神州一味噌、戦略的マーケティングでさらなる欧州ビジネス拡大を目指す
EPAも順調に利用

2022年4月20日

神州一味噌株式会社(本店:長野県諏訪市、本社:東京都渋谷区)は、サッポログループ傘下で味噌(みそ)の製造・販売を行う1662年創業の老舗メーカーだ。同社は、いち早く味噌の海外販売を開始、欧州でも販路を拡大してきた。その際、経済連携協定(EPA)を積極的に利用してきた。同社のEPA利用の状況や欧州におけるビジネスの状況などについて、営業本部海外営業部の武川学部長、小山研一郎第5グループ課長に聞いた(2022年3月14日)。

欧州へは英国を皮切りに比較的早期に進出

神州一味噌は、1991年に米国ロサンゼルスに営業所を設立し、本格的に海外事業をスタートさせた。現在は米国、アジア、欧州、オセアニアの50カ国以上に商品を輸出している。欧州については、米国進出とほぼ同時期から英国向け輸出を開始し、すでに30年近い実績がある。現在は、西欧・中東欧ほぼすべての市場に展開している。輸出品としては卸・小売向けの味噌および即席の味噌汁で、欧州向け輸出はほとんどが日本製品だ。主力市場である英国やフランスは、日本食文化が現地の家庭にもかなり浸透しており、商品が小売店にもしっかりと流通しているとのことだ。


輸出向け主力製品の業務用味噌(左)、家庭用味噌(右)(神州一味噌株式会社提供)

日EU・EPA、日英EPAともに順調に利用

欧州向けには、自社による直接輸出と、商社・パートナーを介した輸出の双方を行っており、いずれも日・EU経済連携協定(日EU・EPA)を利用している(注)。輸出時のEPA利用では、即席味噌汁などの一部において、比較的原材料が複雑な商品については原産地規則がネックとなりEPAを利用しない場合もあるが、可能な限り多くの商品でEPAを活用しており、順調に利用できているという。また、2020年末にEU離脱に伴う移行期間が終了した英国への輸出時のEPA利用についても、同国へはもともと日本から直接出荷していたこともあり、移行期間終了後も特段のトラブルはなく、現在、日英EPAをスムーズに利用できている。

現状でのEPA利活用の効果としては、新型コロナウイルス感染拡大に加え、コスト面で海上運賃の値上がりがEPAの関税削減メリットを相殺している状況のため、残念ながら実感としては薄い。しかし、日EU・EPAは、すでに欧州に輸出する同業種の日本企業の中でも相当程度普及していると認識しており、競争力維持の観点からもEPAを利用することが商品輸出の前提となっているという。


生味噌と並ぶ輸出向け主力製品の即席味噌汁(神州一味噌株式会社提供)

今後の欧州ビジネスの見通し、EC活用に課題あり

神州一味噌の欧州市場での強みの1つは、市場進出が比較的早かったことから、現地に良好な関係を持つ販売パートナーが多い点だ。今後は全体的にそのパイプを維持し、さらなるシェア拡大を図る方針だ。また、欧州向け輸出の売り上げは伸びており、新たな引き合いもあることから、今後も欧州市場は成長の可能性があると見ている。

小山第5グループ課長は、欧州市場について、国によって日本食文化や味噌の認知の浸透度合いに差があり、これと市場規模が連動している、と語る。例えば、これまで東欧・南欧地域では家庭用に入り込めていなかったところ、比較的食に保守的であったドイツ向けの家庭用販売が近年、急速に伸びており、市場が拡大している。また、ポーランドでは現地の大手スーパー各社に入り込んで、販路を確保できているなど、近年は特に東欧地域の市場の伸びが顕著だという。西欧についても、ポーランドのように市場のメインストリームに入り込んでいくことで、さらに輸出拡大の可能性があるとみる。


今回ヒアリングに応じていただいた武川部長(右)、小山第5グループ課長(左)(ジェトロ撮影)

同社は欧州での販路開拓について、ナショナルブランドが強みになるアジア市場とは異なる戦略が必要と考え、現地パートナーと連携し、プライベートブランドとして売り込む戦略をとってきた。また、ドイツ・ケルンでの食品総合見本市ANUGA、フランス・パリでの食品・飲料総合国際見本市SIALなど、新型コロナ禍以前は現地の展示会に積極的に出展してきた。ただし、武川部長は、同社の欧州市場開拓について「転換期にある」と語る。見えてきた欧州域内の市場の成熟度の違いなども踏まえ、国・地域ごとにより的確なアプローチを行うことで、今後さらなるシェア拡大につなげていきたいという。

なお、新型コロナ禍においては、外食機会の減少を背景に一時期、業務用の出荷が止まった半面、自宅での利用が増え、家庭用の伸びが業務用の減少分をカバーしたという。各国の感染・回復状況などによりばらつきがあるものの、現在、各国の市場は回復途上だ。アフターコロナのプロモーション戦略については、まさに検討中の段階だという。

また、電子商取引(EC)の活用も、欧州ビジネスの大きな課題だ。米国や中国ではECの販売が伸びており、順調だ。一方、欧州では強力かつ統一されたプラットフォームがないことから、EC活用が他エリアに比べ進んでいないという。

この他、関連規制への対応も欧州ビジネスの懸念だ。特に包材規制についてはさらなる情報収集が必要なほか、日本と欧州で異なる遺伝子組み換え生物・作物(GMO)規制への対応についてもハードルが高いと感じている。


武川部長(左)、小山第5グループ課長(右)と同社主力製品(ジェトロ撮影)

注:
味噌(EU統合関税率7.7%)、即席味噌汁(同11.5%)ともに、日EU・EPAの適用により無税となる。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
菅野 真(かんの まこと)
2010年、東北電力入社。2021年7月からジェトロに出向し、海外調査部欧州ロシアCIS課勤務。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部欧州ロシアCIS課
根津 奈緒美(ねづ なおみ)
2007年、ジェトロ入構。2007年4月~2012年6月、産業技術部(当時)地域産業連携課、先端技術交流課などで製造業、バイオ産業分野の地域間交流事業や展示会出展を支援。2012年6月~2013年5月、アジア経済研究所研究人材課。2013年5月~2015年7月、経済産業省通商政策局経済連携課にて関税担当としてFTA交渉に従事。2015年7月より海外調査部欧州ロシアCIS課にてEUなど地域を担当。

特集:EPAを強みに海外展開に挑む―日本企業の活用事例から

今後記事を追加していきます。