日本産食品の輸出事例に学ぶ対応策
タイFTA・通関実務の落とし穴(2)

2026年10月8日

タイは日本企業にとって重要な輸出市場であり、日本産食品の輸出増に伴い、経済連携協定(EPA)の利用や通関手続きに関する実務対応の重要性が高まっている。タイへの輸入にあたり、インボイスや原産地証明書の記載不備、HSコード分類を巡る認識の相違、税関当局との解釈のずれなどが原因となり、予期せぬ追徴課税や通関遅延に発展するケースもみられる。本稿では、タイで食品輸入に携わる日系企業へのヒアリングを基に、実際に発生した通関トラブルの事例を紹介し、その背景や対応策を整理する。また、実践的なFTA活用のポイントについても取り上げ、貿易実務上のリスク低減に向けた方策を紹介する。シリーズ2回目。

日本からの食品輸出増に伴い、通関対応の重要性高まる

ジェトロ・バンコク事務所に寄せられる貿易相談(FTA関連を含む)の中では、食品に関する案件が比較的多い。この背景には、近年、日本からタイへの食品輸出が増えていることが挙げられる。農林水産省によれば、2025年の日本からタイへの農林水産物・食品の輸出額は前年比17.1%増の735億円と過去最高だった(注) 。ジェトロの調べではタイの日本食レストランは5,781店舗(2025年度)となっており(2026年1月22日付ビジネス短信参照)、2021年に進出したスシローが既に約50店舗を展開しているほか、2024年に活美登利、2025年にはま寿司が進出した。2027年にはくら寿司も出店予定だ。回転ずしチェーンが現地で好評を博していることもあり、日本からの生鮮魚介類の輸出は増加傾向にある。

長年にわたり、日本からタイへの食品輸出をサポートしている物流業A社の担当者によると、新たに取り組む中小事業者が増える半面、貿易手続きに慣れていないため、書類の記載が不十分であったり、貿易手続きをフォワーダーなどに任せきりにしたりするケースが散見されるという。タイへの輸入時には、インボイス、タイ食品医薬品局(FDA)の輸入承認書、(EPAを利用する場合は)原産地証明書(CO)を提出することとなるが、これらの書類上の商品名称や数量などが一致していないことがトラブルの原因になりがちだ。「輸出をする前に、輸出者側と輸入者側で十分に認識をすり合わせるべきだ」とA社担当者は強調する。

インボイスの商品名などは記載方法が統一されておらず、人によって記載内容が異なりやすい。タイ税関からも指摘が多い部分だ。A社によると、インボイス上の商品名を「MAGURO」「UNI」など日本語のローマ字表記で記載する輸出者もいるという。これではタイ税関も審査・判別のしようがない。実務上は英語表記が必要であり、種類によってはワシントン条約の規制対象となる場合があるため、学名の記載が求められる。加えて、保存状態(常温/冷蔵/冷凍)、加工状態(フィレ)なども詳しく記載することが望ましい。それらの記載がない場合、フォワーダーがB/Lなどから類推せざるを得ず、通関手続きに苦慮するという。

輸出者から詳しい原材料や製造工程が示されればよいが、不明瞭な場合が多々あるため、どのHSコードに該当するかについて、フォワーダー側で判断に迷うことも少なくない。特に食品の品目分類は、輸出者と輸入者で認識の齟齬(そご)が起きやすい。例えば「塩サンマ」という商品について、「塩漬けしたサンマ」としてHS03.05で申請したところ、税関側の判断は「塩などで調味されたサンマの調製品であるから、HS16.04だ」と指摘されることもある。他の例として「のり」は、日本側からすると「海藻」という認識が一般的だが、タイでは「スナック菓子」という印象が強いため、輸入者側で菓子類のHSコードを主張されることもある。「プロセスチーズ」と「ナチュラルチーズ」、「ラクトアイス」と「アイスクリーム」のように、似たような商品でもHSコードが異なる可能性がある。前述のとおり、輸出前に輸出者と輸入者の間で認識を十分にすり合わせることが不可欠だ。


スワンナプーム国際空港カーゴクリアランス税関事務所(ジェトロ撮影)

学名変更に伴いHSコード分類が誤っているとの指摘

今回訪問した日系企業B社の、HSコードに関連したトラブル事例を紹介したい。日本産の魚介類の一種を数年にわたって輸入していたところ、ある日突然、輸入港の税関から「HSコードが誤っている」との指摘を受けた。同税関から最初に届いたレターには、過去数年にわたる当該品目の貿易書類について、15日以内に全て提出するよう記載されていた。背景として、最近になって当該品目の学名が見直され、従前のHSコード分類の対象種に含まれないと解釈する余地が生じたことがある。「当該HSコードが認められている種ではない。『その他』の分類で申請すべき」というのが同税関側の主張であった。

B社が書類を提出した後、数カ月の審査期間を経て、同税関から届いたレターには、新たなHSコード分類での関税率とともに、過去の輸入分にさかのぼった追徴課税の支払いを求める旨の記載があった。しかし、B社が世界税関機構(WCO)、国連食糧農業機関(FAO)、他国の分類事例などの情報を集めたところ、依然として多くの国や国際機関では旧学名に基づいて分類されていることが判明した。タイ税関元職員や大学教授など有識者からの見解も得た上で、タイ税関本庁(財務省関税局)に出向き、協議を実施した。本庁側はB社の主張を認め、当初の品目分類のままとするよう輸入港税関へレターを発出した。その結果、当初の品目分類が維持され、追徴課税の賦課は回避された。

B社の担当者は「今回は当社の主張が認められたが、あらためてHSコード分類を巡るリスクの大きさを痛感した」と漏らす。同社は貿易手続きをフォワーダー任せにせず、HSコードやFDA対応も専任担当者を置いて取り組んでいる。しかし、そうした周到な事業者であっても、トラブルを完全に避けることは難しい。B社が指摘を受ける前に、同様の指摘を受けて同業他社が追徴税を支払ったとの情報があり、それを踏まえてB社に対しても指摘が入った可能性がある。一社への指摘が他社にも波及する可能性があるため、「業界として、より緊張感をもって取り組むべきではないか」とB社担当者は問題提起する。

なおB社によれば、事前教示制度について「存在は認識しているものの、実務上は利用しにくい」というのが実態のようだ。同社の仕入れにあたっては迅速な判断を求められるケースが多く、魚介類を買い付ける場合は短期間で輸入可否を判断しなければならない。事前教示の回答を待っている間に、他の事業者に買い取られ、商機を逃す可能性もある。

自社コントロールにより円滑なFTA活用を実現

他方、スピード重視のB社によるFTA活用は参考になる部分が大きい。同社は地域的な包括的経済連携(RCEP)協定を中心に利用している。日本からタイ向けの輸送期間が7~8日程度と短いため、CO取得手続きなどもフォワーダーや他社に委託せず、全て自社で管理している。その理由は「1社でも中間に入ると時間がかかってしまうからだ」という。「商工会議所での手続きを含め、自社管理にすることでリードタイム短縮を図っている」とB社担当者は述べる。

また、FTAの選定にあたっても、CO取得の容易さやCO発給から現地に届くまでの時間を考慮して協定を選択しているという。通関でのトラブルやデマレージ(超過保管料)の発生を抑えるためにも、COのハンドリングのしやすさは重要である。原産地規則が分かりやすく、PDFでの発給にも対応しているRCEP協定は、実務上の利便性が高いようだ。


注1:
農林水産省「農林水産物・食品の輸出に関する統計情報外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」を参照。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部国際経済課 課長代理
北見 創(きたみ そう)
2009年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課、大阪本部、カラチ事務所、アジア大洋州課リサーチ・マネージャーを経て、2020年11月からジェトロ・バンコク事務所で広域調査員(アジア)として勤務。2024年10月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ・バンコク事務所 広域調査員
藪 恭兵(やぶ きょうへい)
2013年、ジェトロ入構。経済産業省通商政策局経済連携課(日本のEPA/FTA交渉に従事)、戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員、調査部国際経済課(経済安全保障)などを経て、2024年10月から現職。主な著書:『グローバルサプライチェーン再考:経済安保、ビジネスと人権、脱炭素が迫る変革』(編著、文眞堂)、『FTAの基礎と実践:賢く活用するための手引き』(共著、白水社)、『NAFTAからUSMCAへ-USMCAガイドブック』(共著、ジェトロ)。