特集:コロナ禍の変化と混乱、複雑化するビジネス課題への対応はコロナ禍の変化と混乱、複雑化するビジネス課題への対応は(世界、日本)
調査結果が示す7つの特徴

2022年3月10日

ジェトロが毎年、海外ビジネスに関心の高い日本企業(本社)に対して実施している「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」の最新結果に基づき、海外ビジネス展開の実態や課題を探る。20回目になる最新調査(以下、本調査)は2021年11月4日~12月7日、1万3,456社を対象にオンラインで実施。1,745社から回答を得た(有効回答率は13.0%)。本調査の回答企業の構成では、中小企業が全体の83.0%で、62.9%を製造業(非製造業:37.1%)が占める。

新型コロナウイルス禍の2021年、経済と需要の回復局面で世界のバリューチェーンは混乱し、国内外のビジネス環境の不確実性は一層高まることになった。とりわけ、本調査の実施期間だった2021年11~12月初旬は、オミクロン型変異株が世界各国へ急速に広がり、その脅威が日本国内にも迫り始めた時期と重なる。世界経済・市場の先行きに関する不確実性の高まりは、海外事業の見通しや今後のビジネス方針にも少なからず影響を及ぼしたと考えられる。

そのような前提を踏まえ、本稿では、2021年末時点における海外ビジネス環境の変化と企業の対応に焦点を当て、調査結果が浮き彫りにした7つの主な特徴を紹介する。

(1)不均衡な回復、業種・業態間で広がる格差

調査結果全体を通じて見られた特徴の1つが、戦後最大の経済危機からのビジネス回復局面における格差の広がりだ。一例として、回答企業の2021年の売り上げ回復状況を見ると、業種間、業態間、企業規模間、取扱製品・サービス間、国内と海外の市場間など、さまざまな側面で顕著な格差が見られる。

中でも、売上高を国内市場と海外市場に分けて比較すると、両者間には売上高の回復状況に顕著な差があった点が注目される。同年の国内市場における売上高の増減を、コロナ禍前の2019年と比較した結果では、30%が「増加」、42%が「減少」と回答している。一方、海外市場での売上高では、40%が「増加」、29%が「減少」になった。いずれも回復途上ではあるものの、海外市場の売り上げ回復が国内市場よりも早いペースで進展していることが明らかになった。すなわち、海外市場へのアクセスを持つ企業と持たない企業の間で、業績回復に格差が生じていることを意味する。

背景には、日本国内に比べ、海外主要国の経済が民間消費の牽引力によって相対的に力強い回復を遂げたことがある。IMFは1月25日に発表した最新の「世界経済見通し」の中で、2021年の世界のGDP成長率を5.9%と推計。日本企業の主要なビジネス展開先である中国(8.1%)、米国(5.6%)、ユーロ圏(5.2%)などの成長率と比べ、日本の成長率は1.6%で停滞が際立っている(注)。

(2)旺盛な輸出意欲、国内市場の停滞が後押し

今後の輸出方針について、前述した日本国内市場の停滞などを理由に、回答企業の輸出意欲が急速に高まっていることが明らかになった。「すでに輸出を行っており、さらに拡大を図る」と回答した企業が全体の4分の3を占め、同じ条件(選択肢)で比較可能な2012年度以降で最大の割合になった。「(現在輸出は行っていないが)新たに輸出に取り組みたい」とする企業と合わせ、輸出拡大に意欲を示した企業は83%と、前年から大きく拡大し、2015年以来の高い値になった。

業種別では、飲食料品や医療品・化粧品で輸出拡大を図る企業の割合が9割を超えた。コロナ禍の中で中国や米国などの海外主要マーケットでの日本食品や日本製化粧品に対する旺盛な需要が企業の輸出意欲を高めている状況がうかがえる。また、後述のとおり、輸出手段としての越境ECの普及拡大も、中小企業を中心とする輸出積極化の流れを後押していると考えられる。

最も重要な輸出市場(単一選択)として、日本企業にとっての2大輸出市場の中国と米国を選択する企業の割合が高まっている。回答企業のコメントからは、「中国顧客の需要は旺盛であり、今後はさらに増大する見込み」(一般機械、中小企業)、「米国はコロナ禍傾向から脱する方向にある。販売店を含め新機種販売に注力する」(電気機械、中小企業)など、中国と米国の国内経済の好調に伴う輸入需要の拡大が両国向けの輸出意欲の向上を後押ししたことがうかがえる。

なお、財務省が1月28日に公表した貿易統計によると、2021年の日本の輸出は前年比21.5%増で、2007年に次ぐ過去2位の規模になった。その中で、最大の輸出先である中国向けは過去最高額を記録。第2位の米国向けも3年ぶりに増加に転じ、輸出全体の伸びを牽引している。

本特集「売り上げはまだ回復途上、外需取り込みの動きが鮮明に(日本)」参照

(3)広がるEC活用、海外市場開拓戦略の重要軸に

輸出市場開拓の手段として越境ECの活用が進展していることも、本調査結果が示した大きな特徴だ。

第1に、国内外での販売手段としてECを利用したことがあると回答した企業は4割超、また、今後、EC利用を拡大するという回答は5割に上り、いずれも前年調査と比べて大きく増加している。

続いて、ECを利用、または利用を検討している企業の販売先市場については、「海外向け」をターゲットとする企業が約7割に上り、「国内向け」の割合をわずかながら上回った。海外市場をターゲットとする企業の割合は、比較可能な2016年以降、着実に増加を続けており、2021年度に初めて国内市場をターゲットとする企業の割合を上回ったかたちだ。

さらに、もう1一つの特徴的な傾向として、中小企業による越境ECの活用意欲が大企業に比べて大きく高まっていることが挙げられる。前出の「海外向け」をターゲットとするEC活用の具体的な手段には、(1)日本国内から海外市場向けの販売、すなわち越境ECの活用、(2)海外拠点での販売、(3)代理店などを通じた海外向け販売があるが、中小企業では、(1)の越境ECによる海外向け販売を活用、または検討する割合が5割近くに達し、大企業を10ポイント近く上回っている。

日本企業のEC活用、とりわけ、成長する海外EC市場をターゲットとする販売戦略構築が着実に進む中、海外に拠点を持たない多くの中小企業にとって、越境ECが市場アクセスの有効手段として戦略の主軸に位置づけられつつある実態がうかがえる。

本特集「海外市場の成長がECの積極的活用を後押し(世界、日本)」、「越境ECを中心に、中小企業のEC活用が進展(世界)」参照

(4)海外投資は様子見の姿勢、高まる分散意識

本調査を通じて経年変化を追っている「今後3年程度の海外進出方針」では、海外拠点を既に持つ企業による「海外進出の拡大を図る」という回答と、海外拠点を持たない企業による「新たに進出したい」との回答を合わせた割合(以下、「海外進出を拡大する」割合)が5割を下回った。海外進出を拡大する割合が5割を下回るのは、同じ条件で比較可能な2013年度以降では、前年に続いて2度目になり、コロナ禍で大きく落ち込んだ投資意欲が停滞したまま回復していない実態を示している。

他方、「現状を維持する」企業の割合は2年連続で増加し、過去最高になった。回答企業からは、「コロナ禍での拡大は困難で現状維持が妥当」(商社・卸売)、「コロナ禍で海外拠点の生産計画が当初計画を大きく下回り、計画水準に戻すことが最優先」(医療品・化粧品)などのコメントが複数見られる。当面は海外での事業拡大には慎重な姿勢を保ちつつ、正常化に向けた取り組みを優先する傾向が表れた結果になった。

また、海外進出を拡大する企業がターゲットする事業展開先(複数回答)では、「米国」を挙げる企業が約5割になり、初めて中国を抜いて首位になった。これまで首位を維持していた中国はベトナムに次ぐ3位に後退した。

ただし、この結果は必ずしも、海外事業展開先としての中国の位置づけの低下を意味するものではない。本調査の回答企業の海外進出状況を見ると、既に海外に拠点を有する企業は回答企業全体の42%で、そのうち6割超が中国に拠点を有している。他方、米国やベトナムに拠点を有する企業はいずれも3割強にとどまっている。そのため、進出ターゲットとして米国やベトナムを選択した企業の一定割合は、既に中国に拠点を有し、その次の拠点として米国やベトナムへの新規進出や事業規模拡大を見据えているものと考えられる。「コロナ禍でグローバルなサプライチェーンの断絶を経験。安定的な製品供給のためには複数の製造拠点を持つことの重要性を再認識」(化学)とのコメントに見られるように、コロナ禍でサプライチェーン強靭(きょうじん)化のためのリスク分散の意識が高まっていることも、背景にあると考えられる。

本特集「海外事業拡大意欲が上向くも、コロナ禍前には届かず(世界、日本)」参照

(5)輸送・供給の混乱が迫る販売・調達戦略の再構築

サプライチェーンの見直しに向けた取り組み状況では、回答企業の6割以上が何らかの見直しに取り組んでいる実態が明らかになった。また、見直しの理由としては、コロナ禍での需要回復に伴う「国際輸送の混乱・輸送コストの高騰」を挙げる企業の割合が最も高く、次いで「需要の増加」「国内における移動制限・操業規制」「原料・部品不足」などが上位を占めた。

特に、販売面では「販売網の見直し」や「販売価格の引き上げ」、調達面では「調達先の切り替え」や「複数調達化」に取り組む企業が前年から大きく増加した。国際輸送費の高騰や原材料・部品の調達難を受けた対応が目立っている。生産面では、需要回復に伴う「新規投資・設備投資」の割合が大きく増加。また、コロナ禍での作業員の出社制限リスクへの対応や、現場の非接触の推進などを背景に、「自動化・省人化」の取り組みも進展している状況が明らかになった。

サプライチェーンの見直しに関し、回答企業からは、「(コンテナ単位での受注から)ロットを小さくし、積み合わせで輸出できる対応に変更」(飲食料品)、「個別に注文に応じて日本から発送しているが、物流費の高騰などもあり、(現地に)物流拠点を設けることを検討」(繊維・織物)などのコメントが見られる。そのほか、代替調達先の確保や、調達ルートの国内回帰、外注製品の自社への取り込みなど、部材の不足や輸送確保難を理由とするさまざまな対応策の事例が挙げられた。

2022年に入っても、国際輸送の混乱や部材供給制約の継続により、日本企業のサプライチェーンは未曽有の混乱が続き、多くの企業が材料調達難・コスト高や、受注残拡大、輸送確保難・出荷遅延、運賃負担増という負のサイクルに直面している。〔2022年2月17日付レポート「供給制約、輸送の混乱と企業の対応状況」PDFファイル(3.07MB)参照〕。当面は、輸送や調達の複線化・代替先の確保、輸送ルートや輸送条件などに関する複数オプションの検討に加え、混乱長期化を想定した納期設定や価格見直しなどの対応が求められそうだ。

本特集「国際輸送の混乱など、日本企業にサプライチェーンの見直し迫る(世界、日本)」参照

(6)コロナ禍で加速するDX、業務効率化・可視化に重点

デジタルトランスフォーメーション(DX)の取り組みでは、既に取り組んでいる企業が3割弱になった。3割弱の企業の取り組み開始時期を見ると、2020年または2021年との回答が合わせて半数近くを占める。一方で、現状ではまだ取り組んでいない企業のうちの8割以上は「取り組む意義や必要性を認識している」と回答しており、コロナ禍でのデジタル化の進展を含む環境変化が企業にDXの必要性を認識させ、取り組みを後押ししている状況がうかがえる。

回答企業のDXの狙いでは、「業務効率化・最適化」が最大、続いて「業務プロセスや進捗状況の可視化」を挙げる企業が多い。自社業務の効率化・可視化に目的の重心を置いている事情から、DXの推進手段では、パートナーを持たずに組織内のみで行っている企業が過半を占める。半面、海外の企業や機関と連携する企業の割合は1割に満たない。

しかし、海外パートナーと連携してDXを推進する企業の間では、その5割近くが既に取り組みによる具体的成果を認識しており、組織内で推進する企業の成果認識(3割未満)を大きく上回っている実態が明らかになった。こうした結果は、海外パートナーのリソースを活用したDXが業績面で一定の成果をもたらすことを示唆するものだ。

本特集「進まないDX、日本企業のリアル(世界、日本)」参照

(7)持続可能なビジネス構築へ、急速に進む意識変革

最後に、本調査で2021年度から新たに設けたテーマが、人権尊重や気候変動対応など、いわゆる「共通価値」に関する課題認識と取り組み状況だ。まず、近年の国際ビジネスで欠かせない要件になっている人権尊重については、調査時点で自社としての方針を策定している企業は4割未満、さらに方針を外部に公表している企業は2割を下回った。とりわけ、中小企業で方針策定の取り組みの遅れが目立つ。ただし、方針を策定していない企業のうち「1年以内に策定予定」と「数年以内の策定を検討中」を合わせて4割近い企業が策定を予定・検討中の段階にあると回答した。

もう1つのテーマである脱炭素への取り組みにも同様の傾向がみられ、大企業の間で7割近くがすでに取り組んでいる半面、中小企業による取り組みは35%未満と、大きな乖離がある。他方、「今後取り組む予定がある」と回答した企業とあわせ、全体の4分の3以上は取り組みを実施中または具体的な対応方針を検討中である状況にあることがわかる。

加えて、サプライチェーン全体での取り組みも進展している。例えば、人権尊重では、(1)方針を有する企業の7割近くが調達先に対しても自社方針への準拠を要請していること、(2)要請を受けたことがある企業の間では約7割の企業で方針策定が完了していること、が明らかになった。取引企業間の要請関係がこの課題への認識を高め、バリューチェーン全体で取り組みを促している実態を示すものだ。

近年、世界全体で「持続可能性」への意識の高まりに伴い、環境や人権などの領域と企業活動のあり方が連動して議論され、これらの領域がビジネスルールや課税に直結するケースも増えている。国際ビジネスに携わる企業にとって、持続可能な企業活動を実現するための方針策定や公表、取引先との認識共有をはじめとする取り組みの重要性がこれまでになく高まっているといえる。

本特集「人権デュー・ディリジェンスの導入へ、転換期を迎える日本企業(世界、日本)」、「サプライチェーンを意識して脱炭素化対応を(世界、日本)」参照


注:
IMFによる2022年1月時点の推定値であり、各国の政府発表による2021年のGDP成長率とは一致しない。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課長
伊藤 博敏(いとう ひろとし)
1998年、ジェトロ入構。ジェトロ・ニューデリー事務所、ジェトロ・バンコク事務所、企画部海外地域戦略主幹・東南アジアなどを経て現職。主な著書:『タイ・プラスワンの企業戦略』(共著、勁草書房)、『アジア主要国のビジネス環境比較』『アジア新興国のビジネス環境比較』(編著、ジェトロ)、『インドVS中国:二大新興国の実力比較』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド成長ビジネス地図』(共著、日本経済新聞出版社)、『インド税務ガイド:間接税のすべてがわかる』(単著、ジェトロ)など。