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特集:日本企業の海外事業展開を読む米新政権の政策はさまざまな国でリスク要因に

2018年4月24日

ジェトロが実施した2017年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(以下、本調査)によれば、米新政権の政策はさまざまな国でビジネス上の課題として認識されていることが分かった。一方、英国の欧州連合(EU)離脱は欧州域内リスクと認識されている。また、中国の課題指摘率が2015年度調査から全項目で低下した一方、フィリピン、ミャンマー、インド、メキシコでは全般的に課題を認識する企業が増加した。ビジネスを行う上での最大の魅力・長所は、調査対象の11カ国全てで「市場規模・成長性」となった。事業拡大意欲が増加しているベトナムでは、「市場規模・成長性」や「納入先集積」の魅力が上昇した。

英国のEU離脱は欧州域内リスク、米新政権の政策はさまざまな国でリスク要因に

本調査(注1)では、海外ビジネスを行っている、または検討している国・地域について、ビジネスを行う上での課題および魅力・長所をどのように評価しているか尋ねた。なお、11カ国(中国、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、インド、米国、メキシコ、英国)については、調査票に国名の選択肢を明示する一方、それ以外の国・地域については自由回答とする形式を採った。

まず、各国のビジネス環境の課題について。今回の調査では、課題の選択肢に、「英国のEU離脱決定によるリスク・問題あり」および「米トランプ新政権の政策変更によるリスク・問題あり」(注2)という項目を加えた。その結果、「英国のEU離脱」は、英国で最大の課題(回答率65.0%)となった(表1)。自由回答の国・地域も含めると、ドイツ(同36.4%)や欧州地域計(同38.6%)で最大の課題として挙げられた他、フランス(同36.4%)でも、「特段のリスク・問題を認識していない」に次ぐ回答率となった。しかし、欧州域外国・地域では、回答率が軒並み0~2%台となり、英国のEU離脱は欧州域内リスクと認識されていることが分かった。

一方、米新政権の政策は、さまざまな国・地域でリスク要因として認識されている。米国(同58.6%)、メキシコ(同52.8%)、ロシア(同50.0%)で回答率5割を超える最大課題として認識された他、アラブ首長国連邦やカナダ(それぞれ同28.6%)、韓国(同21.4%)、中東地域計(同36.7%)、中南米地域計(同20.0%)で回答率が2割を超えた。中国(同13.8%)やトルコ(同16.7%)でも1割を超えている。

メキシコやカナダは北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉、韓国は米韓FTA再交渉、ロシアは2017年8月の対ロシア制裁強化法の成立、中東地域はイスラエルのエルサレム首都認定(2017年12月)やイランとの核合意破棄の可能性(注3)による中東情勢の悪化、中南米地域(メキシコ除く)は対キューバ制裁の強化といった新政権の政策が影響していると見られる。また、中国は、米国の対中貿易赤字是正に向けた各種取り組みが影響している可能性がある。トルコは、国営銀行幹部に対する裁判(イラン制裁違反とマネーロンダリング(資金洗浄)の疑い)が2017年11月に米国で開始され、その判決結果がトルコ経済に与える影響が懸念されていることなどが反映されたと思われる。

表1:英国のEU離脱、米新政権の政策について課題指摘率10%以上の国・地域

課題:英国のEU離脱決定によるリスク・問題あり (複数回答、%、社)
国・地域分類 国・地域 回答率 母数
調査票掲載国 英国 65.0 523
自由回答欄に挙げられた国・地域 ドイツ 36.4 11
フランス 36.4 * 11
欧州計 38.6 57
課題:米トランプ新政権の政策変更によるリスク・問題あり (複数回答、%、社)
国・地域分類 国・地域 回答率 母数
調査票掲載国 米国 58.6 1,026
メキシコ 52.8 388
中国 13.8 1,853
自由回答欄に挙げられた国・地域 ロシア 50.0 12
アラブ首長国連邦 28.6 * 7
カナダ 28.6 * 7
韓国 21.4 * 14
トルコ 16.7 6
中東計 36.7 * 30
中南米計 20.0 15
注1:
母数は国・地域ごとの課題に回答した企業の総数(現在ビジネスを行っている、または検討している国・地域のみ回答)。
注2:
各セルの値は、各国・地域の母数に占める項目ごとの回答率(課題ごとの回答数/母数)。
注3:
太字のセルは各国・地域について、回答率が最大の課題。*を付したセルは同様に、回答率が2番目に高い課題。
注4:
「調査票掲載国」は中国、タイ、マレーシア、インドネシア、フィリピン、ベトナム、ミャンマー、インド、米国、メキシコ、英国の11カ国。「自由回答欄に挙げられた国・地域」は、自由回答欄に挙げられた、回答社数が5社以上の国・地域。地域計は自由回答欄に挙げられた、当該地域に含まれる全ての国・地域を足しあげたもの。
出所:
2017年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

中国の課題指摘率は前回調査から全項目で低下

「特段のリスク・問題を認識していない」と回答した企業の割合は、中国が6.6%と最も低く、次に低いミャンマー(19.4%)やインド(19.5%)とも開きがある。このように、中国の課題指摘率は依然最も高いものの、同比率は全項目において2015年の前回調査から低下し、中国のビジネス環境は着実に改善傾向にある。中でも、「知財保護」、「政情・社会情勢・治安」、「代金回収」、「行政手続き」、「法制度・運用」、「為替リスク」、「労務問題」、「インフラ」の8項目で前回調査から5%ポイント以上、課題指摘率が低下した(表2、課題の正式名称は、注4参照)。

米国・英国を除く9カ国については、過去の調査との比較が可能である。中国以外に、前回調査から5%ポイント以上課題指摘率が低下した国・課題としては、フィリピンを除く8カ国の「インフラ」、タイの「政情・社会情勢・治安」(37.4%→24.6%)「労働力不足・採用難」(18.6%→13.3%)、ベトナムの「法制度・運用」(26.4%→21.1%)が挙げられる。

フィリピン、ミャンマー、インド、メキシコでは課題指摘率が上昇

反対に、前回調査から課題指摘率が5%ポイント以上上昇した国・課題としては、フィリピンやミャンマーの「政治・社会情勢・治安」(フィリピンが26.6%→33.9%、ミャンマーが32.9%→39.7%)や、インドの「自然災害・環境汚染」(11.6%→20.1%)が挙げられる。また、フィリピン、ミャンマー、インド、メキシコでは、「特段のリスク・問題を認識していない」の回答率が5%ポイント以上低下し、全般的に課題を認識する企業の割合が増加した。

フィリピンは相次ぐ爆発事件などに対する国家非常事態宣言(全土、2016年9月)や戒厳令(ミンダナオ地域、2017年5月)の発動、ミャンマーは少数民族のイスラム教徒ロヒンギャを巡る混乱などが課題指摘率上昇につながったと見られる。インドは、深刻な大気汚染という生活環境の悪化が反映されたと思われる。また、環境汚染を背景に、2030年までに国内販売車を全て電気自動車(EV)にするという政策目標が発表されたこと(2017年6月)、デリー首都圏でのビニール袋やプラスチック容器の使用禁止の判決(2016年12月)なども影響している可能性がある。メキシコは前述のNAFTA再交渉など、主に米新政権の政策変更が影響したと見られる。

ベトナムの市場規模、納入先集積の魅力が上昇

各国の魅力・長所については、調査対象の11カ国全てで、「市場規模(市場規模・成長性)」が最大の回答率となった(表3)。ASEAN諸国については、今回新設した「親日感情(親日的な国民感情)」が2~3番目に高い回答率となっている。同様に今回新設した「技術力(現地企業・大学等の高い技術力)」については、米国(13.8%)、英国(13.5%)に続き、インド(9.3%)、中国(6.1%)が高評価となった。

2013年度の前回調査と比べると、ベトナムやフィリピンの「市場規模」(ベトナムが75.0%→82.2%、フィリピンが63.7%→72.7%)、ベトナムやミャンマーの「納入先集積(顧客(納入先)企業の集積)」(ベトナムが14.7%→19.8%、ミャンマーが3.7%→8.8%)、インドの「人材の質(従業員の質の高さ、優秀な人材が豊富)」(4.5%→10.2%)、メキシコの「人件費・労働力(人件費の安さ、豊富な労働力)」(17.2%→23.7%)、「コミュニケーション(言語・コミュニケーション上の障害の少なさ)」(1.5%→6.6%)の回答率が前回調査から5%ポイント以上上昇した。今回の調査では、ベトナムで販売機能や汎用(はんよう)品の生産機能を拡大する企業が増えたが、その背景には市場、生産拠点の両面でベトナムの魅力が増していることがあると解釈できる。


注1:
本調査は、海外ビジネスに関心の高いジェトロのサービス利用日本企業9,981社を対象に、2017年11月から2018年1月にかけて実施。3,195社から回答を得た(有効回答率32.0%、回答企業の81.1%が中小企業)。プレスリリース・概要報告書も参考にされたい。なお、過去の調査の報告書もダウンロード可能である。
注2:
調査票では、米新政権の政策変更の例として、「国内政策としては、環境規制の緩和、インフラ投資促進、法人税削減に向けた税制改革など、通商・外交政策としては環太平洋パートナーシップ(TPP)離脱、NAFTA再交渉、貿易制限的措置の執行強化、米韓FTAの見直し、対ロシア制裁強化、対中貿易赤字是正に向けた取り組み、パリ協定脱退などが挙げられる」と注意書きを付している。
注3:
2015年に欧米諸国とイランの間で、イランが核開発を制限する代わりに、欧米諸国が経済制裁を解除するとの内容が合意されたが、トランプ政権は同核合意の破棄を検討している。2018年1月の見直し時には、核合意に基づく制裁解除の継続が決定されたが、5月に再び、核合意を破棄するか制裁解除を継続するかの決定が行われる予定となっている。
注4:
課題の正式名称は以下の表のとおり。
注5:
魅力・長所の正式名称は以下の表のとおり。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
明日山 陽子(あすやま ようこ)
2001年、ジェトロ入構。ジェトロ経済分析部国際経済課(2001-2006年)、アジア経済研究所・海外派遣員(米国、2006-2008年)、アジア経済研究所・新領域研究センター、同・開発研究センター(2008-2017年)を経て現職。

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