協和機電工業、FTAで柔軟な顧客対応へ(中国、ベトナム、日本)

2022年1月12日

協和機電工業(本社:長崎県長崎市)は、排水処理設備や電気設備など「水」と「電気」を主とした社会インフラ整備や省エネなどに関する企画・開発から製造・販売までを行うワンストップソリューションを展開する。同社は顧客対応を行う中で、経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)(以下、FTA)を利用した経験を持つ。FTA利用のきっかけやメリットなどについて、同社海外事業部海外事業推進部門の小林将也部門長と松園理恵子主任に聞いた(取材日:2021年12月16日)。


協和機電工業本社(長崎県長崎市、協和機電工業提供)
質問:
貴社の海外ビジネスについて。
答え:
顧客が手掛けるODAなどの海外プロジェクト向けの機器納入を行っている。また、当社のグループ会社として、中国に現地工場向け水処理などのコンサルティング事業を行う現地法人、ベトナムに水処理などの設計・エンジニアリング事業を行う現地法人がある。特に中国の排水処理規制(水質汚染防止処理法)には水質の基準値が日本より厳しい面があり、当社の水処理関連の豊富な実績(協和機電工業ウェブサイト「実績紹介」参照外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)や技術提案力を生かして、現地進出日系企業だけでなく、中国企業とも多く取引している。

製品例(下水処理場などで使用される汚泥掻(か)き寄せ機、協和機電工業提供)

長崎三重事業所(水処理関連の機械や装置を製造、協和機電工業提供)
質問:
FTA利用のきっかけは。
答え:
顧客が手掛けるベトナムの下水処理プロジェクトで使う機器の納入時に、日ベトナム経済連携協定(日越FTA)を初めて利用した。通常は日本国内で顧客に引き渡すこと(国内取引)が多いが、この案件については、顧客からの要望により、当社から直接ベトナムに機器を輸出することになった。当時は日ASEAN包括的経済連携協定(AJCEP)も発効していたが、顧客と自社のコスト低減のため日越FTAを利用した。日越FTAを利用することにより、関税率が10%(MFN税率)から0%となった。
質問:
FTA利用をどのように進めたか。
答え:
商工会議所に特定原産地証明書の作成方法を確認するなど、地道に1つ1つ社内で準備を行った。一部、サプライヤーからの調達品が含まれていたが、原産性の確認や証明資料提出同意通知書など、手続きに必要な情報をサプライヤーから入手した。サプライヤーは大手企業でこれら情報提供に慣れていたこともあり、情報の入手に特に問題はなかった。
質問:
顧客から要望を受けたときに、初めてFTAを知ったのか。
答え:
ジェトロなどが開催するFTAセミナーに参加するなど、実際の利用前からFTAに関する基本的な考え方などの情報収集は行っていた。
質問:
FTA利用によるメリットは。
答え:
当社製品には単価の高いものが含まれているため、(当社が直接享受できるわけではないが)顧客にとって関税撤廃・削減によるメリットは大きい。ただし、当社は顧客に合わせたソリューションを提供するビジネスモデルのため、FTA利用によるメリットは案件次第という面はある。
質問:
FTAを利用した後、貴社の中で何か変化はあったか。
答え:
FTAを知ることで、顧客の要望への柔軟な対応力や取引先との価格交渉力がついたと感じる。顧客の要望には、当社が輸出する際にFTAを直接利用するパターンと、当社の部品を使用して顧客が輸出を行う際に、FTA利用に必要な関連情報を提供するパターンがある。(顧客が作成する)特定原産地証明書の記入に必要な情報を当社から(顧客に)提供するなど、顧客の要請にできるだけ対応している。顧客からは、製品に含まれる部品の全てをHSコード別に、その数量や金額を記載したリストをマイクロソフトエクセル形式での提出を求められる。自社の輸出でFTAを利用する場合も、(FTAを利用して輸出するとみられる)顧客から要請を受けて関連情報を提供する場合も、必要となる数値やその手間はそれほど変わらないと感じる。また、取引先との価格交渉時に、より良い条件になるよう双方で議論することができるようになった。
質問:
FTA利用における課題は。
答え:
当社の場合、顧客や案件の数だけ機器の種類があり、構成部品や材料だけでなく、納品場所(国)も顧客や案件によって異なる。そのため、(定期的に同じ仕向け地に同じ品目を輸出する場合とは異なり)案件ごとにコストと労力をかけなければならず、FTA利用による関税削減効果とのバランスも考慮することになる。また、FTAに精通した専門人材を社内に1人配置する余裕がないなど、社内体制の構築も今後の課題といえる。対象品目や案件次第では、一部商社の活用も含めて柔軟にFTA利用を進めていきたい。
質問:
地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の利用に関心はあるか。
答え:
顧客やその案件次第ではあるが、顧客から要望があれば、RCEP利用を行う可能性があるため、RCEPの協定内容は勉強しておきたい。また、当社の中国とベトナムの現地法人は、各国国内市場向けのビジネスを展開しており、現時点ではRCEP利用の機会はなさそうだが、RCEP利用による関税削減メリットがあると判断した場合は、利用を検討するだろう。

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執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
古川 祐(ふるかわ たすく)
2002年、ジェトロ入構。海外調査部欧州課(欧州班)、ジェトロ愛媛、ジェトロ・ブカレスト事務所長などを経て現職。共著「欧州経済の基礎知識」(ジェトロ)。

特集:EPAを強みに海外展開に挑む―日本企業の活用事例から

今後記事を追加していきます。