ビクセン、日EU・EPAの利用で欧州での競争力高める
新型コロナ禍が世界の天体望遠鏡市場に追い風

2022年6月9日

株式会社ビクセン(本社:埼玉県所沢市)は、天体望遠鏡、双眼鏡、顕微鏡などの光学製品の開発、設計、製作業務および各商品の国内販売、輸出、輸入業務などを行っている。同社は1949年に創業、海外への輸出・販売は70年以上の歴史をもち、特に天体望遠鏡では国内、海外ともにブランド力を有するグローバル企業だ。日EU経済連携協定(EPA)の利用状況や欧州をはじめとする海外事業の展開について、貿易事業部の吉田勝顧問に聞いた(インタビュー日:2022年4月7日)。

ドイツの現地法人を足掛かりに、欧州各国へ販売

ビクセンは1957年に輸出部を設立し、同部の設立当時は米国、欧州、中東向け出荷からスタートした。輸出品の主力は、個人向け天体望遠鏡だ。高性能な天体望遠鏡は高価格商品であるため、比較的に所得水準の高い消費者が顧客となり、いわゆる先進国が市場となる。2003年には米国に次ぎ大きな市場となる欧州、特に伝統的に天体望遠鏡ユーザーの多いドイツに、同社の唯一の海外拠点である現地法人ビクセンヨーロッパを設立した。ドイツやフランス、イタリアなどEU主要先進国を中心に一部東欧も含め欧州各国に販売し、天体望遠鏡を中心に大きな市場シェアを維持している。なお、英国も含む欧州向け輸出は、現在、現地代理店を通して行われている。


欧州市場で販売される代表的な高性能
天体望遠鏡(株式会社ビクセン提供)

天体望遠鏡はスマホアプリでコントロールできる
(株式会社ビクセン提供)

同社の主力製品は所沢工場で生産する「メイドインジャパン」であり、日本から海外に輸出している。一方、日EU・EPAを利用するまで、自由貿易協定(FTA)の利用経験はなかった。2019年2月の同EPA発効後、早々に取引先から問い合わせを受けたことがきっかけで、当初は手探りで、ジェトロや業界団体主催のセミナーを聴講して情報収集した。特恵関税の適用手続きには、ジェトロの解説書を活用しながら対応した。

日EU・EPAにより欧州市場での競争力を強化

現在はおおむね大きな問題や課題もなく、日EU・EPAを利用できている。ただし、同社は、EPAの適用にあたっては関税分類変更基準のみならず付加価値基準も採用しているため、原産性の確認作業には苦慮することもある。天体望遠鏡の部品の大部分は自社で製造しており、原産地基準を満たすハードルは高くないが、使用している一部の非原産部品の価額変動により、同一産品のEPA適用であっても、付加価値基準判定のための再計算が生じることもあるという。

ビクセンの欧州への主要な輸出製品である天体望遠鏡のEUの統合関税率は4.2%。これが日EU・EPAの適用により、無税となる。削減コストは大きくはないが、それでも、比較的安価な中国製品との競争において、同EPAの適用により競争力を高めることができる、と吉田氏は語る。また日EU・EPAを利用する日本の他社との関係では、当然、競争力維持の観点からEPAの利用は必須だという。


双眼鏡も天体望遠鏡と並ぶビクセンの主力商品(株式会社ビクセン提供)

欧州は今後も有望な市場、中国にも注目

吉田氏は、新型コロナ禍で長らく各種イベントの自粛が続いていたが、これにより自宅にとどまる機会が増えたことで、世界的に天体望遠鏡の需要が伸びている、と語る。ビクセンが2022年に日本で発売した新商品は現在すべて売り切れ、入荷待ちとなっており、今後発売予定の欧州市場においても好調が期待されるという。西欧を中心とする欧州は、同社にとって今後も重要なマーケットだ。欧州以外でも、たとえば中国については、欧米と比較して市場はまだ小さいが、同社のブランドがある程度浸透しており、成長市場と位置付け、重点を置いている。2022年1月に発効した「地域的な包括的経済連携(RCEP)協定」の活用について、すでに取引先からのリクエストも受けており、できるだけ早く特恵関税の適用を受けられるよう、現在手続きを進めている。

欧州という市場を考えると、環境や安全に関する規制が今後さらに厳しくなっていくとの認識だ。例えば現在でも、CEマークの適合と認証やリチウムイオン電池の危険物輸送規制、特定有害物質のRoHS指令、GDPR(一般データ保護規則)など多くの欧州主導の規制に対応が求められている。また、電源を使用する製品については、電気電子機器廃棄物指令(WEEE指令)にも対応しなければならない。通常、このような規制関係の情報は主に現地の取引先を通じて把握できるため、規制が適用になるまでの移行期間中に対応を完了させているが、ジェトロにはこのような規制関係の情報発信も期待している。

執筆者紹介
ジェトロ対日投資部地域連携課
根津 奈緒美(ねづ なおみ)
2007年、ジェトロ入構。2007年4月~2012年6月、産業技術部(当時)地域産業連携課、先端技術交流課などで製造業、バイオ産業分野の地域間交流事業や展示会出展を支援。2012年6月~2013年5月、アジア経済研究所研究人材課。2013年5月~2015年7月、経済産業省通商政策局経済連携課にて関税担当としてFTA交渉に従事。2015年7月から海外調査部欧州ロシアCIS課にてEUなど地域を担当。2022年6月から対日投資部地域連携課。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
二片 すず(ふたかた すず)
2020年5月から海外調査部欧州ロシアCIS課勤務。

特集:EPAを強みに海外展開に挑む―日本企業の活用事例から

今後記事を追加していきます。