特集:コロナ禍の変化と混乱、複雑化するビジネス課題への対応は海外市場の成長がECの積極的活用を後押し(世界、日本)

2022年3月10日

新型コロナウイルス禍で、販売手段としてのECの存在感が高まっている。海外市場の急速な拡大も背景に、国内外でのEC利用経験がある企業の割合や、海外向けの販売でECを活用・検討する企業の割合は増加を続けている。本稿では、ジェトロのアンケート調査結果を基に、日本企業のEC利用動向について分析する。

国内外でのEC利用率が初めて4割超

ジェトロが実施した2021年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(以下、本調査、文末注1)によると、まず、国内外での販売でEC(文末注2)を利用したことがあると回答した企業は、回答企業全体の42.1%を占めた(図1参照)。EC利用を今後拡大すると回答した割合は49.6%に上った。いずれも2020年度調査から増加しており、新型コロナの影響が長期化する中、ECが主要な販売手段の1つとの認識が急速に進んでいる。

図1:EC利用の有無(時系列)
「(参考)利用したことがある 」の割合は2016年度24.3%、2018年度30.3%、2020年度33.3%、2021年度42.1%。「(参考)利用を拡大する」の割合は2016年度37.8%、2018年度35.9%、2020年度43.9%、2021年度49.6%。「利用したことがあり、今後、さらなる利用拡大を図る」の割合は2016年度15.3%、2018年度21.1%、2020年度23.7%、2021年度30.7%。「利用したことがあり、今後も現状を維持する」の割合は2016年度7.9%、2018年度8.0%、2020年度8.3%、2021年度10.4%。「利用したことがあり、今後は利用を縮小する」の割合は2016年度1.1%、2018年度1.2%、2020年度1.3%、2021年度1.1%。「利用したことがないが、今後の利用を検討している」の割合は2016年度22.5%、2018年度14.8%、2020年度20.2%、2021年度18.9%。「利用したことがなく、今後も利用する予定はない」の割合は2016年度49.2%、2018年度50.2%、2020年度42.4%、2021年度35.0%。「利用したことはあるが、現在は利用していない」の割合は2020年度3.2%、2021年度2.3%。「無回答」の割合は2016年度3.9%、2018年度4.7%、2020年度0.9%、2021年度1.7%。回答企業数は、2016年度2995社、2018年度3385社、2020年度2722社、2021年度1745社。

注1:nは本調査の回答総数。
注2:ECを「利用したことがある」企業は、ECを利用したことがある企業から「現在は利用していない」と回答した企業を除いて算出。「現在は利用していない」という選択肢は2020年度に新設したため、2018年度以前との厳密な比較はできない。また、国内外分けての利用経験については尋ねていない。
注3:「利用を拡大する」は、「利用したことがあり、今後、さらなる拡大を図る」と「利用したことがないが、今後の利用を検討している」の合計。
出所:2021年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

続いて、ECを利用または検討していると回答した企業に対し、国内外どちらに向けた販売を行っているか尋ねたところ、69.4%が「海外向け販売」でECを活用または検討していると回答した(複数回答、図2参照)。具体的な販売方法としては、「日本国内から海外への販売」(越境EC)が46.9%で最多だった。海外向け販売の割合が「日本国内への販売」(69.2%)を上回ったのは本調査開始以来初となる。

とりわけ、ECを「利用したことがないが、今後の利用を検討している」という企業では、「海外向け販売」と回答した割合が73.9%と、「利用したことがあり、今後、さらなる利用拡大を図る」と回答した企業(68.6%)を上回った(図3参照、文末注3)。まだECを利用したことがない企業の場合、海外市場を見据えた導入検討をしていると考えられる。

図2:ECの利用状況(時系列)
「日本国内への販売」 は、2016年度81.1%、2018年度78.6%、2020年度73.0%、2021年度69.2%。「(参考)海外向け販売」は、2016年度47.2%、2018年度52.8%、2020年度65.0%、2021年度69.4%。「日本国内から海外への販売(越境EC)」は、2016年度30.9%、2018年度40.3%、2020年度45.5%、2021年度46.9%。「 (参考)海外拠点での販売」は、2016年度22.8%、2018年度22.8%、2020年度23.1%、2021年度25.4%。「海外拠点での現地販売」は、2016年度22.8%、2018年度21.1%、2020年度21.5%、2021年度23.8%。「海外拠点から第三国への販売」は、2018年度5.2%、2020年度6.7%、2021年度7.1%。「代理店等を通じた海外への販売」は、2020年度24.3%、2021年度25.9%。「無回答」は、2016年度2.9%、2018年度2.7%、2020年度1.4%、2021年度2.5%。回答企業数は2016年度731社、2018年度1025社、2020年度908社、2021年度1065社。

注1: nはECを利用したことがある(現在利用していない企業は除く)または利用を検討していると回答した企業。
注2:海外向け販売は、「日本から海外への販売(越境EC)」「海外拠点での販売」「代理店などを通じた海外への販売」のいずれかを選択した企業の比率。「代理店などを通じた海外への販売」は、2020年度に新設。
注3: 「海外拠点での販売」は、「海外拠点での現地販売」と「海外拠点から第三国への販売」のいずれかを選択した企業の比率。
出所:2021年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

図3:ECの利用状況(国内外での利用有無別)
利用したことがあり、今後、さらなる利用拡大を図る企業では、日本国内への販売は2020年度76.6%、2021年度82.4%。海外向け販売は2020年度67.3%、2021年度68.6%。回答企業数は2020年度645社、2021年度535社。 利用したことがあり、今後も現状を維持する企業では、日本国内への販売は2020年度68.3%、2021年度73.5%。海外向け販売は2020年度57.7%、2021年度62.4%。回答企業数は2020年度277社、2021年度181社。 利用したことがないが、今後の利用を検討している企業では、日本国内への販売は2020年度49.7%、2021年度47.0%。海外向け販売は2020年度65.3%、2021年度73.9%。回答企業数は2020年度551社、2021年度330社。

出所:2021年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

成長性高い海外市場、中国は日本の15倍規模

世界のEC小売市場に目を向けると、海外のEC市場が日本に比べて大きく、かつ今後の成長性も高い。米国に本社を置く市場調査会社eMarketerによると、2021年の世界のEC小売市場規模は4兆9,382億ドルで、小売りに占めるEC小売りの割合(EC化率)は19.0%だった(表参照)。上位国のEC小売市場規模は、中国が2兆4,886億ドル、米国は9,191億ドル、英国は2,346億ドルだった。日本は1,643億ドルで、順位としては4位だが、中国は日本の15.1倍、米国は5.6倍、英国も1.4倍と、規模の差は大きい。また、EC化率を見ても、中国は43.9%、米国は14.2%、英国は36.3%で、いずれも日本(11.8%)に比べ高くなっている。

今後の市場予測をみると、EC小売市場規模は2025年に世界で7兆3,906億ドル、EC化率は23.6%になるという。中国は最大の市場を維持して市場規模は3兆6,159億ドル、EC化率は52.0%と、小売りの半数に達する見込みだ(図4参照)。日本もEC小売市場は拡大しているが、海外では相対的に速いスピードで市場が拡大している。こうした動向が新たにEC導入を検討する際に海外向け販売を志向する一因となっていると考えられる。

表:2021年の主要国のEC小売市場規模と、小売り全体に占めるECの割合
国・地域名 EC小売市場規模(10億ドル) 世界シェア(%) 各国の小売り全体に占める、EC小売りの割合(%)
世界 4,938.2 100.0 19.0
階層レベル2の項目中国 2,488.6 50.4 43.9
階層レベル2の項目米国 919.1 18.6 14.2
階層レベル2の項目英国 234.6 4.8 36.3
階層レベル2の項目日本 164.3 3.3 11.8
階層レベル2の項目韓国 126.5 2.6 29.0
階層レベル2の項目ドイツ 109.6 2.2 10.8
階層レベル2の項目フランス 87.0 1.8 11.2
階層レベル2の項目カナダ 72.3 1.5 12.7
階層レベル2の項目インド 66.8 1.4 7.0
階層レベル2の項目インドネシア 47.2 1.0 17.9

注1:EC小売額は決済手段やフルフィルメントの手法にかかわらず、インターネットを利用して注文された商品・サービスを含む。旅行やイベントチケットの販売、料金支払いや税金、送金、飲食店サービス、ギャンブルなどは除外。
注2:2021年の市場規模上位10カ国を掲載。
出所:eMarketerからジェトロ作成

図4:小売り全体に占めるECの割合の予測(推計値)
世界は2015年から2025年まで順に、7.2%、8.6%、10.3%、12.0%、13.8%、17.9%、19.0%、20.3%、21.5%、22.5%、23.6%。中国は2015年から2025年まで順に、14.7%、18.5%、23.5%、29.2%、34.1%、42.4%、43.9%、46.4%、48.6%、50.4%、52.0%。米国は2015年から2025年まで順に、7.3%、8.2%、9.1%、9.9%、11.1%、14.2%、14.2%、16.1%、18.0%、19.9%、21.9%。英国は2015年から2025年まで順に、14.7%、16.7%、18.8%、20.7%、21.8%、32.5%、36.3%、36.3%、36.6%、37.2%、38.1%。日本は2015年から2025年まで順に、6.3%、7.8%、8.2%、8.9%、9.6%、11.4%、11.8%、11.9%、12.1%、12.3%、12.4%。韓国は2015年から2025年まで順に、10.3%、12.1%、16.6%、18.8%、21.4%、26.8%、29.0%、32.2%、34.8%、37.1%、39.3%。

注:ECの定義は表注参照。2021年のEC小売市場上位5カ国を掲載。
出所:eMarketerからジェトロ作成

4割が海外EC事業の利益・メリットを享受

存在感高まるECだが、利用によって実際に利益や非財務上何らかのメリットは得られているのか。海外向け販売でECを利用または検討している企業に、海外EC事業利益・メリットを尋ねたところ、「海外EC事業単体で現状、黒字である」との回答企業が16.0%、「海外EC事業単体で現状、赤字だが、今後黒字に転換する見通しである」との回答は11.4%、「海外EC事業単体では現状・今後も赤字の見通しだが、自社ビジネス全体にメリットがある」との回答は14.9%だった(図5参照)。これらを合わせると、利益・メリットがあると感じている企業は42.2%に上る。国内外でのEC利用経験があると回答した企業に絞ると、同比率は56.4%だった。

その一方、利益やメリットがあるか「わからない」と回答した企業は47.1%と、こちらも半数近くに上った。国内外でのEC利用経験があると回答した企業に絞っても、3割弱の企業が「わからない」と回答している(文末注3)。背景には、ECを導入して間もないため利益・メリットの有無を判断するには早すぎる状態の企業が存在することや、海外ECがEC販売額に占める割合が小さい企業が多いことが一因として考えられる。2020年度の本調査によると、売上高に占めるEC比率は10%以下が7割強、EC販売のうち海外向け比率は「1%未満」が約半数を占めていた(2021年2月26日付地域・分析レポート参照)。実際に、「わからない」と回答した企業からは「まだ始めたばかりで規模が小さいので採算を明確化できない」(飲食料品・小規模企業)、「海外ECは始めたばかりでいまだ実績が出ていない」(電気機械・小規模企業)とのコメントが寄せられた。

図5:海外EC事業の利益・メリット
(1)海外でのECを利用または検討している企業(n=739)では、「(参考)利益・メリットがある」が42.2%、「海外EC事業単体で現状、黒字である」が16.0%、「海外EC事業単体で現状、赤字だが、今後黒字に転換する見通しである」が11.4、「海外EC事業単体では現状・今後とも赤字の見通しだが、自社ビジネス全体にメリット(注)がある」が14.9%、「海外EC事業単体では現状・今後とも赤字の見通しで、自社ビジネス全体にメリット(注)もない」が1.9%、「わからない(まだECを利用したことがない場合を含む)」が47.1%、「その他」が7.0%、「無回答」が1.8%。(2)(1)のうち、国内外でECを利用したことがある企業(n=495)は「(参考)利益・メリットがある」が56.4%、「海外EC事業単体で現状、黒字である」が22.4%、「海外EC事業単体で現状、赤字だが、今後黒字に転換する見通しである」が15.4%、「海外EC事業単体では現状・今後とも赤字の見通しだが、自社ビジネス全体にメリット(注)がある」が18.6%、「海外EC事業単体では現状・今後とも赤字の見通しで、自社ビジネス全体にメリット(注)もない」が2.4%、「わからない(まだECを利用したことがない場合を含む)」が29.5%、 「その他」が9.7%、無回答が2.0%。

注1:メリットは、自社認知度向上、顧客データ入手など、EC以外の事業に好影響を与える要素を指す。
注2:「利益・メリットがある」は、「海外EC事業単体で現状、黒字である」「海外EC事業単体で現状、赤字だが、今後黒字に転換する見通しである」「海外EC事業単体では現状・今後とも赤字の見通しだが、自社ビジネス全体にメリットがある」の合計。
出所:2021年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

新型コロナ禍の中で、販売手段としてのECの存在感が高まり、海外向けの販売でECを活用、もしくは活用を検討する企業の比率が増加した。とりわけ、ECを今後活用しようと検討している企業では、成長著しい海外市場を見据えている割合が高いことが明らかとなった。また、ECへの注目が高まる中、ECを導入したばかりという企業も多く、海外向けEC事業で利益・メリットの判断・実感については、調査時点では判断が難しいとの声も聞かれた。売上高や国内外を含めたEC事業全体での海外向けEC販売の存在感はまだ小さいため、今後の事業拡大とともに、利益やメリットが明確になっていくものと考えられる。


注1:
本調査は、海外ビジネスに関心の高いジェトロのサービス利用日本企業1万3,456社を対象に、2021年10月末から12月初旬にかけて実施し、1,745社から回答を得た(有効回答率13.0%、回答企業の83.0%が中小企業)。プレスリリース報告書も参照。なお、過去の調査の報告書もダウンロード可能。
注2:
本調査におけるECの定義は、インターネットを利用し、受発注がコンピュータネットワークシステム上で行われること。支払いや配送方法は問わない。
注3:
本調査では、海外事業でECを既に利用しているか、あるいは検討段階かは直接尋ねていない。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部中国北アジア課
柏瀬 あすか(かしわせ あすか)
2018年4月、ジェトロ入構。海外調査部国際経済課、市場開拓・展示事業部海外市場開拓課を経て現職。

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