米国企業がみる対中追加関税第4弾の影響

2019年8月7日

トランプ大統領が、ツイッターを通じて9月1日から賦課すると表明した3,000億ドル相当の中国原産輸入品への10%の追加関税が、米国の消費に与える影響が懸念されている。大統領のツイート後、米国通商代表部(USTR)からは8月6日現在、詳細などは発表されていないが、2019年5月にUSTRが発表した追加関税第4弾対象品目案(リスト4)(2019年5月14日付ビジネス短信参照)が、その対象になる見込みだ。リスト4には携帯電話、パソコン、衣類、玩具、履物など消費財が多く含まれ、追加関税が実行された場合、GDPの7割を占める個人消費への影響は大きい。本稿では、追加関税第4弾の影響を米国の産業界や企業がどう見ているのか、声明や公聴会での意見書などを基に紹介する。

追加関税は「好調な経済を傷つける」

5月に発表された追加関税第4弾は、当初25%の追加関税が予定されていたが、今回のトランプ大統領による表明では追加関税率は10%に引き下げられた。それでも、業界団体などからは「米国の企業、農家、労働者、消費者に苦痛を負わせ、米国の好調な経済を傷つけるだけだ」(全米商工会議所のマイロン・ブリリアント副会長)といった批判の声が多く上がっている(2019年8月6日付ビジネス短信参照)。

特に、追加関税第1~3弾ではほとんど対象になっていなかった履物や玩具・スポーツ用品、縫製品などは、リスト4が適用されると中国からの輸入品の大半に追加関税が課されることになり、業界からの反発が大きい。

衣類や履物への追加関税を危惧する全米アパレル・履物協会(AAFA)は、今回のトランプ大統領の表明に対して、8月1日、リスト4への追加関税賦課はアパレル・履物産業と消費者に甚大な影響を及ぼす、との懸念を表明した。同協会はリスト4が発表された5月13日にも、追加関税は「価格の上昇、売り上げの低迷、失業につながる」ものであり、「米国経済にとって悲劇的な自傷行為だ」と強く反対を表明し、衣類、靴、旅行関連用品への追加関税によって、米国の消費者は1家庭(4人家族)当たり年間500ドル負担することになる、との試算を公表していた。また150以上の業界団体から成り、追加関税に反対を唱えるTariffs Hurt the Heartland (注1)も、リスト4ですべての品目に25%の関税が課された場合、米国の1家庭当たり年間2,300ドルの負担を強いられると試算。米国の世帯当たり平均年間支出額(2017年,米労働統計局データ)が6万60ドル、このうちアパレルおよびサービスへの支出が年間平均1,833ドルであると考えると、追加関税率が10%になったとしても、家庭への負担は決して小さくないといえる。

‘47ブランド:生産拠点の移管にはコストと時間を要する

リスト4については、6月に公聴会が行われ、そこでの意見などを踏まえて検討され、最終的な対象品目リストが発表される予定になっている。6月17~25日に行われた公聴会には325の団体や企業が参加し、それぞれの見解をUSTRに訴えた。具体的な企業の反応を、公聴会を前にUSTRに提出された意見書を基に紹介する。

メジャーリーグやナショナル・バスケットボール・リーグなどプロスポーツの公式グッズを製造・販売する‘47ブランドは、リスト4に関し、「米国の消費者は、可処分所得の中で当社の商品を購入しているのであり、既に追加関税第3弾の対象になった野球帽に5ドル余計に払った上で、さらにTシャツに10ドル、トレーナーに15ドル余計に払えない。追加関税が実施されれば、われわれのビジネスは縮小する」とその影響を懸念した。一方、同社は、米政権の対中通商政策を全面的に支持し、既に中国から他の国に供給拠点を移す取り組みに着手していることも明らかにした。しかし、メジャーリーグなどからライセンス供与されている商品の生産には、サプライチェーン全体においてライセンサーの定める規則や、公正労働協会、小売店が定める各種規則や安全基準、コンプライアンスを満たす必要があり、生産拠点の移転には時間とコストを要すると主張。このため、追加関税の賦課開始を12か月遅らせるようUSTRに求めた。

ウォルマート:消費者と国内調達先への影響を懸念

小売り大手のウォルマートは、USTRへの意見書の中で、リスト4に衣類や履物、消費家電や玩具、家庭用品などが含まれ、これら日用品への追加関税は一定の品目の販売価格上昇につながると、消費者への影響に懸念を示した。さらに、ウォルマートは2013年から10年間、米国経済再生のため米国内から2,500億ドル分の調達をすると約束しているが、米国で生産するための部品を中国に依存している多くの調達先が追加関税によってネガティブな影響を受けるとし、追加関税の賦課に反対を表明した。加えてウォルマートは、中国の店舗で米国産の豚肉や牛肉、サクランボやナッツ、ワインなどを販売しているが、これらの多くが中国による報復関税の対象になっていることを指摘し、リスト4への追加関税が実施されれば、さらなる報復関税の影響を受けかねないと主張した。

携帯電話とノートパソコンへの影響大

リスト4は、米国関税率表の上位8桁ベースと10桁ベースの3,805品目で構成される。ジェトロの試算では、これら対象品目の2018年の対中輸入額は2,694億ドルで、輸入額全体の5割弱(49.9%)に達する(2019年6月7日付ビジネス短信参照)。

個別品目(HSコード8桁)で対中輸入額の大きいものをみると、1位は携帯電話、2位はノートパソコンとなっている(表1参照)。これらの中国からの輸入シェアをみると、携帯電話は米国の輸入台数合計2億1,600万台(2018年)のうち8割を、ノートパソコンは同9,700万台のうち9割を占める(表2、表3参照)。米国は現在、携帯電話にもノートパソコンにも原則として関税をかけていないだけに(注2)、中国製品にのみ10%の追加関税が課される影響は大きい。ジェトロが行った企業ヒアリングでは、米国で携帯電話などの売り上げが落ちた場合に関連部品の需要が減少することを危惧する声も聞かれた。

表1:リスト4の中で対象品目の中で米国の対中輸入額が大きい個別品目(2018年)(単位:100万ドル)
順位 HSコード 品目 輸入額
1 8517.12.00 携帯電話 43,207
2 8471.30.01 ノートパソコン 37,457
3 9503.00.00 玩具 11,928
4 9504.50.00 ビデオゲーム機 5,368
5 8528.52.00 パソコンなどモニター 4,656
6 8528.72.64 カラーテレビ受信機 4,465
7 8523.51.00 不揮発性半導体記憶装置 3,994
8 8517.70.00 電話機部分品 2,570
9 3926.90.99 その他プラスチック製品 2,377
10 8443.31.00 複合機 2,314

出所:米商務省統計からジェトロ作成

表2: 米国の携帯電話輸入台数(2018年)
国・地域 台数 シェア
(%)
中国 171,365,097 79.3
ベトナム 23,688,739 11.0
韓国 10,931,115 5.1
香港 3,585,873 1.7
メキシコ 2,989,217 1.4
日本 1,405,658 0.7
台湾 577,932 0.3
インド 527,441 0.2
UAE 151,123 0.1
フィリピン 121,415 0.1
合計 215,998,224 100

注:上位10カ国・地域のみ記載。合計にはその他を含む。
出所:米国国際貿易委員会(USITC)データよりジェトロ作成

表3:米国のノートパソコン輸入台数(2018年)
国・地域 台数 シェア
(%)
中国 88,937,541 91.4
ベトナム 5,620,359 5.8
台湾 1,195,486 1.2
香港 641,082 0.7
メキシコ 377,845 0.4
韓国 149,640 0.2
日本 138,153 0.1
ニュージーランド 53,549 0.1
英国 33,093 0.0
マレーシア 31,500 0.0
合計 97,324,262 100

注:上位10カ国・地域のみ記載。合計にはその他を含む。
出所:米国国際貿易委員会(USITC)データよりジェトロ作成

アップル:追加関税はグローバル競争力低下にもつながる

米国で携帯電話市場シェア1位のアップル(31.3%、2018年、ユーロモニター調べ)は、追加関税の影響をどう見ているのか。同社は6月にUSTRに提出した意見書の中で、リスト4の対象に含まれるiPhone, iPad, アップルウオッチ、iPhone の補修パーツなどについて、追加関税を課さないよう強く主張している。同社は全米で200万人以上の直接・間接雇用を生んでおり、米経済に対して5年間で3,500億ドル以上の直接的貢献をすると2018年に公表しているが、同社製品に追加関税が課せられた場合、米経済への貢献の減少につながる、と懸念を示した。またアップルにとって、世界市場での競争相手は中国メーカーだが、米国での市場シェアが大きくない中国メーカーや他国のメーカーは、追加関税のダメージをさほど受けないため、追加関税がこれらライバル企業のグローバル競争力に有利に働くといった点も指摘している。

HP:中国は世界で最も成熟したノートパソコン生産拠点

ノートパソコンで米国市場シェア1位のHP(23.7%、2018年、ユーロモニター調べ)も、リスト4からのノートパソコンの除外を主張している。HPはUSTRに提出した意見書で、中国はHPのノートパソコンの唯一の生産拠点であること、また、中国は世界の中でもノートパソコンの生産拠点として最も成熟したエコシステムを有し、これは米国、日本、台湾の企業がサプライチェーン全体にわたり安定した投資を行ってきたことで構築されたもの、と主張した。中国のノートパソコンなどの供給量は第2の供給拠点である台湾の42倍に達し、これだけ大量のものの供給拠点を他国に移管するのは困難で、時間もコストもかかると訴えている。

消費意欲に影落とす追加関税第4弾

リスト4への関税賦課の可能性は、米国民の消費意欲にも影を落とす。消費マインドを示す消費者信頼感指数は2019年5月には131.3と高水準を示していたが、リスト4発表後の6月には124.3に低下した。6月末の米中首脳会談後、リスト4への追加関税がいったんは回避されたことで、同指数は7月には再び135.7と5月を上回る高水準に回復していた。その矢先の8月1日に再度追加関税の賦課が表明されたことで、今後の消費者マインドにどのような影響を与えるかが注目されている。米国経済は、GDPの7割を占める個人消費の好調に牽引され、2018年は2.9%、2019年第1四半期3.1%、第2四半期2.1%の成長を維持してきただけに、消費が減退した場合の影響は大きい。


注1:
Tariffs Hurt the HeartlandExternal site: a new window will open :150以上の小売り、テック産業、製造業、農業関連の通商団体から成り、トランプ政権の追加関税措置に反対を表明する組織的運動。
注2:
米国はコンピューター類、半導体など358品目のIT関連製品の関税をゼロにする情報技術協定(ITA)に参加しているため、携帯電話、ノートパソコンともに、現在、関税をかけていない。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部米州課長
藤井 麻理(ふじい まり)
中東アフリカ課、アジア大洋州課、アジア経済研究所、国際ビジネス情報誌『ジェトロセンサー』編集部、国際ビジネス情報番組「世界は今 JETRO Global Eye」ディレクター、在ボストン日本国総領事館勤務(2014年11月~2017年12月)等を経て、2019年2月より現職。