大武・ルート工業、日EU・EPA活用でチェコ現地法人の活動開始

2022年4月26日

大武・ルート工業(本社:岩手県一関市)は、トレッドミル(ランニングマシン)と自動ネジ供給機の製造・販売を行っている。ジェトロによる「新輸出大国コンソーシアム」の専門家支援を受け、2019年2月に米国ニュージャージー州に現地法人を設立。2020年4月にはチェコ・プラハにも現地法人を設立し、日EU経済連携協定(EPA)を利用して、チェコ現地法人での活動を開始することができた。日EU・EPAの利用状況や欧州事業の展開について、太田貴子常務取締役と営業企画部の吉田惠美子課長に聞いた(取材日:3月24日)。

チェコに現地法人設立、欧州各国へ販売

同社の自動ネジ供給機は、直接輸出、間接輸出を含めると、世界40カ国以上に輸出されている。主要輸出先は中国や韓国。欧州の販売割合は全体の8%強で、国ごとの売り上げはまだ大きくないものの、欧州全体での潜在的市場規模を見込み、重要な市場と捉えている。

チェコに現地法人を設立する以前は、商社経由で欧州に輸出していた。商社に任せることで便利な半面、ユーザーの顔が見えづらかったこともあり、最終ユーザーとの直接取引とニーズの掘り起こしを図るために現地法人の設置を決めた。チェコ周辺には、欧州のほぼ中央に位置するという地理的優位性を背景に、数多くの製造拠点が集まっている。同社の自動ネジ供給機は工場の製造ラインで使用されるため、製造現場に近く、かつ西欧に比べて人件費を含めて経費を抑えられることから、チェコに設立することを選んだ。加えて、信頼できる日本人のビジネスパートナーがチェコに住んでいることも大きかったという。

欧州での商流としては、日本からチェコに輸出し、チェコの倉庫で在庫保管し、チェコから欧州各国の代理店などに販売している。ドイツには複数の代理店を置いており、欧州事業の中心はドイツと中・東欧となっている。EUに加盟していない英国やスイス、トルコにも納入している。

残念だったのが、チェコに現地法人を設立したタイミングで現地に出張して、代理店やユーザーへのフォロー、トレーニングを行う予定だったところ、新型コロナウイルスが流行したため、現地出張を見送らざるを得なかったことだ。現在も2年近く、現地に出張できていない。また、物流の混乱の影響も受けており、海上輸送から航空輸送に切り替えて対応した。納品遅延を避けるために、多めに出荷して倉庫で保管しているという。


自動ネジ供給機「NJシリーズ」
(大武・ルート工業提供)

自動ネジ供給機「FM-36シリーズ」
(大武・ルート工業提供)

豊富なラインナップをそろえ、顧客の製造ラインをサポートする(大武・ルート工業提供)

日EU・EPAの関税削減によるメリットは大きい

チェコ現地法人の設立時、既に日EU・EPAが発効していたことから、日EU・EPAを利用してチェコ現法での事業を開始することができた。日EU・EPAは、日インドネシアEPAの経験を生かしながら、利用を始めた。利用当初、ジェトロ主催のセミナーで勉強したほか、東京共同会計事務所のEPA相談デスクにも相談、添削してもらい、自己申告制度による原産地に関する申告文と必要な裏付け書類(根拠資料)をそろえた。裏付け書類の作成には苦労した。部品の単価の計算や、HSコードのリストを作成する必要があるが、最近は頻繁に原材料である金属の価格改定が行われるため、付加価値基準の計算が追いつかないという。さらに、複数の金属を組み合わせた部品もあり、確認に手間がかかるという。大企業と違い、社内でシステム化されておらず、細かいところまで会計などがつながっていないため、維持(メンテナンス)にコストがかかっている。「もう少し裏付け書類の作成にかかる負担が減るとよいと思う」と太田氏は述べた。

同社製品の通常の最恵国(MFN)税率は1.7%だが、日EU・EPAを利用することにより、無税となった。代理店が享受できるため、製品全体に対する1.7%のコスト削減は非常に大きいメリットだと同社は感じている。「製造業の場合は、いかにしてコストを削減するのかが重要。最近では輸送費が高騰していることから、なおさら関税削減によるメリットを実感している」と太田氏は話した。関税削減以外での利用メリットとして、日EU・EPAでは原産地に関する申告文の適用期間内であれば、複数回輸出する際に、同じ申告文を繰り返し利用できる点を挙げた。他のEPAでは、EPAを利用するたびに日本商工会議所に依頼して原産地証明書(特定原産地証明書)を取得する必要があるが、日EU・EPAではその必要がない。

なお、同社は前述のとおり、世界40カ国以上に輸出実績がある。従業員数50人以下の同社にとって、顧客の要望でEPAや自由貿易協定(FTA)を利用したいとなった際、協定ごとに必要な書類や原産地証明手続きが異なるため、対応するのに苦労しているとのこと。同社では、原産性の証明に必要な資料を収集し、書類を作成するのは主に1人が担当。加えて、関連する生産管理、資材部門などから3~4人が協力して対応している。担当者1人は専任ではなく、他の業務と兼任している状況だ。協定によって異なる手続きを統一できないのかと感じている。他方、これまでの経験により必要書類の基本形はできており、基本形を活用することで効率化を図っている。今後は地域的な包括的経済連携(RCEP)協定の利用も検討しており、特に韓国、オーストラリア向けの輸出でRCEP協定を活用したいと考えている。「RCEP協定では、自社製品の場合、6桁の関税分類変更基準またはRVC40(域内原産割合40%以上)の付加価値基準を用いることができると聞いているため、6桁変更の選択で利用しやすいのではないか」と太田氏は期待する。

欧州での事業規模拡大を目指す

最後に今後の欧州事業の展望について聞いた。同社は前述のとおり、欧州全域に代理店を置いており、ドイツには複数の代理店がある。一方、フランス、スペイン、イタリアの代理店はまだ少なく、今後はこれら3カ国を中心に新たな代理店獲得に動きたいという。2019年にドイツ・シュトゥットガルトで開催された組み立て装置や産業用ロボットに関する展示会「Motek」に出展したが、2020年はオンライン出展、2021年はコロナ禍での移動にかかる拘束期間などを考慮して参加を見送った。2020年は展示会業界でオンライン形式が導入された初年であり、同社も初めてオンラインで出展したものの、引き合いが少なかったという。オンラインで商談できたとしても、コロナ禍において対面での商談が難しいため、その次のステップとなる、実際に製品を見てもらい、触ってもらうことができない。新規顧客開拓をどのように進めていくのか模索している。また、ウクライナ情勢については、今後の自社の事業にどう影響するのか注視が必要とした。

執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課 課長代理
土屋 朋美(つちや ともみ)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部欧州ロシアCIS課、ジェトロ・ブリュッセル事務所、ビジネス展開・人材支援部などを経て2020年7月から現職。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
山根 夏実(やまね なつみ)
2016年、ジェトロ入構。ものづくり産業部、市場開拓・展示事業部などを経て2020年7月から現職

特集:EPAを強みに海外展開に挑む―日本企業の活用事例から

今後記事を追加していきます。