グローバルへ飛躍する日本発スタートアップの挑戦スタートアップにおける人材獲得とパートナーシップ戦略

2025年6月10日

本稿では、「グローバル人材の獲得」と「グローバルパートナー企業の探索」について取り上げる。ビジネスを海外市場に拡大する上で、グローバル市場に精通する「仲間」をチーム内外に引き入れることが重要だ。「JETRO Startup Alumni Meetup」(2024年10月3日開催)では、海外展開の推進力となる人材および協業相手を獲得しているアルムナイ(注1)に、その裏側を語ってもらった。グローバル人材と海外パートナー、それぞれの獲得戦略に焦点を当てた2つのセッションの内容から、アルムナイの実践内容を紹介する。

グローバル展開にはグローバル人材の獲得が不可欠

「ボーン・グローバル・スタートアップのチーム組成:多様性のある人材獲得とマネジメント」と題して行った本セッションでは、以下3人のアルムナイ(注2)を迎え、グローバル人材の獲得とマネジメントについて話を聞いた。モデレーターはジェトロ・スタートアップ課主幹の牧野直史が務めた。

  • 浅野裕亮氏〔ワンアクト(One Act)CEO(最高経営責任者)〕
    2013年設立。人工知能(AI)搭載ソースコードのマーケットプレイス「PieceX」を開発・運営。米国、英国、フランス、インドに拠点を持つ。
  • 堀ナナ氏〔テンサーエナジー(Tensor Energy)CEO〕
    2021年設立。再生可能エネルギー発電所と蓄電池の財務・電力管理を一気通貫で行うクラウドプラットフォームを開発・運営。
  • 城宝薫氏(テーブルクロスCEO)
    2014年設立。レストラン予約などが可能な訪日旅行客向けワンストップグルメ旅行プラットフォーム「ByFood.com」を開発・運営。

グローバルに事業拡大(スケール)するうえでは、グローバルなチーム構成が不可欠。3社とも、創業メンバーに外国人材を迎えており、創業後のチームメンバーも外国人材が多数を占める。


右から城宝氏、堀氏、浅野氏、牧野(ジェトロ撮影)
質問:
グローバル人材獲得にあたり、どのような工夫をしているか。ストックオプション制度(注3)もインセンティブの1つとして活用しているか。
答え:
(浅野氏) 採用チャンネルについては、世界中のさまざまな求人サイトで常時募集をかけているほか、LinkedInも活用している。求職者からは、ソースコードの売買プラットフォームという世界初のサービスを開発・提供しているということに魅力を感じる、という声が聞かれる。また、社内のコミュニケーションは英語で行っており、採用時に日本語は必須としていない。日本語を必須とすると、途端に魅力が下がってしまう。
(堀氏) 事業が再生可能エネルギー、エネルギー問題というグローバルに共通する課題に対処するものであるため、外国人材からも比較的、課題設定に共感を得やすい。こうした課題に対して問題意識を持っており、自分がコミットすることで会社の価値を上げていくという意欲のある人材が入ってきてくれている。今のフェーズでストックオプションはインセンティブとして作用しにくいのではと考えている。日本居住を必須とせず、リモートワーク体制を取っている。そのため、社員の居住国がばらばらで各国の税制が異なり、社内でどのように制度設計すれば良いかという点で苦労している。
(城宝氏) 当社は50人超のメンバーを抱え、ストックオプションを比較的活用している。しかし、20人ぐらいまでのチームではストックオプションは不要という感触。小規模なチームでオペレーション人材を採用していくフェーズでは、ストックオプションよりも、仕事の楽しさや、働き方の柔軟性といった別の要素を理由に入社するケースが多い。一方、2024年になって少しフェーズが変わり、GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)出身者がマネージャーとして入社するようになった。こうした従業員に数千万円の給与は出せないので、その時に給与所得を補う手段として、ストックオプションは有効と感じている。
質問:
グローバル人材を採用するメリットは。
答え:
(浅野氏) 優秀な人材を集める際に、日本にこだわる必要はない。特に当社は世界中にサービスを提供しており、各市場に精通するグローバル人材が必要だと考える。グローバル人材を獲得することで、さまざまな面で最適化が図れる。例えば、米国や日本では採用できないような人材がインドでは採用できたり、エジプトでは米国では考えられないような価格で同じクオリティの動画が製作できたりする。
(堀氏)単純に人材プールが大きくなるので、エンジニアの採用がとても楽になる。LinkedInで広告を出せば、選ぶのに困るほどの募集が集まる。また、プロダクトのデザインなど、日本人メンバーだけでは思いつかないような視点での提案が出てくるのは、多様な価値観があってこそ。ダイバーシティのメリットを感じている。
(城宝氏)(人手不足などの影響で)日本ではある時点から、エンジニアやカスタマーサポートについて、想定する給与水準では採用できなくなった。これがグローバル人材採用のターニングポイントになった。グローバルに目を向けることで、特にエンジニアは同じ給与水準で相当高いスキルの人材を採用できる。

海外パートナーとの協業には事前の下調べが大事

「グローバル展開の要―成功を導く海外パートナー戦略―」と題して行われた本セッションでは、以下2人のアルムナイ(注4)を迎え、グローバル企業との協業戦略について議論を行った。モデレーターはジェトロ・スタートアップ課(当時)の植田百香が務めた。

  • 飯田百合子氏(エマルションフローテクノロジーズのチーフグローバルオフィサー)
    事業内容:2021年設立。レアメタルの水平リサイクルを実現する革新的な溶媒抽出技術を提供。
    協業状況:エマルションフローテクノロジーズは、アジア各地で開催されたピッチコンテスト「Fast Track Pitch(ジェトロ主催)」のタイ大会(2023年8月7日開催)、ベトナム大会(2023年11月3日開催)、シンガポール大会(2024年7月19日開催)でファイナリストに選出された。各ピッチコンテストでは、現地および日本企業を中心とした大手企業が、スタートアップとの将来的な協業を目的に賞を設置している。エマルションフローテクノロジーズは、3大会でそれぞれ以下の賞を受賞した。
    • タイ大会:タイの石油および石油化学会社IRPCによる賞。
    • ベトナム大会:ベトナムの自動車メーカーのビンファスト(VinFast)による賞。
    • シンガポール大会:フランスに本社を置く化学メーカーのアルケマ(Arkema)による賞。
    現在、前述3社と協業に向けたディスカッションが進んでいる。
  • 永田拓人氏〔トーイング(Towing)のチーフグローバルオフィサー〕
    事業内容:2020年設立。独自のバイオ炭の前処理技術および微生物培養などに係る技術を提供。
    協業状況:トーイングは、二酸化炭素除去(CDR)プロジェクトを世界20カ所以上で展開するオーストラリア発のバイオ炭事業者バイオケア(Biocare)とのパートナーシップを締結している。

右から飯田氏、永田氏、植田(ジェトロ撮影)
質問:
グローバル市場にて協業相手を探索した方法を教えてください。
答え:
(飯田氏)海外でのプレイヤーを探索する上では、アイコニックなカンファレンスに出展することが役立った。例として、フランス・パリの「Viva Technology」にはトップに近い人が参加している。そのため、トップダウンで話が進んでいった。また、各地で大きなプレイヤーを見極めて、その周りの企業ともつながりながら国ごとにスキームを組んでいくことも有効であった。
(永田氏)大きなイベントもいいが、小中規模のイベントでは熱量が高く、参加者同士が協力し合う雰囲気が醸成されているものも多い。例として、JETRO(ジェトロ)のプログラムを通じて出展した「Biochar Conference」は、参加者600人程度と小規模ながらバイオ炭の関係者のみが参加しており、お互いが情報交換しながら関係構築ができるイベントであった。最初のきっかけを探す段階であれば、熱量の高い小中規模イベントに参加することをおすすめする。よりネットワークを広げる段階であれば、大きなイベントに参加することも重要だと思う。
質問:
外国企業と信頼関係を構築するコツは何ですか。
答え:
(永田氏)コミュニケーションの頻度に配慮し、適切なタイミングで提案を打ち出す必要がある。そうしたモメンタムを失わないことを重要視している。
(飯田氏)相手と同じ言葉を使えるかを重要視している。英語だけではなく、その業界の用語やトレンド、相手のニーズを捉えた言葉で話ができるか。しっかり下調べをしてミーティングに臨み、真剣であることが相手に伝わるように心がけている。

なお、両セッションのアーカイブ動画はジェトロYouTubeチャンネルで公開している(グローバル人材外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます海外パートナー戦略外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)。


注1:
ここでのアルムナイは、日本発グローバルスタートアップを支援するジェトロのプログラムの参加経験者。
注2:
それぞれ以下プログラムのアルムナイ。
  • ワンアクトの浅野氏:2020~2023年度「X-HUB Tokyo外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」など。
  • テンサーエナジーの堀氏:2024年度「Global Startup Acceleration Program(GSAP)」の「BtoB Market Discoveryコース」など。
  • テーブルクロスの城宝氏:2021年度「GSAP」の「Global Scaleコース」など。
注3:
ストックオプション制度は、従業員や役員があらかじめ決められた価格で自社株を購入できる権利を付与する仕組みで、インセンティブとして活用される。成功時に株価上昇による利益を得られるため、業績向上への動機づけとなる。
注4:
それぞれ以下プログラムのアルムナイ。
  • トーイングの永田氏:2024年J-StarX Global Growth for Climate tech
  • エマルションフローテクノロジーズの飯田氏:2024年J-StarX Europe Long-termコース
執筆者紹介
ジェトロイノベーション部スタートアップ課主幹
牧野 直史(まきの なおふみ)
2003年、ジェトロ入構。WTO・FTA、EU調査などの業務を経て、ジェトロ・ワルシャワ事務所長、ジェトロ京都所長などを歴任。この間北欧、エストニアのエコシステム関係者のネットワークを構築したほか、京都のスタートアップ支援、エコシステム構築に貢献。その後エンタメの海外展開支援業務を経て、2024年9月から現職。在職中の2012年に司法試験合格。
執筆者紹介
ジェトロイノベーション部スタートアップ課(執筆当時)
植田 百香(うえだ ももか)  
2021年、ジェトロ入構。日系スタートアップ(特にClimate techおよびBiotech)の海外展開支援の担当として、これまでに50社以上の日系スタートアップを支援する。また、海外アクセラレーターの誘致活動にて外国籍起業家の日本での起業支援にも従事する。