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対中追加関税を受けてサプライチェーンの見直しを迫られる米国企業

2019年8月30日

米国のトランプ大統領は8月1日、米中貿易交渉の不調を理由に、これまで追加関税の対象とはしていなかった、消費財を多く含む中国からの3,000億ドル相当の輸入品目に対して、9月1日から10%の追加関税を課すと発表。8月23日にはその関税率を15%まで引き上げるとした。いわゆる対中追加関税リスト4である。その後、米通商代表部(USTR)は対象品目のリストを発表し、米国の年末商戦への影響が大きいと見られる品目については、追加関税の発動を12月15日まで延期することとした。しかし、中国からの輸入に頼る米国企業からは、それでは根本的な解決にはならないと批判の声が相次ぐ。長期化の様相を呈する米中貿易摩擦に対応する現時点(8月末)の米国企業の動きを概観する。

対中追加関税リスト4の発動が現実に

トランプ政権はこれまで、1974年通商法301条(以下、301条)に基づき、中国への制裁措置として、中国からの輸入に対してリスト1からリスト3に基づき、段階的に追加関税を課してきた(表)。リスト1~3と比べて消費財が多く含まれるリスト4に関しては、2020年11月に大統領選挙を控える中、米国の一般消費者への影響が懸念されることから、トランプ政権は追加関税発動には慎重な姿勢を維持してきた。USTRが6月17~25日に開催したリスト4の追加関税に関する公聴会でも、参加した米国企業からは関税発動への強い懸念や反対の声が相次いだ(2019年8月7日付地域・分析レポート参照)。そうした経緯もあり、6月末に大阪で開催された米中首脳会談でも、リスト4への追加関税の発動は見送られ、米中の緊張はいったん落ち着きを見せていた(2019年7月1日付ビジネス短信参照)。

表1:追加関税を主とする米中貿易摩擦の経緯(―は項目なし)
年月日 米国側の対応 中国側の対応
2018年7月6日 中国からの輸入額340億ドル相当の818品目(リスト1)に25%の追加関税賦課 米国からの輸入額340億ドル相当の545品目に対して25%の追加関税賦課
2018年8月23日 中国からの輸入額160億ドル相当の279品目(リスト2)に25%の追加関税賦課 米国からの輸入額160億ドル相当の333品目に対して25%の追加関税賦課
2018年9月24日 中国からの輸入額2,000億ドル相当の5,745品目(リスト3)に10%の追加関税賦課 米国からの輸入額600億ドル相当の5,207品目に対して5~10%の追加関税賦課
2019年5月10日 リスト3の関税率を25%へ
2019年5月13日 輸入額3,000億ドル相当の3,805品目(リスト4)に最大25%の追加関税を発表
2019年6月1日 前述5,207品目の追加関税率を、品目群ごとに5→10%、10→20%、10→25%へ引き上げ(一部は5%のまま)
2019年6月29日 トランプ・習近平両首脳が会談し、次の通り合意したとされる
1.貿易交渉の再開
2.リスト4追加関税賦課の当面の延期
3.ファーウェイへの米国製品輸出規制の緩和
4.中国による米農産品の大量購入
2019年8月1日 トランプ大統領がリスト4の発動を9月1日と表明
2019年8月13日 USTRがリスト4を9月1日に発動する3,243品目(リスト4A)と12月15日に発動する555品目(リスト4B)に分けることを発表
2019年8月23日 同日発表の中国政府の報復措置を受けて、リスト1~3の追加関税率を10月1日から30%に引き上げ、リスト4A・4Bの追加関税率を当初予定の10%から15%に引き上げると発表 米国からの輸入額750億ドル相当の5,078品目に対して5%もしくは10%の追加関税賦課を発表。9月1日に発動する対象が1,717品目、12月15日に発動する対象が3,361品目。2019年1月以降停止していた自動車・同部品への最大25%の追加関税も12月15日から再開予定

出所:米中政府の発表資料等を基に作成

しかし、7月末に上海で行われた閣僚級の米中貿易交渉でトランプ大統領が望むような結果が出なかったことを受けて、リスト4の発動が発表された。大統領は自身のツイッターで、中国が約束したとする米国産の農産品の大量購入、米国でのフェンタニルの販売停止が履行されていないことを理由として指摘している(2019年8月2日付ビジネス短信参照)。大統領の発表を受けて、USTRは8月13日、追加関税の対象となるリスト4の輸入品目を正式に発表した。対中輸入依存度が75%未満の品目群はリスト4Aとして9月1日から、75%以上の品目群はリスト4Bとして12月15日から、それぞれ15%の追加関税の対象となる(注1)。リスト4Bには携帯電話やノートパソコン、玩具、ビデオゲーム機など、年末商戦に売れ筋となる品目が多く含まれており、トランプ大統領自身が言及したように、クリスマスシーズンの個人消費への影響も勘案して発動時期をずらしている。リスト4Bまでが予定どおり発動された場合、ジェトロの試算によると、2018年の対中輸入額でみて全体の96.3%と、ほぼ全ての輸入品目に追加関税がかかることになる(2019年8月16日付ビジネス短信参照)。

リスト4の一部延期では解決にならず

トランプ政権によるリスト4の発動決定を受けて、米国の産業界からは相次いで反対の声が挙がっている。全米商工会議所、全米製造業者協会(NAM)、全米小売業協会(NRF)など、主要な業界団体はいずれも8月1日付で、追加関税は米国の企業、労働者、消費者の負担を増やし、米国経済に打撃となるとの趣旨のプレスリリースをそれぞれ発表した。米産業界の中でも、中国での生産の依存度が高いとみられているアパレル業界を代表する米国アパレル・履物協会(AAFA)は、2018年に米国で販売されたアパレルの42%、履物の69%は中国からの輸入であり、全てのアパレル・履物製品が含まれるリスト4への関税賦課はこの産業と消費者に甚大な影響を及ぼすと、具体的な数字を挙げてその影響の大きさを強調した(2019年8月6日付ビジネス短信参照)。在中国の米国企業約900社の代表者で構成される在中米国商工会議所も8月5日付のプレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます で、「9月1日に消費財を含むより多くの品目に追加関税が課されることにより、米中貿易摩擦が一段と激化することに落胆している」との声明を発表している。

年末商戦への影響が大きい品目に対する追加関税の発動時期が延期されたことに関して、NRFはそれ自体は歓迎しつつも、「米国のビジネスにとって先行き不透明な状態が続き、9月1日に発動予定の追加関税は米国の家庭に高いコストを強いることになり、米国経済を減速させる」と、不透明な状況が長期化することに不満を表明した。また、中国の不公正な貿易慣行に対しては、関税ではなく同盟国と協働して対抗する戦略を策定すべきと、包括的な解決策をトランプ政権に求めている(8月13日付プレスリリース外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます )。

サプライチェーンの見直しに影響

追加関税への米国企業の対応は業種ごと、企業ごとにさまざまで、一概には類型化できないが、喫緊の対策として検討が進んでいるとみられるのは、追加関税の発動が12月15日まで延期された品目に関して、今のうちに中国から仕入れて在庫を確保しておくことだろう。リスト4に関する手続きはまだ発表されていないが、リスト1~3の追加関税に対して設けられた適用除外制度の利用も今後取り得る手段となる(注2)。

また、現状のサプライチェーンの中で、サプライヤーとの価格交渉を始めている企業もあるとみられる。しかし、米中貿易摩擦が長期化する可能性がある中、生産活動における対中依存度が高い企業によっては、サプライチェーン全体の見直し、ひいては中国での生産を他国・地域へ移管させるという検討も進んでいる。米中貿易摩擦が実際に動き出した2018年7月以降に、プレスリリースや報道を通じて明らかになった主な米国企業の動きを表にまとめた(表2)。

表2:米国企業によるサプライチェーン見直しの動き
企業名 製品 動き
カレレス 衣服 中国外の調達先を多様化する方針を表明。
ラブサック 家具 生産全体に占める中国の割合を年初の75%から60%まで既に減量。ベトナムへのシフトを積極的に進めており、2020年末までには、中国での生産をなくす考えを表明。
アイロボット 家電 ロボット掃除機「ルンバ」の生産をマレーシアで開始と発表。
ゴープロ カメラ 米国向けカメラの生産をメキシコに移管することを検討。
イエティ クーラーボックスなど ソフトクーラーの生産を2019年末までに中国からフィリピンなど他国に移管すると発表。
スタンレー・ブラック・アンド・デッカー 工具 CRAFTSMANブランドの工具の生産の一部を中国から米国に移管するため、テキサス州に工場を新設することを発表(2020年後半完成予定)。
グーグル サーモスタット スマートサーモスタットの生産を台湾とマレーシアに移管。
アップル スマートフォンなど 中国でのハードウェア製品の生産の15~30%をベトナム、インドに移管することを検討。ベトナムでエアーポッズの試験生産を行うことを検討。
カミンズ ディーゼルエンジン ディーゼルエンジンの生産の一部をインドやその他の国に移管。
ブルックス・ランニング 履物 ランニング・シューズの生産をベトナムに移管する考えと表明。
クロックス 履物 米国向け製品の中国での生産を3分の2以上削減すると表明。
デル パソコン 生産を台湾、ベトナム、フィリピンに移管することを検討。
HP パソコン 生産を東南アジア諸国に移管することを検討。
スティーブ・マデン バッグ 3年前から生産を中国からカンボジアに移管するなかで、2020年末までにカンボジアでの生産比率を現在の約15%から30%ほどに引き上げることを検討。
タペストリー バッグ 中国での生産量を約5%減らし、ベトナムでの生産を増加。
べラ・ブラッドリー バッグ 生産を中国からカンボジア、ベトナムに移管することを検討。
ハズブロ 玩具 米国向け製品の中国での生産割合を3分の2から約半分まで削減し、ベトナム、インドに工場を新設する考えを表明。
アマゾン 通信機器 キンドル、エコーの生産をベトナムに移管することを検討。

出所:企業のプレスリリースや報道を基に作成

在中米国商工会議所が5月に発表した会員企業へのアンケート調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます でも、米中間の追加関税の応酬を受けた事業戦略として、回答企業全体(約250社)の39.7%が「生産設備を中国の外に移管することを検討している、もしくは既に行った」との結果が出ている。しかし、生産拠点の「脱中国」の動きは今に始まったことではない。中国での人件費をはじめとするビジネスコストの上昇や政治的なリスクを受けて、米国企業が生産拠点を他国・地域に移す動きは既に10年ほど前から始まっていた。米中貿易摩擦はその取り組みを加速させた格好だ。

では、米国企業はどこに生産拠点を移管しようとしている、もしくは移したのか。表2からも読み取れるが、ベトナムやフィリピン、カンボジア、マレーシアなど、中国近隣の東南アジア諸国が主な移管先となっている。先述の在中米国商工会議所のアンケート調査でも、生産設備の移管先、または検討している国・地域として、東南アジアが24.7%、メキシコが10.5%との回答が出ている。トランプ大統領は8月23日に、中国で事業を行う米国企業に対し、「企業を米国に戻し、製品を米国内でつくることも含めて、直ちに中国以外の選択肢を模索するよう命ずる」とツイッターで呼び掛けたが、残念ながら追加関税によって製造業のサプライチェーンが米国に回帰するという流れは起きそうにないのが現状だ。

サプライチェーンを見直しても残る課題と不安

サプライチェーンの移管は、追加関税を避ける対策として実効性はあるものの、そもそも、コストと時間がかかることに加えて、移管先のビジネス環境、今後のトランプ政権の通商政策の出方次第では、米国企業は引き続き厳しい状況に直面することになる。

まず、コストと時間の面では、移管先での工場の設立、サプライヤー探し、従業員の訓練などに少なくとも2~3年はかかるとされる。結局は、それらサプライチェーンを移管するためのさまざまなコストと、関税を負担し続けるコストをてんびんにかけることになる。また、中には中国以外で生産することが難しいものもあり、このままでは関税に耐えねばならない事例もある。アウトドア用品大手コロンビアのピーター・ブラグドン副社長は、同社製品全体に占める中国製の割合は10~15%しかないが、その中でも耐水素材のハイキングシューズといった特殊な製品の生産を中国から移動させるのは難しいとし、同社製品に今後10%の追加関税が課されることについて、トランプ政権の追加関税を強く批判している(ブルームバーグ8月13日)。

移管先の国・地域で充実したビジネス環境が確保できるかも重要な視点となる。例えば、現在、多くの企業が移管先として目をつけているベトナムでは今後、労働市場、生産設備のための不動産市場などの需給が逼迫(ひっぱく)することが見込まれる。アパレル産業に関して、デラウェア大学でファッション・アパレルを研究するシェン・ルー助教授は「今の時点でベトナムにいなければ、おそらく遅過ぎるだろう」としている(「フィナンシャル・タイムズ」紙(電子版2018年9月3日))。

最後に、トランプ政権の通商政策の中核に貿易赤字の解消があることを忘れてはならない。つまり、米国にとって、中国からの輸入が減ったとしても、他国からの輸入が増えれば、抱える問題は変わらないということだ。実際にトランプ大統領は6月26日のテレビでのインタビューで、「多くの企業が(対中関税の影響を受けて)ベトナムに移転しているが、ベトナムは中国以上に米国をだましている」と、ベトナムとの通商関係を問題視する発言をしている(ビジネス・インタサイダー6月26日)。対中追加関税リスト1が発動する前の2018年1~6月期における米国の対ベトナム貿易赤字額は182億ドルだったが、2019年1~6月期には253億ドルと39%増加している(出所:米国センサス局)。企業にとっては、これまで以上に知恵と忍耐が求められる状況が続きそうだ。


注1:
トランプ政権は8月23日、同日発表の中国政府の報復措置を受けて、リスト1~3の追加関税率を10月1日から30%に、リスト4の追加関税率を当初予定の10%から15%にそれぞれ5%ずつ引き上げるさらなる報復措置を発表している(2019年8月26日記事参照)。
注2:
リスト1の品目別適用除外制度の概要については2018年7月12日記事、リスト2の制度概要については2018年9月19日記事、リスト3の制度概要については2019年6月24日記事を参照。リスト1に関する1度目の適用除外対象品目の発表は2018年12月28日(2019年1月4日記事参照)、2度目は3月25日(2019年3月28日記事参照)、3度目は4月18日(2019年4月18日記事参照)、4度目は5月9日(2019年5月13日記事参照)、5度目は6月4日(2019年6月5日記事参照)、6度目は7月9日(2019年7月16日記事参照)。リスト2に関する1度目の適用除外対象品目の発表は7月31日(2019年8月1日記事参照)。リスト3に関する1度目の適用除外対象品目の発表は8月7日(2019年8月7日記事参照)。
執筆者紹介
ジェトロ ニューヨーク事務所 調査担当ディレクター
磯部 真一(いそべ しんいち)
2007年、ジェトロ入構。海外調査部北米課で米国の通商政策、環境・エネルギー産業などの調査を担当。2013~2015年まで米戦略国際問題研究所(CSIS)日本部客員研究員。その後、ジェトロ企画部海外地域戦略班で北米・大洋州地域の戦略立案などの業務を経て、2019年6月から現職。

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