「次のフロンティア」アフリカを巡る世界各国・地域の動向アフリカ政策とその背景
トルコ官民一体のアフリカ展開(1)

2025年7月11日

54カ国(世界の28%)、約15億人の巨大な人口(同18%)を擁するアフリカでは、急速な人口増加によって2050年には人口が約25億人、世界人口の4分の1に達する見込みである。世界各国が国際社会で存在感を増すアフリカの市場開拓を活発化させている中で、トルコもアフリカ諸国との経済関係を積極的に構築している国の1つである。

そこで、トルコとアフリカの関係を2回に分けてレポートする。前編となる本稿では、トルコの対アフリカ外交政策やアフリカ諸国との歴史的関係をまとめる。

トルコのアフリカ外交政策

トルコ政府は、相互利益の追求を前提とした「アフリカの問題はアフリカによる解決」を尊重する立ち位置で、トルコの社会経済開発の経験や知識を共有し、貿易拡大をとおした関係構築を目指している。トルコ政府は、2003年にアフリカ諸国との経済関係開発戦略を発表して以降、アフリカ諸国とのハイレベル外交やアフリカ各国への大使館、総領事館の設置を加速させ、現在、アフリカにおけるトルコ公館の数は44となっている。2005年にアフリカ連合(AU)のオブザーバー、2008年に戦略的パートナーとなり、同年、トルコのイスタンブールで「第1回トルコ・アフリカ協力サミット」を開催した。このサミットには、アフリカ49カ国と、AUを含む11の国際機関・地域機関が参加した(表4参照)。また、2009年は、トルコが2つの国を除くほぼ全てのアフリカ諸国の支持を得て国連安全保障理事会の非常任理事国に選出され、トルコのアフリカ諸国との強固な関係を示す年でもあった。トルコは2013年には、アフリカ開発銀行(AfDB)の非アフリカ加盟国となった。

レジェップ・タイップ・エルドアン大統領は、首相および大統領任期中にアフリカ30カ国以上を訪問している(表1参照)。また、2024年にはエチオピアとソマリアとの和平協議を仲介した(2024年12月20日付ビジネス短信参照)。

表1:レジェップ・タイップ・エルドアン大統領(首相時も含む)のアフリカ訪問
人物 訪問先
レジェップ・タイップ・エルドアン首相(当時) 2004年 エジプト
2005年 エチオピア、南アフリカ共和国、チュニジア、モロッコ
2006年 スーダン、エジプト、アルジェリア
2007年 エチオピア
2009年 エジプト
2010年 リビア
2011年 エジプト、リビア、ソマリア、チュニジア、南ア
2012年 エジプト
2013年 ガボン、ニジェール、セネガル、モロッコ、アルジェリア、チュニジア
2014年 赤道ギニア、アルジェリア
レジェップ・タイップ・エルドアン大統領(現在) 2015年 エチオピア、ジブチ、ソマリア
2016年 セネガル、コートジボワール、ガーナ、ナイジェリア、ギニア、ウガンダ、ケニア、ソマリア
2017年 タンザニア、モザンビーク、マダガスカル、スーダン、チャド、チュニジア
2018年 アルジェリア、モーリタニア、セネガル、マリ、南ア、ザンビア
2019年 チュニジア
2020年 アルジェリア、ガンビア、セネガル
2021年 アンゴラ、トーゴ、ナイジェリア
2022年 コンゴ民主共和国、セネガル
2023年 アルジェリア
2024年 エジプト

出所:トルコ大統領府、アナドル通信を基にジェトロ作成

アフリカの社会開発への支援協力では、トルコ国際協力調整庁(TIKA)の取り組みが挙げられる。TIKAは1992年、外務省傘下(当時)の組織として、新たに独立した中央アジアのトルコ系諸国、コーカサス、バルカン半島などの支援目的で設立され、2005年にはエチオピアでアフリカ初となるオフィスを開設した。支援分野は、病院建設をはじめとした健康医療、モスク修復、学校、警察官をはじめとした職業訓練、道路などのインフラ整備、養鶏や農業プロジェクトなど多岐にわたる。

トルコ政府は、トルコ共和国政府奨学金(Turkiye Burslari)などを通して、留学生の受け入れを行い、1992年以来、1万5,000人以上のアフリカの学生に学部、大学院、博士課程の奨学金などを提供してきた。トルコ外務省付属外交アカデミーが開催する「国際若手外交官研修」には、アフリカ諸国から240人以上の外交官が参加している。

現在、多くのアフリカ諸国の要人ポストやビジネス関係者に、トルコの支援を受け高度な教育を受けた人物が就任し、2国間の関係強化に寄与している。また、政府だけでなく、人道支援財団(IHH)、マアリフ財団など多くの団体をとおして、トルコからアフリカ諸国への人道支援、開発援助を継続している。

経済関係では、トルコ海外経済関係評議会(DEIK)などが中心となり、2016年、2018年、2021年、2023年に「トルコ・アフリカビジネス経済フォーラム」がイスタンブールで開催された。アフリカから多くの首脳やビジネス関係者が集まり、トルコ企業とのBtoBマッチングなどが行われた。エルドアン大統領は、2021年の第3回「トルコ・アフリカビジネス経済フォーラム」において、「2020年末時点で253億ドルであった貿易額をまず500億ドルに、最終的には750億ドル規模にする」と発言している。第5回となる次回は、2025年10月16、17日にイスタンブールで開催される予定である。また、現在、DEIKには48のアフリカ諸国とトルコの合同経済委員会の枠組みが設けられ、アフリカビジネスに関係するトルコ企業のメンバーで組成されている。エルドアン大統領がアフリカを訪問する際にはビジネスミッションを組成・派遣することも多い。

トルコ輸出入銀行は、エチオピア、ガーナ、コンゴ共和国、セネガル、カメルーンなどアフリカ諸国の大型インフラプロジェクトを支援しており、2023年にはアフリカ金融公社(AFC)へ出資を行った。

このほか、ターキッシュエアラインズは官民一体のアフリカ展開に連動する形でアフリカ各都市への就航を拡大し、現在はアフリカ39カ国60都市に就航している。また、国営のアナドル通信社はアフリカ3カ国に事務所を構え、アフリカ各国に特派員も派遣している(表2参照)。

表2:アフリカに展開するトルコの政府・機関などの活動拠点(-は記載なし)
項目 備考
アフリカでのトルコ大使館、領事館 44
在アンカラ・アフリカ大使館 38
マアリフ財団 198
※教育機関数
アフリカ26カ国、198の教育機関(2024年5月時点)を開校
トルコ国際協力調整庁(TIKA)アフリカ事務所 21
ターキッシュエアラインズ 39カ国、60都市へ運航 貨物便は14の目的地
トルコ海外経済関係評議会(DEIK)二国間合同経済委員会 48 アフリカの54のカウンターパート組織と協業中

出所:トルコ外務省、DEIK、TIKAを基にジェトロ作成

表3:トルコの自由貿易協定(FTA)発効・署名・交渉状況

発効済み(23カ国・地域)
国・地域名 発効日
EFTA 1992年
イスラエル 1997年
北マケドニア(旧マケドニア) 2000年
ボスニア・ヘルツェゴビナ 2003年
パレスチナ 2005年
チュニジア 2005年
モロッコ 2006年
エジプト 2007年
アルバニア 2008年
ジョージア 2008年
モンテネグロ 2010年
セルビア 2010年
チリ 2011年
韓国 2013年
モーリシャス 2013年
マレーシア 2015年
モルドバ 2016年
フェロー諸島 2017年
シンガポール 2017年
コソボ 2019年
ベネズエラ 2020年
英国 2021年
アラブ首長国連邦(UAE) 2023年
署名済み
国・地域名 発効日
レバノン 2010年
スーダン 2017年
カタール 2018年
ウクライナ 2022年

交渉中

  • 日本
  • インドネシア
  • 湾岸協力会議(GCC)

出所:トルコ貿易省を基にジェトロ作成

トルコは、2025年6月時点で、チュニジア、モロッコ、エジプト、モーリシャスと自由貿易協定(FTA)を締結している(表3参照)。一方で、貿易の不均衡をめぐり、トルコとのFTAの見直しを検討している国もある。

アフリカ諸国との歴史的つながりとその背景

トルコにとってアフリカ市場は当初、北アフリカの一部に限定されていた。アラブ、アフリカ諸国の独立運動で1960年代以降、トルコが独立を承認する立場に転換したことで潮目が変わる。外交関係においては、1962年にナイジェリア、1963年アルジェリア、1964年ガーナ、1968年ケニアにそれぞれトルコ大使館が開設された。しかし、外交関係の樹立、技術・貿易協力協定などの締結にもかかわらず、アフリカ諸国の政情不安とトルコ側の不安定な経済情勢や天災(1999年マルマラ大地震)などのため、長年、大きな進展は得られなかった。転機となったのは2003年で、前年に政権発足した現与党の公正発展党(AKP)が、包括的な対アフリカ貿易・経済復興戦略を発表。以降、アフリカへの直接投資、貿易拡大の取り組みが行われるようになり、トルコとアフリカ諸国との2国間関係が徐々に拡大していった。アフリカ諸国元首のトルコ訪問は、 2003年から2017年までの間に20回を超え、大臣の往来も相当数を記録した。また、2000年代から2010年代初頭にかけ、トルコと西欧諸国の関係が前進しなかったことと、2010年以降の「アラブの春」による北アフリカの不安定化も、トルコが西アフリカを含めたサブサハラに新たなフロンティアを求める動きに影響を与えたといわれている(表4参照)。

こうした官民一体の展開を支えた背景には、特に建設セクターを中心に、トルコ国内の経済状況に影響を受けずに海外投資による安定的な収益拡大を図る必要があったこと、欧州以外の地域への貿易相手国の多角化を目指したことなどが挙げられる。また、トルコ企業の特徴、ビジネスマインドも大きく関係している。トルコにはことわざで「キャラバンは道中で整えられる」(「完璧な計画作成は不可能で、計画や準備に時間を費やすよりも、好機を逃さないこと、経験を積みながら修正、解決し前進することのほうが効果的である」という意味)があるが、これはトルコ人のビジネスマインドをよく表現している。トルコでは、財閥や大企業、中小企業に至るまでの多くが家族・同族経営だ。そのため、トップダウンでの決断が早いこと、不屈の商魂、行動力、臨機応変さを持つことがトルコ企業の特徴に挙げられる。

表4:近年のトルコとアフリカに関する主な出来事
年月 項目 備考
1998年 「アフリカ開放行動計画」を策定 アフリカ諸国との政治、軍事、文化、経済関係の加速化を目的に、アフリカの大使館数を15に増加し、大統領、首相、大臣レベルでのトルコへの招聘(しょうへい)などをおこなう
2003年 貿易庁が「アフリカ諸国との経済関係開発戦略」を策定 新たな経済・貿易協定の締結など
2005年
  • 「アフリカの年」を宣言
  • トルコがAUオブザーバー国に
  • TIKAがアフリカ初となるオフィスをエチオピアに開設
2008年1月 トルコがAUの戦略的パートナーに 第10回AUサミット(アディスアベバ)
2008年8月 第1回「トルコ・アフリカ協力サミット」がイスタンブールで開催 アフリカ諸国49カ国、AUが参加し「トルコ・アフリカ戦略パートナーシップ宣言」を発表
2010年12月 「トルコ・アフリカ協力合同実施計画2010~2014」を発表 以降、トルコとアフリカ諸国間でのハイランク外交が増加
2014年 第2回「トルコ・アフリカ・パートナーシップ・サミット」が赤道ギニア(マラボ)で開催 「2015~2019年共同実施計画」が採択(アフリカ諸国で実施される様々なプロジェクトの基礎となる)
2016年11月 第1回「トルコ・アフリカビジネス経済フォーラム」がイスタンブールで開催 アフリカ49カ国から参加。合計2,365人が参加。
2017年4月 第1回「トルコ・アフリカ農業相会合・農業ビジネスフォーラム」がトルコ・アンタルヤで開催
2018年2月 「トルコ・ECOWAS経済・ビジネスフォーラム」がイスタンブールで開催
2018年10月 第2回「トルコ・アフリカビジネス経済フォーラム」がイスタンブールで開催 AUとの協力で開催。エチオピアのムラトゥ・テショメ大統領(当時)、ルワンダのポール・カガメ大統領、エドゥアール・ンギレンテ同首相(AU総裁)、AUのビクター・ハリソン経済担当委員長、汎アフリカ商工会議所のメラク・イジージオ(Melaku Ezezew)副会頭をはじめビジネス代表団など2,000人以上が参加。
2021年10月 第3回「トルコ・アフリカビジネス経済フォーラム」がイスタンブールで開催
2021年12月 「トルコ・アフリカ・パートナーシップ・サミット」がイスタンブールで開催 アフリカ38カ国、20人近い国家元首が参加。2022~2026年の5カ年戦略とロードマップを策定。
2023年10月 第4回「トルコ・アフリカビジネス経済フォーラム」がイスタンブールで開催 アフリカのデジタル変革、農・工業サプライチェーンの持続可能性、食糧安全保障など多岐にわたる議題でのパネルディスカッション、トルコ・アフリカ女性リーダーシップ対話などが行われる。
2024年12月 トルコの仲介でエチオピアとソマリアが和解(2024年12月20日ビジネス短信参照 エチオピアとソマリランドの覚書(MoU)署名で緊張感が高まっていた
2025年10月16、17日 第5回「トルコ・アフリカビジネス経済フォーラム」が開催予定

出所:トルコ海外経済関係評議会(DEIK)、トルコ外務省を基にジェトロ作成

ここまでトルコの対アフリカ外交政策や、歴史的な関係をみてきた。後編となる(2)では、トルコのアフリカ諸国との貿易や投資での関係性を概説する。

執筆者紹介
ジェトロ・イスタンブール事務所
井口 南(いぐち みなみ)
日系銀行などを経て、2018年からジェトロ・イスタンブール事務所勤務。