紅海情勢など地政学的緊張が海上輸送に影響、UNCTAD報告

(中東)

調査部中東アフリカ課

2025年10月14日

国連貿易開発会議(UNCTAD)は9月24日、海上輸送に関する報告書「REVIEW OF MARITIME TRANSPORT 2025」を発表外部サイトへ、新しいウィンドウで開きますした。同報告書によると、紅海情勢悪化など地政学的緊張による喜望峰ルートなど長距離航路への変更などで、2024年に海上輸送のトンマイル(輸送トン数に輸送距離マイルを乗じた数値)は前年比5.9%増と過去最高になった。海上貿易量は2024年に2.2%増加し、2025年には0.5%増と横ばいとの予測だ。

また、中期的には、地政学的情勢、産業政策の変化、世界的なエネルギー転換などを反映し、2026~2030年の海上貿易量が年平均2%成長、コンテナ貿易が同2.3%成長するとした。

なお、スエズ運河の2025年5⽉初旬の船舶通航量は、2023年の平均を約70%下回った。世界の海上貿易の11%、⽯油の海上輸送の3分の1以上が通過するホルムズ海峡においても、2025年6月に地域情勢悪化によりリスクにさらされたと指摘した。状況によっては遅延や保険料上昇の可能性もあるが、現状、ホルムズ海峡の船舶の通過数は変化がない。

同報告書によると、コンテナ運賃は2024年半ばから2025年半ばにかけて不安定で、おおむね高止まりの状況だった。2024年は紅海情勢悪化に伴う、航路の変更、航海距離の延長などにおり輸送コスト増となった。2025年初頭に運賃は下落したが、新たな関税発表やホルムズ海峡を含む地政学的リスクの高まりなどにより、再度コストが上昇したという。また、コスト増は開発途上国の経済に打撃を与える恐れがあると指摘した。

〇参考:地政学的影響を踏まえた中東・アフリカの物流動向

UNCTADは、貿易円滑、港湾運営の官民連携の拡大を求めており、さらに気候変動対策や各国の関税政策の変化を踏まえ、次の取り組みを推進するとしている。

  • 不確実性を軽減し、サプライチェーンを維持するための貿易政策を安定化
  • 環境に優しく、強靭(きょうじん)で持続可能な港湾・船舶輸送インフラへ投資
  • サイバーセキュリティーを確保しつつ、効率性・透明性を高めるデジタル化の推進
  • 気候目標の達成と持続可能な船舶リサイクルの促進のため船舶の更新・近代化を加速
  • 輸送コスト上昇などの影響に脆弱(ぜいじゃく)な開発途上国を支援

なお、2025年1⽉1⽇時点では世界の船舶数は11万2,500隻、総積載量は24億4,000万トンに達した。リベリアが前年同様に載貨重量で世界最大の船舶登録国となり、パナマ、マーシャル諸島が続き、3カ国でシェア45.1%を占めた。

(井澤壌士)

(中東)

ビジネス短信 5111eee1b5f7c50f