資源開発と電力改革が焦点
東ティモールの経済・産業(2)
2026年6月22日
石油・ガス収入に依存してきた東ティモールは、資源生産の縮小を背景に、経済構造の転換という大きな課題に直面している。IMFや世界銀行は、石油基金の減少や財政赤字の拡大に警鐘を鳴らしており、非資源分野を支える産業基盤の整備は急務だ。その成否は、中長期の資源開発と足元で進められている電力供給改革の双方に左右される。
中長期には、大規模天然ガス田「グレーターサンライズ」の開発が焦点になる。東ティモール側は、将来の財政収入や国内ガス利用、関連産業育成につなげたい考えだが、商業性や技術面を踏まえた開発方式の確立、関係者間の合意形成が焦点になっている。足元では、投資環境を支える電力改革の重要性が増している。特に、輸入ディーゼル依存からの脱却に向けた再生可能エネルギー導入や送配電網整備は、安定的かつ低廉な電力供給を実現するために不可欠だ。本稿では、同国のエネルギー事情を、資源開発と電力改革の二つの視点から整理する。
資源依存からの転換が課題
東ティモールのエネルギー分野を理解する上での出発点は、同国の財政面が石油・ガス収入と、それを原資とする石油基金に大きく依存している構造にある。同国では、石油・ガス収入を石油基金に積み立て、政府予算の不足分を同基金の取り崩しで補うかたちで財政運営が行われてきた。
IMFは2025年の対東ティモール4条協議報告書で、同国経済の多角化の遅れに加え、財政・対外収支の不均衡の大きさを指摘した(注1)。また、同基金の報告書によれば、同国の財政収支は2007年以降、赤字基調が続いている。さらに、これまで同国の石油・ガス収入を支えてきたバユ・ウンダン油ガス田の生産が2025年に終了した(注2)ことで、赤字幅は今後拡大する可能性がある。このまま同基金に依存した財政運営が続けば、同基金は2030年代末までに枯渇する可能性がある。
IMFの見通しでは、石油基金残高は、2024年の183億ドルから2030年には128億ドルへ減少する(図1参照)。一方、財政赤字は非石油GDP比で高水準にとどまる見通しだ。
出所:IMF資料を基にジェトロ作成
世界銀行も、東ティモールが持続的な成長を実現するためには、石油・ガス依存からの脱却が必要だと指摘する。特に、バユ・ウンダン油ガス田の生産が終了したことで石油・ガス収入の減少が見込まれる中、生産性の高い企業、輸出産業、技能人材に支えられた経済構造への転換が課題であるとする(注3)。エネルギー分野は、この構造転換において二つの意味を持つ。第一に、将来の収入源として期待されるグレーターサンライズ・ガス田について、東ティモール側が重視する国内処理・利用構想を、商業性や技術面の課題も踏まえつつ、財政収入や産業基盤の形成にどのようにつなげられるかという点だ。第二に、非資源分野の投資を支えるため、安定的かつ低廉な電力供給を実現できるかという点が挙げられる。
資源開発は中長期の焦点
将来の収入源および産業化の観点から最も注目されるのが、グレーターサンライズ・ガス田だ。グレーターサンライズ・ガス田は、東ティモールとオーストラリアの間のティモール海に位置する大規模海上ガス田であり、サンライズ田およびトルバドール田から構成される。1970年代に発見され、埋蔵量は天然ガス約5兆立方フィート超とされる。現在、開発権益には、東ティモール国営石油会社ティモール・ギャップ(Timor GAP)、豪州のウッドサイド・エナジー(Woodside Energy)、日本の大阪ガスが参画している。東ティモール政府は、国内南岸へのパイプライン敷設やLNG産業育成を通じた経済発展を重視している。一方、開発コストや採算性を巡り、関係企業や豪州側との協議が続いている。
東ティモール政府は、同ガス田から産出されるガスを同国南岸へ輸送し、国内で液化・加工することで、南岸地域での関連インフラ整備やLNG産業育成につなげたい考えだ。一方、豪州政府は2026年1月の共同宣言で、東ティモールが国内でのガス処理を重視していることを認識しつつ、海洋境界条約に沿い、開発主体であるサンライズ・ジョイントベンチャー(Sunrise Joint Venture)が提案する商業的に実現可能な解決策を支援する立場を示した。また、商業的に実現可能な解決策が両国政府により合意された場合、豪州側の将来収入を原資とするインフラ基金を設立し、東ティモール国内で活用する方針も示している。同ガス田の開発では、東ティモール側が重視する国内処理構想と、共同事業者による技術面・採算面の検討を踏まえ、関係者間で合意形成を進められるかが焦点となっている。
東ティモール側は、同ガス田から産出されるガスを同国南岸へ輸送し、国内で液化・加工することが、財政収入の確保だけでなく、雇用創出や関連産業の育成にもつながると位置付けている。ただし、この構想の実現可能性は、技術面・商業面の精査や共同事業者間の合意に左右される。2025年11月には、東ティモール石油鉱物資源省とウッドサイド・エナジーが、同国側でのLNG生産構想「Timor-based LNG concept(TLNG)」の成熟化に向けた調査・活動を実施する協力協定に署名した。同協定に関する発表によると、年産約500万トン規模のLNG液化設備に加え、国内向けガス供給設備やヘリウム抽出設備も、商業・技術面の検討対象に含まれるとされている(注4)。
一方、同案件は不確実性を伴う。ティモール・ギャップの関係者によれば、最終投資決定は2028~2029年、生産開始は2033~2034年を想定しているという。ウッドサイド・エナジーの公表資料でも、投資判断などを前提に、初回LNGの生産時期は2032~2035年となる可能性が示されている(注5)。
さらに、ガスを東ティモール南岸へ輸送するパイプラインは、水深約3,000メートルに達する海域を通過する計画であり、通常の海底パイプライン敷設に比べても技術的難易度が高い。海底地形、敷設・保守、操業安全性の面で追加的な検討が必要となる。
このほか、資金調達、LNGの販売先の確保、共同事業者との合意形成、法制度・税制枠組みの整備など、多くの課題が残る。そのため、同案件は中長期の国家プロジェクトとして、商業的に実現可能な開発方式を確立できるかが論点となる。
電力改革は足元の課題
一方、国内の電力供給改革は、足元の投資環境を左右する課題だが、短期間で解決できるものではない。東ティモールでは電化が進展した一方、発電は輸入ディーゼルへの依存度が高く、送配電時のロスや料金徴収などの課題も残る。電力コストと供給安定性の改善には、送配電網の改善、技術的・商業的ロスの削減、再生可能エネルギーの導入などを段階的に進める必要がある。こうした課題への対応を担うのが、東ティモール国営電力会社(EDTL)だ。
世界銀行によれば、東ティモールの電力アクセス率は2000年の17.6%から2023年には100%に達した(注6)(図2参照)。独立後の国家建設の中で電化は大きく進展し、現在では政策課題が「電力供給の有無」から「供給の安定性」および「経済性」へ移行している。特に、同国の発電は輸入ディーゼルへの依存度が高い。アジア開発銀行(ADB)は、ディーゼル発電による発電コストを1キロワット時当たり0.42ドルと推計している。また、政府補助がなければ低廉な電力料金を維持することが難しい構造にあると指摘している(注7)。こうした電力コストの高さや供給安定性を巡る課題は、工場、ホテル、冷蔵・加工施設などへの投資判断において重要な要素となっている。
出所:世界銀行WDIデータを基にジェトロ作成
EDTLは2020年に設立され、2021年から運営を開始した国営電力会社で、発電、送電、配電、電力販売を一体的に担う。同社によると、2021年2月時点の発電設備容量は276MWだ。ヘラ、ベタノ、オエクシ、アタウロの4発電所は、全てディーゼル燃料に依存していた(注8)。容量そのものよりも、輸入ディーゼルに依存する発電コストが課題になっている。
EDTLの関係者は、ジェトロとの面談で、ディーゼル発電関連コストが年間1億2,600万ドルを超え、発電コストは平均小売料金の2~3倍に達していると指摘した。さらに、発電量のうち実際に利用されるのは60~65%程度にとどまり、残りは技術的・商業的ロスとなっているという(注9)。こうした状況を踏まえ、送配電網の改善と電源多様化に加え、料金徴収やメーター管理、盗電・未払い対策、設備運用の改善などを通じた技術的・商業的ロスの削減と収入基盤の改善が重要な課題となっている。
再エネはコスト対策の一環
このため、EDTLは再生可能エネルギー、とりわけ太陽光と蓄電池の導入を重視している。国家戦略開発計画では、2030年までにエネルギー需要の少なくとも50%を再生可能エネルギーで賄う目標が示されている(注10)。再エネ導入は、脱炭素政策としての位置付けにとどまらない。輸入ディーゼルの低減、燃料価格変動リスクの抑制、電力供給安定化を目的とした実務的な対策だ。
先行案件として注目されるのが、伊藤忠商事とEDFパワー・ソリューションズ(EDF power solutions)による太陽光・蓄電池のIPP案件だ。両者は、2025年7月、EDTLとの間で、マナトゥト県に72MWの太陽光発電と36MW/36MWhの蓄電池システムを整備し、25年間運営する売電契約を締結したと発表した(注11)。本案件は東ティモール初の本格的な再生可能エネルギーIPP案件と位置付けられている。
伊藤忠商事とEDFパワー・ソリューションズによる太陽光・蓄電池IPP計画の太陽光発電設備容量は72MWだ。これは、既存の主要ディーゼル発電所であるヘラ発電所(119.5MW)、ベタノ発電所(136.6MW)を下回る一方、オエクシ発電所(17.3MW)やアタウロ発電所(2.6MW)を上回る規模だ(図3参照)。既存ディーゼル発電を直ちに代替するものではない。しかし、輸入燃料への依存低減や燃料費負担の軽減につながり得る先行案件と位置付けられる。また、太陽光発電は天候や時間帯によって出力が変動する。そのため、蓄電池や系統制御を組み合わせることが、再エネ比率の拡大と供給安定化の前提となる。
注:太陽光IPP計画は、伊藤忠商事とEDF power solutionsによるマナトゥト県での太陽光・蓄電池IPP計画のうち、太陽光発電設備容量72MWを示す。BESS(蓄電池)は36MW/36MWhで、発電設備容量ではないため図には含めていない。
出所:EDTL、伊藤忠商事発表を基にジェトロ作成
ただし、太陽光発電だけで電力供給の課題が解消するわけではない。発電量は天候や時間帯に左右されるため、蓄電池に加え、系統制御、需給管理の高度化が欠かせない。さらに、EDTLによれば、補完電源として、少なくとも50MW規模の風力発電に向けたFSを進めているという。
送配電面の課題も残る。EDTL関係者は同面談で、新しい変電所の整備、ディリ市内の地中ケーブル化、配電ネットワークのデジタル化を進めていると説明した。一方で、障害発生時には故障箇所の特定に時間を要するケースもあり、配電制御センターや配電自動化管理システムの整備が課題となっている。再エネ比率を高めるには、発電設備の導入だけでは不十分だ。配電網、保守体制、職員の運用能力を含む電力システム全体の強化が必要になる。
以上のとおり、東ティモールのエネルギー分野は、グレーターサンライズという中長期の資源開発と、EDTLが担う電力改革という二つの視点で捉える必要がある。前者は財政基盤や産業政策に直結し得るが、商業性、技術面、関係者間の合意形成を伴う中長期案件である。
後者は投資環境や企業活動を支える基盤であり、送配電網の改善、技術的・商業的ロスの削減、再エネ導入、運用能力強化を段階的に進めることが重要となる。
石油・ガス依存からの脱却に向けては、資源開発の成否だけでなく、安定的かつ低廉な電力供給を確立し、製造業、観光、農水産加工などの非資源分野の成長を支えられるかが重要だ。加えて、グレーターサンライズ開発の遅れが長期化する場合、再エネ導入や送配電網整備を含む電力改革の進捗が、非資源分野の産業基盤を左右する可能性がある。資源開発と電力改革の進捗を一体で見ていくことが、同国の経済構造転換を見通す上で重要となる。
- 注1:
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IMF4条協議は、IMF協定第4条に基づき、IMFが加盟国と原則年1回行う経済政策・経済情勢に関する協議。IMFスタッフが当局と協議し、経済・金融情報を収集した上で報告書を作成し、IMF理事会での議論の基礎とする。IMFは2025年の対東ティモール協議で、同国経済の多角化の遅れ、財政・対外収支の不均衡、石油基金への依存継続に伴う持続可能性リスクを指摘した(IMF 2025 Article IV Consultation
)。 - 注2:
-
バユ・ウンダン油ガス田は、東ティモールとオーストラリア間のティモール海に位置する海上油ガス田。1990年代に開発が進展し、2004年に商業生産を開始した。産出された天然ガスは、パイプラインを通じてオーストラリア北部ダーウィンのLNG基地へ輸送され、日本を含むアジア市場向けに輸出された。事業にはコノコフィリップスやサントスなどが参画した。近年は埋蔵量の減少に伴い、2025年に生産を停止した。
- 注3:
-
世界銀行は、東ティモールが2025年にASEAN加盟、2024年にWTO加盟したことを、石油依存型経済から、生産性の高い企業、輸出産業、技能人材に支えられた経済へ移行するための機会と位置付けている(World Bank、Timor-Leste Economic Report 2026
)。 - 注4:
-
東ティモール政府発表では、同国石油鉱物資源省とウッドサイド・エナジーが、年産約500万トン規模のTLNG構想、国内ガス供給設備、ヘリウム抽出設備の商業・技術検討を進める協力協定に署名したとされる(Government of Timor-Leste, New Era of Cooperation Dawns for Greater Sunrise
)。 - 注5:
-
ティモール・ギャップとの面談(2026年4月23日、ディリ市内の同社で実施)での説明。ウッドサイド・エナジーの公表資料では、初回LNG生産はコンセプト選定と投資判断を前提に2032~2035年にも可能性があるとされる(Woodside Energy, New Era of Cooperation Dawns for Greater Sunrise
〔28.1KB〕)。 - 注6:
-
世界銀行によると、東ティモールの電力アクセス率は2023年に100%(World Bank Data, Access to electricity
)。ただし、EDTL面談では、サブビレッジや一部コミュニティーに未電化地域が残るとの説明があった。 - 注7:
-
ADBは、東ティモールのディーゼル発電コストを0.42ドル/kWhと推計し、EDTLの運営費の約80%がディーゼル燃料費であること、料金がコストを下回り政府補助で支えられていることを指摘している(ADB, Power Distribution Modernization Project: Sector Assessment
〔276KB〕)。 - 注8:
-
EDTLの公式情報によると、2021年2月時点の発電設備容量は276MWで、ヘラ、ベタノ、オエクシ、アタウロの各発電所はいずれもディーゼル燃料を使用していた(EDTL, Production and Renewable Energy
)。 - 注9:
-
EDTLとの面談(2026年4月21日、ディリ市内の同社で実施)での説明。同面談では、ディーゼル発電関連コスト、発電ロス、風力発電FS、送配電網の改善などについて説明があった。
- 注10:
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東ティモール政府は、2030年までに国内発電量の少なくとも50%を再生可能エネルギー由来とする方針を示している(Country Statement of Timor-Leste
(132KB))。また、国家戦略開発計画2011~2030でも、電化拡大や再生可能エネルギー活用がエネルギー政策上の重要課題とされてきた(Strategic Development Plan 2011–2030
(13.8MB))。 - 注11:
-
伊藤忠商事は2025年7月25日、EDTLとの間で、72MW太陽光発電と36MW/36MWh蓄電池を組み合わせたIPP案件の売電契約を締結したと発表した(ITOCHU, PPA for Solar and Battery Hybrid IPP Project in Timor-Leste
)。
東ティモールの経済・産業
- 執筆者紹介
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ジェトロ調査部アジア大洋州課
八木沼 洋文(やぎぬま ひろふみ) - 2014年、ジェトロ入構。海外事務所運営課、ジェトロ北九州、企画部企画課、ジェトロ・ジャカルタ事務所を経て、2025年11月から現職。





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