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特集:日本企業の海外事業展開を読む日本企業はCSRへの取り組みを強化し企業価値の向上を

2018年4月24日

ジェトロが実施した2017年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」 (以下、本調査)では、企業の社会的責任(Corporate Social Responsibility、以下、CSR)に関する方針の有無を尋ねた。「CSR方針を策定している」企業、「策定することを検討している」企業は合わせて全体の65.6%を占め、2015年度から2.5%ポイントの微増となった。サプライチェーンにおける関係性では、労働・安全衛生・環境に関する「方針への準拠を調達先に求めている」と答えた企業数よりも、「方針への準拠を顧客先から求められたことがある」と答えた企業数が大きく上回り、日本企業が受け身である傾向は2015年度と同様である。

「責任あるサプライチェーン」の潮流

2015年6月、エルマウ・サミットという先進国政府間の協議の場において、民間部門のサプライチェーンのあり方が言及され、同首脳宣言では民間部門サプライチェーン管理に対して政府としての支援が必要であることが明記された。同宣言が、グローバルビジネス、そして日本のビジネスにおける実務のあり方へ与えるインプリケーションは大きい。この宣言に表れているように、「責任あるサプライチェーン」は、世界の消費者、企業、投資家、政府間の関心事となっている。日本企業はサプライチェーンにおいてサプライヤーおよび納入先とどのような関係にあるのであろうか。

CSRとは一般に、法令順守、消費者保護、環境保護、労働、人権尊重、地域との関与など非財務的な分野で、企業が持続的な発展をするために行う自主的取り組みを意味し、企業が人権、社会、環境に与えるインパクトに対する責任だと理解されている。本調査(注1)のねらいは、海外事業を展開する日本企業のCSRに関する方針を調査することにより、企業がトップコミットメントとして課題を認識しているのか、サプライチェーン上のリスクとなりうる分野をカバーしているかどうかを明らかにし、日本企業の有効な事業展開戦略のベースに資することにある。

CSR方針に明示されている事項の選択肢は、「適切な労働慣行・労働安全衛生の確保」「人権の尊重」「環境保全・保護への取組み」「地域社会への配慮・参画」「消費者の安全・情報保護」「腐敗防止・公正な取引の確保」「その他」とした。これらは経済協力開発機構(OECD)多国籍企業ガイドラインの章立てを考慮した。2015年度に同様の調査を実施しており、それとの比較も試みた。

CSR方針策定は金融・保険がトップ

CSRに関する企業方針を策定している企業は全体の34.1%であった(図1)。2015年度(34.7%)から比較するとほぼ横ばいである。大企業では73.4%から77.2%に、中小企業では24.3%から24.1%への変化である。企業規模による違いが大きく、大企業のCSR方針を有する割合は中小企業の3倍に達する。今後策定を検討している企業(31.5%)を合わせると、その割合は65.6%であり、2015年度の63.1%から微増している。

海外事業に対する取り組み形態(輸出を行っている企業、海外進出済み企業、海外ビジネスを行っていない国内企業)別では、CSR方針を策定する企業が、国内企業では20.7%にとどまる一方、海外進出企業では47.6%に上った。海外進出企業は、グローバル市場における競争力確保の観点から、CSRへの取り組みを積極的に行っていると観察される。業種別にみると、製造業では、自動車/自動車部品/そのほか輸送機器が59.2%、情報通信機械器具/電子部品・デバイス58.7%、化学55.8%が高い。非製造業では金融・保険の69.4%が全業種を通して最も高い。金融機関は自らのおよび顧客のリスク管理の観点から、企業融資、プロジェクト・ファイナンスそして資金運用においてCSR方針の策定が不可欠になってきており、策定率の高さにつながっていると考えられる。

図1:CSRに関する方針の有無

時系列
CSRに関する方針の有無について、2015年度調査と2017年度調査の回答率の推移。単位は%。母数は2015年度の全体が3,005社、2017年度が同3,195社。「方針を作成している」の回答率は、2015年度が34.7%、2017年度が34.1%。「方針を策定していないが、策定することを検討している」は同28.4%、31.5%。「方針を策定しておらず、今後も策定する予定はない」は同29.1%、27.5%。「無回答」は同7.9%、6.9%。
企業規模別
 CSRに関する方針の有無について、2017年度調査の企業規模別の回答率。単位は%。母数は、大企業が604社、中小企業が2,591社。「方針を策定している」の回答率は大企業が77.2%、中小企業が24.1%、「方針を策定していないが、策定することを検討している」は同12.3%、35.9%、「方針を策定しておらず、今後も策定する予定はない」は同6.6%、32.3%。「無回答」は同4.0%、7.6%。
出所:
2017年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

CSR方針に明示されている、もしくは策定を検討している事項としては、「適切な労働慣行・労働安全衛生の確保」(CSR方針を策定している企業および策定を検討している企業をあわせて74.8%)が最多で、「環境保全・保護への取組み」(同66.6%)、「地域社会への配慮・参画」(同61.3%)、「消費者の安全・情報保護」(同49.5%)と続く。「適切な労働慣行・労働安全衛生の確保」は労働者の権利、「地域社会への配慮・参画」は地域住民の権利、「消費者の安全・情報保護」は消費者の権利など、それぞれ人々の権利に関わるものであり、人権の尊重と重なるものではあるが、「人権の尊重」を明示している企業は45.3%にとどまっている。「環境保全・保護への取組み」を項目として定める割合が最も高い業種は、自動車/自動車部品/その他輸送機器(93.7%)、化学(87.0%)、情報通信機械器具/電子部品・デバイス(80%)である。これらの3業種は「人権の尊重」を方針に明記している割合の高い上位3業種でもある。

求めるよりも求められている日本企業

サプライチェーンにおける関係性については、「貴社(本社)では、調達先の工場や職場の労働・安全衛生・環境への取り組みに関する方針を有し、調達先にその準拠を求めていますか(調達先への方針)」という質問に対し、方針を有している企業、今後作成する予定がある企業の比率を合計すると、全体では54.9%になった(図2)。大企業では7割、中小企業では約5割を占める。大企業と中小企業のコントラストが浮かび上がる。大企業は 43.0%の企業が「方針を有し、調達先に準拠を求めている」と回答する一方、中小企業では同 14.9%と企業規模による差が大きい。 業種別では、自動車/自動車部品/その他輸送機器(40.8%)、情報通信機械器具/電子部品・デバイス(38.1%)、建設(37.3%)が高い。

図2:調達先への労働・安全衛生・環境に関する方針の有無(時系列、企業規模別)

時系列
調達先への労働・安全衛生・環境に関する方針の有無について、2015年度調査と2017年度調査の回答率の推移。単位は%。母数は、2015年度の全体が3,005社、2017年度が同3,195社。「方針を有し、調達先に準拠を求めている」の回答率は2015年度が21.0%、2017年度が20.3%。「方針を有しているが、調達先に準拠は求めていない」は同19.0%、17.1%。「方針は有していないが、今後、作成する予定がある」は同14.5%、17.5%。「方針は有しておらず、今後も、作成する予定はない」は同35.1%、34.7%。「無回答」は、同10.4%、10.4%。
企業規模別
調達先への労働・安全衛生・環境に関する方針の有無について、2017年度調査の企業規模別の回答率。単位は%。母数は、大企業が604社、中小企業が2,591社。「方針を有し、調達先に準拠を求めている」の回答率は大企業が43.0%、中小企業が14.9%。「方針を有しているが、調達先に準拠は求めていない」は同20.5%、16.3%。「方針は有していないが、今後、作成する予定がある」は同6.5%、20.1%。「方針は有しておらず、今後も、作成する予定はない」は同18.4%、38.5%。「無回答」は、同11.6%、10.2%。
出所:
2017年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

調達先に対する方針を有し、準拠を求めていると回答した企業(大企業260社、中小企業387社)に、さらに「どこの調達先に対してそれを求めているか」と質問したところ、大企業では91.5%、中小企業では84.2%が国内の調達先に準拠を求めている。海外の調達先に準拠を求めている割合も、大企業では52.3%、中小企業で33.6%ある。さらに、大企業で22.7%、中小企業で14.5%が「調達先にその企業の調達先にも準拠させるよう求めているか」と回答している。

逆に、「貴社(本社)では、顧客(納入先)企業から、工場や職場の労働・安全衛生・環境への取り組みに関する当該顧客(納入先)の方針への準拠を求められたことがありますか(顧客方針への準拠)」という質問に対しては、全体の42.2%が「準拠を求められたことがある」、47.1%が「求められたことはない」と回答している。「求められたことがある」のは、大企業では54.3%、中小企業では39.4%である。

図3:労働・安全衛生・環境に関する顧客方針への準拠(全体、時系列、企業規模別)

時系列
労働・安全衛生・環境に関する顧客方針への準拠について、2015年度調査と2017年度調査の回答率の推移。単位は%。母数は、2015年度の全体が3,005社、2017年度が同3,195社。「準拠を求められたことがある」の回答率は2015年度が42.1%、2017年度が42.2%。「準拠を求められたことはない」は同46.4%、47.1%。「無回答」は、同11.5%、10.7%。
企業規模別
労働・安全衛生・環境に関する顧客方針への準拠について、2017年度調査の企業規模別の回答率。単位は%。母数は、大企業が604社、中小企業が2,591社。「準拠を求められたことがある」は、大企業が54.3%、中小企業が39.4%。「準拠を求められたことはない」は同32.3%、50.6%。「無回答」は、同13.4%、10.0%。
出所:
2017年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

業種別にみると、求められたことがある企業は、情報通信機械器具/電子部品・デバイス(79.4%)、自動車/自動車部品/その他輸送機器(66.3%)、化学(65.3%)、石油・石炭製品/プラスチック製品/ゴム製品(60.2%)で6割を超え、建設(54.5%)、鉄鋼/非鉄金属/金属製品(52.8%)、電気機械(51.7%)で5割を超えている。

着目したいのが、「方針への準拠を求めている」と答えた企業数よりも、「求められたことがある」と答えた企業数が大きく上回るということである。サプライチェーンの構造上から行けば、完成品をつくる会社に対して、部品供給の会社は複数あるため、求めるよりも求められる数が多くなるのは自明の前提である。実際、大企業では、「求めている」のが260社に対し、「求められたことがある」と答えたのは328社である。中小企業では、「求めている」のは387社に対し、「求められたことがある」は1021社、およそ2.6倍になる。これは2015年度の2.4倍よりも増加している。

さらに、「どこから準拠を求められているのか」というと、88.1%が国内の顧客(納入先)から準拠を求められていると回答している。海外の顧客に準拠を求められているというのも、大企業では47.0%、中小企業で24.1%ある。さらに、大企業の23.2%、中小企業の14.2%が、「顧客(納入先)から当該企業が定める労働・安全衛生・環境に関する方針を自社の調達先にも準拠させるように求められたことがある」と回答した。

これらの調査結果から、サプライチェーンにおいて、企業間で労働・安全衛生・環境に関する取り組みを求めている、求められているという関係性が存在することが明らかになった。数字の上では日本企業、特に中小企業が受け身であるということが看取でき、その傾向は2015年度調査と同じである。

変わるビジネス環境、変わらない日本企業

CSRの重要性に関する認識が広まる中、世界ではその推進に向けたさまざまな施策が実行されてきた。『ビジネスと人権に関する指導原則』(UN Guiding Principles on Business and Human Rights)が2011年国連人権理事会で承認されてから、各国政府、企業、市民社会がさまざまな取り組みを加速化させている。OECD多国籍企業行動指針 の改訂(11年)、2015年英国現代奴隷法、2016年策定のドイツの行動計画には一定規模以上の企業に人権デューディリジェンス(注2)を求める政策が盛り込まれている。自由貿易協定(FTA)の条文でも労働基準の順守や環境保全を求める規定が盛り込まれつつある。

本調査では、サプライチェーンの関係において、調達先に対する方針を有しそれに準拠するよう求めている日本企業よりも、納入先から当該企業の方針に準拠するよう求められている日本企業が、規模、業種にかかわらず多いことが明らかになった。自社の方針を有し調達先に対しその準拠を求めているのを能動的、顧客(納入先)の方針への準拠を求められているのを受動的とすれば、日本企業は受動的であり、特に中小企業にその傾向が見られる。CSRの方針を有していないことにより、顧客、取引先、その他のステークホルダーに対し、環境や人権に配慮したオペレーションを行っているとの明確な説明ができないため、取引や投資対象から外されるなど不利な立場におかれる可能性がある。

現時点において日本政府による民間企業のサプライチェーン監査を促す施策はない。日本企業は、世界各国でサプライチェーンにおけるデューディリジェンスの情報開示の規制に、おのおの対応しなければならない状況におかれている。グローバル市場で操業する企業は先進的に取り組みを行っている一方、日本企業の大勢は2015年度調査時点と変わらない。企業のサプライチェーンの広がりを踏まえれば、環境配慮や人権尊重に取り組むことでリスクを管理し、商品やサービスそして企業自体の付加価値を高めることができる。競争力のあるビジネス展開のために不可欠なものとしてCSRに取り組むことが、今後ますます重要になる。


注1:
本調査は、海外ビジネスに関心の高いジェトロのサービス利用日本企業9,981社を対象に、2017年11月から2018年1月にかけて実施。3,195社から回答を得た(有効回答率32.0%、回答企業の81.1%が中小企業)。プレスリリース・概要報告書も参考にされたい。なお、過去の調査の報告書もダウンロード可能である。
注2:
人権という観点からの企業経営、方針、オペレーション、サプライチェーン全体の点検・見直しをすることを人権デューディリジェンスという。拙稿「ビジネスと人権を巡るグローバルサプライチェーンの潮流―人権リスクを意識しない日本企業のリスク」(ジェトロセンサー2017年10月号)を参考にされたい。
執筆者紹介
ジェトロ・アジア経済研究所新領域研究センター法・制度研究グループ長
山田 美和(やまだ みわ)
法律事務所勤務を経て1998年アジア経済研究所入所。海外派遣員(バンコク)などを経て2011年より現職。

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