特集:コロナ禍の変化と混乱、複雑化するビジネス課題への対応は売り上げはまだ回復途上、外需取り込みの動きが鮮明に(世界、日本)

2022年3月10日

ジェトロが実施した2021年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(以下「本調査」、注1)では、売上高の変化と貿易への取り組みについて尋ねた。これらの結果から、新型コロナウイルス感染前からの売上高回復状況や、今後の輸出方針などについて考察する。

新型コロナ禍からの回復は途上、国内外の売り上げの違いが鮮明に

本調査では、国内外別に売上高の変化を尋ねた。輸出または海外進出している企業が、前年度と比較した2021年度の海外売上高(または目標値)を「増加」と回答した割合は、47.7%に達した。しかし、2019年度との比較では39.8%。多くの企業の海外売上高は、新型コロナ拡大前の前々年度水準を超えなかった(図1参照)。

図1:2021年度の国内・海外別売上高(または目標値)増減
2020年度比の国内(n=1,632)は増加が42.3%、変化なしが29.1%、減少が28.6%。2020年度比の海外(n=1,450)は増加が47.7%、変化なしが32.2%、減少が20.1%。2019年度比の国内(n=1,643)は増加が30.1%、変化なしが27.9%、減少が41.9%。2019年度比の海外(n=1,456)は増加が39.8%、変化なしが31.5%、減少が28.8%。

注1:本調査では、国内本社の海外売上高と海外現地法人の海外売上高とを区別して尋ねていない。
注2:「国内」のnは本調査の全回答企業から無回答を除いた企業数。「海外」のnは輸出または海外進出している企業数から無回答を除いた企業数。
注3:端数処理のため計算が合わない場合がある。
出所:2021年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

他方で、海外売上高を「増加」と回答した割合は、国内売上高を「増加」とした割合を上回った。なぜ国内と海外で増加と回答した割合に差が出たのか。理由の1つとして、経済の回復が比較的早かった海外需要を取り込んだことが寄与したことが考えられる。こうした傾向は、日本のGDP統計からも見て取れる。GDP(実質)を需要項目別にみると、2019年と比較した2021年の財・サービスの輸出水準は98.5だった。2019年水準にまでは回復していないまでも、国内需要の水準(97.0)を上回った(注2)。

売上高の増加については、その幅を併せて尋ねた。2019年度比の2021年度の売上高増加幅の平均値は、国内よりも海外の方が大きかった(表1参照)。他の値から大きく外れた値を勘案し、最頻値と中央値を確認すると、最頻値は国内と海外で変わらない。ただし、中央値は国内よりも海外の方が大きくなる。業種別にみると、例えば、集計回答数が多い「飲食料品」でも、平均値と中央値ともに、海外が国内を上回った。こうした傾向は、政府発表統計からも見て取れる。日本の家計調査によると、2021年の総世帯の食料支出額は2019年比で0.9%減だった(注3)。他方で、2019年と比較した2021年の農林水産物・食品輸出額は27.5%増。輸出総額(8.0%増)を上回った(注4)。農林水産物・食品輸出額の伸び率は2020年も前年比でプラスを維持し、2021年に加速した。農林水産省は2021年の農林水産物・食品輸出額について、「世界的に新型コロナウイルスの蔓延が続く中、消費者ニーズの変化に対応した、小売店向けやEC販売等の新たな販路への販売が堅調だった」とし、「中国や米国等の経済活動が回復傾向に向かい、外食需要も回復してきたことなどで、多くの品目で輸出額が伸び、総額も伸びた」と分析した。

表1:2021年度売上高増加幅(対2019年度)

国内(単位:社数、%)
業種 n 平均値 中央値 最頻値(注)
全体 395 48.4 10 5
階層レベル2の項目飲食料品 51 30.0 10 5
海外(単位:社数、%)
業種 n 平均値 中央値 最頻値(注)
全体 482 88.9 20 5
階層レベル2の項目飲食料品 112 161.9 30 5

注1:本調査では、国内本社の海外売上高と海外現地法人の海外売上高とを区別して尋ねていない。
注2:nは、2021年度の国内(海外)売上高(2019年度比)で増加と回答した企業数から無回答を除いた企業数。うち、海外は、輸出または海外進出を行っている企業数。
注3:「最頻値」は階級幅を10%とした際の最も度数の大きな階級の階級値。
注4:業種別は、nが最も多い「飲食料品」だけを掲載。
出所:2021年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

輸出拡大意欲が増加、先行する海外需要の取り込み目指す

それでは、今後の海外事業展開への姿勢はどうか。本レポート後半では、輸出への取り組みについて考察する。

本調査では、2021年度を含む今後3年程度の輸出事業方針について聞いている。この設問で「今後、さらに拡大を図る」との回答割合が75%を超えた(図2参照)。2020年度(66.0%)から大幅に増加し、回答選択肢が統一された2012年度以降で最大の比率になった。「今後、新たに取り組みたい」と回答した企業と合わせて「輸出拡大を志向する企業」を計上すると、82.8%に達する。それが、2015年度(84.9%)以来の高い割合に達したかたちだ。

図2:輸出拡大方針の推移(時系列)
nは、2011年度から2,515、1,686、2,962、2,444、2,462、2,603、2,690、2,808、2,943、2,372、1,567。「今後、さらに拡大を図る」は2011年度から55.3%、62.0%、67.4%、66.2%、74.2%、70.1%、67.8%。70.5%、71.1%、66.0%、75.2%。「今後、新たに取り組みたい」は2011年度から10.7%、14.2%、10.4%、12.4%、10.7%、11.8%、11.6%、10.6%、9.3%、10.8%、7.6%。「今後、さらに拡大を図る」に「今後、今後新たに取り組みたい」をあわせた「輸出の拡大を図る」は2011年度から66.0%、76.3%、77.8%、78.6%、84.9%、81.9%、79.4%、81.2%、80.4%、76.7%、82.8%。

注1:nは「輸出を行う業種ではない」(2012年度に新設)と「無回答」を除いた企業数。
注2:端数処理のため計算が合わない場合がある。
出所:2021年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

では、なぜ輸出拡大を志向する企業の割合が増加したのか。2020年度と2021年度調査の「輸出拡大を図る」企業の輸出事業方針を選択した理由(自由記述、注5)で頻出した名詞・複合語を整理したのが表2だ。いずれも「海外」が最多で、「国内」「拡大」「市場」「輸出」が続く。特に2021年度調査では、「海外」を記述する回答が頻出した。「海外」と記載した直前や直後にどんな語が多く出現したかをみると、「海外」の後ろに「市場」(海外市場)が続く場合が最も多い。「展開」(海外展開)、「需要」(海外需要)が、これに続く。例えば、2020年度調査で、「コロナ禍でどうなるかわからない」ことを理由に今後の輸出事業方針を「現状維持」と回答した企業(一般機械、中小企業)が今回、「海外需要の拡大」を理由に「さらに拡大を図る」と回答した。その他にも、「コロナの影響による経済活性化のタイミングが、国内と海外では異なることを生かし、売り上げにつなげる」(医療品・化粧品、中小企業)との声も聞かれた。「国内景気が今後上昇するには時間がかかると推察」(繊維・織物/アパレル、中小企業)、「国内景気の落ち込みを海外でカバー」(商社・卸売り、中小企業)との声も挙がるなど、日本国内に先駆けて経済回復する海外市場を取り込もうとする姿が見て取れる。

表2:輸出拡大を図る企業の、輸出事業方針の理由に関する記述で頻出した名詞・複合語(△はマイナス値)
順位、語 2020年度
(n=1,595)
2021年度
(n=1,088)
構成比(A) 構成比(B) B-A
%ポイント
1. 海外 29.4 41.5 12.0
階層レベル2の項目海外市場 3.7 7.3 3.6
階層レベル2の項目海外展開 1.3 1.8 0.6
階層レベル2の項目海外需要 0.4 1.6 1.1
2. 国内 28.0 28.6 0.6
3. 拡大 27.5 26.5 △ 1.0
4. 市場 22.3 25.6 3.4
5. 輸出 20.2 20.1 △ 0.1

注1:nは、今後の輸出方針で、「現在、輸出を行っており、今後、さらに拡大を図る」、もしくは「現在、輸出は行っていないが、今後、新たに取り組みたい」と回答し、その理由について回答した企業数。
注2:端数処理のため計算が合わない場合がある。
出所:2021年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

また、頻出上位ではないものの、2015年の水準に迫る円安の進行も輸出拡大の理由に挙がった。「円安による影響が大きいため、輸入と輸出のバランスを図りたい」(商社・卸売り、中小企業)、「日本円(中略)の(実)力が下がっている。世界にとって日本製=高価ではなくなってきた。一方で、日本製の品質に対する認識は相変わらず高いままだ。海外も商売相手になりえる」(飲食料品、中小企業)という。日本銀行によると、物価と貿易額を考慮に入れた実質実効為替レート指数は、2021年11月には68.08と、2015年6月(67.63)来の水準に達した(注6)。さらに2022年1月は67.55で、1972年9月(67.96)来の低水準だ。

他にも、地域的な包括的経済連携(RCEP)協定が輸出拡大の理由に挙がった。「RCEPが本格的にスタートするにあたり、主に中国市場をはじめ、加盟国との間で貿易(輸出)を活発化していきたい」(飲食料品、中小企業)という。RCEP協定は、日本と中国、また日本と韓国との間で締結された初の経済連携協定(EPA)だ。そうした協定が輸出事業の拡大方針を後押ししたかたちだ。

最重要輸出先として選ばれる中国と米国

では、企業が輸出先として狙う海外市場はどこか。

輸出の拡大を図る企業に対し、最も重視する輸出先を1つだけ回答するよう求めたところ、27.8%が「中国」と回答した(表3参照)。「米国」「西欧」などが続く。上位10カ国・地域では、台湾(前回6位→今回5位)とタイ(5位→6位)で順位が入れ替わった。その他の順位に変動はない。2020年度と比べると、上位10カ国・地域のうち、「中国」と「米国」の回答率だけが増加。これに対し、その他は軒並み減少した。

表3:今後の最重要輸出先(時系列) (単位:%、%ポイント)(△はマイナス値)
国・地域名 2012年度
(n=1,286)
2016年度
(n=2,133)
2018年度
(n=2,279)
2020年度
(n=1,820)
2021年度
(n=1,297)
FY20→FY21
中国 19.8 19.8 28.1 26.9 27.8 0.9
米国 8.8 15.5 14.7 18.7 21.5 2.8
西欧 1.8 6.5 7.9 10.4 9.4 △ 1.0
ベトナム 3.0 7.6 8.0 7.4 6.6 △ 0.9
台湾 1.8 3.9 3.7 4.4 4.4 △ 0.0
タイ 7.4 5.9 5.7 5.5 4.2 △ 1.3
香港 0.6 3.0 3.2 3.6 3.2 △ 0.5
インドネシア 6.2 3.5 2.9 2.9 2.8 △ 0.1
インド 5.2 3.8 3.8 2.9 2.6 △ 0.2
シンガポール 1.5 3.0 2.8 2.8 2.1 △ 0.7

注1:nは、今後の輸出方針で、「現在、輸出を行っており、今後、さらに拡大を図る」、または「現在、輸出は行っていないが、今後、新たに取り組みたい」と回答した企業数。
注2:2012年度と2016年度は「西欧」について、国を分けた選択肢はない。2018年度以降は、「西欧(英国除く)」と「英国」に分けている。この表で2018年度以降の「西欧」は、「西欧(英国除く)」と「英国」の合計。
注3:2021年度調査で回答比率上位10カ国・地域だけを掲載。
注4:端数処理のため計算が合わない場合がある。
出所:2021年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(ジェトロ)

なぜ中国と米国が選ばれたのか。その理由として、市場規模の大きい両国の相対的な需要回復の速さが魅力をさらに高めることになった点を指摘できる。例えば、中国を今後の最重要先として回答した企業からは、「好調な中国市場での拡販」(鉄鋼/非鉄金属/金属製品、中小企業)、「中国顧客の需要は旺盛で、今後はさらに増大する見込み」(一般機械、中小企業)などが輸出拡大方針の理由として挙がった。また、米国を最重要先として選択した企業からは、「米国は、コロナ禍傾向を逸脱する方向にある。販売店を含め新機種販売に注力する」(電気機械、中小企業)、「米国のニューヨークではコロナ禍で新規開拓や出店が休止状態だったが、開拓や出店準備も始まっている」(商社・卸売り、中小企業)といった回答が挙がった。

主要な業種別に最重要輸出先をみると、中国はいずれの業種も2位以内、米国も一部を除いて2位以内につけた〔別添:主要製造業業種別の今後の最重要輸出先(上位5位)〕。中国と米国以外では、例えば、飲食料品で台湾の回答率と順位が上昇した。回答企業からは、「コロナ以前は、台湾からのインバウンドが多かった。また、現地台湾でも転売が行われるなど好評価を得ていた。コロナの影響でその需要がなくなり直営店舖での販売が落ちるなどした中、現地に販路を広げておく事で今後の影響を抑えたい」(飲食料品、中小企業)との声が聞かれた。

また「電気機械」と「自動車・同部品/その他輸送機器」で、西欧(英国を除く)の回答率と順位が上昇した。「EV(電気自動車)などクリーンエネルギー関係のビジネス拡大が見込まれるため」(電気機械、中小企業)、「今後EV化で需要が増えるため」(自動車・同部品/その他輸送機器、大企業)と、EVなどグリーン関連ビジネスがキーワードとして挙がった。

今回の調査では、売上高のコロナ禍前からの回復が道半ばにあることが確認できた。もっとも、経済活動の回復が比較的早かった海外需要を取り込む動きも明らかになった。確かに、新型コロナ感染拡大による経済活動の停滞の長期化などは、引き続き懸念材料だ。その一方で、消失したインバウンド需要を財輸出に求める動き、さらには各国・地域で経済回復の起爆剤として期待されるグリーン関連需要を取り込む動きも進んでいることになる。


注1:
本調査は、海外ビジネスに関心の高いジェトロのサービス利用企業1万3,456社を対象に、2021年11月初めから12月初めにかけて実施。1,745社から回答を得た(有効回答率13.0%、回答企業の83.0%が中小企業)。プレスリリース報告書も参照。過去の調査の報告書もダウンロード可能。
注2:
2022年2月末までに入手可能な「四半期別GDP速報(2021年10-12月期・1次速報)外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(内閣府)から算出。
注3:
家計調査外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(総務省)から算出。
注4:
2021年の値は、2022年2月末までに農林水産物・食品輸出額が入手可能な確報値。「農林水産物輸出入統計外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(農林水産省)から算出。
注5:
輸出事業方針の理由に関する自由記述を当レポートに転記するにあたっては、元の文意に変更が生じない限りで、部分的に改訂した場合がある。
注6:
2022年2月末までに入手可能な2022年1月までの値。「日本銀行時系列統計データ検索サイト外部サイトへ、新しいウィンドウで開きます」(日本銀行)から引用。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課 課長代理
朝倉 啓介(あさくら けいすけ)
2005年、ジェトロ入構。海外調査部アジア大洋州課(2005~2009年)、国際経済研究課(2009 ~2010年)、公益社団法人日本経済研究センター出向(2010~2011年)、ジェトロ農林水産・食品調査課(2011~2013年)、ジェトロ・ムンバイ事務所(2013~2018年)を経て海外調査部国際経済課勤務。