中東情勢で経済・貿易減速を懸念
アフリカ貿易から世界を見る(5)
2026年4月27日
アフリカ貿易解説シリーズの最終回。ペルシャ湾岸では2026年2月末に軍事衝突が勃発、エネルギー原料や石油・ガス派生品の供給が阻害されている。最終回となる本稿では、新たな事態がアフリカの貿易や経済活動にもたらす変化、影響を考察する。
湾岸地域に依存する石油類、プラスチック原料、肥料
2026年2月28日に発生した米国・イスラエルとイランの軍事衝突、直後からの湾岸諸国など中東地域への波及、ホルムズ海峡の実質的封鎖は、世界経済に深刻な影響を及ぼしている(ビジネス短信特集「イスラエル・米国とイランの衝突に関する中東情勢、各国の反応」参照)。アフリカもその例外ではない。
UNCTADの貿易統計(2024年)(注1)によると、アフリカの主要輸入品目のうち最大の石油製品(SITC334類:ガソリン、ディーゼル、重油など)の約4割(構成比39.7%)がアラブ首長国連邦(以下、UAE)やサウジアラビアなど湾岸諸国(注2)から直接調達されている。同様に、アフリカの主要調達元であるEU(26.2%)とインド(7.8%)は、石油製品の原料となる原油類のそれぞれ11.9%、43.8%を湾岸諸国から輸入している。その原油類もアフリカにとり6位の輸入品目で、サウジアラビアを中心に13.6%を湾岸諸国から調達している。湾岸地域からの供給制約が長期化すれば、近年、原油、石油製品ともにアフリカ向け輸出を伸ばしているロシアからの調達がさらに拡大する可能性がある。
自動車は、アフリカにとって2位の輸入品目だ。2024年の湾岸諸国の構成比は4.8%で、うち4.4%が世界的な中古車の中継貿易拠点であるUAEから輸入された。2025年は、日本からアフリカに約46万台、UAEには約25万台の中古自動車(注3)が輸出されたと試算する。海上輸送の状況によるが、今後はアフリカ直送の割合が高まる可能性もある。
アフリカにおける2024年の農林水産業の対GDP付加価値は15.8%で、世界平均の4.1%を大きく上回る(注4)が、穀物の単位当たり収量は2023年時点で世界平均の4割にとどまる(注5)。前稿でも述べたように、域内自給率の低い小麦(域内自給率33%、輸入順位3位)、砂糖(46%、7位)、コメ(60%、11位)(注6)の輸入依存度は高く、作物収量の維持・向上に不可欠な肥料も17位の輸入品目だ。肥料については、湾岸諸国からの調達(構成比15.7%)が、2020年以降にシェアを倍増した首位のロシア(20.1%)に続く。石油類や小麦同様にロシア産品への代替が進めば、アフリカの食料・エネルギー安全保障におけるロシアの影響力が拡大することとなる(2023年2月7日付地域・分析レポート参照)。
そのほかの輸入品では、域内で成長するプラスチック産業向けに、各種ポリマーやポリエチレンなど一次原料(SITC57類)の4割弱(構成比38.5%)が湾岸諸国から輸入されている。中国や韓国、インドなどアジアからの輸入も約3割(29.3%)に上るが、多くの生産国が原料油を中東湾岸諸国に依存しており、大規模な代替供給は困難だ。EU(15.5%)もロシア産原油の調達を厳しく制限する中、プラスチック原料の生産拡大は容易でなく、アフリカ向けの輸出余力は小さい。湾岸産原料へのアクセス制限が長期化すれば、包装・梱包(こんぽう)材、物流、食品加工、生活用品、卸・小売りなど、域内産業の生産活動のみならず国民生活まで広範に影響が及ぶ。
また、アルミニウムも3分の1強(構成比34.3%)がバーレーンやUAEなど湾岸諸国からの調達だ。汎用(はんよう)性の高い原料だけに、供給が滞れば、製造業が集積し地理的にも近接する北アフリカ諸国の工業生産に影響が生じる可能性がある。
注1:*世界平均価格。
注2:**2025年は第1~3四半期の前年同期比 。
出所:実質GDP成長率と消費者物価上昇率は国連「World Economic Situation and Prospects 2026」、原油価格上昇率は世銀「Commodity Price Data」、貿易額はIMF「International Trade in Goods」(2026年2月28日時点) に基づきジェトロ試算
新型コロナ禍以来の経済不振の再来を懸念
国際原油市況とアフリカ経済・貿易との関係を見たのが前掲の図だ。油価の変動には地域の経済成長や貿易との連動性が確認できる。もっとも2025年は、油価の低迷にもかかわらず経済と貿易はともに回復。インフレ率の低下に伴う内需拡大が要因である。注目したいのは新型コロナ感染が急拡大した2020年だ。世界的に人流と物流が途絶し、生産活動も縮小する中で、物価は上昇し油価は下落した。経済成長は多くの国でマイナスとなった。今般の湾岸地域の情勢不安が長期化すれば、前回と異なる油価の高値推移、輸入財の供給不足と値上がりが相まって、2020年以来のスタグフレーション(成長なき物価上昇)の再来も危惧される。
WTOは2026年3月公表の世界貿易見通し「Global Trade Outlook & Statistics 2026」で、2026年の世界の財貿易量の伸びを、前年を2.7%ポイント(以下、pp)下回る1.9%と予測した。今般の中東情勢緊迫化を受けてエネルギー価格の高止まりが長期化すれば、2026年の世界経済の成長率は0.3pp減の2.5%にとどまり、世界の貿易量もベースラインシナリオを0.5pp下回る1.4%の伸びに鈍化すると述べている。一方、2026年のアフリカの貿易量について、WTOは輸出が前年比9.1pp減の1.2%増、輸入が5.5pp減の3.2%増と予測。高エネルギー価格シナリオでは、輸出の伸びが0.2pp減の1.0%に減速するのに対し、輸入は1.0pp増の4.2%で、世界の他地域を上回る高い伸びを見込む。これはエネルギー資源輸出国の交易条件好転と内需拡大が前面に出たものだ。
アフリカ連合(AU)の公表資料(注7)によれば、アフリカ54カ国中43カ国が、原油・石油製品・天然ガスの貿易収支の総和で見たエネルギー輸入国である。エネルギー原料や派生品を含む重要物資の供給不足と調達価格の上昇は、経済の耐性・回復力の弱い地域をいち早く窮地に追い込む。拡大基調のアフリカ貿易、4%台の成長に回帰したアフリカ経済への負の影響が深刻化する前に、国際社会の仲介の下、当事者間の対話と停戦、アラビア半島両岸の物流安定化が早期に実現することを切に願う。
(本稿は2026年3月31日時点で執筆されたものです。)
- 注1:
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UNCTAD Stat「International Trade, Merchandise trade matrix, annual」。
- 注2:
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湾岸協力会議(GCC)加盟6カ国(UAE、サウジアラビア、オマーン、バーレーン、クウェート、カタール)にイラクとイランを加えた計8カ国。以下、同様。
- 注3:
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輸出台数はGlobal Trade Atlas(GTA、原出所は日本財務省貿易統計)に基づきジェトロ算出。日本税関の輸出統計品目表で中古と明示された乗用車と貨物車(HS8702~8704類、いずれも完成車)を対象に集計し、「その他のもの」(900番台)に分類される区分は含めていない。
- 注4:
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国連食糧農業機構(FAO)のFAOSTATデータに基づく。
- 注5:
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アフリカ開発銀行(AfDB)「Africa's Annual Development Effectiveness Review 2025」によると、アフリカの単位当たり穀物収量はヘクタール当たり1.7トンで世界平均(4.2トン)を大幅に下回っているとされる。
- 注6:
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FAO「Food Outlook, November 2025」の域内消費量と同・生産量に基づきジェトロ試算。算出年は2024年、2024/2025収穫年度を対象とした。
- 注7:
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AUのアフリカエネルギー委員会(Afrec)公表の「Africa Energy Balance 2025」を参照。データは2023年時点。
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部上席主任調査研究員
兒玉 高太朗(こだま こうたろう) - 1990年、ジェトロ入構。ドバイ事務所次長、パリ事務所次長、中東アフリカ課長、お客様サポート部長、市場開拓・展示事業部長、海外展開支援部長、関東・甲信越地域統括センター長兼東京貿易情報センター所長を経て、2025年5月から現職。





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