼルスで開催された日系小売店での東北フェアに参加したのがきっかけとなり、米国への輸出を開始した。日系スーパー向けから始まった輸出はアジア系スーパーにも広がり、今では米国は、同社にとって海外売り上げの3割を占める主力市場となっている。同社の米国への輸出について、五十嵐隆代表取締役、五十嵐あゆみ営業部主任に聞いた。

事前調査で自社の立ち位置を確認

質問:
米国輸出までの経緯は。
答え:
そもそもは2008年、福島県が主催した展示会への参加を契機に、中国、台湾、香港に輸出を開始した。その後、海外に関するセミナー、貿易実務講座などにも出席して輸出のための基礎的知識の習得に励み、着実に輸出を伸ばした。香港向けに冷凍生麺のパッケージをリニューアルして出荷を目前に控えた、まさにその時、東日本大震災と東京電力福島第一原発事故が発生。輸出が中断になり、海外との取引はゼロになった。そんな中、2017年にロサンゼルスの日系小売店で開催された東北フェアへの参加を契機に、米国への輸出を開始した。同時に、ジェトロの輸出有望案件支援プログラムの専門家に同行してもらい、現地で市場調査と営業活動も行った。市場調査で、米国は日系社会がしっかりと形成されてラーメンを食べる文化があり、人口が多く将来的に見込める市場があると感じた。加工食品は米系、アジア系、日系のルートがあり、ウォルマートのような米系で店舗数の多い店は商流、取引条件、商品構成などの点で難易度が高いことが分かり、日系やアジア系のスーパーに輸出を開始した。

食品輸入規制をクリアできれば米国ビジネスチャンスあり

質問:
米国向けに商品を開発したか。
答え:
米国は、加工食品の輸入規制が厳しく、それに対応するための環境整備が必要だ。特に、畜肉エキス(鶏・豚)、卵、乳製品など動物由来の原料を使用している食品の輸入規則を厳格に適用する流れにある。そこで、畜肉エキスを使用せず、フレーバーで再現する「アニマルフリー」スープを同封したインスタントラーメンを開発した。商品開発には時間と費用が必要だが、輸入規制がクリアできれば米国の市場開拓ができると前向きに考え、商品開発に注力した。
また、麺やパッケージも米国向けに工夫した。当社のインスタントラーメンは喜多方ラーメンが中心であったが、米国でのテストマーケティング用にご当地ラーメン4種類(喜多方しょうゆ、博多豚骨風、東京しょうゆ、札幌味噌)を準備した。例えば、喜多方は平打ちの太麺、博多は細麺など麺の太さを変更して、ご当地ラーメンの特徴を強調した。

アニマルフリーのラーメン(ジェトロ撮影)

米系スーパーへの参入を狙う

質問:
米国輸出を振り返り、苦労した点は。
答え:
英語表記のパッケージを開発するのに、想定外の時間を要した。自社での情報収集だけでなく、ジェトロや商社などの外部機関に相談をして、ようやく英語表記のパッケージが完成した。商談スタイルの違いにも戸惑った。例えば、店頭でプロモーションさせてもらうよう、日本で事前にアポイントメントをとり、アジア系スーパーを訪問する手はずを整えていたが、訪問前日にプロモーションすることが伝わっていないことが発覚。仕方なく、その店にはサンプルだけを置いて帰り、他の小売店などに営業回りをしたこともあった。海外では日本との商談スタイルが違い、その都度、順応していくことが大変で、今も課題の1つである。
質問:
米国輸出で心掛けていたことは。
答え:
現地に赴くときは、小売店訪問、輸入業者との商談アポイントメントを事前にとること、日本にいる間に見積書を作成し先方に送付することを徹底した。そうすれば渡航した時には、商談時に商品PRだけではなく、見積書に対するフィードバックをその場でもらえる。また、スーパーなどの小売店を訪問することにより、店頭で定番商品の棚に自社商品を並べてもらうにはどうしたらよいか、現地の顧客は何を好むかなどの情報を得ることができる。
質問:
今後の課題や施策について。
答え:
国内では、食品安全強化法(FSMA)(2019年3月11日付ビジネス短信参照)に基づいた環境整備、米国人の好むフレーバーの開発を継続して行い、英語版ウェブサイトも開設したい。米国では、定期的に現地顧客に営業フォローし、日系商社からの情報収集だけでなく、現地で独自の情報収集ルートをつくりたい。そして、最大の目標は、米系スーパーへ商品を輸出すること。ラーメンを通して福島県と米国の交流を促進し、福島県の現状を伝える懸け橋になれればと思っている。

五十嵐隆代表取締役、五十嵐あゆみ営業部主任(ジェトロ撮影)
執筆者紹介
ジェトロ・ヒューストン事務所
小山 勲(こやま いさお)
2013年、TOKAIホールディングス入社。2018年4月よりジェトロに出向し、海外調査部米州課勤務後、2019年4月より現職。