ASEAN加盟後、制度履行が焦点
東ティモールの経済・産業(4)

2026年6月29日

東ティモールは2025年10月26日、マレーシア・クアラルンプールで開催された第47回ASEAN首脳会議において、ASEANの11番目の加盟国として正式に承認された(2025年11月18日付ビジネス短信参照)。ASEANにとっては1999年のカンボジア以来の新規加盟であり、東南アジアの全ての主権国家をASEANの枠組みに包摂するという象徴的な意味を持つ。もっとも、東ティモールにとって加盟は外交上の到達点ではない。むしろ制度履行と国内改革が問われる出発点となる。ASEANのルールや制度への適合を進めるとともに、それらを国内改革や経済制度の整備に結び付け、貿易・投資の拡大や産業育成につなげる出発点となる。本稿では、東ティモールとASEANの貿易関係の現状を確認した上で、加盟に至る経緯、政府がASEAN加盟に寄せる期待、現地産業界の受け止め方、そして今後の政策課題について整理する。

対ASEAN貿易は輸入超過

東ティモールのASEAN加盟の意味を考える上で、同国とASEANとの貿易関係を確認する。グローバル・トレード・アトラス(GTA)の2023年データによると、東ティモールのASEANからの輸入額は約4億5,883万ドルで、輸入総額の約51.2%を占める(図1参照)。一方、ASEAN向け輸出額は約4,527万ドルで、輸出総額に占める割合は約27.6%にとどまる。

これは、東ティモールにとってASEANが既に重要な経済圏である一方、関係が非対称であることを示す。ASEANは主要な輸入元となっているが、東ティモール側はASEAN市場を輸出先として十分に活用できていない。輸入相手国はインドネシア、シンガポール、マレーシア、ベトナム、タイが中心で、輸入品目は鉱物性燃料、自動車、穀物、電気機器が多い(表1参照)。一方、輸出先ではシンガポール、インドネシア、フィリピンが中心で、品目では鉱物性燃料やコーヒー、茶、香辛料などを輸出している。

ASEAN加盟によって関税面の市場アクセスが改善するものの、それだけで輸出拡大が実現するわけではない。輸出拡大には、品質や数量の確保など国内産業の育成に加え、認証や原産地証明の発給体制、物流網の整備、税関実務の効率化が求められる。ASEAN正式加盟を経済成長につなげられるかは、こうした「輸出できる体制」を構築できるかにかかっている。

図1:東ティモールとASEANの貿易関係(相手国別上位5か国)(2023年)

ASEANからの輸入
単位は100万米ドル。ASEANからの輸入上位5か国は、インドネシア300.3、シンガポール94.2、マレーシア30.2、ベトナム20.0、タイ12.5。

出所:GTAからジェトロ作成

ASEANへの輸出
単位は100万米ドル。ASEANへの輸出上位5か国は、シンガポール31.2、インドネシア11.8、フィリピン2.1、タイ0.1、ラオス0.04。

出所:GTAからジェトロ作成

表1:東ティモールとASEANの貿易品目(上位20品目)(2023年)

ASEANからの輸入 (単位:100万ドル)
品目 金額
鉱物性燃料 102.5
鉄道用などの部品 67.5
穀物 27.6
塩、硫黄、土石類、石灰およびセメントなど 25.6
電気機器・部品など 23.5
原子炉、ボイラー、機械類およびその部分品 19.0
穀物 17.2
鉄鋼 17.1
動物性・植物性・微生物性の油脂など 15.4
各種の調製食料品 11.0
家具、寝具、マットレス、照明器具、プレハブ建築物など 10.7
飲料、アルコールおよび食酢 7.6
製粉業の生産品、麦芽、でんぷん、イヌリン、小麦グルテン 7.3
酪農品、鳥卵、天然はちみつ、食用の動物性生産品 7.2
野菜、果実、ナットその他植物の部分の調製品 6.6
精油、レジノイド、香料、化粧品類 6.4
たばこおよび製造たばこ代用品、ニコチン含有製品など 6.2
せっけん、有機界面活性剤、洗剤など 5.7
プラスチックおよびその製品 5.6
鉄鋼製品 5.5

出所:GTAからジェトロ作成

ASEANへの輸出 (単位:100万ドル)
品目 金額
鉱物性燃料 30.8
コーヒー、茶、マテおよび香辛料 6.7
船舶および浮き構造物 4.0
原子炉、ボイラー、機械類およびその部分品 1.8
食用の果実およびナット、かんきつ類の果皮、メロンの皮 0.5
採油用の種および果実など 0.5
原皮、革、毛皮を除く、および革 0.2
鉄鋼製品 0.1
鉄道用などの部品 0.1
動物性・植物性・微生物性の油脂など 0.1
鉄鋼 0.1
アルミニウムおよびその製品 0.1
家具、寝具、マットレス、照明器具、プレハブ建築物など 0.04
食用の野菜、根および塊茎 0.04
プラスチックおよびその製品 0.03
衣類および衣類付属品、メリヤス編み又はクロセ編みでないもの 0.03
光学機器、精密機器、医療用機器およびその部分品 0.03
飲料、アルコールおよび食酢 0.02
肉および食用のくず肉 0.02
雑品 0.02

出所:GTAからジェトロ作成

急ぐ協定履行作業、AJCEPなどへの対応は2028年以降

東ティモールは2002年の独立後、地域統合への参加を外交政策上の重要課題としてきた。2011年にASEAN加盟を正式申請し、2022年に加盟が原則承認され、オブザーバー資格を得た。さらに、2023年には完全加盟に向けたロードマップが採択され、2025年10月に正式加盟を果たした(表2参照)。

しかし、加盟によって直ちに制度対応が完了するわけではない。今後は、ASEAN憲章や各種法的文書への加入に加え、ASEAN経済共同体(AEC)の枠組みに沿った国内制度整備と協定履行が進められる。特に、次の分野への対応が重要となる。物品貿易に関するASEAN物品貿易協定(ATIGA)、サービス分野のASEANサービス貿易協定(ATISA)、投資分野のASEAN包括的投資協定(ACIA)、自然人の移動、ASEANシングルウィンドウ、原産地証明、税関近代化、衛生植物検疫措置(SPS)、基準・適合性、品質認証などだ。

東ティモール政府は、2028年までにASEAN域内協定への対応を進め、その後、2028~2030年にASEANプラスワンFTAへの対応を進める方針を掲げている。まず、域内の基本協定への対応を優先し、その後、日本を含む対話パートナーとの広域FTAに取り組む段階的なアプローチとしている。

ATIGA加盟に向けた市場アクセス交渉については、ASEAN事務局が2025年10月、東ティモールとASEAN加盟国との間で関税ラインや関税撤廃・削減スケジュールに関する交渉が完了したと発表した。政府関係者によると、東ティモールが最終的に関税撤廃・削減の対象とする品目の割合(自由化率)は、約98.76%と高水準になる見通しだ。 ATIGAは、2010年にオリジナル協定が発効し、ASEAN加盟国間で2019年に第1次修正議定書への署名が完了、2020年9月から運用が開始された(2020年10月13日付地域・分析レポート参照)。さらに、2025年10月には第2次修正議定書への署名が完了しており、ASEAN事務局は同議定書について、2027年半ばの発効を見込むと発表している(2025年11月17日付ビジネス短信参照)。新規加盟国である東ティモールは、現時点ではATIGAを含むASEANの経済協定に参加しておらず、まずはオリジナル協定(ATIGA)の発効を目指す。その後、第1次修正議定書および第2次修正議定書について、交渉・署名・批准のプロセスを進めることになる。

ただし、前述の関係者によれば、品目ごとに移行期間を設け、段階的に関税撤廃・削減を進める可能性があるという。また、関税撤廃・削減に関する合意と実際の運用は別の課題だ。ATIGAおよびその後の修正議定書の履行に当たっては、合意内容を国内で実施するための制度や執行体制の整備が欠かせない。具体的には、原産地証明書の発給主体の決定やローカルコンテント(原産性)の確認方法、税関、農業省、商工省など関係機関の連携体制の整備が引き続き課題となる。

国内改革と経済多角化に向けた現地政府の期待

東ティモール政府は、ASEAN加盟を国内改革と経済多角化の契機として位置付けている。同国は政府支出の大宗を石油基金に依存しており、非石油部門の育成が中長期の課題だ(詳細は連載1本目「産業多角化を進めるASEAN新加盟国」参照)。政府はASEAN加盟を通じて、農業、水産、観光、製造業など非石油部門の育成を進めるための足掛かりとしたい考えだ。

そのため、ASEANやWTOのベストプラクティスを取り入れながら、カンボジアやベトナムなどのASEAN加盟先行国も参考にし、国内政策と国際通商ルールの整合を図る方針を示している。東ティモール商工省(MCI)によると、物品貿易ではATIGAに基づく自由化を進める一方、国内産業への影響が大きい品目については、2年、5年、10年といった移行期間を設ける可能性があるという。

投資面でも、ASEAN加盟は重要な意味を持つ。ATISAの批准・実施が進めば、サービス分野の透明性や予見可能性が高まり、ACIAに基づく投資保護・円滑化と相まって、ASEAN域内からの投資拡大につながる可能性がある。東ティモールで貿易投資促進を担う政府機関TradeInvestの担当者は、「ASEAN加盟は投資家にとって信頼材料となり、ASEAN標準への制度整合そのものが投資促進につながる」と述べている。

もっとも、投資促進の効果は協定批准だけで実現するものではない。土地制度や許認可手続き、税制、投資インセンティブ、省庁間調整、紛争解決といった国内制度改革が伴って初めて、投資を本格的に呼び込むことができる(図2参照)。

個社単位での輸出体制構築も急務

政府側がASEAN加盟を制度改革と投資誘致の契機として捉える一方、産業界の声はより実務的な課題を指摘する。ジェトロが2026年4月、東ティモール商工会議所(CCI-TL)の担当者にインタビューしたところ、加盟後の最大の課題として、製品認証に必要な検査体制や、原産地証明書発行の実務を担う機関の未整備が挙げられた。現在も、輸出先を確保した企業が相手先から求められる証明書を取得できず、いったんインドネシアへ輸出した後、同国で輸出手続きを行い再輸出されるケースがあるという。

ASEAN加盟によって市場アクセスが改善しても、相手国が要求する品質基準や認証要件を満たせなければ、輸出拡大にはつながらない。このためCCI-TLは、試験・認証施設を国内に設置し、製品品質認証を国内で完結できる体制の構築が必要だと強調する。

商工省も同様の認識をしている。同省は、原産地規則の整備を主導する一方、運用面では財務省の税関や農業省と連携していると説明した。ただし、商工省と税関のどちらが原産地証明書の発行主体となるかは議論中であり、原産性判定を含む実施体制の整備も課題として挙げた。

さらに、民間企業の制度理解も十分とは言い難い。CCI-TLは、「ATIGAとは何か」「ASEAN市場統合とは何か」という理解がまだ十分ではなく、ATIGAがどのように実施され、自社にどのような機会をもたらすのかについての理解が遅れていると指摘した。

こうした状況は、ASEAN加盟の効果が自動的には生まれるものではないことを示している。市場が開かれても、企業が制度を理解し、品質を高め、供給量を確保し、証明書を取得し、取引先と継続的に取引できなければ、輸出拡大は実現しない。

制度履行とインフラ整備に課題

東ティモールのASEAN加盟後の政策課題は、大きく四つに整理できる。 第一に、協定批准と国内法整備だ。ATIGA、ATISA、ACIA、自然人の移動、ASEANシングルウィンドウなどの協定・制度を国内法制に反映し、所管省庁の役割を明確化する必要がある。AECロードマップでは、2026~2030年を法制度・規制・組織改革および履行の期間と位置付けており、制度整備、法規制改革、能力構築、官民対話、モニタリング、資金動員を主要な柱としている。

第二に、実務インフラの整備だ。原産地証明、SPS、品質認証、税関の近代化、ASEANシングルウィンドウへの対応は、国内企業がASEAN市場を活用するための前提条件となる。現時点ではASEANからの輸入が大きい一方、ASEAN向け輸出は限定的であり、この非対称性を是正するには、関税自由化だけでなく、輸出実務を支える制度基盤の整備が必要だ。

第三に、投資環境整備だ。土地権利関係の複雑さ、金融・銀行業の未発達といった投資上の課題に加え、TradeInvestも、投資促進に向けた法制度の未整備を主要課題として挙げている。ATISAやACIAを通じた制度整合が進んでも、投資家が実際に事業を始めるには、土地、許認可、電力、物流、人材などの実務環境の改善が不可欠となる。

第四に、ASEAN関連会合を受け入れるためのインフラ整備だ。シャナナ・グスマン首相は2026年5月、ASEAN首脳会合で同国が2029年にASEAN議長国を務める意向を表明した。議長国は、首脳会合や閣僚会合に加え、年間300件を超える主要会合・関連プログラムを開催する可能性がある。ASEAN域内外から要人をはじめとする政府関係者や産業界関係者など多様なステークホルダーが訪れることを踏まえると、空港滑走路や空港ターミナル、病院、ホテル、国際会議場などの受け入れインフラ整備が急がれる。

ASEAN加盟を実利に転換できるか

東ティモールのASEAN加盟は、同国にとって外交上の節目であると同時に、国内改革を加速させる契機でもある。貿易データが示すように、ASEANは既に東ティモールにとって重要な輸入元だが、加盟の実利を得るには、輸出市場としての活用や投資供給源としての関係強化を進める必要がある。

そのためには、協定批准だけではなく、原産地証明や品質認証などに関する制度整備、税関の近代化、受け入れインフラの整備、民間部門の育成を一体的に進める必要があり、国内企業が実際にASEAN市場へ進出できる環境の整備が求められる。加盟後の制度改革を通じて、輸入依存から輸出力強化へ、制度上の加盟から実質的な経済統合へ移行できるかが、今後の焦点となる。

執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
大滝 泰史(おおたき やすふみ)
2014年、ジェトロ入構。総務部広報課、アムステルダム事務所、福井貿易情報センターを経て、2021~2023年に経済産業省通商政策局経済連携課に出向。CPTPP(環太平洋パートナーシップに関する包括的および先進的な協定)の英国加入プロセスなどの日本のEPA/FTA(経済連携協定/自由貿易協定)交渉および利活用促進のための業務に従事。その後、調査部国際経済課を経て、2023年12月からジャカルタ事務所で広域調査員として勤務。