大容量データの高速処理技術をスパコン「京」とつながる共用ストレージインフラに実装(ロシア)
ロシア・スタートアップ企業事例(3)

2019年10月18日

世界中でデジタル化の進展により、年を追ってデータ保管量が拡大の一途をたどっており、データの大容量化も進んでいる。これに伴い、大容量データをすばやく処理する技術も求められているが、この分野のソフトウエア開発に従事するのが、ロシア・サンクトペテルブルクのレイディクス外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますだ。同社のアンドレイ・フョドロフCEO(最高経営責任者)とセルゲイ・フョドロフ国際営業課長に、同社のビジネスの概要と日ロ連携のポイントについて聞いた(2019年7月5日)。

質問:
会社の概要について。
答え:
当社は2009年の設立。拠点はサンクトペテルブルクのみ、従業員は50人程度で、うちほとんどがプログラマーだ。スコルコボイノベーションセンターの入居企業でもある。
当社はデータ保管分野のソリューションソフトウエアの開発会社だ。当社が開発するOSは複数のコンピュータ向けの分散ファイルシステムである「パラレルファイルシステム」向けのもの。同システムによって1つのファイルを複数人が処理しても、処理を即時に反映することができる。当社ソフトウエアの強みは、ギガバイト/秒のスピードで、大容量データの処理が可能なこと。スーパーコンピュータや動画編集において、強みを発揮する。
質問:
創業の経緯は。
答え:
創業者である私(アンドレイ・フョドロフCEO)はソ連崩壊後の1992年に事業を開始した。当初は、米国とロシアとの間の価格差メリットを生かした、デジタルデザイン分野のソフトウエア受託開発ビジネスに従事。その後、米国企業から、データ保管ソフトウエア開発を受託したことをきっかけに、データ保管ソリューションソフトウエア分野の事業を開始した。

レイディクスCEOのアンドレイ・フョドロフ氏(右)と
同社国際営業課長のセルゲイ・フョドロフ氏(ジェトロ撮影)
質問:
売り上げや市場動向は。
答え:
売上高は200万ドル。全てソフトウエア販売(ライセンス供与)によるものだ。ロシアのほか、欧州、米国、中南米、ブラジル、日本、インド、韓国、マレーシアなど50カ国に展開している。ロシア国内と海外の売上比率はロシアの方が若干多い程度だ。
データ保管市場は世界中のどこの地域でも成長しており、データ保管量は拡大の一途をたどっている。その中でも、技術レベルの高い国、競争が盛んな国・地域では、よい良い技術を求めるため、そういったところに需要がある。
当社の需要先の1つ目は、映像分野だ。例えば、映像製作会社の現場では、撮影や動画作成後の修正を同時に何度も加えるため、それの保管技術が必要となる。監視カメラ分野でも、防犯・鑑識向けに数千から数万台のカメラを通じた多重ストリーム保管の需要が増えている。2つ目は、スーパーコンピュータ分野だ。大容量データの高速処理が必要となるためだ。
販売先は基本的に、ディストリビュータというよりは、システムインテグレーターやソリューションプロバイダーなどサービス提供者に売ることがメイン。クラウドサービス事業者にも提供している。世界中で、パートナーチャンネルでの販売に注力している。
質問:
資本関係や投資受け入れについて。
答え:
当社の株式の70%は私(フョドロフCEO)が、30%はロステレコム子会社の投資基金が保有している。ロステレコムは経営には参画していないが、投資額は1億ルーブル(約1億7,000万円、1ルーブル=約1.7円)に達している。これまでに受けたグラント(助成金)はスコルコボ基金、工業商務省、科学技術分野小規模企業発展協力基金(イノベーション協力基金)からだ。資金は主に、設備購入費に用いている。設備を購入しないと、当社製品のテストができないためだ。

レイディクス社内のテストセンター(ジェトロ撮影)
質問:
人材採用・育成はどのようにやっているか。
答え:
サンクトペテルブルクには良い大学が多いが、学生数以上に人材需要がある。優秀な学生の受け入れのため、大学との協力を進めている。サンクトペテルブルク大学と協力し、学生を受け入れ、論文の執筆や実践に生かしてもらっている。当社が求める要件は、数学の素養。良い学生については大学3年生ごろまでに、他社に逃げないよう、囲い込む措置を講じている。採用後は、事業管理手法やビジネススクールなどのプログラムを提供。プログラミング関係の資格を受験する際には補助をしている。
質問:
リスク対策はどうしているか。
答え:
マクロ経済変動に伴うリスク対策については、景気がどちらの局面に転んでも追い風が吹くビジネスを構築している。例えば、経済状況が良くなれば、設備投資も盛んになり、サーバーが売れるため、当社ソフトウエアの需要が増える。他方で、景気が悪い場合、サーバーを2台買う必要があるところを1台で済ますといった、効率化に注力するため、当社製品の需要が生まれる。通貨変動リスク対策については、ロシア国内と海外の販売規模が同じなので、バランスが取れるといえるだろう。外国向けには、主にドル建てで販売している。
取引リスク対策について、パートナーとの契約によるが、ライセンス提供は前払いのためリスクはない。(後払いが求められる)国家調達の場合も基本的に、パートナー経由での販売のため、当社はリスクを負っていない。
経済制裁によって、ロシア製ソフトウエアは米国市場から追い出される傾向にあるが、代わりに、ロシアでは、国産技術の採用に注力していることもあり、ロシア製ソフトウエアとして、多くの引き合い・注文をもらっている。
質問:
対日ビジネスのきっかけと状況、対日ビジネスのポイントは。
答え:
日本企業とのビジネスのきっかけは、パナソニックとの技術提携だ。その後、日本でデータ保管ソリューションのトータルプロバイダーであるコアマイクロシステムズとは代理店契約を含めた提携関係を構築。コアマイクロシステムを通じて、スーパーコンピュータ「京」が設置されている理化学研究所計算科学研究機構でのハイパフォーマンス・コンピューティング・インフラ(HPCI)共用ストレージインフラに、当社技術を実装することができた。日本には良いプロジェクトがあるため、相互にメリットある関係を構築できているという印象だ。
日本の文化は異なるが、日本の科学技術レベルや創造性、設備の品質の高さを背景に、当社製品の需要が生まれており、非常に大きな成果が出ている。日本人とのコミュニケーション方法は米国人とは異なるため、やり取りには注意を要するが、関係は安定的で、意見を頻繁に変えたりすることはなく、約束は必ず守る。このメンタリティーはわれわれと近いと感じている。
執筆者紹介
海外調査部欧州ロシアCIS課 リサーチ・マネージャー
齋藤 寛(さいとう ひろし)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ神戸、ジェトロ・モスクワ事務所を経て、2019年2月から現職。編著「ロシア経済の基礎知識」(ジェトロ、2012年7月発行)を上梓。