産業多角化を進めるASEAN新加盟国
東ティモールの経済・産業(1)

2026年6月1日

2025年10月26日、東ティモールはASEANの11番目の加盟国となった。東南アジアの中では市場規模が小さく、日本企業との接点はまだ限られる。一方で、ASEAN加盟は、同国を地域経済の枠組みに組み込むだけではない。制度整備と産業多角化の実行力が問われる節目でもある。同国は、石油・ガス収入を原資とする石油基金に支えられて国家建設を進めてきた。しかし、非石油輸出は小さく、国内需要の多くを輸入に頼る。

ジェトロは、東ティモールのASEAN加盟後の制度・投資環境の変化や、資源依存型経済からの脱却に向けた産業政策、日本企業の参入可能性を把握するため、2026年4月20日~23日に現地調査を実施した(注1)。本稿を皮切りに、東ティモールの経済・産業の最新動向を、複数回にわたって多角的に分析していく。今回はその第1回として、同国の経済・産業を理解する前提となる国の成り立ちと経済構造を整理する。その上で、輸出入・FDI、産業多角化、外資・日本企業との接点を概観する。

醸成途上の経済基盤

東ティモール(正式名称:東ティモール民主共和国)は、ティモール島東部と周辺離島から成り、インドネシア東部とオーストラリア北部の間に位置する。人口は約140万人で、名目GDPは20億ドル弱にとどまる。東南アジアの中でも市場規模は小さい(表1参照)。

同国は、16世紀以降ポルトガルの植民地支配を受け、1975年に独立を宣言した後、インドネシア統治下に置かれた(表2参照)。1999年には国連支援による住民投票が実施された。国連暫定統治を経て、2002年に独立国家として発足した(注2)。公用語にはテトゥン語とポルトガル語が採用され、カトリック文化やポルトガル法制の影響も残る。こうした歴史的経緯は、言語や法制度、行政実務、土地権利の複雑さにも影響を与えている。

独立後は道路、電力、教育、保健などの基礎インフラ整備が進んだ。一方、企業活動を支える行政手続き、土地制度、人材、物流、金融アクセスはいずれも発展途上にある。経済規模を見ると、人口およびGDPの規模は小さく、1人当たりGDPも低い水準にある。ただし、若年人口が多く、長期的には労働供給や消費市場としての潜在力を有する。その潜在力を雇用、技能形成、民間産業の担い手へと結び付けられるかが課題となっている。

東ティモールは独立後、国家建設を進めてきた。一方、近年はWTO加盟(2024年)とASEAN加盟(2025年)を通じ、国際社会および地域経済の制度的枠組みへ参画している。WTO加盟とASEAN加盟は、同国にとって単なる国際機関・地域機構への参加ではない。貿易・投資制度の整備や地域経済との連結を進める契機として位置付けられる。

表1:東ティモールの基礎指標
指標 最新値
人口 140万638人 2024年
名目GDP 18億7,000万ドル 2024年
1人当たりGDP 1,332ドル 2024年

出所:世界銀行、IMF、国連資料を基にジェトロ作成

民間主導成長には制度実装が不可欠

東ティモールの過去20年間余りの経済成長を振り返ると、大きく3つの段階に分けられる。独立直後の2003~2006年は、国家建設の初期段階にあり、生産基盤や行政能力が十分に整わない中、2006年の内乱も重なって経済活動は低迷した。2007~2016年には、治安の回復に加え、石油・ガス収入を原資とする政府支出・公共投資の拡大を背景に、非石油部門を中心に成長がみられた。ただし、その成長は公共部門への依存が大きく、民間部門や輸出産業の自律的な発展にはなお限界があった。2017年以降は、政治的不安定化に伴う予算執行の遅れや公共支出の減少等により、成長は再び停滞した。さらに、その後も新型コロナウイルス感染症やサイクロン「セロジャ」による自然災害が、経済に打撃を与えた(注3)

近年は経済成長率が持ち直しつつあり、世界銀行は2026年版の東ティモール経済報告書で、同国の成長率を2025年に4.5%、2026年に4.1%と予測している。ただし、成長を牽引しているのは公共支出、消費、建設、小売り、サービスなどである。雇用創出や輸出拡大を支える農業や製造業といった民間産業の基盤は、依然として脆弱(ぜいじゃく)だ。また、国内で生産できる財が限られるため、需要が拡大しても、輸入の増加につながりやすく、国外に資金が流出しやすい構造が残されている。

同報告書は、東ティモールが石油資金による消費型成長から、生産性向上と雇用創出を伴う成長へ移行する必要があると指摘する。持続的成長に向けた政策優先課題として、同報告書は大きく3点を挙げている。第一に「民間主導の成長と雇用創出の強化」だ。高い公共支出にもかかわらず民間投資は弱く、金融アクセスやインフラ、技能不足が制約となっている。第二に、VAT導入などを含む「国内歳入基盤の構築」だ。税制拡充と行政能力向上により、財政の自立性と安定性を高める必要がある。第三に、過剰な石油基金(注4)依存を是正し、支出規律を通じて世代間公平性を確保しつつ「財政持続性の回復」を図ることだ。世界銀行は、これらの改革を一体的かつ段階的に進める重要性を指摘している。

輸入超過、非石油輸出は限定的

貿易構造を見ると、東ティモール国家統計院(INETL)の国民経済計算によれば、2024年の財・サービス輸出は1億9,700万ドル、財・サービス輸入は15億8,400万ドルと、大幅な輸入超過となっている(図参照)。輸入額は輸出額の約8倍に達している。国内需要を国内生産だけでは十分に満たし切れず、生活や企業活動に必要な財・サービスを輸入に大きく依存する構造となっている(注5)

このうち、輸出について、国民経済計算ベースで見ると、石油・ガス関連が輸出総額の約7割を占める。一方で、中央銀行や年次貿易統計によれば、2024年の非石油輸出は2,100万ドルにとどまり、品目別ではコーヒーの比重が大きい。コプラ、こんにゃく、キャンドルナッツなどもあるが、輸出品目の厚みは限られる。つまり、輸出全体では石油・ガス関連の比重が大きく、非石油分野では輸出産業の裾野がなお薄い。輸入は鉱物性燃料、車両、穀物、飲料、電気機器など、生活や企業活動に不可欠な品目が中心だ。

図:東ティモールの輸出入規模比較(2024年)(単位:100万ドル)
東ティモールの2024年の財・サービス輸出入規模を示す図。単位は100万ドル。輸出は合計197(石油・ガス関連125、その他72)、輸入は合計1,584(石油・ガス関連185、その他1,399)で、輸入額が輸出額を大きく上回る。

注:国民経済計算ベース。輸出入には財・サービスを含む。石油・ガス関連はINETL統計上のOil sector、その他はNon-oil sectorを示す。金額は100万ドル。
出所:INETL, Timor-Leste National Accounts 2005–2024を基にジェトロ作成

外資進出は資源・エネルギー中心、非資源分野にも広がり

外資系企業の進出は、2002年独立以降、石油・ガスなどの資源関連や、港湾・電力などのインフラ案件を中心に進んできた。これら以外では、飲料、不動産・小売、建設・建材、観光・ホテルなどが主な進出分野だ。国内市場や公共投資、都市部の需要に支えられている(表2参照)。一方、輸出志向型製造業や地域バリューチェーンに組み込まれる企業の進出は、依然として限定的だ。

このうち、日本企業や日本人が出資・関与する案件では、現時点では資源・エネルギー、インフラ、農産品、造船などがある。資源・エネルギー分野では、グレーター・サンライズガス田やバユ・ウンダンのLNG関連で日本企業が関与している。非資源分野では、コーヒーの生産者支援・流通、地域産品、水道・インフラ運営支援などの分野で、日本のNGOや企業、専門機関による取り組みがみられる。

表2:外資案件・日本関係者の主な接点注:主な案件を抜粋している。進捗は案件ごとに異なる
区分 案件・企業名 分野 概要
資源・エネルギー Greater Sunrise/Sunrise Joint Venture(Woodside、TIMOR GAP、大阪ガス) 石油・ガス・LNG 未開発大型ガス田。TIMOR GAP、Woodside、大阪ガスが権益を持つ。
資源・エネルギー Bayu-Undan/Darwin LNG関連(Santos、INPEX、JERA、東京ガスなど) 石油・ガス・LNG・CCS 主要資源案件。生産終了後も既存施設を活用したCCSなどを検討。
インフラ・物流 Tibar Bay Port/Timor Port 港湾・物流 2022年操業開始の主要商業港。PPPによる30年コンセッション案件。
インフラ・日本関係者 TEC Internationalなど日本の水道分野関係者 水道・インフラ運営支援 水道施設整備、運営・維持管理、人材育成などを支援。
国内市場型投資 Heineken Timor 飲料 2018年開所のビール・清涼飲料工場。国内市場向け製造業投資の代表例。
国内市場型投資 Timor Plaza/Dili Development Company 不動産・小売・ホテル 2011年開業のディリの複合商業施設。小売り、オフィス、ホテルなどを展開。
製造業・建材・構想段階 TSUNEISHI TIMOR SHIPBUILDING/常石造船 造船・製造業・人材育成 2024年に現地法人を設立。雇用創出、人材育成、産業基盤強化を掲げる。
製造業・建材・構想段階 TL Cement/Baucau Cement Project セメント・建材 バウカウ地域の石灰石を活用したセメント製造構想。
農産品・日本関係者 パルシック(PARCIC) コーヒー・地域産品・栄養改善 2002年からコーヒー生産者支援を実施。地域産品ブランド展開や栄養改善事業も行う。
農産品・日本関係者 Café Letefoho/Café Brisa Serena(Peace Winds Japan関係) コーヒー 2010年設立。現地焙煎・販売・輸出を行うスペシャルティコーヒー事業を実施。

注:主な案件を抜粋している。進捗は案件ごとに異なる。

出所:現地ヒアリング、各社・機関ウェブサイト、政府・国際機関資料、報道資料を基にジェトロ作成

産業多角化は高付加価値化から

東ティモール政府は2023年末に「国家産業開発政策」を公表し、付加価値を生み出す製造業の振興を掲げた(注6)。同政策は、観光、農林業、水産、鉱業・建設、高度サービスなどを補完する製造業の育成を重視している。一方で、国内市場の小ささや高コスト、低生産性、地理的制約、脆弱なビジネス環境を、製造業投資を阻害する要因として挙げている。また、政府プログラムや国家雇用戦略でも、農業、水産、観光、軽工業などが雇用創出と経済多角化を支える重点分野として位置付けられている。

もっとも、産業多角化を進めるには、政策目標を個別施策に落とし込む必要がある。このため、商工省(MCI)は、製造業振興を具体化する「Manufacturing Action Plan(MAP、製造業アクションプラン)」の策定を進めている(注7)。同計画は、ASEAN域内での競争力強化やWTO加盟後の対応を視野に、持続可能な産業化、民間部門の育成、ASEAN統合への対応を進める枠組みで、JICAも策定を支援している。

商工省(MCI)関係者によれば、東ティモールを単なる最終消費市場としてではなく、ロジスティクス・ハブとして位置付ける構想を検討しているという。具体的には、原材料や中間財を受け入れ、国内で加工、包装、品質確認などを行った上で再輸出することを想定している。国内市場の規模が限られる同国にとって、域内市場や第三国向けの加工・再輸出拠点としての機能を構築できるかどうかは、製造業アクションプランを具体的な成果につなげる上での重要な論点となる。

東ティモールが公共支出と輸入に依存する小規模経済から脱却するには、高付加価値の製品・サービスを安定的に生み出す産業基盤の形成が欠かせない。


注1:
現地では、政府関係機関、投資促進機関、インフラ・エネルギー関連機関、日系企業、国際協力機関、外交関係者、地場産業関係者などへのヒアリングや視察を行った。 本文に戻る
注2:
東ティモールでは、1975年の独立宣言後、インドネシア統治と国連暫定統治を経て2002年に独立国家として発足した歴史的経緯から、現地政府や国際機関の文脈で「Restoration of Independence」、すなわち「独立回復」に相当する表現が用いられることがある。本稿では、一般読者の読みやすさを考慮し、「独立国家として発足」と表記した。 本文に戻る
注3:
世界銀行「Timor-Leste Economic Report 2026」に基づく。同報告書は、東ティモールの成長率を2025年に4.5%、2026年に4.1%と見込むとともに、持続的成長に向けた政策優先課題として、民間主導の成長と雇用創出、国内歳入基盤の構築、財政持続性の回復を挙げている。 本文に戻る
注4:
石油基金は、石油・ガス収入を現在および将来世代のために管理する目的で2005年に設立された政府基金。石油収入は同基金に積み立てられ、国会で承認された国家予算への移転を通じて歳出に充てられる。ESIは、石油基金などの石油資産を長期的に維持しながら、毎年取り崩せる金額の目安であり、石油基金残高と将来の石油収入見通しを基に算定される。 本文に戻る
注5:
石油・ガス関連の輸出統計は、通関統計、国民経済計算、国際収支で扱いが異なる。INETLも、外部貿易統計は集計・分類目的が異なるため、国民経済計算と直接比較できないと注記している。このため、本稿では、国民経済計算ベースの総輸出入で輸入超過の大きさを確認した上で、産業多角化の文脈では、コーヒーなど限られた品目に依存する非資源分野の輸出力の弱さに着目する。 本文に戻る
注6:
東ティモール政府は2023年12月、政府決議第50/2023号により国家産業開発政策(National Industry Development Policy)を定めた。同政策は、2030年までに国内市場への供給、輸出拡大、民間投資誘致、雇用創出、経済多角化に資する製造業の育成を掲げている。 本文に戻る
注7:
JICAは2024年2月から2026年2月まで、産業開発アドバイザーを東ティモール商工省(MCI)に派遣し、MCIの要請に基づきManufacturing Action Plan(MAP)の策定を支援している。2026年1月時点では、MCI相の承認を得て、閣僚評議会への提出に向けた手続きが進められている。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
八木沼 洋文(やぎぬま ひろふみ)
2014年、ジェトロ入構。海外事務所運営課、ジェトロ北九州、企画部企画課、ジェトロ・ジャカルタ事務所を経て、2025年11月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・ジャカルタ事務所
山田 研司(やまだ けんじ)
2016年、ジェトロ入構。企画部地方創生推進課(現、国内事務所運営課)、ナイロビ事務所、ジェトロ山梨、企画部企画課を経て、2025年10月からジャカルタ事務所で調査員として勤務。