特集:中堅・中小企業の米国ビジネス先行事例から学ぶ現地へ赴き事前調査した企業は9割

2019年3月8日

米国への輸出を目指す中堅・中小企業は、どのように体制を整備し、事前の情報収集を行っているのか。ジェトロ事業の利用企業50社を対象に調査したところ、多くの企業が専任の輸出担当者を置き、現地に赴いての市場調査を行っていた。米国輸出についての社内体制と事前の情報収集について、先行企業によるベストプラクティスを紹介する。

組織・体制の整備をしている企業は9割超

「新輸出大国コンソーシアム」などのジェトロ事業を利用して米国市場でのビジネス展開に至った50企業のうち、9割を超える企業は、(1)米国担当者の任命、(2)必要な権限・予算・時間などの付与、(3)海外事業の担当者は意思決定権を持つマネジメント層と連絡を密にとることができると回答した(図1参照)。社長を含む経営層が海外事業を直接担当した企業は7割を超える36社だった。

図1:組織・体制面を整備した企業の割合
専任担当者を任命したが「はい」98.0%「いいえ」2.0%、担当者に必要な権限・予算・時間などを付与したが「はい」98.0%「いいえ」2.0%、海外事業の担当者は、意思決定権を持つマネジメント層と連絡を密に取ることができるが「はい」94.0%「いいえ」6.0%、海外事業担当者やバイヤーの意見が商品開発や輸出事業に反映されているが「はい」86.0%「いいえ」14.0%、海外事業を担当とするチームがあるが「はい」70.0%「いいえ」30.0%、輸出準備に合わせて、外部人材を採用した「はい」36.0%「いいえ」64.0%、外国人スタッフを採用した「はい」20.0%「いいえ」80.0%。

出所:ジェトロ作成

7割の企業が海外事業を担当するチームを有している。国・地域担当まで整備している企業がある一方、社長と営業担当者の2名体制の企業も見られた。

米国担当者にはさまざまな経歴の人材がおり、他の業務と兼務している場合も含まれる。例えば、鳥取県の金属製品製造業の海外事業担当者は、以前は技術関係の業務を行っていた。

米国輸出の準備に合わせて外部人材を採用した企業は、全体の3割強にとどまった。例えば、愛知県のその他卸売業は、貿易に関する知識や輸出の業務経験があり、語学が堪能な人材を採用した。また、大阪の繊維業は、海外で通用する人材を意識して採用した。他方で、東京の電子部品・デバイス・電子回路製造業は、外部人材の採用はせず、内部人材の育成に取り組み、語学研修など、海外を意識した社内体制に変えようとしている。

商流構造の把握には現地情報収集がカギ

事業検討段階での米国輸出の情報収集について、(1)市場、(2)制度、(3)顧客、(4)競合先、(5)その他の5つのセグメントに分けてヒアリング調査をした。海外輸出を検討する段階で、進出予定国の一次情報に基づき、事業戦略を立案した企業が大多数を占めた。8割を超える企業が進出予定国へ出向いて市場情報の収集をした(図2参照)。

図2:市場についての情報収集をした企業の割合
進出予定国へ出向いて市場情報を収集した「はい」86.0%、「いいえ」14.0%、 輸出予定の製品に海外での競争力があるか「はい」86.0%、「いいえ」14.0%、現地の商流構造を確認した「はい」82.0%、「いいえ」14.0%、 マーケティングリサーチ会社など外部組織を利用して進出予定国の市場調査をした「はい」48.0%「いいえ」52.0%。

出所:ジェトロ作成

検討段階で「現地の商流構造を確認した」企業では、進出予定国へ出向いて市場情報を収集した比率は9割を超えた。現地につてがなかった企業は、自治体やディストリビューターが主催している展示会や商談会に参加して現地に出向くきっかけを得た事例もあった(業務用機械器具製造業・静岡)。

8割を超える企業が輸出入手続き・法制度の情報収集を行っているが、民間コンサルタントなどの外部組織の利用は4割台半ば、知的財産権保護の対策をした企業は5割台半ばと回答が分かれた(図3参照)。

図3:制度についての情報収集をした企業の割合
輸出入手続き・法制度の情報収集をした「はい」86.0%、「いいえ」14.0%、知的財産権保護の対策を検討した「はい」53.1%、「いいえ」46.9%、現地の法律、税制度の情報を入手するため、民間コンサルタントなど外部組織を利用した「はい」44.0%、「いいえ」56.0%。

出所:ジェトロ作成

埼玉県の家具・装備品製造業はコンサルタントを利用して税制度を調べた。知的財産の関係では、主要な商品に対して特許や商標登録を申請しており、現地の代理店を通して行っている。北海道、山形県、徳島県の食料品製造業も税に関しては専門家を利用し、自社では米国食品医薬品局(FDA)の調査に集中した。

9割近い企業が顧客ニーズの調査をした。バイヤーからの情報を利用して顧客ニーズ調査をした企業が多かった(食料品製造業・福島、繊維工業・大阪)(図4参照)。

図4:顧客について情報収集した企業の割合
輸出予定国の顧客ニーズを調査した「はい」87.8%、「いいえ」12.2%、バイヤーからの情報も利用して顧客ニーズを調査した「はい」76.0%、「いいえ」24.0%。

出所:ジェトロ作成

競合分析では、8割近い企業が競合先の調査を行い、その9割近くが進出予定国へ出向いて情報を収集した。収集先としては、現地の輸入代理店、現地のバイヤー、展示会などが挙がった。

他社の進出事例を参考にした企業は、意外にも3割台半ばにとどまった。(図5参照)

その理由として、大手の競合他社は資金力が違うので参考にできないとの声が上がる一方、米国に長年輸出している企業に直接話を聞いたり(食料品製造業・沖縄)、輸送費を抑えるための輸送手段を参考にしたりしたという(食料品製造業・北海道)。

図5:他社の進出事例を参考にした企業の割合
他社の進出事例を参考にした「はい」36.0%、「いいえ」640%。

出所:ジェトロ作成

自社で顧客ニーズ調査や競合先の調査に十分に手が回らなければ、バイヤーや展示会などからの情報を利用して調査をするのも1つの手だ。

基礎調査段階の期間が2~3年未満の企業に限ってみると、米国売上高比率が30%以上を占める企業は5割、同じく3年以上の企業でみると7割強を占めた(図6参照)。基礎調査段階の期間が長いほど、米国の売上高比率が高い傾向が見られた。

図6:基礎調査段階に要した期間の割合
1年未満が42.6%。1年~2年未満が27.7%、3年以上が14.9%、2年~3年未満が12.8%、不明が2.1%。

出所:ジェトロ作成

例えば、沖縄県の飲料製造業は、基礎調査に3年間費やした。うち2年間は現地で情報収集などの調査に注力し、残りの1年間は調査と同時に商品開発を行った。鹿児島県の飲料・たばこ・飼料製造業は、3年間で輸出入手続き・法制度などの規制について情報収集を行った。他方で、埼玉県の家具・装備品製造業は、米国市場から一度撤退した経験を生かして、改めて基礎調査に注力し、米国向けの商品開発や販売先の見直しを進めた。福島県の食品メーカーのように、他国で輸出実績があった企業では基礎調査に時間を費やさない事例もあった。

7割を超える企業が補助金制度を利用

外部スキームの活用状況については、約9割の企業がジェトロ現地事務所のアドバイザーなど、外部アドバイザーに相談したと回答した(図7参照)。

図7:外部スキームの活用した企業の場合
ジェトロ現地事務所のアドバイザーなど、外部アドバイザーに相談した「はい」88.0%、「いいえ」12.0%、地元自治体の補助金制度など補助金(返済不要)で利用できるものがあるか調べた、または利用した「はい」73.5%、「いいえ」26.5%。セミナーなどに積極的に参加し、他の海外進出を目指す企業とのネットワーク作りをした。 「はい」66.0%、「いいえ」34.0%、 検討内容について外部関係者・有識者によるレビューを受けた。 「はい」66.0%、「いいえ」34.0%。

出所:ジェトロ作成

例えば、福島県と島根県の食料品製造業は、ジェトロや県のアドバイザーと現地に出向き商品市場の確認、試飲販売などの競争力の確認を行い、商談まで二人三脚で輸出事業に取り組んでいる。

地元自治体の補助金制度などを利用している企業は7割を超える。従業員数が20人未満では、9割近い企業が補助金制度を利用している。例えば、茨城県の飲料・たばこ・飼料製造業は、県や中小企業振興公社の補助金制度を活用して展示会出展、渡航費の補助を受けた。沖縄県の飲料・たばこ・飼料製造業は、2カ月の出張渡航費・宿泊費の補助を受け、2人ずつ西海岸、東海岸に分かれて取引先と接して、信頼関係を築くことに成功した。北海道の食料品製造業は、食品安全基準の1つであるFSSC22000(食品安全規格認証)取得のため、農林水産省から補助を受けた。また、長崎県や愛知県の汎用(はんよう)機械器具製造業は、産業振興機構から外国特許出願助成金を受け商標登録の際に活用した。補助金がないと現地に出向いての情報収集や展示会出展を継続して行うのは難しいとの声もあり、補助金制度を有効活用してみるのも一案である。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課
小山 勲(こやま いさお)
2013年、TOKAIホールディングス入社。2018年4月よりジェトロに出向し、海外調査部米州課勤務。