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外国企業も立地する隠れたIT産業拠点、ニジェゴロド州(ロシア)
投資環境改善やスタートアップ支援に注力

2020年8月25日

ニジェゴロド州は、沿ボルガ連邦管区(注1)に属している。文字通りボルガ川沿いにあり、州都のニジュニ・ノブゴロド市は、連邦管区の本部が置かれる中心都市でもある。モスクワから東へ約400km、飛行機で約1時間の距離に位置。2018年のサッカーW杯ロシア大会の開催都市の1つとなった。

ニジェゴロド州の人口は約320万人。伝統的に自動車や化学品製造、金属加工が盛んだ。モスクワやサンクトペテルブルクほどの知名度や経済規模はないが、近年の投資環境改善で新たな産業が育ちつつある。特にIT分野では、州内7つの技術系大学から関連人材が毎年数多く輩出されるなど、IT産業拠点としての魅力も増している。

地方別投資環境ランキングが大幅に上昇

ニジェゴロド州の主要経済指標は表のとおり。2019年の製造業の生産出荷額ではロシアの全連邦構成体の中で8位を占めた。主要企業として商用車大手ガズが立地している。品目別のロシアでの製造シェアでは、バスが約8割、トラックが約4割、ポリ塩化ビニル(PVC)が約3割、鋼管が約4割を占める。

日本との関係では、自動車部品製造の大同メタル、矢崎総業、ティラドのほか、ガラス製造のAGCが製造拠点を有している。また2007年から、宮城県と文化・経済交流を図っている。2018年には、ニジェゴロド州のエフゲニー・リュリン第1副知事を団長とする代表団が宮城県の村井嘉浩知事を表敬訪問。工業や貿易・投資、科学分野などの協力に向けた事業実施指針に合意した。2020年に協力協定締結から10周年を迎え、グレブ・ニキーチン知事は協力関係の強化や新規事業の立ち上げに意欲を示している。

表:ニジェゴロド州の主要経済指標(△はマイナス値)
項目 2017年 2018年 2019年
実質GRP成長率(前年比伸び率、%) 2.0 2.3 n.a.
鉱工業生産(前年比伸び率、%) 4.8 2.8 4.3
農業生産(前年比伸び率、%) 0.2 △0.4 3.8
固定資本投資(前年比伸び率、%) 1.7 3.0 4.2
小売売上高(前年比伸び率、%) 3.0 3.1 1.3
消費者物価指数(前年12月比伸び率、%) 3.1 4.7 3.0
名目月額平均賃金(年平均、ルーブル) 30,387 32,949 35,212
実質可処分所得(前年比伸び率、%) △4.3 △1.5 2.3
失業率(%) 4.2 4.2 4.1

注:1ルーブル=1.5円
出所:ニジェゴロド州国家統計局、連邦国家統計局

投資誘致に向けた環境整備には、ニジェゴロド州発展公社(以下、発展公社)が中心になって取り組んでいる。発展公社には、英語での投資環境紹介や相談対応ができるスタッフを配置。ワンストップセンターとして、企業立地に関する法務や税務、各種許認可にかかる相談に無償で対応している。2019年2月にはジェトロとロシアの戦略イニシアチブ庁(ASI)、ロスコングレスが共催する「日露ビジネス交流促進フォーラム」で投資環境を紹介するプレゼンテーションを行った。このこともあり、日本語の投資環境紹介資料も用意している。2020年2月には経団連の代表団がニジェゴロド州を訪問した。この際、経済協力に関する意見交換や投資環境の視察を行った。ASIが毎年発表するロシアの地方投資環境ランキングの2020年版(2020年7月15日付ビジネス短信参照)では、18位につけた。前年の57位から大きく順位を伸ばしたことになる。発展公社のチムル・ハリトフ社長はジェトロのインタビュー(2020年2月12日)に対し、「科学技術とビジネスの交流を促進し、商業化につなげていきたいと考えている。日本企業からの投資や技術協力に期待したい。今後は、スタートアップやIT分野などの高度人材が交流のカギになる」と語った。


ニジェゴロド州発展公社のスタッフ。右から2人目がハリトフ社長(ジェトロ撮影)

世界的テクノロジー企業も立地するIT産業拠点

ニジェゴロド州は、IT産業でロシアの中で競争力を有している。ロシアのソフトウエア開発企業団体ルスソフトが2019年12月に発表したロシアの地方のソフトウエア開発産業を評価するレポートによると、ニジェゴロド州は総合評価でモスクワ市、サンクトペテルブルク市、ノボシビルスク州に次ぐ第4位だ。ソフトウエア開発者数やIT製品の輸出額でも上位を占める。ニジェゴロド州のIT産業ポテンシャルについて、同州のIT産業クラスターの中心となる業界団体「ICluster外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (アイクラスター)」のマラト・ムハリヤモフ代表に話を聞いた(2020年2月13日)。

質問:
ニジェゴロド州のIT産業の特徴は。
答え:
ニジェゴロド州には1,100社以上のIT企業が立地している。IT製品の輸出が盛んで、主な輸出先は米国、インド、リトアニア、エストニア、英国、シンガポールなどだ。また、州内にはIT分野の大学が7つある。ここから、毎年1,600人以上の卒業生が輩出される。都市人口当たりのIT人材数では、ロシアで1位を占める。人材が豊富なことに加え、モスクワやサンクトペテルブルクに比べて給与水準が低い。このため、外国企業によるアウトソーシングや研究開発(R&D)拠点の立地先としても定評がある。例えば、米国の半導体大手インテルが、ロシアで唯一のR&Dセンターを置くのが当地だ。このほか、韓国のサムスン電子傘下の電子機器メーカーであるハーマンや中国の電子機器大手の華為技術(ファーウェイ)のR&D拠点もある。ロシア企業では、最大手行ズベルバンクや石油大手ルクオイル、原子力会社ロスアトムが、当地でIT人材の育成やイノベーション促進に注力している。
質問:
ニジェゴロド州のIT産業の強みは。
答え:
人工知能(AI)技術を用いた画像認識システムやそれを応用したビデオ監視システムのほか、3次元モデルの解析、データベース構築を得意とする企業が多い。ビジネスモデルとしては、これまでアウトソーシング先として発展してきた。州内のIT製品製造企業のうち、約7割が外部から製造を受託している。R&Dに取り組む企業も増加傾向にある。現在では約20社、約4,000人のIT人材が従事している。
質問:
アイクラスターの活動内容は。
答え:
州内IT企業間の情報交換や発信のほか、企業・人材育成プログラムの実施や国内外のITイベントへの参加機会の提供などを行っている。ロシアでIT製品の製造やR&Dのアウトソーシングを考える日本企業があれば、相談に乗ることができる。

テクノパークを設置し、スタートアップの創出・育成に注力

ニジェゴロド州にはスタートアップの起業を支援するテクノパークが2カ所ある。そのうちの1つが州都ニジュニ・ノブゴロド市に立地するテクノパーク「アンクディノフカ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます 」だ。アンクディノフカのアンドレイ・パニキン開発担当次長に同テクノパークの活動内容などについて聞いた(2020年2月13日)。


テクノパーク「アンクディノフカ」の内部。
奥にワンストップビジネスセンターがある(ジェトロ撮影)
質問:
アンクディノフカの主な活動内容は。
答え:
アンクディノフカは2007年に設立された。当初は起業に向けた構想・検討段階の起業家を支援するインキュベーションセンターだった。その後、新たに施設が建設され、2011年から起業準備中を含むスタートアップを支援する体制を構築してきた。支援内容はオフィススペースの提供のほか、起業や許認可に必要な書類作成支援、マーケティング・PR支援、資金調達支援、マッチングなどの商談機会を提供している。さらに、2019年11月には、国家プロジェクト(2019年2月12日付ビジネス短信参照)として、ロシア全土で設置が進むビジネスサポートセンター「モイビズネス」(注2)がアンクディノフカ内に立地した。これにより、起業のためのワンストップセンター機能が強化された。
質問:
テクノパークの支援認定要件や入居企業の数は。
答え:
支援認定に当たって重要な条件はハイテク技術を有するかどうかだ。入居企業の多くはITかバイオ技術を開発している。しかし、製造や農業分野の技術開発を行う企業もいる。2020年2月時点で42社の入居企業がある。入居率は94%に達している。また、入居企業以外にも支援を受けている企業が約130社ある。支援企業(卒業企業を含む)による売上高は、これまでの約10年間で3億3,200万ドルに上っている。
質問:
ロシア国内の他のスタートアップ支援機関との連携は。
答え:
アンクディノフカは当州で、ロシア有数のスタートアップ支援機関スコルコボ・イノベーションセンターの地域オペレーターを担う。2020年初の時点で、支援企業のうち35社がスコルコボの入居企業認定を受けた(さらに12社が審査中)。また、科学技術分野小規模企業発展協力基金(イノベーション協力基金)のニジェゴロド州代表でもある。そのため、同基金からの資金調達を支援できる立場だ。
質問:
外国企業との連携に向けた取り組みはあるか。
答え:
毎年100件以上のイベントを開催する。外国企業を招いた国際フォーラムの開催実績もある。また、セルビアやトルコ、中国などの外国視察団を受け入れたことがある。一方で、入居企業の中には、既にロシア国外への展開に取り組む事業者が出ている。そうした事業者には、ロシア輸出センターなどと協力して支援する。
そのほか、ロシアの大企業向けにピッチイベントを毎月実施。大企業の課題解決のためのスタートアップとのマッチング支援が可能だ。国有石油パイプライン運営企業のトランスネフチ、ナノテク分野の国家投資会社ロスナノ、ロシア鉄道などが利用している。日本企業からのニーズがあれば、喜んでピッチイベントやマッチングの協力をしたい。

注1:
ロシアには、8つの連邦管区がある。沿ボルガ連邦管区は、その1つ。
注2:
起業に当たって必要な法務、税務、会計、資金調達などに関する相談に、一括して対応する。
執筆者紹介
ジェトロ・モスクワ事務所
戎 佑一郎(えびす ゆういちろう)
2012年、ジェトロ入構。ジェトロ関東、ジェトロ京都、海外調査部を経て、2019年から現職。

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