米USTR、USMCA延長は欠陥が解決可能な場合のみとする方針を表明
(米国、メキシコ、カナダ)
ニューヨーク発
2025年12月19日
米国通商代表部(USTR)のジェミソン・グリア代表は12月16~17日、連邦議会で通商を所管する下院歳入委員会および上院財政委員会に対して、米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)の見直し方針を報告
した。報告は非公開で実施されたが、USTRは17日にグリア代表の冒頭陳述
を公開した。
USMCAは協定本文において、発効6年目(2026年7月)に協定に参加する3カ国で共同見直しを行うことを定めている(注1)。これを受け、米国のUSMCA実施法はUSTRに対して、見直しで政権が提案する措置および協定延長に関する立場などを、見直しの180日前までに議会へ報告するよう義務付けている(注2)。USTRが公開した冒頭陳述によれば、グリア代表は「見直しに対する政権の見解を書面で公表することへの要望は理解している」としながらも(注3)、「法令上、書面での報告は義務付けられていない」とし、議会報告を口頭で行うことで法令上の義務を果たした、との見解を示した。続けて、冒頭陳述を公開することで政権の現在の方針は理解できる、と説明した。
冒頭陳述では、公聴会やパブリックコメントで寄せられた意見を紹介し(2025年12月12日記事参照)、「多くがUSMCAへの支持を表明し、明示的に協定延長を要請した」としながら、「同時に、ほぼ全ての関係者が何らかの改善を求めている」と総括した。その上で、「USMCAの運用に関する評価」として、米国からカナダ、メキシコへの財・サービス輸出が2020年に比べ56%増加していること、メキシコの労働者の賃金が「事業所特定の迅速な労働問題対応メカニズム(RRM)」などによりほぼ倍増し、米国の労働者がメキシコと競争しやすくなったこと、などを例に、「USMCAは一定程度成功している」との見解を示した。ただし、「米国の製造業の能力強化と良質な雇用創出に関する目標の全てを達成できていない」として、USMCAが抱える欠陥は解決する必要がある、と説いた。また、USMCAは、非市場経済国からの投資や過剰生産品の輸入に対処するよう設計されていない、とも指摘した。
これらを踏まえ、「見直しで政権が提案する措置および協定延長に関する立場」として、「USMCAが米国や北米全体にとってどれほどの価値があろうとも、その欠陥はあまりにも甚だしく、同協定を無批判に承認することは国益にかなわない」とし、欠陥が「解決可能な場合にのみ更新を勧告する」との見解を示した。交渉では、「2国間で対応可能な課題と3カ国間での解決を要する課題を特定する」とした。メキシコとは労働法の執行など、カナダとは米国の乳製品の市場アクセス(2024年4月5日記事参照)など、複数の課題を列挙した。3カ国での協議が必要な課題には、原産地規則(注4)、重要鉱物、経済安全保障政策の整合性を挙げた。経済安保については、メキシコとカナダも関心を示しているとし、メキシコの一般関税率の引き上げを(2025年12月15日記事参照)、非市場経済国からの過剰生産品の輸入に対応する措置として評価した。
米国がUSMCAの大幅な改定を主張しているのと裏腹に、メキシコとカナダは協定の大部分を維持しつつ限定的で的を絞った変更を求める可能性が高いとみられており(米通商専門誌「インサイドUSトレード」12月17日)、見直しで3カ国が合意できるかは依然として不透明だ(注5)。
(注1)USMCAは、協定発効16年目(2036年7月)に失効すると定められているが、発効6年目の見直しで3カ国が延長に合意した場合、その16年後(2042年7月)まで延長される。3カ国が合意できなければ、以降2036年まで毎年見直しを実施し、延長を検討することになっている。
(注2)USMCA実施法がUSTRに義務付けている措置は次のとおり。(1)2026年7月1日の見直し実施270日前(2025年10月3日)までに連邦官報を公示し、パブリックコメントなどを募集(2025年9月18日記事参照)、(2)官報公示後、速やかに公聴会を開催、(3)見直し実施180日前(2026年1月2日)までに、USMCAの運用に関する評価、見直しで政権が提案する措置および協定延長に関する立場、懸念を解決するために既に講じた取り組み、貿易諮問委員会の見解、について議会へ報告。
(注3)口頭での議会報告に対して、一部の民主党議員などが批判していた(2025年12月12日記事参照)。
(注4)米国はかねて協定非参加国による「フリーライド」を問題視しており、グリア代表は、原産地規則を強化して「第三国がこの協定の恩恵を受けないようにする」ことが重要との認識を示している。
(注5)首都ワシントンでは、3カ国の合意は難しいとの見方が多い(2025年10月17日記事参照)。なお、仮に見直しを経て、米国とメキシコ、米国とカナダの2国間FTA(自由貿易協定)として交渉する場合、米国では発効する際に議会承認が必要となる。従って、2026年11月に予定されている連邦議会の中間選挙の行方も、USMCAの見直しに影響する可能性がある。
(赤平大寿)
(米国、メキシコ、カナダ)
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