ジェトロ対日投資報告2021
第2章 日本のビジネス環境と外資系企業
第1節 対日直接投資促進戦略と日本のビジネス環境

2030年までに対日直接投資残高倍増を目標

第1章で見たとおり2020年末の対日直接投資残高は、39.7兆円、残高のGDP比は7.4%まで増加した。これにより2020年末に対日直接投資残高35兆円という政策目標※1を達成した。2021年6月の対日直接投資推進会議では、対日直接投資残高をKPI(Key Performance Indicator)として設定、新たな目標として、2030 年に同残高を 80 兆円、そのGDP比を 12%とすることを目指す、とした。なお、2025年に「60兆円、GDP比10%」をメルクマールし、適切な時期に中間評価を実施する(図表2-1)。

図表2-1 対日直接投資残高の推移と目標
対日直接投資残高の推移と目標を示した縦棒グラフと折れ線グラフ。縦棒グラフは直接投資残高の数値。2010年度18.7兆円、2015年度24.8兆円、2020年度39.7兆円、2025年度60兆円(目標値)、2030年度80兆円(目標値)。折れ線グラフは直接投資残高のGDP比率(%)。2010年度3.7%、2015度4.6%、2020度7.4%、2025年度10%(目標値)、2030年度12%(目標値)。

〔注〕対日直接投資残高は、国際収支マニュアル第6版に基づく
〔出所〕「本邦対外資産負債残高」(財務省、日本銀行)、「国民経済計算」(内閣府)から作成

この政策目標達成のため、ビジネス環境の整備を加速することが求められる。2021年6月2日の対日直接投資推進会議で新たな目標とともに決定した「対日直接投資促進戦略」では3つの柱として、(1)デジタル・グリーンの新市場の創造とイノベーション・エコシステムの構築、(2)グローバルな環境変化に対応したビジネス環境整備の加速、(3)地域の強みを活かした官民連携による投資環境整備 が挙げられた。

さらに、補助指標として、以下の3つの指標とその目安が示された。一つ目の補助指標は、マクロ経済的観点から外資系企業※2の事業活動の成果としての付加価値額※3で、2030年度に 34兆円と、 2018年度の17兆円からの倍増を目安とし、その状況をフォローアップすることとした。

また、現状は外資系企業※4の42.9%が東京に集中している現状に鑑み、 二点目の補助指標として都道府県別の外資系企業数を把握することとし、地域経済への広がりを見る観点から、東京都以外の道府県の外資系企業数として2026年に10,000 社を目安とした。

イノベーションの観点から外国人の高度人材の入国者数も三つ目の補助指標としている。海外からの経営・管理人材の入国者数を2030 年に 20 万人という目安が示された。

  1. ※1

    「日本再興戦略」(2013年6月 14 日閣議決定)

  2. ※2

    企業活動基本調査(経済産業省)における企業の発行済株式総数若しくは出資金総額に占める外国投資家による所有株式数又は出資金額の割合が1/3を超える企業

  3. ※3

    付加価値額 = 営業利益+給与総額+減価償却費+福利厚生費+動産・不動産賃借料+租税公課

  4. ※4

    2016年経済センサス活動調査(経済産業省)における外資比率が1/3を超える企業

ビジネス環境に関する指標

2020年はビジネス環境に関する調査もコロナ禍での特別分析が多く見られた。世界経済フォーラムでは、通常の世界競争力ランキングに代えて、37の国・地域を対象に、3年から5年後のビジネス環境の変革の方向性を4分野、11の指標(0-100点)で発表した。

1つ目の分野は、実効性のあるビジネス環境として「公的機関の信頼性」「エネルギーシフトとITアクセス」「税制改革」の3指標があり、日本は税制改革の点では2位となった。2つ目は人的資本に関連するもので、「変化に対応した教育・研修」「労働法制の再考」「介護・育児・医療の変革」のいずれも日本は中位であった。3つ目の市場に関する指標は「長期投資への補助金」「第4次産業革命の競争のあり方」「官民連携による新市場の形成」で日本は官民連携では3位であった。4つ目のイノベーション・エコシステムでは「知財投資への補助金」「多様性を重視する企業への補助金」が挙げられ、日本は知財投資の指標で2位であった。日本は得点で50点を下回るものは「介護・育児・医療の変革」(49.3点、15位)のみで、「エネルギーシフトとITアクセス」(76.9点、24位)、「多様性を重視する企業への補助金」(56.0点、30位)、「変化に対応した教育・研修」(51.3点、22位)以外は平均を上回った(図表2-2)。

図表2-2 日本の11指標の順位
日本の 11 指標の順位を示したレーダーチャート図。公的機関の信頼性、13位、エネルギーシフトとITアクセス,24位,税制改革の国内・国際枠組み,2位,変化に対応した教育・研修,22位,労働法制の再考,19位,介護・育児・医療の変革,15位,長期投資への補助金,5位,第4次産業革命の競争のあり方,18位,官民連携による新市場の形成,3位,知財投資への補助金,2位,多様性を重視する企業への補助金,30位。

〔出所〕「世界競争力ランキング」 (世界経済フォーラム)

スタートアップ企業の環境指標東京は9位に

2021年9月22日に米国調査会社スタートアップ・ゲノムが「グローバル・スタートアップ・エコシステム・リポート(GSER)2021」を発表した。このGSER2021は世界約150都市以上を対象としたランキングを公表している。東京は2020年の15位から順位を六つ上げて9位となり、初めて上位10都市に入った。また上位5位までに変動はなかった(図表2-3)。

図表2-3 GSERにおける上位20都市
2021年
順位
国名 都市名 順位
変動
2020年
順位
国名 都市名
1 米国 シリコンバレー 1 米国 シリコンバレー
2 米国 ニューヨーク 2 米国 ニューヨーク
2 英国 ロンドン 2 英国 ロンドン
4 中国 北京 4 中国 北京
5 米国 ボストン 5 米国 ボストン
6 米国 ロサンゼルス 6 イスラエル テルアビブ
7 イスラエル テルアビブ 下降 6 米国 ロサンゼルス
8 中国 上海 8 中国 上海
9 日本 東京 上昇 9 米国 シアトル
10 米国 シアトル 下降 10 スウェーデン ストックホルム
11 米国 ワシントンD.C. 11 米国 ワシントンD.C.
12 フランス パリ 上昇 12 オランダ アムステルダム
13 オランダ アムステルダム 下降 13 フランス パリ
14 カナダ トロント 上昇 14 米国 シカゴ
14 米国 シカゴ 下降 15 日本 東京
16 韓国 ソウル 上昇 16 ドイツ ベルリン
17 スウェーデン ストックホルム 下降 17 シンガポール シンガポール
17 シンガポール シンガポール 下降 18 カナダ トロント
19 中国 深圳 上昇 19 米国 オースティン
20 米国 オースティン 下降 20 韓国 ソウル

GSERは6つの評価項目を10点満点で評価し、独自の算出方法により上位40都市に順位をつけている。上位3都市の得点を見ると、シリコンバレーはすべての評価項目で満点の10点、2位のニューヨーク、ロンドンも研究開発を除くすべての評価項目で10点あるいは9点であった。東京の評価が高かったのは「資金調達」「人材」「研究開発」で9点を獲得した。一方、東京は「域内連携」が1点で地域内ネットワークの連携がより求められる(図表2-4)。

図表2-4 GSERにおける東京と上位3都市の比較
GSER(実績,資金調達,域内連携,市場リーチ,研究開発,人材の6 つの評価項目を 10 点満点で評価した指標) における東京と上位 3 都市の比較を示したレーダーチャート図。 東京,9位,シリコンバレー,1位,ニューヨーク,2位,ロンドン,2位

〔注〕各項目の数字は東京のスコアを指す。
〔出所〕GSER2021(スタートアップ・ゲノム)から作成

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