特集:中堅・中小企業の米国ビジネス先行事例から学ぶ総論:対米輸出成功の方程式は

2019年3月8日

日本の中堅・中小企業の間で、輸出先国として米国の注目度が増している。全世界の4分の1を占める市場規模や安定成長が続く経済に加えて、付加価値の高い日本企業の製品に対する需要、優れたビジネス環境や法制度などが評価されているようだ。もっとも、米国市場でビジネスに成功するには、決して簡単ではない。世界中の企業が集まる上、顧客の要求も高いのがその理由だ。では、米国向け輸出ビジネスに成功する企業に何か共通項はあるのだろうか。今回、ジェトロ事業の利用企業50社を対象に調査した結果をもとに考えてみたい。

中堅・中小企業の米国市場への関心が上昇

ここ数年、米国市場に対する日本企業の関心は高い。ジェトロの「2017年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査PDFファイル(3.7MB) 」(2018年3月)によると、「現在、海外に拠点があり、今後さらに海外進出の拡大を図る」と回答した企業のうち、米国を選択した企業は29.0%で、中国(49.4%)、ベトナム(37.5%)、タイ(36.7%)に次ぐ。2014年度以降、この数値は3割前後で安定的に推移している。

米国市場に対する注目度は、中堅・中小企業ではより高い。ジェトロが取り組む「新輸出大国コンソーシアム事業」の支援企業に対する「WEBアンケート調査」(アンケート期間:2018年2月13日~28日 有効回答率26.9%)によると、回答企業1,738社のうち、進出先または輸出先として米国を1番目に挙げる企業は331社(19.0%)で最多で、1~3番目までの合計でも496社(28.5%)で最大となった(図1参照)。ベトナム、中国、タイを上回る。このうち「輸出先」として米国に関心を示す企業は461社おり、「輸出市場」として魅力を感じている企業が多いことが分かる。

図1:進出・輸出を検討している国(上位5カ国)
「ジェトロ新輸出大国コンソーシアム事業WEBアンケート調査」によると、「進出・輸出を検討している国」として、回答企業に上位3カ国を聞いたところ、米国、ベトナム、中国、タイ、台湾の順に回答が多かった。米国を選択した企業は28.5%おり、そのうち1カ国目に選択した企業は19.0%、2カ国目または3カ国目に選択した企業は9.5%だった。同様に、ベトナムを選択した回答者は28.0%おり、そのうち1カ国目に選択した企業は15.9%、2カ国目または3カ国目に選択した企業は12.1%だった。中国を選択した企業は23.4%おり、そのうち1カ国目に選択した企業は12.3%、2カ国目または3カ国目に選択した企業は11.1%だった。タイを選択した回答企業は20.6%おり、そのうち1カ国目に選択した企業は8.5%、2カ国目または3カ国目に選択した企業は12.1%だった。台湾を選択した企業は19.0%おり、そのうち1カ国目に選択した企業は7.2%、2カ国目または3カ国目に選択した企業は11.8%だった。

出所:「ジェトロ新輸出大国コンソーシアム事業WEBアンケート調査」をもとに作成

日本企業の米国向けビジネスへの関心の高まりを受け、ジェトロではこれまで既進出企業を対象にした先行調査として、「日本企業の北米展開事例PDFファイル(3.7MB) 」(2018年5月)、「日本企業の北米展開事例PDFファイル(3.3MB) 」(2017年3月)などを公表してきた。いずれも米国進出または最新ビジネス動向を扱ったものだが、日本から輸出ビジネスを手掛ける事例は多くなかった。そこで今回、「中堅・中小企業の米国ビジネス先行事例調査」と題して、米国向け輸出に取り組む企業の事例を調査した。調査対象企業は、上述した「新輸出大国コンソーシアム事業」をはじめとするジェトロ事業に参加経験のある企業のうち、米国市場への輸出実績のある企業50社を選定した(表1参照)。選定にあたっては、本社所在地、産業属性などができるだけ多様になるように配慮した。食料品や飲料品などが多いのは、条件を満たす母数そのものにも同業種が多いことによる。従業員規模別にみると、10人未満の企業が9社、10人以上20人未満の企業が9社、20人以上30人未満の企業が5社、30人以上50人未満の企業が7社、50人以上100人未満の企業が12社、100人以上の企業が8社あった。

表:調査対象企業の内訳

地域別インタビュー件数
地域名 社数 割合(%)
北海道 3 6
東北 4 8
関東 8 16
中部 9 18
近畿 6 12
中国 4 8
四国 2 4
九州 14 28
50 100
産業分類別インタビュー件数
産業 社数 割合(%)
林業 1 2
食料品製造業 13 26
飲料・たばこ・飼料製造業 11 22
繊維工業 3 6
家具・装備品製造業 1 2
金属製品製造業 4 8
はん用機械器具製造業 2 4
業務用機械器具製造業 5 10
電子部品・デバイス・電子回路製造業 2 4
輸送用機械器具製造業 1 2
情報サービス業 1 2
飲食料品卸売業 2 4
その他の卸売業 1 2
飲食料品小売業 3 6
50 100

注:産業分類は日本標準産業分類に基づく。複数の事業を有する場合、米国輸出製品に最も関連がある分類を選択。
出所:ジェトロ作成

米国向け輸出に必要な要素は?

輸出ビジネスを考える際に、多くの企業が事前準備、事業計画立案などの検討段階、必要な市場調査やビジネスモデルの組成を経て、実際の事業立ち上げに至るケースが一般的である(図2参照)。

図2:輸出ビジネス立ち上げ時の一般的なプロセスと論点
一般的なプロセスとしては検討段階(事前準備・事業計画)、意思決定段階(マーケティング調査・ビジネスモデル組成)、事業立ち上げのプロセスがある。検討段階(事前準備・事業計画)では、取り組むべき課題として、内部環境分析に基づく組織体制面の整備、内外リソースの効果的な活用、事前市場調査があげられる。次に、意思決定段階では、取り組むべき課題として、詳細な外部環境分析(詳細な市場環境、競争環境など)、マーケティング戦略(商品、価格、流通、広報、人材など)があげられる。最後に、事業立ち上げ段階では、取り組むべき課題として、販売先、ビジネスパートナー探し、直面しやすい課題とその解決、米国の独自性に基づく留意事項があげられる。

出所:ジェトロ作成

米国への輸出を検討する段階で、必要不可欠なのが組織体制の整備である。そこで、社内における担当者の任命、経営陣のコミットメントを調べたところ、対象企業の9割以上が米国ビジネスを担当するチームや担当者を指名するとともに、経営陣が直接的に関与する体制を整備していた(詳細については「米国輸出事業検討段階における成功企業の特徴」を参照)。一般的に、国内に比べて初期費用が掛かりやすい海外ビジネスでの成否には経営陣のコミットメントが結果を左右すると言われているが、今回の調査でも裏付けられた。米国以外の他地域との取引と比較しても、経営者自らが米国ビジネスを主体的に担うケースが多く確認された。日本からの距離が遠い米国市場を攻めるには、経営者自らの関与もプラスの効果を発揮していると言えそうだ。一方、新規人材採用を含めた、外部リソースの活用に関しては、企業によって取り組み方が大きく分かれた。米国向けを含む輸出ビジネスを本格化するにあたって外部人材を採用した企業が18社(36%)いる一方、既存の人材で対応した企業が32社(64%)と多数を占めた。

組織体制の整備とともに、事前準備の段階では、製品の市場性や成約可能性など事業計画の妥当性をはかることが求められる。市場環境などの外部環境を適切に把握することは、米国市場ではとりわけ重要になる。最大の理由は、国土の広さ、州ごとに異なる法制度、複雑な人種・文化構成などに基づく市場の多様性にある。現地の顧客が求める商品の種類、価格、品質などは、地域や取引先によって大きく異なる。流通経路についても、産業、地域などによってさまざまな場合があり、一筋縄ではいかないことが多い。今回の調査でも43社(86%)が、現地市場での競争力の有無を検証する上で、市場情報をもとに事前検討している。特筆されるのが、同じく43社(86%)が自ら進出予定国へ出向いて市場情報を収集した点である。次に述べるマーケティング戦略を立てる上で、現地調査が重要な意味を有することが伺える。

いかに差別化し、比較優位を導くか

次に、マーケティング戦略における共通性を見ると、技術力など独自の製品・サービス力を訴求した企業が33社(66%)と、多数を占めた。前述した「WEBアンケート調査」で米国に関心を示した企業496社の中でも、商材の差別化度合いについて「とても差別化されている」と回答した米国関心企業は28.0%で、全体平均の21.2%を6.8%ポイント上回ったが、米国市場で成約に結びついた企業は、製品・サービスを差別化し、競合先に比較優位を築く意識がより高いことがうかがえる。比較優位を築く上では、現地の顧客の要望に合わせた製品・サービスのカスタマイズも重要になる。米国市場向けに商品やサービスを改良・開発した企業も、全体は34社(68%)に上った。

多くの企業にとって広い米国市場を自社だけで開拓するのは容易ではない。その場合に有効なのが、商社や現地輸入業者の利用だ。消費者向けの流通網が整備されている食品や飲料などでは、それぞれの商社や輸入業者が独自の強みとする商流を有していることが多い。商談などで情報交換をしながら、自社がターゲットとする顧客セグメントを得意とする最適な取引先が見つかるまで、独占契約を結ばないなどの工夫が望まれる。特に、取扱品目数の多い商社では、メーカーと協力して顧客開拓することに必ずしも積極的でない事例も報告された。

巨大な国土を抱える米国では、アマゾン、イーベイなどの小売業を中心に、電子商取引(EC)の利用が拡大している。米国商務省PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(114KB) によると、2009年には小売業に占めるEC比率は4%程度だったが、2018年第3四半期(7~9月)には9.8%(季節調整済み推計値)にまで増加した。数は多くないものの、今回の調査対象企業の中にもEC市場に注目する動きが見て取れる。シーエイスポルト(C/Asport)のブランド名で自動車用交換パーツやアクセサリーを扱う椿本(大阪府)は、アマゾンのフルフィルメントサービス(注)を利用して米国向け輸出を実現した企業だ。同社は、日本国内で取引関係を有していたアマゾンの日本法人の誘いがきっかけで、2017年12月から米国向け輸出を開始した。同社とのメールなどでの連絡は同社の社長が自ら行う。一方、靴下製造販売大手タビオ(大阪府)は2017年に米国のビジネスパートナーと協力して、自社の専門販売サイトを立ち上げた。電子商取引を事業計画に取り込む事例は今後も増加が予想される。


注:
出品者が商品をAmazonの倉庫(フルフィルメントセンター)に納品すると、Amazonが商品をピッキング、梱包、出荷し、カスタマーサービスも提供する。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部海外調査企画課長
秋山 士郎(あきやま しろう)
1995年、ジェトロ入構。ジェトロ・アビジャン事務所長、日欧産業協力センター・ブリュッセル事務所代表、ジェトロ対日投資部対日投資課(調査・政策提言担当)、海外調査部欧州課、国際経済課、ニューヨーク事務所次長(調査担当)、米州課長などを経て2019年2月より現職。

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