FTAを活用し、日本製LED照明を輸出(ベトナム、東南アジア)
夜間学習環境など、SDGsにも貢献

2022年6月1日

ニイヌマ外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます (本社:宮城県石巻市)は、1913年に金物屋として創業。約10年前からLED照明器具を中心に環境に配慮した商品の開発・販売を始めた。海外ビジネスも積極的に行う同社は2019年、ベトナムに100%出資の販売会社「ニイヌマ・ベトナム」を設立。現在は、自社のLED照明器具を中心に、日本からベトナムなど東南アジアに輸出している。また、同社は地方の学校に太陽光LED外灯を設置。夜間に子供が教育を受ける機会での安全を確保することを含め、SDGs(持続可能な開発目標)への取り組みも積極的に進めている。「ニイヌマ・ベトナム」代表の箕輪佑耶氏に、海外事業の取り組みについて聞いた(2022年3月10日取材)。

質問:
貴社の海外事業の内容は。
答え:
日本国内の自社工場で生産したLED照明器具を弊社ベトナム法人が輸入。現地の代理店を通して販売している。主な商品は工場などの施設に据え付ける高天井LED照明器具だ。
もともとは、日本の本社で海外事業を行っていた。しかし、ベトナム経済が順調に発展していることや、ベトナム政府への納入契約を結ぶことができたこともあり、本社海外事業部の機能を徐々にベトナムに移した。現在は事務手続きも含め、貿易業務の大半をベトナム法人が担っている。2030年までに海外事業の売り上げを10億円にすることを目指している。
質問:
FTA(自由貿易協定)の利用状況と利用のきっかけは。
答え:
日本からの輸出では、日ベトナム経済連携協定(EPA)、日タイEPA、日インドネシアEPAを利用している。タイの顧客からFTAを利用してほしいという依頼があったことがきっかけだ。利用し始めたのは、2016年から。FTAについては、物流会社や商工会議所に話を聞いたり、ジェトロのセミナーを受講したりして勉強した。
現在は新型コロナウイルスの影響などさまざまな事情で、輸出頻度は下がった。以前は、月2~4回輸出していた。
質問:
FTAのメリットは。
答え:
LED照明器具は、例としてベトナム向け輸出では、FTAを活用することによって、30%の関税が0%になる。これにより、他社との価格競争力で優位に立つことができ、大いにメリットを出せた。
市場に普及している中国製の他社製品と比べると、当社の製品は価格が高い。しかし、工場の高い屋根に設置するためには品質や軽量化が必須。当社品はそこに強みを持っている。中国製は安いものの故障が多い。その都度、取り替えや修理に費用がかかってしまう。
また、原産地証明書を見せることで、この製品が「メード・イン・ジャパン」であるという証明になり、メリットが大きい。ベトナムでは模倣品や粗悪品が多く出回っており、日本的なブランドの製品が「日本製」とは限らないと考えるユーザーが多い。そういう方々に対して、原産地証明書を示すことで真正品と分かってもらえ、顧客の安心感につながっている。
質問:
FTAを利用するに当たっての苦労は。
答え:
特に東南アジアの場合、輸出時に利用したHSコードが輸入国側の現地税関で異なるHSコードで判断されることがある。そのため、FTAの特恵関税が否認されたことがある。開発途上国では、現地の税関職員の個人の裁量で勝手にHSコードを判断され、高額の関税を請求されることもある。運用が安定的でないと今後も活用していけるのか見通しが悪くなる。
質問:
今後の海外事業展開は。
答え:
当面は、ベトナム市場の開拓を中心に進めていく見込みだ。しかし、いずれは東南アジアの近隣国やインドにもLED照明器具や蓄電池などを販売していきたい。個人的には、2020年度にJICA(国際協力機構)の中小企業・SDGsビジネス支援事業に採択された「IoTクラウド型太陽光発電・蓄電システム(注)」をアフリカなどに輸出することを考えている。これは、昼間に太陽光で発電した電力を蓄電池に蓄え、夜間に点灯させるものだ。太陽光発電と蓄電池併用のLED照明システムと言える。ベトナムの山岳地域では、送電網を引くのが困難だ。そうした地域で、夜間の児童教育機会を確保し、副業ができる環境の提供によって所得を向上させ貧困から脱出することを目指している。現在、協業パートナーを募集中だ。照明の営業提案先がそもそも電力不足だったり、電気がなかったりするためだ。ニイヌマ・ベトナムが地方の学校に太陽光LED外灯を設置したのは、そういう理由だ。その結果、子供たちが夕方や夜間でも学習できるようになった(ベトナムの山岳地帯では学校が遠く、登校時間が長くて危険なことから、平日は学校に泊まるケースが多い)。このような事業を行いながらしっかりと収益を上げていくことによって、企業や社会経済の発展とともに、社会貢献にもつながるため、SDGsへの取り組みとしての活動も増やしていきたい。

ベトナム北部トゥエンクアン省の人民委員会を表敬訪問、左から7人目が箕輪氏(ニイヌマ・ベトナム提供)

北部イェンバイ省ムーカンチャイ県に納入した
LEDソーラー街灯(ニイヌマ・ベトナム提供)

LED照明の下で勉強する
ベトナムの子供たち
(ニイヌマ・ベトナム提供)

注:
IoTとは、モノのインターネット(Internet of Things)のこと。
執筆者紹介
ジェトロ・ハノイ事務所
蛇見 拓斗(じゃみ たくと)
2017年、富山県庁入庁。2021年からジェトロに出向。海外調査部アジア大洋州課を経て、2022年4月から現職。

特集:EPAを強みに海外展開に挑む―日本企業の活用事例から

今後記事を追加していきます。