グローバルへ飛躍する日本発スタートアップの挑戦世界トップアクセラレーターと描く日本発スタートアップの成長戦略
2025年6月27日
本稿では、ジェトロが手掛けるアクセラレータープログラムに焦点を当てる。
ジェトロは2020年から、世界トップレベルのアクセラレーターによるエクイティ・フリー型のプログラム(出資なし)であるグローバル・スタートアップ・アクセラレーションプログラム(GSAP)を提供している。また、世界最大級のプレシードインベスターのテックスターズ(Techstars)と米国BtoB分野特化型アクセラレーターのアルケミスト(Alchemist)を日本に誘致した(2023年12月12日付、2024年5月14日付記者発表参照)。2024年からは、これらアクセラレーターによる出資付きのプログラムの実施に協力している。
「JETRO Startup Alumni Meetup」(2024年10月3日開催)のアクセラレータープログラムに参加したアルムナイのトークセッションを通じて、参加者の声を共有する。
海外アクセラレーターが拓くグローバルへの第一歩
このセッションでは、ジェトロの「GSAP」を含む海外のアクセラレーションプログラムに複数参加し、国際展開を加速している2社に、海外アクセラレーターを最大限活用する方法を聞いた。モデレーターはジェトロ奥井が務めた。
- パー麻緒氏(datagusto 最高経営責任者(CEO))
AIデータの品質管理サービスを提供するdatagustoを開発。2022年GSAP Enterprise Businessコース/AlchemistXアルムナイで、本国Alchemist Acceleratorにも採択されている。なお、同氏は、現在、英国・オックスフォードに拠点を移している。 - 横井康秀氏(Final Aim 共同設立者兼チーフ・デザイン・オフィサー)
生成AI等のデザイン・契約・知的財産権をスマートコントラクトで一元管理するプラットフォームを開発。2022年GSAP Deeptechコース/Berkeley SkyDeck、2023年GSAP Enterprise Businessコース/AlchemistXアルムナイ。

- 質問:
- アクセラレータープログラム参加の経緯と狙いは。
- 答え:
-
(横井氏):創業当初から、グローバルな事業展開で攻めると決めていた。海外展開の足がかりとしてシリコンバレーコミュニティーにどう入るかを考えた結果、Berkeley SkyDeckに参加を決めた。
そこで海外進出の実現に向けた手応えを得たことから、次は新規顧客開拓を目指して、AlchemistXに参加を決めた。 -
(パー氏):Alchemistの出資付プログラムでは、世界中から集まる技術系の起業家に「売るためのストラクチャー」を6ヶ月で徹底的にたたき込まれる。スピード感を重視する当社にマッチしていた。
期間中は常に、投資を受ける日から逆算して今やることを熟慮することが求められ、ハードだった。 - 質問:
- プログラム参加で得た最大の価値は。
- 答え:
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(横井氏):プログラムを通じて、6人のアドバイザーが当社のチームに参画した。これらのアドバイザーは、エンジェル投資家、VC、企業への橋渡しに欠かせない存在だった。
「シリコンバレーの中枢にいつでもアクセスできる状態」になったことが大きい。プログラム経由でエンジェル投資家が入ったことも更に加速できた要因だ。 -
(パー氏):プログラム後もAlchemistXのメンバーにアドバイザーとして橋渡しをしてもらえたため、VCとの関係構築がスムーズになった。
シリコンバレーでは、コミュニティー内での関係性を重視する。例えば新規にアクセラレーションプログラムに参加する際には、外部の推薦が必要だが、これは合否に大きく影響する。プログラムを通じてシリコンバレーの実情に触れることができた。「海外でやれる」という自信を得て、本気になったこともプログラムからの大きな学びだ。 - 質問:
- 参加を検討している起業家にメッセージを。
- 答え:
- (パー氏):まずは躊躇(ちゅうちょ)せず、プログラムに申請すべきだ。合否はともかく、申請する過程で得られる成果物が、会社にとって代え難い財産になる。
-
(横井氏):シリコンバレーでは常に、「君は100%コミットしているか」と問われる。逃げ道を想定する起業家は信用してもらえない。
腹を括ったら、プログラムに応募すること。憧れるのはやめて実際に成功するため、行動に移してほしい。
なお、このセッションのアーカイブ動画は、ジェトロYouTubeチャンネルで配信している。
Techstars Tokyo誘致の舞台裏
本セッションでは、スタートアップ・エコシステムビルダーに焦点を当て、世界最大級のプレシード投資家Techstars Tokyoにプログラムの概要について話を聞いた。日本発スタートアップ3社も登壇した。いずれも米Techstarsから出資を受け、アクセラレータープログラムに参加している(2024年8月19日付記者発表参照)。モデレーターはジェトロの樽谷範哉が務めた。
- 白戸勇輝氏(Techstars Tokyoマネジングディレクター)
21社のユニコーンを生み出しているTechstars Tokyoのマネジングディレクター。 - 塩山祐介氏(三井不動産)
不動産デベロッパーである三井不動産は、Techstars Tokyoのパートナーを務める。 - ウィリアム・ボーン氏(デジタル・ウィルCEO)
ゲーム開発者に対して配信を一元化するプラットフォームを開発。 - 山崎優子氏(サマリアCEO)
生成AIコパイロットを活用し、マンガプラットフォームをグローバルに提供。 - 後藤陽一氏(パイオニアワークスCEO)
自社eコマースサイトを運営する小売業者向けに、統合ソリューションを開発。

- 質問:
-
三井不動産ではシリーズA以降、協業・出資を前提に、ファンド「31 Ventures」を運営している。
他方で、三井不動産との協業を前提としない、日系スタートアップのスケールアップを目的とするTechstars Tokyoのプログラムに協力する目的は。 - 答え:
-
(塩山氏):当社はシリーズA以降のスタートアップを中心に協業・出資している。一方で、新しい技術やトレンドを把握するためには、シードラウンドで企業の動きを追うことも必要だと考える。
また、三井不動産が色々なステージのスタートアップと幅広い接点を持つことで、ファンになってもらうことも重要。
さらにスタートアップが集積するエコシステムを構築できると、不動産価値が高まるという点で、不動産会社にとって利点がある。 -
(山崎氏):応募にあたって用意しなければならない書類の量が多く、インタビューの準備も大変だった。
ワイ・コンビネーター(Y Combinator)やテックスターズ(Techstars)のプログラムに採択されて、初めて米国VCとの交渉の土俵に立てる。その重要性を分かっていたので、英語ネイティブの共同経営者の採用を含め、準備を進めた。 - (ボーン氏):インタビューでは、「ユニコーンになれるか」など、当社の将来性に期待を持てるかどうかを見られていると感じた。
- 質問:
- 日本のアクセラレーションプログラムでは、メンターが起業経験者でないことも多い。一方で、Techstarsは起業経験者のメンターをそろえている。実際に同プログラムを受けてみてどうだったか。
- 答え:
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(後藤氏):私のメンターは米国のファッションサービススタートアップ・スティッチフィックス(Stitch Fix)の創業者であるカトリーナ・レイク氏だった。
レイク氏は同社を上場させた経験を持つ著名な創業者の1人。野球に例えると、高校生が大リーグの有名選手に教えてもらうようなもの。海外展開に向けた実践的なアドバイスを多数得られたことが、非常に有益だった。 - 質問:
- Techstarsのプログラムを受けたい人にメッセージを。
- 答え:
- (山崎氏):日本で得られない機会が得られると思う。ぜひ挑戦してほしい。
- (後藤氏):数千人の創業経験者、メンターとつながれる環境は挑戦する価値があると思う。
- (ボーン氏):日本が長期的に成長するためには、スタートアップエコシステムを国内に作っていく必要がある。スタートアップとしてぜひ、この素晴らしい機会に参画してほしい。
本セッションのアーカイブ動画は、ジェトロYouTubeチャンネルで発信している。

- 執筆者紹介
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ジェトロイノベーション部スタートアップ課(執筆当時)
植田 百香(うえだ ももか) - 2021年、ジェトロ入構。日系スタートアップ(特にClimate techおよびBiotech)の海外展開支援の担当として、これまでに50社以上の日系スタートアップを支援する。また、海外アクセラレーターの誘致活動にて外国籍起業家の日本での起業支援にも従事する。

- 執筆者紹介
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ジェトロイノベーション部 主幹(執筆当時)
奥井 浩平(おくい こうへい) - 2001年、ジェトロ入構。2012年より米国シカゴ事務所に勤務、米国企業の日本進出支援、日本の製造業の米国進出・販路拡大支援を担当。2021年から現職。Techstars、Berkeley SkyDeck、CICなど世界有数のアクセラレーターと連携し、日本のスタートアップにアクセラレーションプログラムを提供。

- 執筆者紹介
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ジェトロイノベーション部 次長
樽谷 範哉(たるたに のりや) - ジェトロ入構後、20年以上にわたり、東京、トロント、サンフランシスコ、シリコンバレー等において、日系スタートアップの海外展開や海外企業の日本進出業務に従事。Techstars、Berkeley SkyDeck、Alchemistなど著名アクセラレーターやVCと連携し、PMF検証や資金調達支援・パートナー発掘を目的としたアクセラレーションプログラムを立ち上げ・運営に従事。2023年4月から現職。ジェトロのスタートアップ・プログラムを統括している。