特集:コロナ禍の変化と混乱、複雑化するビジネス課題への対応はサプライチェーンを意識して脱炭素化対応を(世界、日本)

2022年3月22日

近年、地球温暖化への対応として、「カーボンニュートラル」を目指す動きが世界的に加速している。カーボンニュートラルとは、温室効果ガス排出と吸収・除去を均衡させ、排出量を実質ゼロにするという意味だ。これに伴い、日本企業の国内外における事業活動でも、自社の方針、進出先国・地域での規制強化や優遇措置などの制度導入、顧客や消費者からの要望など、さまざまな動機から、脱炭素化への取り組みを重視する傾向がみられる。

これらの取り組み実態や課題について、ジェトロが実施した2021年度「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」(以下「本調査」、注1)結果から読み解く。

脱炭素化対応で企業規模別に差異

当該調査では、2021年度から新たに、脱炭素化への企業の取り組みに関する質問を設けた。国内外の「脱炭素化への取り組み状況」について尋ねた結果(注2)によると、国内では全体の40.0%の企業が、「すでに取り組んでいる」と回答した(図1参照)。日本政府は2020年12月、「2050年カーボンニュートラルに伴うグリーン成長戦略」を策定。脱炭素化に取り組む企業に向けたグリーンイノベーション基金などの予算措置、カーボンニュートラルに向けた投資促進税制といった政策を打ち出している。また一般社会で、脱炭素化の重要性への認識も広がってきた。企業にとっても、この分野への適切な取り組みが必要不可欠になりつつある。

国内で「すでに取り組んでいる」と回答した企業を規模別にみると、大企業が68.0%、中小企業34.4%。両者には、大きな差がある。ただし、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」と回答した中小企業が38.1%ある。「すでに取り組んでいる」と回答した企業と合わせると、大企業を含む全体で75%を超える企業が国内での脱炭素化に向けてなんらかの対応を行う方針を有することになる。

図1:国内における脱炭素化への取り組み状況(企業規模別)
合計1,630社のうち、「すでに取り組んでいる」企業は40.0%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」企業は35.7%、「取り組む予定はない」企業は24.3%だった。企業規模別にみると、大企業は、272社のうち、「すでに取り組んでいる」企業は68.0%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」企業は23.5%、「取り組む予定はない」企業は8.5%だった。中小企業は、1,358社のうち、「すでに取り組んでいる」企業は34.4%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」企業は38.1」%、「取り組む予定はない」企業は27.5%だった。

注:nは回答企業数から「無回答」を除いた企業数。
出所:ジェトロ「2021年度日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」

一方、海外での脱炭素化への取り組み状況については、海外拠点を有する企業の23.1%が「すでに取り組んでいる」と回答した(図2参照)。国内と比較すると、海外での取り組みは遅れている。規模別の傾向は、国内での取り組みと同様だ。「すでに取り組んでいる」と回答した企業の割合は、大企業の39.2%に比べて、中小企業15.4%にとどまる。

図2:海外における脱炭素化への取り組み状況(企業規模別)
合計490社のうち、「すでに取り組んでいる」企業は23.1%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」企業は37.3%、「取り組む予定はない」企業は39.6%だった。企業規模別にみると、大企業は、158社のうち、「すでに取り組んでいる」企業は39.2%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」企業は37.3%、「取り組む予定はない」企業は23.4%だった。中小企業は、332社のうち、「すでに取り組んでいる」企業は15.4%、「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」企業は37.3%、「取り組む予定はない」企業は47.3%だった。

注1:海外における取り組みの設問に回答した海外進出企業のみ。
注2:nは回答企業数から「無回答」を除いた企業数。
出所:図1に同じ

海外で脱炭素化に取り組みに当たっては、進出先国・地域の制度によっても対応に差が生じる。

ジェトロは本調査に先駆けて、海外約80カ国に進出する日系企業1万8,932社(有効回答数7,575社)を対象に「2021年度海外進出日系企業実態調査」(2021年8~9月実施)を実施していた。その結果によると、海外進出日系企業のうち、脱炭素化に「すでに取り組んでいる」と答えた海外進出日系企業の割合は、全地域平均では33.9%だった(有効回答数7,317社)。主要国別にみると、南アフリカ共和国(南ア)、アラブ首長国連邦(UAE)、韓国、オランダ、ブラジル、インドなどでは4割を超えた。その一方で、ベトナム、タイ、ロシアでは3割を切っていた。このように、進出先によって取り組み状況にバラつきがあった。

「すでに取り組んでいる」と答えた企業の割合が最も高かった南アは、温室効果ガスの排出量で世界上位20位以内に入る。そのため、特に化石燃料使用の削減に積極的。同国は2019年に炭素税を導入済みで、産業ごとの排出削減目標を課す「気候変動法案」を審議中だ。こうした脱炭素化に向けた具体的な制度導入の動きが活発なことが、同国進出企業の取り組み状況に反映されたとみられる。

海外進出日系企業が、進出先で脱炭素化に取り組む動機として最も多かったのが、「本社(親会社)からの指示・勧奨」だった。ただし、前述のとおり国・地域によって「進出先の政府による規制や優遇措置」も大きく影響している。

中小企業に難度の高い取り組みとは

国内外を問わず、脱炭素化に「すでに取り組んでいる」または「今後取り組む予定がある」と回答した企業による取り組み内容をみてみる。最も高かったのが「省エネ・省資源化」で、65.0%だった。次いで「環境に配慮した新製品の開発」が57.4%と続いた(複数回答)。企業規模別にみると、前者は大企業69.0%、中小企業63.3%、後者は大企業57.1%、中小企業57.5%と、大きな差はなかった(図3参照)。他方、取り組み内容として3番目に高かった「再エネ・新エネ(太陽光、風力、水力、地熱、潮力、バイオマス、水素など)電力の調達」(全体45.7%)、4番目の「社会貢献活動(環境活動)の実施」(全体35.0%)では、大企業と中小企業の回答にそれぞれ10ポイント以上の差がついた。

理由としては、これらの実現には課題が大きいことが考えられる。まず「再エネ・新エネ電力の調達」については、エネルギー密度が低いために大型設備やスペースが必要で、蓄電や電力の安定化を期すための周辺設備に対する初期投資コストがかかる。また、「社会貢献活動(環境活動)の実施」では、十分な人員・予算を確保できない、従業員の重要性への理解が不足していることなどが課題に挙がる。

図3:脱炭素化への取り組み内容(検討中含む)
「省エネ・省資源化」と答えた企業の割合が最も高く、大企業69.0%、中小企業63.3%だった。以降は、「環境に配慮した新製品の開発」が大企業57.1%、中小企業57.5%、「再エネ・新エネ電力の調達」が大企業54.0%、中小企業42.2%、「社会貢献活動(環境活動)の実施)」が大企業48.4%、中小企業29.3%、「エネルギー源の電力化」が大企業24.6%、中小企業24.5%、「社員の移動制限など」が大企業28.6%、中小企業22.1%、「調達先企業への脱炭素化の要請」が大企業19.8%、中小企業14.6%、「市場からの排出削減のクレジット購入」が大企業9.5%、中小企業4.8%、「原子力発電からの電力の利用」が大企業0.0%、中小企業2.0%、「その他」が大企業2.4%、中小企業3.4%、「無回答」が大企業1.6%、中小企業1.6%となった。なお、本質問は複数回答が可能。母数は大企業は126社、中小企業は294社。

注:nは「すでに取り組んでいる」または「まだ取り組んでいないが、今後取り組む予定がある」と回答した企業数。
出所:図1に同じ

サプライチェーン全体の脱炭素化、一部業種で先行

近年、脱炭素化を考える際、サプライチェーン全体での削減に取り組む動きが、世界的にも主流になっている。すなわち、自社による温室効果ガスの直接排出や間接排出だけでなく、調達、製造、物流、販売、廃棄などの各段階における排出もあわせて「サプライチェーン排出量」と捉えるという考え方だ。世界的なデファクトスタンダートといわれる、GHGプロトコル(注3)が2011年11月に発行した算定基準(Scope3基準)によると、(1) 直接排出(燃料の燃焼や工業プロセスといった企業自体による温室効果ガス)をScope1、(2) 間接排出(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用したことによる排出)をScope2、(3)企業の活動に関連する他社の排出(Scope1およびScope2以外の排出)をScope3、としている。Scope3は15カテゴリーに分類される。その中には、原材料の調達やパッケージの外部委託などの購入した製品・サービス、調達物流や出荷物流などの輸送・配送、販売した製品の加工、使用、廃棄などが含まれる。

脱炭素化への取り組み内容として、「調達先企業(サプライチェーン)への脱炭素化の要請(グリーン調達を含む)」を選択した企業の割合は、全体で16.2%(大企業19.8%、中小企業14.6%)。他の項目に比べると低いのが実態だ(図3参照)。しかし、業種別にみると、「情報通信機械/電子部品・デバイス」(41.7%)、「自動車・同部品/その他輸送機器」(37.5%)といった業種では、全体平均の2倍以上の割合になっている。これらの業種では、自社の脱炭素化への取り組みにも積極的な企業が多い。そうしてみると、業界として規制の強化や排出削減への取り組みが先行していると思われる。

「調達先への要請」とは逆に、「顧客からの要請」という観点からも見ていく。「海外の顧客から脱炭素化の方針への準拠を求められているか」という設問に対し、なんらかの「準拠を求められている」と回答した企業は、全体の12.9%だった(図4参照)。

図4:海外の顧客からの脱炭素化の方針への準拠
回答企業1,745社のうち、「準拠を求められ、問題がある場合、改善指導や取引停止などの措置が明示されている」企業は2.7%、「準拠を求められているが、問い合わせ、調査による状況の把握のみにとどまり、改善指導や取引停止などの措置は明示されていない」企業は6.4%、「準拠を求められているが、実際の状況の把握は行われていない」企業は3.8%だった。以上の「何かしらの準拠を求められている」と回答した企業は合計で12.9%となる。対して、「準拠を求められていないが、関連の問い合わせ、調査が行われたことがある」企業は9.1%、「準拠を求められておらず、関連の問い合わせ、調査のいずれも求められたことがない」企業は68.7%だった。なお、無回答の企業が9.3%いた。

出所:図1に同じ

「準拠を求められている」うち、「問題がある場合、改善指導や取引停止などの措置が明示されている」という企業は全体の2.7%に限られた。しかし、「自動車・同部品/その他輸送機器」では7.4%だった。同業種では、前述のとおり調達先企業に対して脱炭素化を要請する企業の割合も高い。自動車の場合は電動化の加速、飛行機や船舶ではバイオ燃料への転換など、製品自体の排出削減が進みつつある。これらを含め、産業全体としてサプライチェーン排出量の削減に積極的なことがうかがえる。

例えば、自動車業界では、世界各国で炭素排出に関する規制強化の動きも加速している、対応しなければ、将来的に当該市場において安定したビジネスが難しくなることが予測される。

EUは2021年7月、欧州委員会が発表した環境対策政策パッケージ「Fit for 55」で、乗用車・小型商用車(バン)の二酸化炭素(CO2)排出基準に関する規則の改正案を発表。新車のCO2排出量を2021年比で2030年までに50%削減、2035年までに100%削減という目標を設定した。この改正案に基づくと、2035年以降はすべての新車をゼロエミッションにしなければならない。すなわち、ハイブリッド車を含めて内燃機関搭載車の生産が実質禁止になる(2021年7月16日付ビジネス短信参照)。また、米国も2021年12月、2023年から2026年製の乗用車およびライトトラックに対する温室効果ガス排出基準を含む最終規則を発表した。製造年によって、車両1台当たりの排出量の目標値について、現行規制と比べて厳しい基準値が採用された(2021年12月24日付ビジネス短信参照)。このほか中国やインドなどでも、排ガス規制が強化されつつある。

車の部品数は約3万個ともいわれ、サプライチェーンの裾野が広い産業の1つだ。自動車の排出削減を図るためには、部品サプライヤーにも脱炭素性能の向上を求めることが必要になる。そのため、同産業への部品供給を行う、または今後多角化して部品供給を目指す中小企業にとっては、「脱炭素化への対応」が必須条件となるだろう。

ここまで、先行する業界として自動車産業について考察してみた。しかし、課題含みなのは、そうした産業ばかりではない。日本を含む各国・地域での脱炭素化、カーボンニュートラル目標実現に向けた対応が加速していくことを考えると、今後こうした動きは業界を問わず広がっていくことが予想される。確実に高まる脱炭素化への対応について、自社内での取り組みだけでなく、調達先や顧客、消費者を含めたサプライチェーンも意識した対応が重要だろう。


注1:
本調査は、海外ビジネスに関心の高いジェトロのサービス利用日本企業1万3,456社を対象に、2021年10月末から12月初旬にかけて実施し、1,745社から回答を得た(有効回答率13.0%、回答企業の83.0%が中小企業)。プレスリリース報告書も参照。なお、過去の調査の報告書もダウンロード可能。
各設問への回答結果(構成比)は、原則として無回答も分母に組み入れて算出した。
注2:
脱炭素化への取り組み状況に関する結果については、回答企業数全体から「無回答」とした企業数を除いた数字を分母として計上した。
注3:
国際環境NGO「世界資源研究所(WRI)」と、持続可能な開発を目指すグローバル企業で構成された企業団体「持続可能な開発のための世界経済人会議(WBCSD)」によって、1998年に共同設立された組織。
GHGプロトコルの示す算定基準が、世界的なデファクトスタンダートといわれる。
執筆者紹介
ジェトロ海外調査部国際経済課
田中 麻理(たなか まり)
2010年、ジェトロ入構。海外市場開拓部海外市場開拓課/生活文化産業部生活文化産業企画課/生活文化・サービス産業部生活文化産業企画課(当時)、ジェトロ・ダッカ事務所(実務研修生)、海外調査部アジア大洋州課、ジェトロ・クアラルンプール事務所を経て、2021年10月から現職。