未来志向の新たな日韓産業連携の可能性を探るカカオインベストメントに聞く、コンテンツ分野の日韓連携の可能性

2026年8月28日

ジェトロでは2025年度、日韓企業間の新たな協力分野について探求・議論する「未来志向の日韓ビジネス研究会」を立ち上げ、全5回の研究会を開催した(地域・分析レポート特集「未来志向の新たな日韓産業連携の可能性を探る」参照)。同研究会で注目し、取り上げたテーマの1つであるコンテンツ・エンターテインメント分野における日韓連携について、韓国IT大手カカオグループ傘下の投資会社、カカオインベストメントのPrincipal(プリンシパル、上級投資担当者)であるチェ・ヒョチャン(Mike)氏に話を聞いた(取材日:2026年7月16日)。


カカオインベストメントのPrincipal、チェ・ヒョチャン(Mike)氏(同社提供)
質問:
カカオグループの事業概要と、日本市場を含む海外展開の状況と方針は。
答え:
カカオグループは、人工知能(AI)、メッセンジャーサービス、デジタル金融(ネットバンク、決済サービス、ネット証券)、コンテンツ・エンターテインメント、モビリティ〔ライドヘイリング(注1)、フィジカルAI、ラストマイル(注2)〕など幅広い領域で事業を展開している。
その中でも主力のコンテンツ・エンターテインメント事業は、グループの海外成長戦略において重要な位置を占めている。韓国国内ではカカオトークやカカオモビリティ、カカオバンク、決済サービスなどが高い市場シェアを獲得しているが、今後のさらなる成長に向けては、海外市場の開拓が不可欠と認識している。また、コンテンツ・エンターテインメント分野は、プラットフォームを通じて国境を越えやすい特性がある。
日本における代表的な事業は、電子マンガ・ノベル配信プラットフォームの「ピッコマ」だ。韓国発のウェブトゥーン(注3)を日本向けにローカライズしながら、日本の出版社の作品も数多く取り扱っている。ピッコマは海外ユーザーの獲得と収益化に成功した、カカオグループを代表する海外事業の1つとなっている。
今後に向けては、ウェブトゥーン事業に続く次の事業機会を模索しており、バーチャルIP(知的財産)などの次世代のエンターテインメントや、IPを活用したメディアミックス展開に着目している。その背景には、持続的な成長に向けて、蓄積してきたIPを活用するとともに多様なコンテンツを通じて若年層との接点を増やし、新たなファン層を獲得していく必要があるとの危機感もある。
こうした観点から、日本市場についても継続的に調査しているほか、米国、東南アジアも対象として、BtoCのみならずBtoB領域も含めて提携先や投資先を探している。
質問:
カカオインベストメントの役割と、日本での投資実績は。
答え:
前述のカカオグループの事業領域のうち、直接の事業につながる可能性が高い領域への投資は、各系列の事業会社の戦略部門や投資部門が担当している。他方で、カカオインベストメントは、5年後、10年後といった中長期の視点で、成長性がある領域を、韓国国内のみならずグローバルに探って投資するのがミッションだ。
現在、カカオインベストメントの投資先企業は全世界で約85社に上る(2026年7月時点)。うち、日本では4社への投資実績があり、追加投資を行った案件もある。2024年1月から直接投資も開始し、総額約10億円以上を投資している。前述のバーチャルIPに関連する分野では、2025年11月にVTuber事業などを展開するBrave Group(ブレイブグループ)へ投資を行った。カカオグループが保有するエンターテインメント関連資産やコンテンツエコシステム(コンテンツの制作・流通・ファンコミュニティ形成を一体的に展開する仕組み)と、Brave groupが持つIP開発・運営力を掛け合わせることで、新しい価値の創出と市場拡張が加速すると考えている。
質問:
日本への投資を進める上での課題は。
答え:
カカオインベストメントにとって最大の課題は、特にコンシューマー向けのサービスにおいて、日本のトレンドや市場環境をリアルタイムで十分に理解し、それを踏まえたかたちでユーザーの共感を得ることの難しさにある。また、現状では個人のバックグラウンドやネットワークを起点として案件が進展するケースが多い。私自身は幼少期を日本で過ごした経験があり、日本企業の関係者とも日本語で円滑にコミュニケーションを取ることができる。そのため、日本への出張を通じて構築したネットワークや収集した情報を基に案件を発掘し、韓国本社での投資判断につなげている。しかし、日本と韓国の人的往来が過去に例のない水準まで拡大し、日本の文化に慣れ親しんだ人材が増えている現在においても、有望な案件について社内で十分な理解や合意を得るまでに時間を要することがある。
今後さらに日本企業との連携を拡大していくためには、組織全体として情報共有や 案件発掘を行う仕組みを構築・強化していくことが重要だと考えており、現在社内でもその方向性について議論を進めている。
質問:
コンテンツ分野における日韓連携の取り組み状況や、今後の新たな連携の可能性に対する見方は。
答え:
連携できる余地は大きいと考えており、実際にカカオグループでは日本企業との間でIPの共同開発を進めている取り組みもある。キャラクターなどの新たなIPの創出には時間とコストがかかるが、共同開発を通じて双方の経営資源を活用することで、開発効率と投資効果を高めることができる。
日本企業の中には、長年にわたりキャラクターやIPを育成してきた実績を持つ企業や、全国的な店舗網を活用できる企業がある。一方、カカオグループはデジタルプラットフォームを通じたコンテンツ流通に強みを持つ。例えば、カカオトーク上の絵文字など、デジタルグッズの販売やギフトサービスなどを活用し、オンラインでの収益化を支援できる。
従って、共同でIPを開発した場合、日本企業がオフラインでの展開を担い、カカオグループがデジタル領域での販売やファンコミュニティ形成を担うといった役割分担も可能と考える。また、日本および韓国市場での展開のみならず、第三国市場への展開においてもカカオのグローバルネットワークの活用が期待できる。このように相互補完関係を構築できることが、連携の重要なポイントになると考えている。

注1:
法人や個人事業主がスマートフォンアプリを使って乗客を迎え、目的地まで運ぶサービス。 本文に戻る
注2:
物流における最後の拠点から顧客(エンドユーザー)に届くまでの最終区間や最終接点。 本文に戻る
注3:
韓国で発展した縦スクロール形式のデジタルマンガ。スマートフォンでの閲覧に適した構成を特徴とする。 本文に戻る
執筆者紹介
ジェトロ調査部中国北アジア課 課長代理
小林 伶(こばやし れい)
2010年、ジェトロ入構。海外調査部中国北アジア課、企画部企画課事業推進班(北東アジア)、ジェトロ名古屋などを経て2019年6月から現職。