ニッキフロン、特定原産地証明書の電子発給に期待(タイ、日本)

2022年1月24日

NiKKi Fron株式会社(本社:長野県、ニッキフロン)は、機能樹脂の成形・加工、自動車のマニュアルトランスミッション用の摩擦材(FRP)の製造・販売、産業機械の組立事業を行っている。タイに自社工場があり、主に日本本社とタイの現地法人間の取引において、経済連携協定(EPA)/自由貿易協定(FTA)など貿易協定(以下、FTA)を活用している。FTA利用の経緯やメリットについて、NiKKi Fron秘書室の酒井庸佑室長補佐、グループ会社のニッキフロントレーディング株式会社の上條和夫常務取締役に聞いた(2021年12月20日)。


NiKKi Fron株式会社・長野本社工場(NiKKi Fron株式会社提供)
質問:
貴社の事業内容、海外展開は。
答え:
NiKKi Fronは、主に半導体製造装置企業向けの機能樹脂成形・加工事業、自動車部品関連企業向けのマニュアルトランスミッション用摩擦材:クラッチフェーシング(FRP)事業、射出成型機の組立事業の3本を事業の柱としている。売り上げに占める各事業の割合は、機能樹脂事業と組立事業がそれぞれ50%、40%程度、FRP事業が10%程度となっている。自社グループ工場がタイにあり、機能樹脂事業では日本での生産に加え、2020年には経済産業省による「海外サプライチェーン多元化等支援事業(第1回)設備導入型」に採択され、タイ工場内に新たなフッ素樹脂の生産ラインを立ち上げた。FRPについては2010年からタイ工場に段階的に生産を移管した。

クラッチフェーシング
(NiKKi Fron株式会社提供)

フッ素樹脂成型品
(NiKKi Fron株式会社提供)
質問:
FTAの利用状況、メリットは。
答え:
主に活用しているFTAは、日タイEPAである。日本からタイへは、日本の工場で生産している半導体製造装置向けのフッ素樹脂製品、自社グループの商社部門が調達している取引先の産業機械の組立事業に必要な継ぎ手、シール製品などを輸出している。タイから日本へは、2020年に立ち上げた新ラインで製造している樹脂製のバックアップリング、タイ工場のみで生産するクラッチフェーシングを輸入している。クラッチフェーシングについては、オートマチックトランスミッション車が多い日本市場の需要が少なくなってきていることから、タイで一貫生産を行い、マニュアルトランスミッション車(以下、マニュアル車)の生産が多いASEAN諸国や南アジアなどの市場に販売している。その際、タイからASEAN向けの輸出には、ASEAN物品貿易協定(ATIGA)を活用している。クラッチフェーシングは、日本での直接の需要は少ないものの、マニュアル車の生産が多いアジア諸国など向けに日本で自動車部品の組み立てを行っている顧客もいることから、タイから日本にも輸入している。いずれもグループ企業内での取引となるため、FTA活用のメリットは、販売価格に直結する関税分のコスト削減に尽きる。日タイEPA、ATIGAの活用において、目立ったトラブルはこれまでにはない。

特定原産地証明書の電子発給開始に期待

質問:
利用しているFTAへの期待と課題は。
答え:
日タイEPAに関しては、2022年1月から、使用するHSコードが2002年版から2017年版に変更となるため、自社製品のHSコードに影響がないか確認作業を進めている(2021年12月3日付ビジネス短信参照)。
また、同じく2022年1月から、同協定の日本商工会議所における特定原産地証明書の発給が電子化することには大変メリットを感じている。
日本商工会議所では、2022年1月4日以降の発給申請分から、日タイEPAでは紙面での特定原産地証明書の発給を廃止し、すべてPDFファイル形式による電子発給となる。タイ税関から紙面による提出を求められる場合には、PDFファイルをカラー印刷して提出する。また、2017年版のHSコードへの変更にあたり、すでに取得している原産品判定番号を継続して使いたい場合には、各産品の判定依頼者が特定原産地証明書発給システム上でHSコードの変更も原産品判定に影響を与えないこと、変更後のHSコードなどを確認および宣誓する手続きが必要となるので留意が必要だ(日本商工会議所11月30日付発表PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(435.23KB))。
最近では、顧客からの要望で航空輸送を行うことが増えているが、コロナ禍の影響で輸送便が直前に決まることが多く、特定原産地証明書の発給が製品出荷に間に合わないことが多かった。
特定原産地証明書よりも製品が早く届いてしまう場合、一定期間内に事後発給(遡及発給)した特定原産地証明書を提出することで支払った関税の還付などを受けることが可能なことは知っていたが、乙仲業者を含めて自社でも方法がよくわからず、また手続きが煩雑となる点でデメリットを感じ、FTAを利用せず輸送することがほとんどだった(注)。電子化することで、発給までのリードタイムが早くなるため、今までFTA利用をあきらめていたケースでも使えるようになることを期待している。
質問:
海外展開における現状の課題は。
答え:
コロナ禍で全体的に原材料が値上がりし、かつ国際物流も乱れて輸送費が高騰している。顧客の話では、昨今の原材料不足や納期遅れから、半年先程度の中長期での原料確保をする動きが活発になっていると聞く。前述のとおり、自社ではグループ内での取引が主で、補充在庫方式を取っているため、物流の遅れについては大きな影響はなかったが、価格面では、航空便が2倍以上の価格になっており、重量がある製品なので非常に厳しい。関税減免のメリットはあるものの、現状では材料費や輸送費などの部分が利益を圧迫してしまう。

注:
日タイEPAでは、輸入通関時に原産地証明書の提出が間に合わない場合、船積み日から1年以内であれば遡及(そきゅう)発給した原産地証明書の提出が認められている。遡及発給した原産地証明書によって関税の還付などを受ける場合、輸入国側の関税法および関連規則に従い、所定の申告手続きを行う必要がある。また、200ドルまたは20万円を超えない貨物の場合は、原産地証明書の提出を要しないと規定されている(財務省関税局業務課「日タイ経済連携協定原産地規則の概要」PDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(339.43KB)参照)。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・クアラルンプール事務所を経て、2021年10月から現職。

特集:EPAを強みに海外展開に挑む―日本企業の活用事例から

今後記事を追加していきます。