常石造船、東ティモールで造船拠点構想
東ティモールの経済・産業(3)

2026年6月22日

2025年10月にASEANに加盟した東ティモールでは、石油基金に支えられた国家財政から、雇用と輸出を生む民間産業への転換が課題になっている。第1回では制度整備と産業多角化、第2回では資源開発と電力改革を整理した。第3回となる本稿では、常石造船が進める造船拠点構想を取り上げる。こうした産業構造転換の流れの中で、外資による製造業拠点の形成は、産業多角化の実現可能性を測る試金石の1つとなる。

ジェトロは2026年4月20日、常石造船の東ティモール拠点であるTSUNEISHI TIMOR SHIPBUILDING(以下、TTS)のディリ事務所で、久保貴裕社長にヒアリングを行った。本稿では、同社の取り組みを紹介しつつ、ASEAN加盟後の東ティモールで輸出志向型の製造業投資や人材育成を進める上での論点を整理する。


TSUNEISHI TIMOR SHIPBUILDINGの久保貴裕社長(ジェトロ撮影)

現地で始動する拠点づくり

常石造船は、広島県福山市に本社を置く常石グループの中核企業で、ばら積み貨物船、タンカー、コンテナ運搬船などの建造を手掛けている。日本の常石工場を主要拠点に、フィリピン、中国にも生産拠点を展開してきた。海外展開の実績を持つ同社は、新たな製造拠点の候補地として東ティモールを検討している。東ティモールは、人口規模や産業基盤に制約がある中で、雇用創出や産業多角化に向け、輸出志向型の製造業投資や人材育成への期待が高まっている。

常石造船は2024年1月、東ティモールにTTSを設立した。同社は2025年9月の発表で、東ティモールにおける新造船所の候補地を調査していると説明した。2025年8月には、ラモスホルタ大統領一行が広島県福山市の常石造船を訪問し、新造船の出航式や工場を視察した。常石造船は、東ティモールでの造船事業を通じて、雇用創出と人材育成を推進し、同国の産業基盤強化に貢献する方針を示した。

2026年4月時点では、工場建設自体はまだ始まっていない。一方で、TTSでは既に設計部門が稼働している。久保社長によると、設計関連エンジニア34人に加え、総務・ドライバーなど5人を含む計39人のフルタイムスタッフが勤務している。フィリピン人講師4人、日本人5人が人材育成に携わるほか、候補地では現地ワーカーとともに測量・調査も進めている。構想では、工場エリア100ヘクタール、プロジェクト全体で415ヘクタール程度を想定し、段階的な拡張を見込む。人口約140万人の同国では、こうした大規模な製造業投資が、雇用創出や関連産業の育成につながるかに関心が集まっている。

海外生産網を広げる新たな候補地

常石造船が東ティモールを検討する背景には、同社がこれまで進めてきた海外拠点の展開経験がある。久保社長は、常石造船がフィリピン、中国に続く次の生産拠点について、10年ほど前から東南アジア地域で検討してきたと説明する。東ティモールについては、温暖な気候や比較的少ない降水量、台風被害の少なさ、海に面した立地など、造船所立地として検討に値する要素を備えているという。

この構想は、東ティモールの国内需要を見込むものというより、常石造船の海外生産・設計ネットワークの一環として位置付けられている。久保社長によれば、日本で開発した新技術や新型船のノウハウを海外工場へ展開する中で、これまで常石造船が多く建造してきたシリーズ船を東ティモールで建造することを想定している。また、フィリピン工場の拡張も進めており、東ティモールは既存拠点を置き換えるものではなく、生産・設計ネットワークを拡充する選択肢の1つとして位置付けられている。

若者を担い手に、地域と段階的に

常石造船の構想を支える要素の1つが、人材育成だ。常石造船の発表によると、2025年1月には東ティモールから第1期技能実習生10人が来日し、溶接・塗装の訓練を開始した(表参照)。同年8月には第2期生11人が来日し、溶接・足場の実習に取り組む。久保社長は、TTSとしてもさらなる受け入れに向けた準備を進めていると説明しており、将来の現地操業を見据えた基盤づくりの一環として位置付けられる。

現地での設計人材の採用と育成に関わる取り組みも進められている。TTSは2026年3月、東ティモール国立大学(UNTL)の工学系学部で3回目となる採用セミナーを開催した。常石造船の2026年3月19日発表によると、機械、電気・電子、土木、情報、地質・石油工学などを専攻する300人超の学生が参加し、TTSは2026年卒業予定者から約20人の設計エンジニアを採用する計画だ。

久保社長は、東ティモールの若者について、英語でコミュニケーションを取れる人材が多く、また、チームで助け合う姿勢があると評価する。採用面接では、会社に貢献したいというだけでなく、「国に貢献したい」と語る若者が多いという。若年労働力の海外流出がある中で、国内で技能を生かせる雇用機会の創出は、地域社会にとって重要な意味を持つ。

TTSは、造船所の構想を単なる工場建設にとどめず、雇用創出や周辺地域の発展を含むプロジェクトとして東ティモール側に説明している。フィリピン・セブ島にある常石造船の拠点では、長い年月をかけて工場と周辺地域が一体的に発展してきた経緯がある。東ティモールでも、現地の制度、インフラ、人材、地域社会との関係を踏まえながら、段階的に事業を進める予定であるという。

地域側でも、雇用創出への期待が高まっている。TTSによると、候補地周辺の住民との関係構築は良好に進んでおり、地域住民からは「働きたい」「仕事を得たい」といった就業機会への期待の声が寄せられている。こうした地域との関係づくりは、将来の現地操業に向けた基盤づくりの一部としても位置付けられる。

表:常石造船の東ティモール関連の主な動き
時期 主な動き
2024年1月 東ティモールにTTSを設立。技能実習生の受け入れに関する覚書に調印。
2025年1月 第1期技能実習生10人が来日し、溶接・塗装の訓練を開始。
2025年8月 第2期技能実習生11人が来日。ラモスホルタ大統領一行が常石造船を訪問。
2026年3月 TTSが東ティモール国立大学で3回目の採用セミナーを開催。

出所:常石造船・常石グループ発表からジェトロ作成

政府・産業界も期待

現地政府・関係機関は、常石造船の取り組みに前向きな期待を示している。2026年4月に面談した投資促進機関の関係者は、常石造船の構想を同国にとって重要な投資案件の1つと受け止めていると説明した。また、TradeInvestも2026年4月、政府とTTSとの間で特別投資協定(Special Investment Agreement、SIA)案に関する技術的協議を開始したと発信している。

東ティモール商工会議所(CCI-TL)の関係者は、外国投資が雇用機会を創出するだけでなく、知識移転をもたらす点を重視している。常石造船の取り組みは、設備投資に加え、人材、設計、技能、安全、品質管理を含めた現地化を段階的に進める事例として、現地関係者からも前向きに受け止められている。

日本企業への示唆

同国は人口規模が小さく、短期的に大きな消費市場として捉えるには限界がある。一方で、ASEAN加盟を契機に制度整備と産業多角化を進める中、政府や産業界は、雇用創出や技術移転、輸出につながる質の高い投資を求めている。

常石造船の構想は、造船所の建設にとどまらず、設計・技能人材の育成や地域雇用の創出を含め、段階的に拠点形成を進めようとする点に特徴がある。現時点では、候補地調査や関係者間調整の段階にあり、今後の事業時期や詳細は引き続き検討が続く。産業基盤が限定的な東ティモールにおいて、こうした拠点形成型の投資が関連産業の裾野拡大や人材蓄積につながるかが注目される。

執筆者紹介
ジェトロ調査部アジア大洋州課
八木沼 洋文(やぎぬま ひろふみ)
2014年、ジェトロ入構。海外事務所運営課、ジェトロ北九州、企画部企画課、ジェトロ・ジャカルタ事務所を経て、2025年11月から現職。