渋谷レックス、FTA活用で取引機会つかむ(ベトナム、タイ、フィリピン、日本)

2022年4月21日

ベトナム、タイなどの東南アジアや中国向けの海外ビジネスに取り組む1951年創業の菓子、食品、飲料などの卸売業を展開する渋谷レックス(本社:福島県福島市)。同社の渋谷崇司取締役専務兼海外事業部部長に、自由貿易協定(FTA)[経済連携協定(EPA)を含む]活用への取り組みを聞いた(インタビュー実施日は3月16日)。同社のFTA活用は、取引先との契約成立を後押しし、売り上げ・販路拡大につながっている。


渋谷レックス概観(同社提供)

取引先からの打診が利用のきっかけ

質問:
FTAのご利用状況について、教えてください。
答え:
FTAは輸出時に活用している。タイ向け輸出では、日タイ経済連携協定(2007年11月発効)、ベトナム向け輸出では、日ベトナム経済連携協定(2009年10月発効)、フィリピン向け輸出では、日フィリピン経済連携協定(2008年12月発効)を活用している。ベトナムは玩具、菓子類、ティッシュなどが、タイ向けでは菓子類、そうめんなどが利用品目に該当する。1カ月当たりの利用率でみると、需要が大きいベトナム向け紙おむつが最大だ。
質問:
FTA利用の契機を教えてください。
答え:
初めてFTAを活用した時期は6~7年前にタイで販路開拓を行っていたときで、取引相手から「FTAを活用できるか」と聞かれたことがきっかけだった。そのときは、FTAについての知識が不十分であったため、そこからセミナーへの参加などFTAについて学んだことで、FTAの活用が進み始めた。理解は進んだものの、現在の当社輸出品のすべてが特恵税率を享受しているわけではない。当社は商社ということもあり、原材料情報などの提供はメーカーにお願いせざるを得ない。結果的に、メーカーの意向もあるために、輸出品目が特恵対象品目であっても、FTA活用が100%ということにはなっていない。

取引先はFTA活用を当然視

質問:
FTA利用にあたって、一番のメリットはどういった点にあるでしょうか。
答え:
FTAを利用すると、取引の可能性が広がる。結果的に、当社の売り上げ拡大につながった。東南アジアでは、見積書を提出するにあたって、「FTAが利用できるか」と必ず聞かれる。このときに、否定的な応答をしてしまうと、見積書提出の段階まで商談を進めることができない。取引先からのFTA活用の提案は、日本から見て物価の低い国で提起されやすい印象を持っている。なぜなら、日本製品の日本での小売価格を現地売価にすると、総じて高くて売れない。これを売れるようにするためにも、仕入れ値をおさえなければならない。そのため、取引相手はディスカウントできる余地を生み出すFTAの活用を重視する。例えば、ベトナム向けオムツ輸出には通常2桁の税率が課されるところ、日ベトナムFTA活用によって、関税率はゼロになる。そのメリットが大きいことは、仕入れ会社にとっては明白だろう。逆に言うと、FTA活用ができない商品は取引対象になりにくい。

日本製食品は海外でも人気(同社提供)
質問:
FTAの円滑な利用に向けて、どういった社内体制を構築していますか。
答え:
社内では現在、FTA利用にあたって、社員1~2人に関連業務を担当してもらっている。具体的には、担当職員は、商工会議所への原産地証明書申請やメーカーからの同証明書作成に係る関連情報の対応・受領・確認事務を受け持っている。現在は、FTA関連事務はルーティン化できていて、職員が対応に苦慮することはない。当初は、職員が本事務の流れを習得することに加えて、そもそもなぜ、FTAを活用しないといけないのか、FTAとは何かといった点を含めて、理解してもらうことに苦労した。この点は、関連セミナーの聴講に加えて、FTAが自社の利益につながると職員に丁寧に説明することを意識することで、疑問点を解消していった。

準備は労力を要するも果実は大

質問:
FTA利用上の課題はどういう点にありますか。また、それについては、どのように対処しましたか。
答え:
当社の特恵税率対象品目は、条件が関税分類変更基準(CTC)となっているものが多い。この場合、対象商品に該当するHSコードの特定が重要になる。しかし、当社が理解するHSコードと現地側のHSコードに違いがあることが時々ある。例えば、日本では紙おむつで通っている製品が、ベトナムではパルプ加工品とみなされたりする。そのため、現地側取引先との事前準備が重要になってくる。また、メーカーは企業機密となりかねない原材料情報の提供には躊躇(ちゅうちょ)するという問題もある。メーカー側の理解を得るためには、FTAの意義、利用のための条件などを真摯(しんし)に説明する必要性が求められる。
質問:
今後のFTAの利用の在り方について教えてください。
答え:
コンテナ運賃の急騰や各国での経済安全保障関連の法律の運用が始まるなど、コスト環境は厳しくなっている。こうした中、コスト低減につながるFTAの活用は重要になってくる。新たに発効した、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定も含め、利用できるFTA活用に関心はある。他方、商社という立場上、現地取引先の意向に合致するFTAの利用に限定せざるを得ない面はある。FTAはその理解、必要書類の準備など、当初は時間・コストを費やすものの、一度ノウハウを身に付ければ、価格競争力が高まり、結果的に売り上げ・販路拡大の契機にもなり、その活用意義は大きい。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部アジア大洋州課課長代理
新田 浩之(にった ひろゆき)
2001年、ジェトロ入構。海外調査部北米課(2008年~2011年)、同国際経済研究課(2011年~2013年)を経て、ジェトロ・クアラルンプール事務所(2013~2017年)勤務。その後、知的財産・イノベーション部イノベーション促進課(2017~2018年)を経て2018年7月より現職。

特集:EPAを強みに海外展開に挑む―日本企業の活用事例から

今後記事を追加していきます。