特集:コロナ禍の変化と混乱、複雑化するビジネス課題への対応は進まないDX、日本企業のリアル(世界、日本)

2022年3月16日

新型コロナウイルス禍が長引く中、外部環境の変化に対応したデジタルトランスフォーメーション(DX)の必要性が増している。ジェトロが実施した2021年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(以下、本調査、注1)で、初めて日本企業のDXの状況について尋ねた。

DXに取り組む企業は3割以下

新型コロナウイルス感染症が拡大した2020年以降、DXに取り組む企業は増加傾向にあるものの、本調査に回答した1,745社のうち、既に「DXに取り組んでいる」(注2)と回答した企業は28.0%にとどまった(図1参照)。取り組んでいても成果を認識してない企業が10.8%を占め、回答企業からは「DX導入の効果を認識できるまで時間が掛かるため、作業の手間を感じる時期がある」(金属製品)との声が聞かれた。そのほか、「意義・必要性を理解しており、これから取り組む予定である」と回答した企業が27.3%、「取り組んでいない」(注3)企業が42.3%で、DXについては取り組みが進んでいない実情が明らかになった。

図1:DXの取り組み状況
「既に取り組んでおり、成果を認識している」企業は17.2%。「既に取り組んでいるが、成果を認識していない」企業は10.8%。「意義・必要性を理解しており、これから取り組む予定である」企業は27.3%、「意義・必要性を理解しているが取り組んでいない」企業は32.1%。「意義・必要性がなく、取り組んでいない」企業は10.2%。「無回答」が2.3%。回答企業数1,745社。

注:nは回答企業総数。
出所:2021年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

業種別にみると、非製造業での取り組みが相対的に進んでおり、通信・情報・ソフトウエアでは7割以上、金融・保険では6割近くが既に取り組んでいると回答。製造業ではこれから取り組む企業が多くみられ、特に自動車・同部品/その他輸送機器では40.7%がDXの「意義・必要性を理解しており、これから取り組む予定である」と回答している。

DXと一言で言っても、その狙いはさまざまだ。経済産業省は、DXについて「企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズをもとに、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること」と定義づけている。データやデジタル技術は、企業における対内・対外的な目的を達成する有用な手段となる。

本調査で尋ねたDX推進の狙いについて、取り組みの段階別((1)既に取り組んでおり、成果を認識している/(2)既に取り組んでいるが、成果を認識していない/(3)意義・必要性を理解しており、これから取り組む予定である)に示したものが図2だ。全ての段階で1位、2位がそれぞれ「業務の効率化・最適化」「業務プロセスや進捗状況の可視化」となった(複数回答)。いわゆる「守りのDX」(注4)が上位を占めている。一方、3位以下には段階別に違いがみられた。これから取り組む予定の企業の狙いをみると、3位以降は「マーケティングの強化・販売先の拡大」「製品・サービスの改善、高付加価値化」と続く。DXによる販売先拡大の手法の1つとして、電子商取引(EC)がある。企業からは「販売部門は対外的な環境変化(新型コロナなどで対面機会が減少)があり、(DXを)推進せざるを得ない状況下」(電子部品・デバイス)との声がある。ECを活用してDXを推進する企業は、新たな顧客へのマーケティングを強化し、販売網を広げていくものとみられる。

図2:取り組みの段階別にみるDX推進の狙い

(1)既に取り組んでおり、成果を認識している
「既に取り組んでいるが、成果を認識していない」企業のねらいでは「業務の効率化・最適化」が79.9%、「業務プロセスや進捗状況の可視化」が55.0%、「製品・サービスの改善、高付加価値化」が46.0%、「組織内コミュニケーションの活性化」が40.7%、「マーケティングの強化・販売先の拡大」が34.4%、「賃金上昇や労働力不足への対処」が33.3%、「熟練技術の「見える化」・継承」が32.3%。
(2)既に取り組んでいるが、成果を認識していない
「既に取り組んでおり、成果を認識している」企業のねらいでは、「業務の効率化・最適化」が77.3%、「業務プロセスや進捗状況の可視化」が60.3%、「組織内コミュニケーションの活性化」が55.0%、「製品・サービスの改善、高付加価値化」が51.0%、「マーケティングの強化・販売先の拡大」が44.0%、「個々の顧客ニーズに応じた製品・サービスの提供」が34.0%、「賃金上昇や労働力不足への対処」が30.0%。
(3)意義・必要性を理解しており、これから取り組む予定である
「意義・必要性を理解しており、これから取り組む予定である」企業のねらいでは「業務の効率化・最適化」が68.9%、「業務プロセスや進捗状況の可視化」が49.6%、「マーケティングの強化・販売先の拡大」が42.9%、「製品・サービスの改善、高付加価値化」が41.0%、「組織内コミュニケーションの活性化」が37.6%、「賃金上昇や労働力不足への対処」が25.6%、「熟練技術の「見える化」・継承」が24.8%。

注:上位7項目のみ掲載。
出所:2021年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

課題は依然として人材不足

DX推進の課題とその対応方法に関する自由記述からは、人材不足に関するコメントが目立つ。「コロナ禍で売り上げが縮小し、人材を増やす余裕がない」(アパレル)、地域によっては「デジタル人材をそもそも探せない」(飲食料品)といった声があった。デジタル人材は2025年に43万人不足すると言われており(注5)、人材確保は日本全体における喫緊の課題だ。一方、課題への対応策を見いだそうとする企業からもコメントを得た。「人材不足のため一部の業務を外部委託する」(その他製造業)、「社内でのDX専任担当を抜てきする」(その他製造業)、そのほか、インドやタイからの外国人材を活用する企業もあり、各社それぞれの状況に即した解決策を模索している。

コスト面も大きな課題となっている。特に、費用対効果が見合わないとのコメントが多く聞かれた。既存システムからの仕様変更コスト、運用・メンテナンスのランニングコストが足かせとなっているようだ。一方、新しいシステムを導入した結果、在庫削減と生産性の向上を実現した企業の声もある。そのほかの課題で目立ったコメントには、情報収集や社内理解といった分野で課題とそれに対応する企業の声が聞かれた(表参照)。

表:DX推進の課題とその対応方法に関する企業からのコメント
項目 課題を抱える企業の声 課題に対応する企業の声
人材
  • デジタル人材の不足により、効果的なマーケティングができていない。今年度よりSNSを活用した商品発信に力を入れており、成果を見込んでいる(情報・ソフトウエア)
  • コロナ禍で売り上げが縮小したので、今から人件費を増やすだけの余裕がない(アパレル)
  • 採用する人材が本当に有効なDXを行えるのかが不明(商社・卸売り)
  • 越境ECに対応したスキルを持つ人材が極度に不足。一部外注化などを進めている。(その他製造業)
  • DX人材の採用難に対し、タイの高度海外人材を採用した(建設)
  • 技術者など人材の不足が主たる課題であり、専任担当者を抜てきし、集中対応をしている。毎月、進捗・成果を発表し、課題があればそれに対するアクションを実施している(その他製造業)
コスト
  • 運用やメンテナンスといったランニングコストの増大(情報通信機械器具)
  • 新しいシステムを導入しようとすると、複雑な構造を必要とするため、コストの割に成果には限界があり、悩ましい状況(商社・卸売り)
  • 既存インフラに対するスイッチングコストが大きい(化学)
  • 全社(B2B、B2C、製造)で生産・販売・在庫管理を1つのプラットフォームに統合したことにより在庫削減と生産性の向上を実現。(繊維・織物)
  • 人材、コスト、費用対効果など多面にわたって課題が多いため、優先順位を付けて、できるものから進めるようにしている(一般機械)
情報・知見
  • 中小企業ゆえに使えそうなシステムなどがわからない(飲食料品)
  • まだ事例が少ないのでどういった運用が効果的か検討をするのが難しい(飲食料品)
  • 具体的な施策を検討していないので、課題は今後発生するので相談できる機関などを把握して情報を集めたい(建設)
  • 育成も兼ねてプロジェクトを立ち上げ、外部専門家(コンサル)のファシリテーションのもと進めている(一般機械)
  • 高専や理系大学の新入社員やプログラミング経験者を対象にDX研修を実施し、社内である程度のプログラミングができる体制を構築すると同時に、社外のパートナー企業とも協力して対応している(化学)
社内理解
  • 社内理解が進んでいないため、担当者が独断の範囲で推進している。そのため、どうしても大きな動きにならず、局所的な改善にとどまっている(印刷・同関連)
  • 小さな規模の会社ではまず社長がやって見せて社員に浸透させていくしかないと感じる(飲食料品)
  • 社内理解促進のため、まずは部門横断的な勉強会を実施し、各部署それぞれが「DXが必要」と感じられる状況を醸成している(飲食料品)
  • 経営層を含めてDXに対する認識が不足しているため、外部研修などを実施して意識改革から取り組んでいる(化学)

出所:2021年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

DXの推進は、外部と連携する企業ほど成果の認識高く

DXの推進は新たな技術やインフラの導入を伴うため、自社内のみで完結しない場合も多い。近年ではオープンイノベーションを推進する企業や、それを支援する団体の活躍も目立っており、組織内のみでなく、外部リソースの活用が増加してきた。本調査でも、「国内の企業・機関と連携したDXを推進している」と回答した企業が34.3%、「海外の企業・機関と連携したDXを推進している」という企業が9.1%だった(図3参照、一部複数回答)。一方、「組織内のみでDXを推進している」と回答した企業が最も多く、全体の51.4%と過半を占める。

図3:DX推進のための連携方法
「組織内のみでDXを推進している」と回答した企業は全体で51.4%、大企業40.9%、中小企業54.7%。「国内の企業・機関と連携したDXを推進している」と回答した企業は全体で34.3%、大企業40.9%、中小企業32.2%。「海外の企業・機関と連携したDXを推進している」と回答した企業は全体で9.1%、大企業13.8%、中小企業7.6%。「無回答」の企業は全体で9.4%、大企業12.1%、中小企業8.6%。全体企業数965、大企業95、中小企業296。
図4:DX推進のための成果の認識度合い
「組織内のみ」と回答した企業のうち、「既に取り組んでおり、成果を認識している」企業は27.8%、「既に取り組んでいるが、成果を認識していない」企業は20.0%、「意義・必要性を理解しており、これから取り組む予定」の企業は52.2%。「国内の企業・機関と連携したDXを推進している」と回答した企業のうち、「既に取り組んでおり、成果を認識している」企業は38.7%、「既に取り組んでいるが、成果を認識していない」企業は22.4%、「意義・必要性を理解しており、これから取り組む予定」の企業は39.0%。「海外の企業・機関と連携したDXを推進している」と回答した企業のうち、「既に取り組んでおり、成果を認識している」企業は45.5%、「既に取り組んでいるが、成果を認識していない」企業は15.9%、「意義・必要性を理解しており、これから取り組む予定」の企業は38.6%。組織内のみは496社、国内の企業・機関と連携は331社、海外の企業・機関と連携は88社。

注:nは既にDXに取り組んでいる、または意義・必要性を理解していると回答した企業。国内と海外の連携のみ複数回答。
出所:2021年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

DXの取り組み状況(図1参照)と成果の認識度合いをクロス集計してみると、DXの成果を認識している割合は、組織内のみが27.8%、国内の企業・機関との連携が38.7%、海外の企業・機関との連携が45.5%だった(図4参照)。組織内のみでDXを推進する企業よりも、国内、海外で連携する企業の方が、DXの成果を認識している度合いが高いことがわかる。理由としては、DXを他の企業・機関と連携して推進する方が、交渉段階から目的までの道筋が明らかになり、達成基準が見えやすいことが考えられる。組織内のみでDXを推進する企業の中には、「DXの目標が設定されていない。社内での現状の整理ができておらず、フレームワークのあり方、考え方などを共有できれば具体的に推進できると思う」(繊維・織物)、「担当者が独断の範囲で推進しているため、大きな動きにならず、局所的な改善にとどまっている」(印刷)との声が聞かれ、経営層のコミットが得られず、社内体制の整備が難しい状況が浮かび上がった。さまざまな業種でDXの取り組みが今後進む中、初期段階から目的を明確にして社内理解を得るとともに、必要な人的・金銭的リソースを確保することがDX達成への近道となるだろう。


注1:
本調査は、海外ビジネスに関心の高いジェトロのサービス利用日本企業1万3,456社を対象に、2021年10月末から12月初旬にかけて実施し、1,745社から回答を得た(有効回答率13.0%、回答企業の83.0%が中小企業)。プレスリリース報告書も参照を。過去の調査の報告書もダウンロード可能。
注2:
「DXに取り組んでいる」はDXに「既に取り組んでおり、成果を認識している」「既に取り組んでいるが、成果を認識していない」と回答した企業。
注3:
「取り組んでいない企業」は「意義・必要性を理解しているが取り組んでいない」「意義・必要性がなく、取り組んでいない」と回答した企業。
注4:
「守りのDX」とは、自社内でコントロールできる改革的なデジタル技術の活用とされ、業務プロセスの再設計や経営データの可視化による意思決定の迅速化・最適化などに用いられる。それに対し、「攻めのDX」は、顧客をはじめとするステークホルダーを巻き込むデジタル技術の活用で、商品・サービスの高度化やビジネスモデルの改革などが該当する。
注5:
DXレポートPDFファイル(外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます)(1.27MB)」経済産業省(2018年9月)
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
伊尾木 智子(いおき ともこ)
2014年、ジェトロ入構。対日投資部(2014~2017年)、ジェトロ・プラハ事務所(2017年~2018年)を経て現職。